実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
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ユニークな発想ですぐれたはき心地! サロモンのパンツ「S/LAB X ALP ENGINEERED PANT」

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山を歩く時に体の中でもっとも使う部位は、もちろん「足」である。実際には登山は全身運動で、体のバランスを取ったり、重い荷物を背負ったりするために足腰以外の筋肉も重要だ。しかし、足の重要性はやはり際立っている。

このことは、ウェア選びにも影響がある。上半身のウェアは体のコンディションを保つための防水性、透湿性、吸汗性などが主要なキーワードになるが、下半身のウェア、つまりパンツには上半身以上に「動きやすさ」が重視される。登山中に、足ほどよく動かし続ける部位はほかにはないからだ。それだけに、パンツは傷みやすいウェアでもある。

ゆえに、パンツに求められる性能は「動きやすさ」と「耐久性」。もちろん、ウェアの基本性能ともいえる、保温性や肌ざわりのよさを持っていることが大前提だ。

今回ピックアップするパンツは、サロモン「S/LAB X ALP ENGINEERED PANT」。フランスのサロモンは、スキー分野とともにトレイルランニングや山岳レースの分野でも定評があるブランドだけに、他メーカーとは少し発想が異なるユニークなモデルである。

  • サロモン「S/LAB X ALP ENGINEERED PANT」

  • 参考価格 -

  • 2018年4月5日 12:29 現在

日本人にもフィットするヨーロッパブランドのパンツ

今回のテストにあたって、僕が心配していたのはサイズ感だ。アルピニズム発祥のヨーロッパにはクライミングの流れをくむスポーティーなシルエットをもつパンツが目立ち、多くはかなり細身なのである。そんなパンツをウエストやヒップのサイズに合わせて選ぶと、欧米人ほど手足が長くはない日本人は裾があまってしまい、カッコ悪いどころか裾がもたれて機能的ではなくなる。僕個人のことをいえば、一般的な人よりも2まわりほど太ももとふくらはぎが太いため、ヨーロッパブランドのパンツで合うものを見つけるのは、なかなか大変だった。

しかし、S/LAB X ALP ENGINEERED PANTはまったく問題なく合わせられた。後述するように非常に伸縮性が高い素材を使っていることと、もともと比較的余裕があるシルエットであるからだ(とはいえ、このブランドのカテゴリーでは、いちばん細い「スキンフィット」よりも一段階余裕がある「アクティブフィット」。その上に「レギュラーフィット」がある)。これならば、僕ほど足が太くない一般的体型の方は、寒い時期に内側へタイツなどを重ねても違和感は少ないだろう。ちなみに、僕の身長は177pで、Mサイズがぴったりであった。

ヨーロッパブランドのパンツには細身のものが多いのだが、S/LAB X ALP ENGINEERED PANTはタイトでもなく、ルーズでもないという中庸的なシルエットだ

パンツの後ろ側にはヒップ部分にもポケットがないという、いたってシンプルなルックスになっている

“タフで動きやすい”を実現する細部の仕掛け

S/LAB X ALP ENGINEERED PANTは、ディテールも興味深い。僕が特に気に入ったのは、ウエストの部分だ。ストレッチ素材ながら、わりあい厚みのある素材を使い、生地にはたるみを持たせていない。ウエストのフィット感に物足りなさを感じる場合は、内側につけられているコードを締めればいいのだが、そのコードにもやわらかくストレッチ性が高い素材が使われているため、体へのなじみがよいのだ。その結果、この上をバックパックのウエストハーネスで締めるような使い方をしても、ごろつき感はない。このような仕様やウエストのデザインが似たパンツは他社にもあるが、コードの素材にまで気を配っているものはめずらしいのである。

ウエストのフィット感は上々。ただし、この部分は生地が何枚も重なっているため、過度に汗をかくと水分をため込み、すぐには乾燥しないかもしれない

上から見下ろしたウエスト部分。このような「伸縮性素材×コード」という仕様はトレイルランニング用ショーツには多いが、トレッキング向けパンツではあまり見ない

S/LAB X ALP ENGINEERED PANTは男性用で、フロントには用を足すためのファスナーがついている。だが、最低限の長さで開口部が狭く、使いやすいとは言いがたい。とはいえ、長いファスナーにするとパンツの伸縮性やしなやかさが損なわれるので、この点は仕方ないところか

