実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
山の中で全機能必要? ビクトリノックス歴30年以上のユーザーが問う

いざという時にも役立つ! 19機能を備えるマルチツール「エボリューションウッド S557」


山で使うナイフといえば、さまざまな機能を搭載した、いわゆる「アーミーナイフ」を思い浮かべるかもしれない。日本語に直訳すれば「軍用ナイフ」となるが、実際によく使われる訳語は「五徳ナイフ」。しかし、これもすでに古臭い表現であり、現代的な言葉に置き換えれば「多目的ナイフ」、もしくは「マルチナイフ」となるだろう。

とはいえ、もっともアウトドア用語として使われているのは「マルチツール」という言葉である。ナイフという言葉がツールという言葉に置き換えられ、ナイフは多々ある機能のひとつに過ぎないことになるが、もちろん主要パーツのひとつであることには変わりない。

今回ピックアップするのは、マルチツールの代名詞的ブランド、ビクトリノックスの「エボリューションウッド S557」である。

19種類の機能を備えたマルチツール

ビクトリノックスの製品には、指の形状に合わせてハンドル部分に凹凸を付けた「エボリューション」というシリーズがあり、今回紹介する「エボリューションウッド S557」は、その中でも21種の機能を持つ「エボリューション S557」のハンドルの素材を樹脂製から木製に換えたものだ。ただし、「エボリューション S557」の樹脂製ハンドルには「つまようじ」と「ピンセット」が内蔵されているが、「エボリューションウッド S557」の木製ハンドルには素材の問題で内蔵できず、そのために機能は全19種となっている。

「エボリューションウッド S557」のハンドルは、ウォールナット製。木質が硬く、傷がつきにくい。収納時のサイズは28(幅)×85(長さ)mmで、重量は127gだ

ハンドルには、指にフィットするように凹みが設けられている。強い力を入れたり、濡れた手で扱ったりしても滑りにくい。細かい作業をしやすく、なにより安全に使える

まずは、「エボリューションウッド S557」が持つ19の機能をチェックしていこう。マルチツールというものは、ひとつのパーツにいくつかの機能を持たせているのが普通であり、以下の12カットの写真で19の機能を説明する。

ラージブレードナイフ(左)、スプリングロック(右)
※スプリングロックはラージブレードナイフに付随するパーツで、19種の機能には入らない

キーリング(左)、つめやすり、つめそうじ(右)

キーリング(左)、つめやすり、つめそうじ(右)

はさみ(左)、リーマー(穴あけ)/千枚通し、端子つぶしツール(右)

プライヤー、レンチ、ワイヤーカッター、アジャスタブルオープニング(左)、コルクせん抜き(右)

プライヤー、レンチ、ワイヤーカッター、アジャスタブルオープニング(左)、コルクせん抜き(右)

万能レンチ M3、M4、M5(左)、プラスドライバー(右)

万能レンチ M3、M4、M5(左)、プラスドライバー(右)

カン切り、マイナスドライバー3mm(左)、せん抜き、マイナスドライバー5mm、ワイヤーストリッパー(右)

カン切り、マイナスドライバー3mm(左)、せん抜き、マイナスドライバー5mm、ワイヤーストリッパー(右)

ビクトリノックスのマルチツールは多様なラインアップを誇り、現行品だけでも数十種類におよぶ。その中で、なぜ「エボリューションウッド S557」をピックアップしたのか?

実は、僕は高校山岳部に入部して以来、30年以上のビクトリノックスユーザーである。過去には同社の顔であり、30種類以上の機能をもつ「スイスチャンプ」のようなマルチ極まるモデルも持っていた。だが、「山で使う」ということを考えると、それほどの機能は必要ない。むしろ大ぶりで重くなるだけであると思うようになった。そんなことを踏まえ、僕が考える本当に必要な機能は、最終的に3つに絞られた。それは、「ナイフ」「プライヤー」「はさみ」である。もちろん、ほかにも便利な機能はあるのだが、どうしても外せない機能となると、この3パーツという結論となる。

