2023年4月13日にリコーイメージングが同社初のモノクロ専用デジタル一眼レフ「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」を、4月14日にライカカメラジャパンがモノクロ専用デジタルレンジファインダーの最新モデル「ライカM11モノクローム」を発表し、にわかに「モノクロ専用デジタルカメラ」に注目が集まっている。
片方が一眼レフで、もう片方が高級なレンジファインダーということで、決して比較するものではないが、発表時期が重なったのはなかなか面白い展開だ。そこで本記事では、両モデルに共通するモノクロ記録の仕組みを解説し、今後のモノクロ専用デジタルカメラの可能性について考察してみたい。
左が「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」で、右が「ライカM11モノクローム」
「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」はAPS-Cサイズで、「ライカM11モノクローム」はフルサイズと、採用する撮像素子の大きさが異なっているものの、モノクロ専用デジタルカメラとして両モデルのモノクロ記録の仕組みは共通している。あえて機能を省略した撮像素子を採用することでモノクロに特化しているが特徴だ。
そもそも、一般的なデジタルカメラの撮像素子(ベイヤー式のイメージセンサー)は、受光した光(輝度)を電気信号に変換するデバイスであり、1画素は1色の色情報しか読み取れない。各画素にRGBいずれかのカラーフィルターが付いており、1画素1色で色情報を取得しつつ、周りの画素から残り2色の情報を補間することでカラー画像を生成している。
つまりカラーフィルターがなければカラー画像を記録できないのだが、モノクロ専用デジタルカメラは、あえてカラーフィルターを省略した特別仕様の撮像素子を採用。こうすることで、モノクロでしか記録できないように工夫しているのだ。
モノクロ専用デジタルカメラはカラーフィルターを省略した撮像素子を採用している。この画像は、「ライカM11モノクローム」の前モデル「ライカM10モノクローム」の撮像素子を撮影したもの。見た目は一般的な撮像素子と変わらない
カラーフィルターを省略することは、モノクロ画像を生成するうえで大きなメリットをもたらす。まず、カラーフィルターがない分、撮像素子に届く光の量が増え、受光感度が上がる。結果として、同じ感度で比べると、カラーフィルターを搭載する撮像素子よりもノイズが少ないクリーンな画像が得られる。さらに、カラー画像生成時のような補間処理がなく、輝度情報をダイレクトに反映できるのもポイントで、ディテールの再現性が増す。クリーンで緻密なデジタルモノクロ写真を撮るうえで非常に高い効果が得られるのである。
ただし、カラーフィルターを省略したモノクロ専用機は、輝度情報のみでモノクロ画像を生成する点は理解しておきたい。色情報がないため、カラー画像をモノクロ化するときのように、カラーバランスを調整したりフィルター効果を加えたりして、特定の色の明るさを調整することはできない。
2023年4月28日に発売される「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」。2023年4月16日時点の価格.com最安価格は299,700円(税込)で、ベースモデル「PENTAX K-3 Mark III」よりも10万円ほど高い。この画像でカメラボディに装着しているレンズは、全長15mmのパンケーキレンズ「HD PENTAX-DA 40mmF2.8 Limited」
2021年11月に開催されたオンラインイベントでアイデアとして提案されたモノクロ専用機がついにお目見えとなった。高品位なAPS-Cデジタル一眼レフ「PENTAX K-3 Mark III」をベースに、モノクロ専用の撮像素子(有効約2573万画素)を搭載し、画質設定もモノクロ用に一新。背面左上に「Monochrome」の文字を印字したほか、アイコンなどのプリントには濃淡の異なる3つのグレーを使い分けるなど、モノクロ専用の世界観を表現したデザインも特徴だ。直販限定モデルとしてマットブラック塗装の「PENTAX K-3 Mark III Monochrome Matte Black Edition」も用意している(※2023年4月16日時点では、想定を大幅に上回る予約数のため注文受付を一時停止中)。
左が「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」で、右が「PENTAX K-3 Mark III」。「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」ではブランド名、モデル名、「SR」のロゴの色が変更されている
マットブラック塗装を採用する直販限定モデル「PENTAX K-3 Mark III Monochrome Matte Black Edition」も用意
2023年4月22日発売予定の「ライカM11モノクローム」。ライカオンラインストアの価格は1,386,000円(税込)と非常に高額だ。この画像でカメラボディに装着しているレンズは、近接45cm対応のリニューアルモデル「Summilux-M 50 f/1.4 ASPH.」
ライカは、2012年にモノクロ専用デジタルレンジファインダー「ライカMモノクローム」を商品化して以降、レンズ一体型の「ライカQシリーズ」を含めて、モノクロ専用デジタルカメラを継続して提供している。「ライカM11モノクローム」は、M型デジタルライカとしては4世代目のモノクロ専用モデル。「ライカM11」をベースに、モノクロ専用のフルサイズの撮像素子(有効6030万画素)を採用するほか、256GBの内蔵メモリーを搭載するのも特徴だ。デザイン面では、「Leica」の赤いロゴをなくしたマットブラックペイントボディを採用。ファインダーにクローム仕上げ(ダークカラー)のコーティングを施しているのも見逃せないポイントである。
従来のモノクロ専用モデルと同様、「Leica」の赤いロゴをなくしたブラックボディを採用
ボディは「ライカM11」を継承。M型ライカの特徴でもあったベースプレートがなくなり、バッテリーは底面に直接差し込む形に変更されている
モノクロ専用デジタルカメラは、非常に趣向性が高く、これまではライカのみがラインアップしていた。その中で今回、リコーイメージングが「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」を商品化したのは大きい。このカメラの売れ行き次第だと思うが、同社から、フルサイズ一眼レフ「PENTAX K-1」やコンパクトデジカメ「GR III」のモノクロ専用機が登場する可能性は十分にある。
ほかのメーカーに目を移すと、デジタルモノクロの仕上がりに特にこだわるメーカーとしては、富士フイルム、パナソニック、OMデジタルソリューションズがあげられる。これらのメーカーがモノクロ専用機に関して追随する動きを見せてもおかしくない。すぐに製品が登場するとは考えにくいが、将来的には期待してもよいのではないだろうか。
一般的に言えば、モノクロ専用というのは、できることをあえて削っているわけで、写真愛好家やカメラファン以外から支持されるとは考えにくい。ただ、モノクロ写真は写真文化にとって欠かせない存在であり、モノクロフィルムで作品を撮り続ける写真家や写真愛好家は多い。リコーイメージングとライカ以外のメーカーの動向にもよるが、モノクロ専用デジタルカメラは、根強いファンに支えられ一定の人気をキープする存在になるかもしれない。
なお、モノクロ専用というわけではないが、高画質なデジタルモノクロ機として注目したいのが、2024年の発売を目標にシグマが開発している、フルサイズフォビオンセンサー採用のミラーレスカメラだ。フォビオンセンサーはRGBの3構造を採用しており、カラーだけでなくモノクロでも高品位な画像が得られる点で高く評価されている。商品化された際には、モノクロ画質にも注目が集まることだろう。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。