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ソフトバンクが成層圏通信プラットフォーム「HAPS」の事業化を発表

ソフトバンクは、2019年4月25日に、子会社である「HAPSモバイル」を通じて、成層圏通信プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)の事業化を行うと発表した。成層圏に浮かべた巨大な無人飛行機をモバイルネットワークの基地局として利用するというスケールの大きな話だ。その詳細を解説しよう。

上空20kmを飛ぶ無人飛行機を基地局に

携帯電話やスマートフォンなどで使われている3Gや4G(LTE)といったモバイルネットワークは、スマートフォンなどの端末と基地局の間で無線通信を行っている。この基地局は、ビルの屋上や、各地に建設された電波塔などに設置されることが一般的だ。

今回HAPSモバイルの発表した成層圏通信プラットフォーム「HAPS(ハップス)」は、上空20kmの成層圏を旋回飛行する無人飛行機を、モバイルネットワークの基地局として活用しようというものだ。

これに使われる専用の飛行機「HAWK30」は、1971年に創業された米国企業AeroVironment社が開発した、10個のプロペラを備える全幅約78mの全翼機だ。翼には太陽電池と大量のバッテリーが内蔵されており、昼間に充電した電力で夜間も続けて飛行を続けることができ、時速110kmで6か月間という長期フライトを実現する。

基地局としての性能だが、1機で直径200kmの範囲をカバーできる。40機あれば日本全土を網羅でき、屋外であれば人のほとんどいないような場所でもスマートフォンや携帯電話のデータ通信が行えるようになる。当面は、ソフトバンクに加えて、NTTドコモ、auでも利用しているLTEの2.1GHz帯(B1)による通信を想定しているが、ソフトウェアをアップデートすることで5Gにも対応できる。なお、HAPSモバイルは、回線の卸売り事業を想定しており、ソフトバンクモバイルだけのサービスになるというわけではなさそうだ。

なお、現行の「HAWK30」は、発電能力の関係で、緯度が南北30°の範囲までに利用エリアが限られる。日本を含む高緯度地域に対応するのは、南北の緯度50°のエリアまで対応する次世代機「HAWK50」が完成してからで、日本国内での事業化は2025年を予定している。

会場に展示された「HAWK30」の模型。飛行機らしくないシルエットだが、成層圏に長くとどまり続けるためには、もっとも効率にすぐれた形状という

動力として10個のプロペラを搭載する。約77mという全幅は、ジャンボジェットよりも大きい

動力として10個のプロペラを搭載する。約77mという全幅は、ジャンボジェットよりも大きい

成層圏は1年を通じて気候が安定している。また、雲の上なので太陽電池の運用にも適している

成層圏は1年を通じて気候が安定している。また、雲の上なので太陽電池の運用にも適している

1機の「HAWK30」で直径200kmの通信範囲をカバーできる

1機の「HAWK30」で直径200kmの通信範囲をカバーできる

「HAWK30」を約40機使えば、日本全土をくまなくカバーできる計算だ

「HAWK30」を約40機使えば、日本全土をくまなくカバーできる計算だ

発電能力の関係で、現行の「HAWK30」は北緯30°〜南緯30°の範囲に限っての利用となる。緯度の高い日本でのサービス開始は次世代機「HAWK50」が完成してからだ

途上国向けの技術だが、国内でも災害時の通信確保として有望

HAPSのような技術は、人口密度の低い途上国向けの通信インフラとして適しており、HAPSモバイルでも、日本に先駆けて、2023年にアフリカ、東南アジア、南米地区での事業化を予定している。また、アメリカのLoon社では、類似する気球を使った事業をケニアなどですでに商用化している。

LTEの人口カバー率が99%を超える日本で、HAPSによる通信サービスを行う意義は何だろうか? その筆頭は災害対策だ。2018年に起こった北海道胆振東部地震で、モバイル通信の基地局に大きな被害が出たことは記憶に新しいが、成層圏に浮かび電力を自前でまかなえるHAPSならそうした心配は不要。もちろん、東日本大震災で発生したような大規模な津波の影響も受けない。また、山岳地帯や離島で遭難してしまった場合などにも、手持ちのスマートフォンを活用しやすくなるだろう。地方のIoT需要も考えられる。山間部の農場や牧場などでも、IoTのニーズが今後増加すると見込まれているが、HAPSなら、こうした地域でも比較的早く通話エリアにできるし、都市部などの既存エリアでも、モバイルネットワークの空白地帯を低コストで埋めることができる。このほかにも、高い場所を飛ぶドローンでもモバイルネットワークが使えるようになり、LTEや5Gを使った遠隔操作も容易になるはずだ。

高度20kmという成層圏を使うHAPSでは、地上の災害の影響を受けない

高度20kmという成層圏を使うHAPSでは、地上の災害の影響を受けない

家畜の追跡など、今まで重視されなかった山間部でのIoT需要にもHAPSは向いている

家畜の追跡など、今まで重視されなかった山間部でのIoT需要にもHAPSは向いている

上空を飛ぶドローンや飛行機などでもモバイル通信が行える

上空を飛ぶドローンや飛行機などでもモバイル通信が行える

競合するLoon社との業務提携も実施

先に触れたように、米・Loon社はすでにHAPS商用サービスを実施しており、HAPSモバイルの先行するライバルとなる。だが、今回の発表会では、HAPSモバイルとLoon社との間での資本提携が発表された。この提携により、両社は回線の卸売り事業、搭載する機材の共同開発、機体管理システムの効率的な運用、地上設備の統合、HAPS間の通信、アライアンスの形成といった分野で協業を行っていくということだ。

LoonはGoogleを傘下に抱えるAlphabetの子会社でもある。同社のCEOであるアラステア・ウェストガース氏(写真右)と、HAPSモバイルのCEOの宮川潤一氏(写真右)

田中 巧(編集部)

田中 巧(編集部)

FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。

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