カメラに装着して撮影能力や使い勝手を高めてくれる照明やマイク、ハンドルなどのさまざまなアクセサリーはいまや「カメラリグ」としてジャンルを形成しています。その利用は本格カメラユーザーだけの特権ではありません。スマホに「スマホケージ」を装着すればスマホにもカメラリグを搭載可能に。スマホの写真や動画もカメラリグでクオリティアップを狙えるのです。
今回はそんなスマホケージの基本を確認。そしてMomentとSmallRigのケージを例に実際の製品選びのポイントも合わせて紹介していきます。
スマホで撮影する写真や動画のクオリティにいまいち満足できていない…。そんな人にぜひ注目してもらいたいのがこちら、スマホにさまざまなカメラリグを増設できるようにしてくれる「スマホケージ」です。
この枠型アイテム「ケージ」があれば……
スマホにカメラリグを装着して撮影システムを組めます
カメラ分野には、カメラ本体に装着して使うことで収録映像&収録音声のクオリティを引き上げ、あるいはカメラの使い勝手を高めてくれるさまざまなアイテム群、通称「カメラリグ」が存在します。たとえば照明やマイク、ハンドルなどです。そしてそれらをカメラに取り付けるためのインターフェイスとしては「アクセサリーシュー」と「1/4インチネジ」が普及しています。
こちらのスロット的な凹型マウントがアクセサリーシュー
1/4インチネジはカメラと三脚の固定用としてもおなじみです
そして近年では、カメラ本体を囲う枠のような形状にそのシューとネジを多数備え、より多くのリグを効率的にマウントできるようにしてくれるアイテム、「カメラケージ」も定番アイテムになってきました。
こちらはSmallRigのカメラケージ「Full Camera Cage for Sony Alpha 7R V/Alpha 7 IV/Alpha 7 S III/Alpha 1/Alpha 7R IV 3667B」。カメラ周囲にシューとネジ穴を多数追加できます
もうおわかりでしょう。そのスタイルでカメラの代わりにスマホを取り付けられるようにしたのが「スマホケージ」というわけです。
ケージ中央にスマホマウント機構を装備。Momentの場合はお得意のMagSafeマウントです
スマホケージさえあれば、カメラ市場にあふれる膨大なカメラリグをスマホにも装着できるようになります。撮影用ライトもモバイルマイクも吊り下げハンドルも選び放題。あなたに必要な機能やあなたの感性を刺激するルックスのカメラリグを、ガシッとガキーンと取り付け可能になるのです。
そしてその結果として生み出されるいかにも「無理矢理増設しました」感のある仕上がり!フルアーマー系メカにも通じるロマン!必要性云々ではなく無駄に増設したくなってくるこの誘惑!
ケージ枠内にスマホ、ケージ外周にカメラリグをマウント
もちろん、もっと根本的かつ大幅なクオリティアップを図りたいのであれば、そもそもスマホ撮影をやめて本格的なカメラを導入するべきです。でもそこまで本気なわけでもない、そこまでの予算はないという方も少なくないはず。
スマホケージとカメラリグなら、本格カメラ導入よりもお手ごろな予算感で、しかも増設というロマンを楽しみつつ、スマホで撮影する写真や動画のクオリティを十分にアップさせることができます。
具体的には、スマホケージとカメラリグの導入でスマホ撮影の何を強化できてどんな効果を得られるのでしょうか。ここでは簡単に、特に大切な三大要素とそれに対応するリグをあげておきましょう。
●映像の明るさを確保するための撮影用ライト
●音声の明瞭さを確保するための外付けモバイルマイク
●映像の安定性を確保するためのケージとハンドル
まず映像クオリティ向上の大前提は明るさの確保。特に屋内撮影では、撮影用ライトの効果は絶大です。スマホケージに装着して使いやすいものとなると、コンパクトでお値段も数千円の小型ライトを選ぶことになるでしょう。ですがそれでもスマホ内蔵ライトよりは圧倒的に大きく明るいので十分な画質向上を見込めます。
レンズ真上のメインライト+別角度からのサブライトなど、ライトの組み合わせと配置も工夫のしがいのあるところ
