実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
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強靭な秘密はポールにあり! 4シーズンモデルの1人用山岳テントMSR「アクセス1」

テントというものは、不思議な道具だ。収納時はせいぜいひと抱え程度の大きさなのに、それを広げて立体化させると、人間が完全に横たわれるスペースが山中に突然現れる。しかも風雨を防ぎ、厳しい環境の外界から体を守ってくれるのだ。

山と一体になる感覚を味わうためにも、これ以上に有益な道具はない。テントの薄い壁の外は大自然で、日の出とともにテントの内部は明るくなり、日の入りとともに暗くなっていく。鳥や虫の鳴き声はダイレクトに伝わり、雨が降ってくれば、雨粒が当たる衝撃で、テントはかすかにきしむ。これほど自然に近い住居はないだろう。

それなのに、再び畳んで収納すると、先ほどまで自分が寝ていた場所には、もう何も残っていない。元の自然はそのままだ。そして移動した先でテントを広げれば、またそこで新しい山中の生活が始まっていく。

テントとは、どこまでも山と一体となれる移動式住居なのだ。

大胆に曲げても折れないポールが大きな特徴

今回ピックアップするテントは、アメリカのメーカー「MSR」の新作「アクセス1」である。短期間の雪山登山までを想定した、いわゆる4シーズンモデルの1人用で、軽量でいて耐久性が高いことが大きな特徴。シンプルな構造で、設営も簡単だ。

1人用テント、MSR「アクセス1」

1人用テント、MSR「アクセス1」

収納時の様子。左のスタッフバッグにインナーテントとフライシートが収められ、ポールは中央のスタッフバッグに。右の小さなスタッフバッグにはペグが入っている。ここでは便宜的に3つに分けた状態で撮影しているが、オレンジ色のスタッフバッグは、ポールとペグも一緒に収められる余裕を持つ。収納時のサイズは15(直径)×46(高さ)cm

インナーテント(左)のフロア部分には耐久性が高い30デニールリップストップナイロンが用いられ、フライシート(右)は一般的なテントよりも非常に薄い20デニールリップストップナイロンが使用されている。そのために、畳むととてもコンパクトになる

ポールはイーストン社のサイクロンポール。カーボンを主体とする複合素材で、手に持つと驚くほど軽く、耐久性も抜群だ

ポールは大きく分けて、2本。そのうちの1本はテントを立体化させる際のメインポールで、2か所のハブによって末端は4つに分かれ、テントを自立させる。このポールはハブによって連結しているだけで、長いもの1本と短いもの4本で、計5本と数えることもできなくはない。また、もう1本はテントの前後にまわり、テントの壁を垂直気味に立ち上げると同時に、広い前室を生み出す

付属ペグは8本のみだが、螺旋のように地面に食い込むスクリューのような形状で、強度が高い。ただし、テントのガイライン(張り綱)を固定する本数には足りないため、別途自分で用意する必要がある。その点は少々面倒だ

インナーテントとフライシートを入れたスタッフバッグを圧縮した状態。日本のテントメーカーであれば、テントを収納させるスタッフバッグは、過不足なく入る大きさのものを付属させるが、多くの海外メーカーは、あまりキッチリとテントを畳まないでも収められるようにスタッフバッグのサイズに余裕を持たせている。だから、アクセス1もスタッフバッグはかなり大きく、ストラップなどで圧縮すれば手のひらに乗せられるほど小さくなる

インナーテント、フライシート、ポールという、テントの3大パーツのなかで、アクセス1の特徴がもっとも表れているのは、なんといってもポールだろう。カーボンを使用したサイクロンポールは弾力性が非常に高く、無理に曲げてみても折れるどころか、ひび割れる雰囲気すら生じない。しかも超軽量なのである。アクセス1の最小重量(フライシート、インナーテント、ポール)をわずか1,370gにとどめているのは、このサイクロンポールの軽量さが大きな役割を果たしている。ただし高価な素材であり、アクセス1の価格を押し上げる要因ともなっているようだ。

これくらい曲げても、まったく問題はない。実際の山ではこれ以上にテントのポールが曲がる状況は考えられず、よほどの悪条件でなければ、破損はしないはずだ。しかし、あまりに弾力性が高く、鞭のようにしなるために、この状態から手を離す時は少々怖かった

MSRの山岳用テントの特徴は、数本のポールを連結するハブの使い方にある。同社の多くのモデルでは正三角形を描くように3本のポールをハブに配置し、できるだけ短いポールで広い空間を生み出すようにテントを立体化させる。その点は、このアクセス1も同様である。

フックがかけられているポールは天井に回り、その他の2本は地面に接してフロアの面積を拡大。このハブはテントを正面から見ると、左右2か所に付けられている。MSRらしい使い方だ