だが、「ナイフ」「プライヤー」「はさみ」を含むマルチツールは意外と少ない。主要中の主要パーツゆえに大半のモデルにナイフやはさみが付属するが、プライヤー付きはかなり限定される。ほかのパーツよりも力をこめて使う可能性が高く、形状も複雑なため、高い耐久性と小型化を同時に実現するのが難しいからだろう。また、一般的にはそれほど重要だと思われていないからかもしれない。

また、木製のハンドルを選んだ理由は、正直なところ、見た目の美しさだ。実用性であれば、樹脂製ハンドルの「エボリューション S557」のほうが耐久性は高く、「ピンセット」や「つまようじ」も付属しており、販売価格も安い。だが、「エボリューションウッド S557」のようなシックな雰囲気の木製は、アウトドア以外に日常生活でも使いやすいというメリットがある。

山中では「ナイフ」「プライヤー」「はさみ」がマスト

ここからは重要3パーツをもう少しくわしく見ていこう。それとともに、僕がどうしてこれらの機能を外せないものとしているか、わかっていただけるだろう。

まずは「ナイフ」だ。このパーツの重要性は言うまでもない。キャンプ地ではロープを切断し、木を削り、食材を切り刻み……などと用途が多過ぎて、わざわざあげていくとキリがない。まさにマルチツールのメインパーツと言える存在だ。

ラージブレードナイフは、ステンレススチール製で刃渡り55mm。現代のマルチツールの標準的なサイズ感だ。

ラージブレードナイフは、ステンレススチール製で刃渡り55mm。現代のマルチツールの標準的なサイズ感だ

切れ味は鋭く、リンゴの中心部までラクに刃が入る。皮むきや薄切りも簡単だ

切れ味は鋭く、リンゴの中心部までラクに刃が入る。皮むきや薄切りも簡単だ

力を入れずに木の枝も削れる。焚き火の火口を作るくらいは、すぐにできるだろう

力を入れずに木の枝も削れる。焚き火の火口を作るくらいは、すぐにできるだろう

各種マルチツールに付属するナイフの中には、引き出したブレードが戻らないようにするロック機能が付属するものと、付属しないものがある。いうまでもなく、ロック機能が付いているほうが、力を入れて作業する時には安全だ。「エボリューションウッド S557」にはスプリング式のロックが採用され、わざわざレバーを指で押さないと刃をハンドル内に戻せないようになっている。これにはそれなりの力を必要とし、ロックを解除するのに手間取る人もいるかもしれない。だが、その分だけ安心感があり、ケガをしにくいのは大きなメリットだ。ただし、ロックを解除するためのレバーはハンドルから少し出っ張って取り付けられており、ポケットなどに入れた際に引っかかりやすいのが難点である。このレバーの部分は、あと少しだけ出っ張りを抑えるか、他モデルに採用されているボタン式などの別種のロックシステムが採用されるとよさそうだ。

ブレードを固定するスプリングロックのレバーは、ハンドルの根元に装備。親指でロックを解除しつつ、ブレードを押してたたもうとしても容易にはできないほど、バネの力で確実に留められている。解除には両手を使うのが現実的だ

次に「プライヤー」を見てみよう。実は、山中でのプライヤーの用途を問われると簡単には答えにくい。硬く結ばれてしまったロープを解きほぐしたり、火にかけて熱くなったクッカーやレトルト食品を持ち上げたり、ケガの際はピンセット代わりに応急処置に使ったり……。これまた作業範囲が広過ぎるからだ。

プライヤー部分はレンチを兼ね、ヒンジの部分を1段階スライドすると口を大きく開くことができる。また、先端部分のすべり止めなどもおろそかにしておらず、小型ながらよくできている

プライヤーの助けがあれば、硬く結ばれていたり、劣化して硬くなったりしたロープも短時間で解きほぐせる。同じ作業を指先だけで行おうとすると、無用なほど時間と力をかけねばならず、ストレスが溜まるはずだ

僕が思う山中でのプライヤーの最大の用途は「モノの修理」である。プライヤーがあれば、指先では持てない小さなパーツもつかむことができ、素手ではすべりやすい生地やロープにも力を込められる。もしも山中でバーナー、ブーツ、バックパック、ライトなどといった重要ギアが破損した場合も、プライヤーがあればレベルの高い応急処置が可能になるのだ。