明るさと色温度をそれぞれ何段階か調整できるライトを装備しておくと便利。こちらはNEEWERのLEDビデオライト「NL-36AI」
続いて動画の音声クオリティ向上のための外付けかつ小型のモバイルマイク。スマホ内蔵マイクの音質に納得できていない?だったらこちらを検討してみましょうというわけです。用途に合った適切なマイクを選びさえすれば、収録音声のクオリティをグッと引き上げられます。
RODE Microphonesの小型ショットガンマイク「VideoMic GO II」。スマホケージとのバランス感を考えるとマイクはこれくらいの大きさまでが限度でしょうか
ですがハイエンドスマホの内蔵マイクの収録クオリティは、デジタル処理によるクオリティ引き上げやハンドリングノイズ耐性の高さにおかげで、実は意外と優秀です。生半可な外付けマイク収録よりは内蔵マイクのほうがよい結果を得られる場合も多いので、そこは要注意。
最後に映像の安定性。画角が揺らいだり手ぶれが目立ったりしないようにするにはカメラ=スマホをしっかりグリップできることが大切です。でもスマホは薄いし、レンズやマイクを手で隠してしまわないようにと持つ場所も制限されるし、しっかりグリップするのが意外と難しかったりします。
iPhoneの動画撮影のステレオ録音にはここのマイクも使われており、ここが手のひらで隠されてしまうと収録音声に影響が出ます
スマホケージは、まずケージ自体がスマホ本体より持ちやすいグリップとして機能してくれます。ケージを握ってもスマホのレンズやマイクは隠れないので、遠慮なくしっかり握れます。ケージ上側を持って下に吊るすような形でもグリップしやすく、撮影アングルの自由度を高められるのもポイント。もちろん三脚マウントとしても活躍してくれます。
ケージならガシッと握ってもスマホのマイクやレンズが隠れてしまうことはありません
ケージ下側の1/4ネジは主に三脚用です
加えて、増設ハンドルというリグも用意されています。ケージの側方に取り付けるサイドハンドルや上に取り付けるトップハンドルなどがあり、それらを増設すればケージ自体を持つよりもさらなる安定性と自由を得られます。音声のハンドリングノイズの低減も期待できるかもしれません。
ハンドルを増設すればケージ自体を握るよりさらにガシッと握れます
このライト、マイク、ハンドルをここではスマホケージの三大リグとしますが、ほかにもSSDマウンターやモバイルバッテリーマウンターなどさまざまなリグが存在しています。それらのリグとケージの間に入って自在な設置に役立ってくれるチルトスタンドやボールヘッド雲台、細かな使い勝手を改善できるケーブルガイドやストラップリングなどのアクセサリー類も見落とせません。
SmallRigのチルトスタンド「Mini Cold Shoe to 1/4"-20 Screw Adapter 3577」。ケージとライトの間にこれを挟んで照明の角度を調節できるようにしておくとマクロ撮影時などに便利です
SmallRigのケーブルガイド「Camera Cable Clamp 3685」。マイクなどスマホとのケーブル接続が必要なリグを装着する際にケーブルを整理するのに便利
さてしかしどんなリグをマウントするにせよ、撮影システム全体の土台になるのはスマホケージ。リグ選びの前にまず何より大切なのはケージ選びです。
ということでここからは、筆者が実際に購入してしばらく使用してみた下記のスマホケージ2製品を例に、スマホケージ選びのポイントを紹介していきます。
Moment「Mobile Filmmaker Cage - for MagSafe 107-027-M」
Moment「Mobile Filmmaker Cage - for MagSafe 107-027-M」。シンプルなラインで構成されており機能もシンプル
SmallRig「Universal Quick Release Mobile Phone Cage 4299」
SmallRig「Universal Quick Release Mobile Phone Cage 4299」。スマホマウント周りがゴテっとしているのには理由があります