ポールにフックをかけている部分。フックは指がかかりやすい形状で、寒い時期はグローブをしたままでも脱着しやすい

そのほか、細部も気を抜いていない。要所は補強され、各部のコードは細いものながら強度は十分。フライシートとインナーテント、そしてポールの連結も簡単だ。付属のペグには細いヒモがついているものを採用し、地面から引き抜く際には力をかけやすい。

ポールとインナーテント、フライシートとの連結は、ポールの末端を両者のリングにかけるだけ。設営作業も簡単だ

ペグは地面から抜けにくい形状で、非常に使いやすい

ペグは地面から抜けにくい形状で、非常に使いやすい

ガイラインは極細でテントの軽量化に貢献

ガイラインは極細でテントの軽量化に貢献

フライシートに力がかかる部分には、別布を当てて補強されている

フライシートに力がかかる部分には、別布を当てて補強されている

夏場の低山には厳しいが、高山では通年で快適な室内

アクセス1は、インナーテントにポールを組み合わせるだけでテントが立体化する「自立型」。インナーテントを雨除けのフライシートで覆うとテントの壁が2重になる「ダブルウォール」タイプのため、入り口部分に荷物を置くスペースとなる前室を作ることができる。また、雨が降ってきた時に雨水が内部に入りにくいのも「ダブルウォール」タイプのメリットだ。このような「自立型ダブルウォール」テントは、現代のテントのスタンダードともいえ、誰もが使いやすいタイプである。

アクセス1の大きな特徴は、非常に大きな出入り口。長辺の半分が頭上まで開く。フロアに使われている赤い部分は強度が高く、水の侵入を防ぐ働きがあり、その上の白い部分は軽量性を追求した、ごく薄手だ

フライシートはオレンジ色で、発色がかなりいい。夏の緑の中では非常に映え、冬の白い雪の中でもとても目立つ。しかしインナーテントは白っぽいので、内部に入ってしまえば柔らかなオレンジ色になり、それほど強烈な色には感じない

乳白色のインナーテントの天井部分には小さなループがいくつか取り付けられており、ここに細いロープを自分で渡せば、物干しのようにも使える

前室は大きくて奥行きも十分。フライシートを閉めれば、雨が降ってもブーツやサンダルが濡れる恐れは少ない

前室は大きくて奥行きも十分。フライシートを閉めれば、雨が降ってもブーツやサンダルが濡れる恐れは少ない

内部から見て左側には、必要時以外は使わないクッカーやカップなどを置いておくと便利。水筒やバーナーを置いても余裕がある

枕を置いているのでわかりにくいが、頭上にも余裕がある。広いとは言えないが、必要十分なサイズ感であり、テントをできるだけ軽量に作るためには理想的な大きさだ。フロアの大きさは84(幅)×104(高さ)×213(長さ)pで、マットを敷くと、その横に30pほどの荷物置きのスペースができる。同様に横になった際、頭の上に30p程度のスペースが空く。1人分の荷物を収納するのには困らないはずだ

頭と足元にはそれぞれメッシュのポケットが付き、細かな道具を入れられる。幅が60p近くあるため大量にモノを入れることができるが、入れすぎるとその重さでテントがゆがみ、浸水などの恐れが出てくるので適度な使い方にとどめたい

アクセス1は、真上から見ると天井部分で2本のポールがクロスするシンプルな構造で、一見するときゃしゃである。しかもテントの壁は垂直に立ち上がり、風の圧力をもろに受けかねない。これで強烈な風雪にさらされる可能性がある真冬にも使えるというのだから、本当なのかと疑いたくなる。普通であれば、このポール構造では風に弱く、悪天候時はポールが折れてしまうと想像できるからだ。

インナーテントだけでポールが見える状態。壁が垂直に立ち上がり、強度があるとは言い難い構造なのだが、僕が体を預けた重みにもビクともしない

フライシートを取り付けると、前室の巨大さがよくわかる。強風に耐えるには、フライシートの各部のループからも張り網をとるとよいだろう

しかし、このサイクロンポールの弾力性と耐久性と相当なもので、試しに、設営後のテントを押しつぶすように前後左右に体重をかけてみたが、ポールが折れる気配はまったくない。これほど強度が高ければ、一般的にはテントの弱点とされるポールよりも、むしろインナーテントとフライシートの生地のほうが早くダメになるかもしれない。

ところで、アクセス1は4シーズンモデルだと冒頭で記したとおり、春、夏、秋、冬の四季で使うことができる。それに対し、市販の山岳テントの大半は3シーズンモデル。この場合の季節は春、夏、秋であることから、4シーズンモデルと3シーズンモデルの違いは「冬に使えるか否か」となる。冬の山は、樹木の葉が落ちて強烈な季節風をさえぎるものがなく、地面は硬い雪や氷というハードな環境。そんな条件下でも耐えられるタフさをアクセス1は兼ね揃えているということだ。

