スマホとおカネの気になるハナシ

思っていたのと違う? ついに始まった楽天モバイルのプラチナバンドの現実

スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回の話題はついに始まった楽天モバイルのプラチナバンドだ。かつてのソフトバンクのように通信エリア拡大を期待できるが、詳細を調べるとそうしたイメージとは違う運用が見えてくる。

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2023/11/06 11:00

見えてきた楽天モバイルのプラチナバンド運用方針

楽天モバイルは2024年6月27日にプラチナバンドの700MHz帯による商用サービスの提供を開始。同日に実施した記者発表会では三木谷氏も登壇してサービス開始をアピールしていた

楽天モバイルは2024年6月27日にプラチナバンドの700MHz帯による商用サービスの提供を開始。同日に実施した記者発表会では三木谷氏も登壇してサービス開始をアピールしていた

2023年10月にプラチナバンドとなる新たな700MHz帯の免許を獲得した楽天モバイル。そのプラチナバンド(以下700MHz帯)を活用したエリアの拡大が期待されているが、同社は2024年6月27日にその商用サービスを開始したことを発表済みだ。

同社は元々、免許獲得の際に総務省に提出していた開設計画で、700MHz帯のサービス開始は2026年3月頃としていたことから、それより2年近く前倒ししてサービスを開始したこととなる。同日には楽天モバイルが記者発表会を実施、同社の代表取締役会長である三木谷浩史氏が実際に700MHz帯でビデオ通話している様子を示すなどその活用を強くアピールしていた。

同社はこれまでプラチナバンドの獲得を声高に訴え、一時は総務省や業界全体にも混乱が生じていただけに、プラチナバンドのサービス開始が記念すべき出来事であることは間違いない。ただその発表会における楽天モバイルの説明を聞くと、プラチナバンドの活用方針は我々消費者が想像しているのとはやや異なる印象も受ける。

当面は都市部の“すき間”を埋めるため

どうやら、楽天モバイルは少なくとも当面の間、エリアを広げるために700MHz帯を活用するわけではなさそうだ。ではどこに活用するのか? 主として大都市部で生じているエリアの“すき間”対策である。

楽天モバイルは現在4G向けとして、プラチナバンドよりは周波数が高く、障害物にも弱い1.7GHz帯を使ってエリアを構築している。それゆえ、たとえば繁華街のようにビルが入り組んだ場所であったり、地下に入ってしまったりすると、どうしても他社より電波が届きにくい場面が生じてしまう。

そこで楽天モバイルはこうしたすき間を埋め、都市部のエリアの穴をなくすために700MHz帯を活用する方針のようだ。三木谷氏が先の発表会で、700MHz帯の活用によって「人口密集地や建物が密集しているところ、地下などで隅の隅まで届くようになる」と発言していたことや、楽天モバイルのプレスリリースにも「残されたカバレッジホールを優先して自社基地局によるプラチナバンドの展開を順次拡大していく予定です」と記されていることが、その方針を示している。

楽天モバイルは700MHz帯を都市部主体で活用する方針で、ビルの間の入り組んだ場所などで生じている“すき間”を埋め、都市部でのつながりやすさ強化に重点を置くようだ

楽天モバイルは700MHz帯を都市部主体で活用する方針で、ビルの間の入り組んだ場所などで生じている“すき間”を埋め、都市部でのつながりやすさ強化に重点を置くようだ

それに加えて楽天モバイルは、700MHz帯の基地局整備に関しても、基本的に1.7GHz帯と一体で整備する、つまり既存のエリアに重ねる方針のようだ。同社はプラチナバンドを低コストで効率よく整備することが目的と説明しているが、700MHz帯の基地局を単独で整備する方針が示されなかった。この様子から、他社のように地方や郊外などの未整備エリアを、プラチナバンドで広くカバーする考えはあまりないようだ。

地方の基地局大幅増設は今の楽天モバイルには厳しい

なぜ楽天モバイルは、他社と異なり700MHz帯の整備を都市部に限定しているのだろうか。理由のひとつは同社が今なお赤字が続いており経営が苦しく、採算性の低い地方の基地局整備に踏み出せない現実がある。当面は収益性の高い都市部に集中投資したいのが楽天モバイルの本音だろう。

そしてもうひとつ、今回割り当てられた700MHz帯は帯域幅、要はデータの通る道幅が上り下りそれぞれ3MHzとプラチナバンドの中でも非常に狭く、高速大容量通信に向いていないことが指摘できる。なお、競合他社が運用している700MHz帯の帯域幅は上り下りそれぞれ10MHzで、楽天モバイルの3倍以上広い。

楽天モバイルが提供する料金プランは、料金こそ変動するもののデータ通信は上限なしで利用できる「Rakuten最強プラン」のみなので、狭く大容量通信に不向きな700MHz帯との相性は決してよいほうではない。

こうした現実をふまえると、ある程度帯域幅のある1.7GHz帯などと一体で整備しないと、つながったものの混雑が発生しやすくなり、利用者の不満を高めかねない。それだけに、すでに1.7GHz帯を整備している都市部に限定して使用したいという思惑が垣間見える。