前者はスマホマウント機構にMagSafeを採用、後者はMagSafeとクランプ式に両対応する製品です。今後はMagSafeと互換性のあるマグネット式ワイヤレス充電「Qi2(チー・ツー)」の普及も見込まれるので、AndroidユーザーもMagSafeアイテムの動向に注目しておいて損はないかと思います。
MagSafe対応三脚マウントをいち早く製品化したMomentとカメラリグを幅広く展開するSmallRig。どちらも信頼を持てるブランドですし、実物の製品クオリティも確かなものでした。
ですが両製品は得意とする部分、設計において重視されている要素が異なります。
●Momentはフィジカル重視:ケージとしての基礎体力が強い
●SmallRigはテクニック重視:機能性と拡張性にすぐれる
上記が私の使った限りの両製品の印象です。ここをあらかじめ理解しておくことが製品選びの要点になるでしょう。スマホケージ製品全般のチェックポイントとしても参考になるはずです。
Moment「Mobile Filmmaker Cage - for MagSafe 107-027-M」はケージの枠自体がやや大柄。携帯性の観点からは短所かもしれません。ですがケージとスマホの間のスペースが広く確保され、ケージを握っても手がスマホと接触しにくいのはケージとしての長所。
画面サイズ6.1インチのアップル「iPhone 15 Pro」をマウントしても周りのスペースに余裕があります
ケージを握ってもスマホに手が当たりにくいです
グリップした際にスマホに手が当たりやすいと、MagSafeマウントの場合は特に「スマホに手がぶつかってMagSafeから剥がれて落下」の不安を感じがち。この製品のように大柄なケージはその不安を減らせるわけです。
ケーブル接続時の端子周りにも余裕があります
そのMagSafeマウント周りにも特徴があります。Moment製品共通のポイントとしてシンプルに磁力が強い=固定力が強いのです。この磁力の強さと前述のスペースの余裕との合わせ技で、このケージはMagSafe周りにかなりの安心感があります。
また接触面にはシリコン素材を採用。iPhoneを傷つけにくいことに加えて、その摩擦力のおかげで、セットしたiPhoneの角度がずれにくいこともポイントです。
しっとりシリコンでしっかり固定
同じMagSafeでもその固定力や使い勝手は製品ごとに異なりますので、実際の製品を確認するのがいちばんですが、すぐに確認できない場合はクチコミ情報などを参考にするのもよいでしょう。
なおこのMagSafeマウント周り、本稿執筆時点では、製品Webページの製品写真と実際に届いた製品にちょっとした違いがありました。実際の製品には、掲載写真にはない、マウンターの裏から伸びるアーム的なパーツが追加されているのです。
円の中央から伸びているアーム状のパーツ、製品写真にはありません
おそらくはMagSafe支持を補助するために追加されたものかと思われます。たとえば画面上のシャッターボタンを押す際にうっかり指に力が入りすぎても、その裏側にこのサポーターがあることでテコ的な動きが起きることを阻止、MagSafe脱落を防いでくれる。そんな効果を期待できそうです。
1/4インチネジ穴が多数、狭い間隔で並べられているのもMoment「Mobile Filmmaker Cage - for MagSafe 107-027-M」の特徴。リグの取り付け位置を細かく選択できますね。ストラップの装着バランス調整などにも便利そうです。
ネジ穴の多さとケージ自体の大柄さの合わせ技でリグ搭載の自由度を高めています
そして最後に地味ながらも超便利なポイント。ここまでの写真からもわかるようにこのケージ、平らなところにならそのまんま自立してくれます。撮影中にちょいと脇に置いて手を空けてほかの作業をできたりするわけです。これがとにかく快適。
設置面がフラットかつ広いので、上側に相当重いリグを搭載したりしない限り十分な安定感があります