ポケットの位置やデザインも気がきいている。S/LAB X ALP ENGINEERED PANTのポケットは右足側に2つ、左足側にひとつの計3か所。いずれも深くはなく、手がギリギリ入る程度の奥行きだ。そのままでは入れたものを行動中に落としかねないが、その代わりに細いファスナーで閉じることができる。ポケットの内側はメッシュ素材となっており、暑い時期はファスナーを開け放しておくことで、ベンチレーターとして通気性を向上させる働きも期待できる。

ポケットのファスナーは真横一直線に取り付けられており、手が出し入れしやすい。また、ファスナーは極細なので皮膚に当たっても痛みはない

ポケットのひとつは、太ももの上部。手を下におろすとちょうど開口部に届くという、絶妙な位置だ

ポケットのひとつは、太ももの上部。手を下におろすとちょうど開口部に届くという、絶妙な位置だ

さらに、ほかの部分のディテールも確認していきたい。

S/LAB X ALP ENGINEERED PANTの大きな特徴は、裾まわりにもある。一番下から上に向けて付けられているのは、長めのファスナーだ。脱ぎ着しやすいように、また裾がバタ付きを抑えるために、レインパンツにはよく見られる仕様に似た、裾ファスナーを付けたトレッキングパンツもないわけではない。しかし、さらにS/LAB X ALP ENGINEERED PANTは裾の素材を強靭なものに変更し、傷みにくくにくくしているのだ。こうなると、トレッキングパンツというよりは、もはや冬季用のアルパインパンツである。

裾のファスナーの長さは22〜23cm。止水タイプが使われており、雨の日も浸水の恐れが少ない。この裾の生地は防水性素材で外部からの水濡れに強い。いっぽうで、長時間はいていると内側は湿気で結露を起こす。今回も登山後はこの部分だけわずかに濡れていた

引き手が2つつけられたWファスナータイプのため、上だけを開けてて通気性をうながすことも可能。暑い時期には便利だ

裾の内側には、線状にゴムのような質感の樹脂が装備されている。少々べとつきがあるほどの粘着力だ。これがあることで裾をブーツの上にかけた時に固定力が増し、足を大きく動かしてもパンツがずれにくい

パンツの裾がブーツの上からずれないので、いつもこのようにフィットした状態で行動できる。これならば雨が降った時も水はパンツの上を流れ落ち、ブーツ内に流れ込まない

今回のテスト時、雪があるルートではチェーンスパイクをブーツに取り付けて歩いた。しかし、パンツの裾の生地には耐久性があるので金属製の尖ったスパイクが当たっても穴が空くことはなく、わずかに傷が付いただけだった

透湿性と防風性にすぐれる独自素材のはき心地は?

先に述べたように、S/LAB X ALP ENGINEERED PANTの裾は強靭な素材で補強され、この部分はまったく伸縮しない。だが、それ以外の場所、つまりパンツの大部分は、かなりストレッチ性に富むソフトシェル素材を使っている。

ソフトシェルと呼ばれる素材の主だった特徴は、伸縮性、通気性、撥水性など。S/LAB X ALP ENGINEERED PANTに使われている素材は、「アドバンスドスキンシールド」といわれるサロモン独自のもので、ソフトシェル素材の中でも透湿性と防風性を強化したものになっている。防風性の高さは寒気をさえぎることに役立つだけではなく、内部の暖気を逃がさないことにもつながり、保温力をアップすることにひと役買っている。だから、S/LAB X ALP ENGINEERED PANTは肌寒い時期にも適しているのだ。

「アドバンスドスキンシールド」素材は、耐久性を損ねてまでも伸縮性を上げることはせず、むしろ摩耗性などを高めている印象。この素材ならば、長く使えるはずである

おどろくほどの伸縮性ではないが、S/LAB X ALP ENGINEERED PANTは極端に足を大きく上げることも多いクライミング用ではなく、トレッキング用なので、これで十分すぎるほどだ