4シーズン用テントを四季を通して使う難しさは、ベンチレーターにある。ベンチレーターは酸欠防止のために多くのテントに付いているもので、氷点を下回る気温の中では結露による内部の霜を可能な限り少なくしつつ、寒気がダイレクトに内部へ入りにくい構造でなければいけない。冬に使う場合はベンチレーターの大きさは最低限でもいいが、暑い夏に使うのであれば、熱気を逃がすためにできるだけ大きいほうが快適だ。このような視点でアクセス1を見てみると、ベンチレーターはそれほど大きくない。そのため、真夏に使うと、夜はともかく陽が出ている時間帯には暑さを感じそうである。1年中使える仕様にするためには仕方ないが、涼しさを求める人はベンチレーターやメッシュパネルが大きいモデルや、ベンチレーターが複数取り付けられている3シーズン用を選んだほうがよいだろう。

アクセス1のインナーテントの上部はメッシュになっている。ここから熱気と湿気を逃がすが、面積はそれほど大きくはないので夏の低山では暑いだろう。しかし、夏でも涼しい高山であれば、これくらいのベンチレーターのほうがよい場合も多い

インナーテントのメッシュ部分と連動するように、フライシートの上部もスリットのように開けられる。こうすればインナーテントから排出された空気はすみやかに外部へ流れていく

アクセス1を後ろ側から見た様子。出入り口があり、ベンチレーターとも連動している正面とは異なり、まったく開口部がなく、つるっとした印象だ。こうなると空気が抜ける部分はないので換気性を上げる働きは期待できないが、その反面、浸水や強風への対抗力は強くなる

今回は雨こそ降らなかったものの、夜半には強い風が吹いた。森林限界よりも低い場所ゆえに、極端に悪条件になったわけではないが、アクセス1の内部はつねに快適さが保たれ、夜を過ごすのにまったく支障はなかった。よくできたテントではないだろうか。

「起きて半畳、寝て一畳」という言葉よりも狭い、山中のわが家。しかし、これで十分すぎるほど快適であり、のんびりとした時間が流れていく

夏は出入り口を開いたまま寝転んでいると、解放的な気分に。温かな時期は、風を直接感じたほうが、やはり気持ちがよい

山行を終えて

山道具の中でもテントの分野は特に軽量化が進み、すでに700g台の1人用テントも登場している。だから、重量面だけを見れば、1,370gのアクセス1には大きなメリットがないと思われるかもしれない。しかし、そうではないのだ。700gのテントは確かにあるが、3シーズン用のきゃしゃなタイプであり、風雨には弱く、気をつけて使わないとすぐに破損してしまう。ようするに、耐久性や対候性を犠牲にした超軽量性なのである。しかしアクセス1は強い風雨にも対応する強度を備え、真冬にも使うことを想定したモデルだ。単純に比較してはいけない。

このように年間を通して使うと考えれば、アクセス1の強靭さが光ってくる。1,370gという重さは現代の超軽量テントに比べれば重いが、実際には一般的な3シーズン用テントと、ほぼ同じレベル。4シーズン用であれば、かなりの軽量モデルといってよい。

問題があるとすれば、ベンチレーターの数と大きさを抑えているために、真夏の低山では寝ていると暑苦しくなりそうだということ。低山ではインナーテントが全面メッシュになったタイプですら蒸し暑いことはめずらしくないため、アクセス1は不向きだろう。だが、冷涼な北アルプスや南アルプス、北海道の山々であれば、真夏でもアクセス1で快適に眠れ、春や秋は3シーズンテントよりも寒さを感じない。そして、雪山でも活躍するのである。

超軽量性を求め、真夏にしか使わない人は、別の3シーズンモデルを使ったほうがよいだろう。アクセス1は7万円を超える高価なモデルであり、冬にテント泊しないようであれば別のテントを購入し費用を抑えるほうが懸命だ。だが逆に、そこまでの軽量性は追及せず、年間を通じて山を楽しみたい人にはアクセス1はよい選択肢と言える。

たったひとつのテントで日本の四季すべてに対応し、かつ快適さを与えてくれるテントは残念ながらない。しかしアクセス1には、他のテント以上の汎用性がある。4シーズンとは、すなわちオールシーズンのことだ。アクセス1ひとつを手に入れておけば、今は夏山にしか行かないとしても、いずれ冬山に挑戦する時にも、あなたの相棒になってくれるだろう。そのような先まで見越してテントを選ぶと、購入での失敗が減る。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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