ということで大満足なMoment「Mobile Filmmaker Cage - for MagSafe 107-027-M」ですが、明確な弱点もひとつあります。それはお値段。オンライン直販価格25,990円はスマホケージ全般で最高級クラスです。実物の出来栄えを体感すれば納得ではありますが、気軽に試せないお値段であることは否めません。
SmallRig「Universal Quick Release Mobile Phone Cage 4299」については弱点からお話しすると、Moment「Mobile Filmmaker Cage - for MagSafe 107-027-M」の強みがこちらの弱みです。小柄なのでケージとスマホの間のスペースが狭く、MagSafeの磁力も普通程度にとどまります。
ケージとスマホの間のスペースはMoment「Mobile Filmmaker Cage - for MagSafe 107-027-M」より狭くなります
なのでケージ自体を握ると少し窮屈です
とはいえさすがSmallRig。このケージはそれらの弱点をある程度カバーできる機能が備わっています。
まずケージとスマホのスペースが狭くなる点には、スマホマウント部分の位置を左右にスライドできる機能を活用して対処できます。
マウントを左にスライドさせて右側にスペースを確保
たとえばケージを主に右手でグリップするならマウントを左にずらすことで右手側スペースを広く確保。USB接続やLightning接続を使う場合も同様にして端子側のスペースを確保できます。後述のクランプ式マウント使用時に、クランプ位置をスマホのサイドボタン位置からずらすのにもこのスライド機構が活躍してくれます。
またそもそもこのケージが小さめに設計されているのは、「グリップしやすさを向上させたいならハンドル増設でお願いします。うちではハンドルも各種ラインアップしているので」という意図からと思われます。購入後にグリップ周りに不満を感じたとしてもハンドル増設で解消できるので安心です。
SmallRigはサイド、トップ、リモートシャッターボタン付きなど、幅広いハンドルをラインアップ
MagSafeの固定力が強くない点に対して思い出してほしいのは、このケージがMagSafeのみではなくクランプ式のマウントにも対応しているということ。MagSafeマウントの上に重ねてスプリングクランプ式マウントアダプタをガシッと取り付けできます。MagSafe対応iPhoneユーザーであっても、固定の安心感重視ならあえてこちらを使うのもありです。
MagSafeマウントに重ねる形でクランプ式マウントアダプタを装着すれば……
クランプ式の汎用スマホケージに変身!
こちらのケージは、ケージ単体を工夫せずに使うだけだと微妙に感じられるところもあるかもしれません。ですがユーザーがその機能性と拡張性を活用し使いこなしたときにこそ真価を発揮してくれます。いかにもケージらしい使い方、楽しみ方に向いた製品と言えるかもしれません。
そして最後に、Momentの強みがSmallRigの弱みなら逆もまた然りです。オンライン直販価格25,990円という高価さが弱点なMomentに対して、こちらは同じくオンライン直販価格で6,690円。アルミ合金製でMagSafeとクランプの両対応でマウント位置調整もできて、という盛りだくさん仕様でのこのお値段には驚かされます。
とにかくもっとお手ごろ価格なものを!という方はNEEWER「A104 Smartphone Video Rig」あたりをチェックしてみるのもよいでしょう
ハイエンドスマートフォンのカメラは、センサーやレンズなど半導体や光学系の微細デバイス、そしてデジタル処理の進化によって、大きな進化を続けています。ですがライトやマイクやグリップなどアナログあるいは機械的な要素が強い部分は、高性能化と小型化の両立が難しく、スマホに内蔵できるサイズを維持しつつの性能向上は容易ではありません。スマホではどうしても、カメラ性能とカメラ周辺性能のギャップが大きくなりがちなのです。
ですからスマホカメラこそが特に、カメラリグのサポートを必要としています。となればスマホケージを利用してのカメラリグ増設というのは当然の発想、極めて合理的で理知的でクールな判断と言えるでしょう。
……っていうか、かっこいいじゃんね、これ。