ただし、「いざ」という時が来ないとプライヤーの重要性はわかりにくい。もしかしたら、本当に必要となるのは、数年に1度だけかもしれないのだ。だが僕は、プライヤーのおかげで危機を乗り越えたことが何度かある。たとえば、雪山テント泊でバーナーが故障した時。凍える手で細かい作業をして修理を行い、温かい食事をとることができたのは、僕が持ち歩いていたマルチツールにプライヤーの機能があったからだ。それに類するトラブルがいつ起こるかわからない山中だからこそ、僕はプライヤーの機能をマストだと思っている。

プライヤーはスプリング式で、自動的に口が開く。マルチツールに付属しているプライヤーにはこの手のものが少なく、「エボリューションウッド S557」のシステムは非常に便利だ

最後に紹介する機能は「はさみ」である。ナイフと同様に「切る」ためのパーツだが、ナイフ以上に細かな作業には、はさみのほうが向いている。応急処置の際に絆創膏や包帯を適当なサイズに切ったり、割れた爪を整えたり、食品の包装を開封したりと、これまた用途の幅は非常に広い。もちろんナイフでも同じ作業を行えないわけではないが、精度には差が出てしまう。プライヤーと同様、モノが破損した時の補修にも、細かな作業を得意とするはさみが活躍するだろう。僕個人の用途でいえば、マルチツールの各種機能の中で、はさみこそがもっとも有用で、必要不可欠なパーツの筆頭だ。ナイフ以上に出番は多い。

プライヤーと同じく、はさみもスプリング式で自動的に刃先が開く。使用中に自分では刃先を広げにくい小型タイプのはさみには、とても重要な工夫だ。ちなみに、この仕組みはビクトリノックス共通ではなく、「エボリューション」シリーズなどの一部だけに採用されている

ナイフでは失敗して中身をこぼしがちなレトルト食品の開封も、はさみならばキレイにカットできる。特に火にかけて熱せられたものは素手で扱いにくく、はさみが活躍する

前述のように、僕は長い間、ビクトリノックスのマルチツールを使い続け、はさみ付きのモデルも多く手にしてきた。だが、「エボリューションウッド S557」に付属するはさみは初めて使うタイプだ。従来のビクトリノックス各製品のはさみは形成された薄いステンレス製のバネで刃先を開くようにしてあるが、このパーツは金属疲労を起こしやすく、たびたび壊れて修理が必要になる。はさみは使用頻度が非常に高いこともあり、おそらくビクトリノックスの各種パーツの中で、もっとも修理依頼が多かった部分なのではないだろうか。しかし、「エボリューションウッド S557」に採用されているタイプならば、バネの部分に壊れやすいパーツが使われておらず、破損しにくい。

参考のため、ビクトリノックスの他のマルチツールのはさみを載せておこう。スプリングの方式が異なり、こちらのほうがビクトリノックスでは主流のタイプである

ちなみにビクトリノックスは、2013年にライバル会社だったウェンガーを傘下に収めている。実は「エボリューション」はもともとウェンガーの流れをくむシリーズであり、「エボリューションウッド S557」に使われているはさみは、もともとウェンガーで採用されていた方式なのだ。だから、ビクトリノックスの主流製品には従来のタイプのはさみが組み合わせられているのに、「エボリューションウッド S557」はウェンガータイプとなっているのだ。

ウェンガー系のはさみは細かな波刃になっていて切れ味でも優位であり、間違いなく機能的。今後のビクトリノックス製品は、すべて同タイプのはさみにしてもらいたいくらいである。

はさみの刃をよく見ると、細かな波刃になっていることがわかる。これにより、極細の糸や極薄の紙でもすべることなく、確実に切断できる

「ナイフ」「プライヤー」「はさみ」で、簡単クッカー作り!