楽天モバイルは基地局のアンテナや無線機に関して、700MHz帯と1.7GHz帯を一体で整備するとしているが、それはコストなどの効率化のためだけでなく、700MHz帯の通信容量が少なく混雑が生じやすいことも無視できない

楽天モバイルは基地局のアンテナや無線機に関して、700MHz帯と1.7GHz帯を一体で整備するとしているが、それはコストなどの効率化のためだけでなく、700MHz帯の通信容量が少なく混雑が生じやすいことも無視できない

プラチナバンドを一気に整備する動機も今は薄い

また、楽天モバイルは現在のところ、700MHz帯の整備スケジュールをあまり明らかにしていない。同社としては関東から順次、利用者の反応を見ながら整備を進めサービスを開始するとしているが、それ以上の計画は未公表だ。

そこに大きく影響していると考えられるのがKDDIとのローミングだ。楽天モバイルは現在のところKDDIのプラチナバンドをローミングで借用して未整備のエリアをまかなっている。少なくともその契約が切れる2026年9月末までは頑張ってプラチナバンドの整備をする必要が薄い。今後2年間のうちに徐々に整備を進めていくことになるのではないかと考えられる。そうしたことを考えれば、プラチナバンドによるサービスが始まったからといって、楽天モバイル回線のつながりやすさが一気に改善するわけではないことは知っておく必要があるだろう。

地方のエリア化は衛星通信で?

ローミングが終了する2026年以降も、プラチナバンドを整備した都市部ならネットワーク環境は充実しているだろう。だが、残された地方の未整備エリアをどうやってカバーするのか? という点は気になるところだ。筆者はそうしたエリアに基地局は設置せず、衛星通信を用いるのではないかと見ている。

実際に楽天モバイルは、米AST SpaceMobileの人工衛星とスマートフォンを直接通信できるようにするサービスの2026年内の実現を目指すとしている。人工衛星とスマートフォンとの直接通信は実現に向けてまだ多くのハードルがあるものの、楽天モバイルとしてはローミング契約が切れるタイミングで衛星通信によるサービスの提供を始めることで、基地局整備にコストをかけずに残されたエリアをカバーしようとしているのではないだろうか。

楽天モバイルはAST SpaceMobileの衛星とスマートフォンの直接通信によるサービスを2026年内に提供したいとしており、地方の残るエリアはそちらを積極活用することが予想される

楽天モバイルはAST SpaceMobileの衛星とスマートフォンの直接通信によるサービスを2026年内に提供したいとしており、地方の残るエリアはそちらを積極活用することが予想される

規制緩和で拡大中の5Gで”遅い”プラチナバンドをカバー

今後を考えると都市部でも通信トラフィックが増加し、現在の1.7GHz帯の通信容量だけでは不足してくる可能性が高い。その対処として狭い700MHz帯は不向きだ。そこで、楽天モバイルが打ち出しているのが5G向け周波数帯の活用である。

楽天モバイルはほかの携帯3社と同様、高速大容量通信に適した5G向けの周波数帯をいくつか割り当てられており、現在はその1つである3.7GHz帯の基地局数整備に力を入れている。実際同社の3.7GHz帯の基地局数は、すでに1.7万を超えているという。

楽天モバイルは5G向けに割り当てられた3.7GHz帯の整備に力を入れており、すでに基地局数は1.7万を超えているとのこと

楽天モバイルは5G向けに割り当てられた3.7GHz帯の整備に力を入れており、すでに基地局数は1.7万を超えているとのこと

従来3.7GHz帯は衛星通信との干渉を避ける必要があり、エリアを広げるのが非常に難しかったのだが、2024年に干渉の影響が大幅に緩和。とりわけ人口の多い関東圏でも3.7GHz帯をフル活用できるようになったことから、都市部に向けては今後700MHz帯に加え、3.7GHz帯の整備を積極的に進めることで通信容量を確保していくのではないかと考えられる。

プラチナバンドの効果は当面限定的になる

まとめると、プラチナバンドの整備で改善が進むのは、現在都市部で生じているつながりにくい場所に限られ、地方のエリア拡大に生かされる可能性は低い。そうしたエリアは当面KDDIとのローミングでまかなわれるが、それが終了する2026年以降は衛星通信によるサービスをなんとか実現し、基地局を整備せずにエリアカバーすることを目指すのではないかと考えられる。

ただ、楽天モバイルの最大の課題は赤字を解消し経営を安定させることなので、少なくともKDDIとのローミング契約が切れる2026年までは積極的なインフラ整備に動きづらい。通信トラフィックは増えていることから容量確保のため都市部での3.7GHz帯の整備には力が入れられるだろうが、700MHz帯の整備は2026年まで急ぐ必要はない。それゆえ少なくとも今後2年間のエリアは、自社ネットワークのすき間をローミングでカバーする、現状のネットワーク環境と大きく変わらないと考えていいのではないだろうか。

佐野正弘
Writer
佐野正弘
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
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田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
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