実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
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フィッティングシステムにワザあり! ローバーのアルパインブーツ「マウンテンエクスパートGT EVO」

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多くの種類がある山道具の中でも、登山靴は少し特殊な存在かもしれない。身に着けるという意味ではウェアの一種と言えなくもないが、パーツや可動部の機能を見ればギアの一種と言いたくなる。いずれにせよ、登山靴は体全体の中で地面と接する唯一の部分であり、粗末なものでは体重と荷重をしっかりと支えられない。だからこそ、登山靴は“最重要装備”ともいえる山道具なのである。

簡単な操作で絶妙なフィット感を生み出す独自システムを搭載

登山靴には、軽量で足さばきがよいトレイルランニングシューズのようなタイプから、ヒマラヤなどの高所登山に使われる防寒性を重視したエクスペディションモデルまで、さまざまなものがそろっている。それらの中から今回ピックアップするのは、ドイツの登山靴メーカー、ローバーの「マウンテンエクスパートGT EVO」。ますます寒くなるこれからの山で活躍する、雪山用途をメインとしたアルパインブーツである。

アッパーは厚みがあって強靭なスウェードレザーで、重量は片足880g(UK8)。手に持つとずっしりと感じるが、雪山用アルパインブーツとしてはスタンダードな重量だ

色はレッド。雪山用のブーツはレッドやオレンジといった発色がよいものばかりだが、これは雪の上での視認性を高めるため。雪中に足が埋没したり、地吹雪のような状態になっても、自分の足がどこにあるか判別しやすく、転倒や怪我の防止になる

マウンテンエクスパートGT EVOは、ハードな雪山で使うことを想定し、ブーツ全体が非常に重厚な造りになっている。アッパーが華奢だと硬い雪ですぐに傷んでしまい、ソールがやわらかいと氷結した雪上ではグリップが効かないのだ。また、保温性を上げるために、内部には断熱材を挟み込んでいる。

正面から見ると、ソールの上の黒いラバーの面積が目立つ。これはランドなどといわれるパーツで、ほとんど曲がらないほど硬質だ。これによって足の周囲を守り、どの角度からブーツが岩に当たっても、内部の足が痛まないようにしている

後ろから見ると、かかとの部分はさらに高い位置まで硬い素材で守られている。この、かかとの部分はブーツの要。カップ状になった内部のホールド感とサポート力によって、ブーツの良し悪しは大きく左右される

アルパインブーツに限らず、ブーツにとってソールというパーツは非常に重要な部分だ。目立ちはしないが、この部分の形状や硬さによって歩行感は大きく違ってくる。一般的に、登山靴は難易度が低い低山向けのモデルほどアッパーもソールもやわらかく、軽量にできている。そのほうが足への負担が少なく、疲れが少ない。いっぽう、マウンテンエクスパートGT EVOのような岩が多い高山や雪山に向くタイプは、アッパー、ソールともに硬めで、重量もかさむ。ハードな場所では足さばきのよさよりもスリップ防止のほうに重きが置かれ、不整地で体のバランスを支えるためにも、硬い構造のほうがよいからだ。

横から眺めると、ソールがどのように地面と接しているのかがよくわかる。マウンテンエクスパートGT EVOのようなアルパイン系ブーツのソールはほとんど湾曲せず、つま先がわずかに上がっている程度。このほうが地面と接する面積が広く、グリップ力が発揮される

ソールのパターンは比較的平面的だ。これはやわらかい土の上ではなく、硬い雪や岩の上を歩くことを想定しているから。そして、非常に硬い。その結果、ソールのどこか1か所だけでも氷や岩に引っかかれば、体のバランスを取れるのである

ソールのつま先からはあえて溝や突起を減らし、フラットにしてある。この部分はクライミングゾーンなどと呼ばれ、平面的なほうが岩の上のわずかな突起をとらえやすい

全体的に硬い作りのマウンテンエクスパートGT EVOだが、見た目よりも足入れはしやすい。どこかが圧迫されるような感覚もなく、足型が細かい部分まで計算されていることがわかる。もっとも、足の形は使う人によって大きく異なり、どんなに精巧に足型が設計されていても万人に合うものはありえない。今回、幸いなことに僕はマウンテンエクスパートGT EVOを違和感なく履くことができたが、他の人にも合うとは限らないのだ。メーカーやブーツのモデルごとに足型は変わるので、マウンテンエクスパートGT EVOが自分の足に合わない人は、他のモデルを試してみるべきである。

アッパーの上部は少し広がっている。マウンテンエクスパートGT EVOは比較的タイトな造りだが、足入れしやすいのはこのためだ。足首まわりにはクッション性が高い素材が配置され、歩行時にも痛みを感じない