膝を中心に、立体裁断のデザインを取り入れているため、行動中の足へのストレスは軽減される

膝を中心に、立体裁断のデザインを取り入れているため、行動中の足へのストレスは軽減される

撥水力の高さもソフトシェル素材の強み。「アドバンスドスキンシールド」も非常によく水を弾き、ペットボトルから振りかけてみた大量の水は玉のようになって流れていった

S/LAB X ALP ENGINEERED PANTのメイン素材は「アドバンスドスキンシールド」だが、部分的にはほかの素材も併用されている。ひとつは先に述べた裾の部分。もうひとつは、腰の裏と太ももの内側だ。正確に言えば、これはウエストと同じ素材で伸縮性が高く、高度な通気性と速乾性をあわせ持っている。しかも、数枚の生地が重なっているウエストとは異なり1枚のみなので、より素材の特性が生きてくる。こうした構造であるため、これらの部分では「アドバンスドスキンシールド」だけでは足りない可動性が増し、パンツ内部の湿気もすみやかに外へと抜けていくようだ。

中央の上辺が長い逆三角形の部分は、やわらかな生地が1枚のみ。汗が溜まりやすい個所でもあり、この部分の通気性と速乾性が高いことは着心地のよさに直結する

太ももの内側にも縦長に同じ素材が配されている。この部分も湿気が溜まりやすく、通気性が高いことはとても好ましい

ところで、S/LAB X ALP ENGINEERED PANTの外側をチェックしている時に、僕は気になるものを見つけていた。それはスナップボタンの「凸」の部分。しかし、これと対になる「凹」の部分が目に見えるところには付いていないのだ。だが、ヘッドともいわれるその「凹」の部分は、なんとパンツの裏側にあった。メーカーのサイトにも記載されていないが、どうやらこれらを連動させると、ショートパンツのようにしてもはけるようなのである。このような仕様は長袖シャツではよく見かけるが、アウトドア用パンツではあまり見たことがない。しかし、実際にまくり上げて履いてみると、なかなか快調なのであった。

パンツを完全にひっくり返すと、短いテープ状パーツに取り付けられたスナップボタンのヘッド(凹)を発見できる

パンツをまくり上げてから、スナップボタンを留める。これでロングパンツがショートパンツに。スナップボタンはほどよいホールド感で、簡単には外れない

長さから言えば、ショートパンツよりも、ハーフパンツという言葉のほうが適しているかもしれない。蒸し暑い時期は、こんなスタイルも悪くはないだろう

裾をまくり上げると、さすがにその部分は太くなる。だが、ふくらはぎの上で固定されるため、足の動きをそれほど妨げず、思ったほどの違和感はない

山行を終えて

高機能素材を採用し、伸縮性と立体裁断のコンビネーションではき心地のよさを実現したS/LAB X ALP ENGINEERED PANT。しかも、通気性、撥水性、速乾性、防風性にも富み、予想以上のパフォーマンスである。摩耗に強い強化された裾は、冬の低山で軽アイゼンなどを使う時にも安心だ。反対に、裾をまくれば蒸し暑い時期にも涼しさを得られる。正直なところ、このパンツは僕が想像していた以上にすぐれていた。中厚の生地なので、さすがに真冬はこれ1枚では寒すぎ、真夏は暑すぎると思うが、ほかの季節はこれ1本あれば大半のシチュエーションに対応できるだろう。

僕は多くの場合、夏はショートパンツで山を歩き、春や秋、高山ではショートパンツにタイツをあわせている。ロングパンツをはくのは冬くらいだ。その理由は、自分の体型(ウエストや裾の長さ)に合うものがなかなか見つからず、探すのがめんどうになってしまっていることと、アウトドア用のパンツ、とくにヨーロッパ系のブランドのものを足が短い日本人がはくと野暮ったく見える気がするからである。しかし、S/LAB X ALP ENGINEERED PANTは日本人の体型にも合いやすいようで、見た目も悪くない。重量も380gで、同サイズのトレッキングパンツと遜色ないどころか、むしろ軽いとも言える。

問題があるとすれば、そのお値段か? 希望小売価格37,800円(税込)は、ざっくり言って一般的なトレッキングパンツの2倍以上。高質素材、手が込んだディテールで、欠点がほとんど見当たらないのはすばらしいが、その分だけ価格に反映されているのは間違いない。「よいものは高い」ことを実証するパンツなのである。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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  • 2018年4月5日 12:29 現在

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