マルチツールの「ナイフ」「プライヤー」「はさみ」機能を使ってできる、簡単な実例を紹介しよう。「お湯を沸かすクッカーを家に忘れてきた」という設定で、アルミ製のコーヒー缶をクッカーとして使うために簡単な工作を行う。

ナイフを缶の表面に突き立て、少しだけ切り開く。アルミは金属の中ではやわらかいとはいえ、さすがに素材としての強度は高い。しかし、これくらいのことではブレードに刃こぼれは生じない

ナイフだけでもアルミ缶を切っていけるが、ブレードに厚みがあるため、きれいには切断できない。そこで、刃が薄くて切断面がつぶれにくい、はさみを使用する。もちろん、はさみにも刃こぼれは生じなかった

切断面をさらに放射状にはさみで切り、内側に折ってからプライヤーでつぶしていく。開口部がなめらかになり、クッカーだけではなく、カップとしても使えるようになった

かなり雑な造りだが、数回の用途には十分に使える簡易的な小型クッカーが短時間で完成した。こんなことができるのは、マルチツールならでは。これに比べれば、ナイフで小枝を削って箸を作るのは簡単だ。

マルチツールはまさに「マルチ」。修理、製作、調理といった山中行動の際には、アイデア次第で大活躍してくれるはずだ。

山行を終えて

僕は重要パーツを「ナイフ」「プライヤー」「はさみ」としたが、反対に言えば、ほかのパーツはあると便利ではあるが、必ずしも必要とは思えないということでもある。むしろ付属していないほうがよいのではないかと思うパーツすらある。特に「山中で使う」とシチュエーションを限定すれば、あきらかに無駄なパーツも存在する。

「エボリューションウッド S557」であれば、先端が「マイナスドライバー」になっている「カン切り」と「せん抜き」があげられる。現在の缶詰の大半はカン切り不要で開封でき、せん抜きが必要なビンのドリンク類を山中に持っていくこともないだろう。「コルクせん抜き」も同様だ。山中では「プラスドライバー」の出番も少なさそうであり、もしもの場合でも、プライヤーやナイフの先端などを駆使すれば、ドライバー類がなくてもネジ類はある程度まではねじ込めるはずだ。「リーマー(穴あけ)&千枚通し」や「万能レンチ」も使用頻度は限られる。それらに対し、「キーリング」はキーホルダーやコードを付けるために有用であり、「つめやすり」も爪以外のものを磨くのにも使え、意外と重宝するので、残しておいてもよさそうだ……。そのように考えていくと、「山中用」と限定すれば、残すべきパーツは半分くらいだろうか? 

「エボリューションウッド S557」の厚みは28mm。不要パーツを省けば、これを半分くらいの厚みと、2/3くらいの重量にできるかもしれない。山中では、それくらい小型のほうが使いやすいだろう

最後に、ハンドルの素材についても触れておこう。今回は機能性よりも雰囲気で選んだウォールナット製のハンドルであるが、樹脂製よりも肌へのなじみはよいようだ。表面は磨かれてはいるものの、木肌にはナチュラルなザラつきがあり、濡れた手で握ってもすべりにくい。使い続けているうちに深い光沢も出てくると思われ、長く使えば使うほど愛着も出るだろう。その代わり、付いていれば便利な「ピンセット」が付属しないのは少々さみしいが、大きな不満を覚えるほどではない。

さまざまなパーツを組み合わせ、ひとつの形に収めているマルチツールを選ぶ際は、自分に必要な機能を取捨選択することが必要である。今回、僕は自分の経験から「ナイフ」「プライヤー」「はさみ」にこだわった商品セレクトを行い、それらを中心にチェックしたが、必要な機能は人それぞれ。マルチツールは金属パーツを中心に構成され、小型といえどもずっしりと重い。自分にとって重要な機能を発揮するパーツを備えつつ、ほかのパーツはできるだけ少ないものを選び、できるだけ軽量なモデルを選ぶといいだろう。

ところで、近い将来、自分にとって必要なパーツのみを選び、マルチツールをカスタムしてもらえるサービスが生まれないものだろうか? 本当に自分が欲しい機能だけを選び、好きな素材と色のハンドルを使ったモデルを作り出せる時代がいずれ来てほしいものである。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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