ブーツ内部にはフットベッド(インソール)が入っている。足裏に当たる部分は起毛し、保温力が高められている。また、フットベッドのフォルムからも想像できるように、マウンテンエクスパートGT EVOの足型はやはり少し細身。足幅が広い人には合わないかもしれない

フットベッドの裏側。弾力性が高い樹脂素材には多くの穴が空き、足裏の湿気を逃す役割を果たしている。マウンテンエクスパートGT EVOには透湿防水素材のゴアテックスが使われ、これらの連動で無用な湿気を排出していく

起毛したフットベッド以上にブーツの保温性を高めているのは、アッパーの下に封入された断熱材「プリマロフト」。湿気を帯びても保温力を保ち、クッション性を高める役割も果たしている

さて、ここまでマウンテンエクスパートGT EVOの特徴を話しつつも、実は雪山用アルパインブーツ全体に共通する部分も多かったりもした。では、いかにもマウンテンエクスパートGT EVOらしい部分とはどこなのか? そのひとつは、フィット感を調整するための仕組みであろう。具体的には、Dリング、フック、アイレットといった金属パーツとシューレースの関係である。これほど個別に細かくパーツを変え、簡単な調整で微妙なフィット感を生み出せるモデルはめずらしい。

シューレースを調整するために、何種類のパーツが使われているかわかるだろうか? なんと5つのパーツを使いわけているのである

つま先先端に近い部分のパーツがDリングで、シンプルにシューレースを通すだけのもの。次に滑りがよくてすみやかに締められるアイレットが3つ並び、その隣に締めたあとにロックできるタイプのアイレットがある。これは、つま先から甲の上までを完全に固定し、一定のフィット感を常にキープするためだ。その次に配置されているのは、足の動きに柔軟に対応するための「フレックスフィット・シンクロ」という合皮製のパーツ。足をアッパーで巻き付けるようなフィット感と同時に、足首部分は前後だけではなく、左右への動きにも柔軟性を得られる。そして最後の2つが、シンプルなフック。引っかかりにくい形状で、締め付け感を簡単に変えられるものだ。

マウンテンエクスパートGT EVOのフィット感の調整方法は、アッパーの左右につけられたアイレットやフックだけに限らない。注目すべきは、ローバー独自の「X・レーシング」というシステムだ。長時間の歩行中、次第にブーツのタン(ベロ)が外側にずれてきてフィット感が損なわれることはよくあることだが、X・レーシングはそのずれを生じさせない工夫なのである。タンの中央に特殊な形状の金属パーツがついているだけなのだが、その効果はなかなかのもの。単純だが効果的だ。

左右のシューレースを中央の金具に引っかけるように配し、あとはタンを正しい位置にしてから締めるのみ

左右のシューレースを中央の金具に引っかけるように配し、あとはタンを正しい位置にしてから締めるのみ

シューレースを締め終わった状態。このシステムの名前とおり、シューレースがX型になっている。中央のパーツには左右からほどよくテンションがかかり、いつも同じ位置にキープされる

積もった雪も凍った雪も岩場でも、フィット感はゆるがず!

X・レーシングの機能性を試すために、僕は出発前に左右のシューレースの締め方を変えてみた。右足はX・レーシングのパーツにしっかりとシューレースをかけ、マウンテンエクスパートGT EVOを「正しく」履いた状態に。いっぽう左足は、X・レーシングを使わず、一般的なブーツのように、ただシューレースを通しただけだ。この状態で、雪の上や岩場を長々と進んでいく。

登山口を出発してから2時間ほど歩いた状態。X・レーシングのシステムを使った右足のタンの位置に比べ、システムを使わなかった左足のタンのずれ方は非常に大きい

歩行後に確認すると、左右の足には大きな差が出た。当然ながら、心地よくブーツを履けているのは右足だ。上の写真は撮影用にロングパンツをまくり上げているが、実際の雪山ではパンツの上からゲイターを巻いたり、ブーツの上にクランポン(アイゼン)を組み合わせたりしているので、シューレースを何度も再調整するのはめんどうである。その点、X・レーシングの機能が発揮されれば、理想的なフィット感は長時間維持される。シンプルでも効果的な工夫とは、こういうもののことを言うのであろう。

今回の上信越の山でのテストは、12月初旬。雪はかなり積もってきていたが、日なたでは雪が溶け、岩が露出しているところも多かった。その半面、溶け出した雪が硬く凍結し、滑りやすいことこのうえない場所も。むしろたっぷりと雪が積もってくれたほうが足元は一定のコンディションになり、行動しやすいのだが……。今回のような中途半端な状況が、一番歩きにくいのであった。

斜面では雪に足を蹴り込んでステップを切っていく。まだ雪は硬くはなく、傾斜もそれほどキツくはなかったが、つま先がやわらかいブーツはこういう歩き方には不向きである

雪が付き始めた岩の上。こういう状況でも硬いソールは岩の突起を確実にとらえてくれ、安心感は高い

雪が付き始めた岩の上。こんな状況でも硬いソールは岩の突起を確実にとらえてくれ、安心感は高い

一切の雪が溶け切った山頂近くの岩の上。マウンテンエクスパートGT EVOはこのような岩場にも強く、雪がない時期でも活躍するだろう。しかし硬くて重いため、無雪期の一般登山道では疲れやすい。やはりもっとも適しているのは、ある程度の雪が積もった冬の山だ

雪山に適したアルパインブーツにはクランポン(アイゼン)をつけて歩くことも多い。とはいえ、雪がない場所ではつけないで歩く時間がほとんどない場合もあり、状況によっては何度も脱着を繰り返す時もある。だからこそ、クランポンとの相性も確認しておかねばならない。

マウンテンエクスパートGT EVOは、ワンタッチ式クランポンに対応したブーツだ。ワンタッチクランポンとは、爪先に金属製のトゥベイルがあり、かかとにヒールアジャスターなどがついているクランポンのこと。マウンテンエクスパートGT EVOのつま先とかかとにはコバが付けられており、それぞれトゥベイルとヒールアジャスターをかけて、クランポンを固定する仕組みとなっている。ワンタッチというだけあって、装着方法は簡単で、手間取らない。

つま先の部分で外側に出っ張り、段差が出ている部分が、コバ

つま先の部分で外側に出っ張り、段差が出ている部分が、コバ

つま先にあるコバにトゥベイルをかける

つま先にあるコバにトゥベイルをかける

同様にかかとのコバ(段差がついている部分)に、ヒールアジャスターのレバー部分をかけていく

同様にかかとのコバ(段差がついている部分)に、ヒールアジャスターのレバー部分をかけていく

ヒールアジャスターのレバー部分をかかとのコバにつけた状態。あとはストラップで締め付ければ、クランポンの装着は完了だ

ワンタッチ式クランポンを装着した様子。さすがにガッチリと固定され、よほどのことがなければ外れることはないはずだ

凍結している場所は、こんな状態で行動した。クランポンの分だけ足元が重くなるのは仕方ないが、ブーツの履き心地はほとんど変わらない

太陽の日差しを受ける南斜面にはあまり雪がなかった。仕方なくクランポンを外して行動する。このような場所ではできるだけ岩の上に足を置いて歩いていったが、マウンテンエクスパートGT EVOのソールが持つスリップ防止の力には満足できた

山行を終えて

今回の山行では、ブーツのみの状態とブーツとクランポンを組み合わせた状態との2通りで行動した。どちらの場合も大きな問題はなく、いつも快調。このマウンテンエクスパートGT EVOは足型がスリムで少し細身のモデルだが、僕の足(甲の高さと幅の広さは、日本人では一般的なサイズ)でも無理なく履け、不満は見当たらない。そのうえであえて気になる点を探していけば……。

マウンテンエクスパートGT EVOは雪山に適したアルパインブーツだけに、重くて硬い。その重厚さによって雪山や岩場では安全に行動できるわけだが、雪がない場所を長時間歩くと疲れやすいことは否めない。無雪期の使用はもっと軽くて柔軟性がある別モデルのほうがよいだろう。また、足型が合うか合わないかは使う人次第であり、いわゆる甲高幅広の足を持つ人にはフィットしない可能性がある。とはいえ、やはり試着しないとわからないことだ。これは登山靴全般に言えることである。

ともあれ、基本性能は十分だろう。今回のテスト時はそれほど低温ではなかった(-3℃ほど)ので、プリマロフトを封入したことによる保温性の高さまでは確かめることはできなかったが、おそらくもっと低温でも難なく使えたと思われる。くわえて感心したのは、さまざまなアイレットやフックを使ったフィッティングの仕組みだ。全体を過不足なく締め付けられ、長時間行動してもどこにも痛みを感じないで済んだ。この点は大きく評価できる。

自分の足にさえフィットすれば、マウンテンエクスパートGT EVOは雪山で大いに活躍してくれるに違いない。本格的に雪山に登ろうと思うのならば、購入時の選択肢のひとつに加えてよいだろう。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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