3日間映像と向き合い、全身全霊で映像制作に没頭してみませんか? そんなキャッチコピーを掲げてソニーマーケティングが新たに展開し始めたのが、映像クリエイター志願者向けの実践型ワークショップ「CREATORS' CAMP」だ。
今回、2023年10月7日〜9日の3日間、福島県福島市にて開催された本ワークショップの第1回を取材してきた。映像制作のスキル向上を目指す人にとってかなり興味深い内容だったので、その詳細をお伝えしよう。
地元の事業者への取材中のひとコマ。チームオペレーションで自治体PR動画を制作・納品することでスキルアップを図るのが「CREATORS' CAMP」の狙いだ
「CREATORS' CAMP」は、ソニーマーケティングが立ち上げた新しい映像制作講座。具体的には、第一線で活躍するプロの映像クリエイター/ディレクターを講師に招き、直接レクチャーを受けながら「チームで地域のPR動画を制作するワークショップ」である。撮影や編集の知識だけでなく、チームオペレーションを体験し、新たな仲間とのつながりを提供することも狙った講座だ。
「CREATORS' CAMP」はソニーマーケティングが運営するカメラスクール「αアカデミー」の新しい映像制作講座
上記の説明を読んで、「プロから教えてもらえて仲間もできて、なんだか楽しそう」と思う人も多いと思うが、「CREATORS' CAMP」は、メーカーが運営するカメラスクールの一般的な講座とはまったく趣が異なっている。
一般的な講座は、写真や動画の撮影を楽しみながら学べるプログラムが多く、参加者はあくまでも「お客さん」であることが多いのだが、「CREATORS' CAMP」は、すでに映像クリエイターとして活動している人や、これから本格的に映像クリエイターを目指す人など、映像制作に真剣に取り組んでいる人向けの“本気”の講座だ。
はっきり言ってしまえば、「プロのクリエイターと一緒に楽しみながら撮影してみたい」といったような生半可な気持ちで完遂できるようなやさしい内容ではない。映像制作スキルの向上を目的とした実践型のワークショップなのである。
「CREATORS' CAMP」の第1回は福島県福島市にて開催された。ワークショップの拠点は、福島駅から徒歩5分の位置にある、福島県最大級のコワーキングオフィス「Fukushima-BASE」。福島市の全面協力のもとに実施されており、3日間の講座の初日には木幡浩 福島市長があいさつに訪れたほどだ。
福島県最大級のコワーキングオフィス「Fukushima-BASE」。座学や企画作成、動画編集はここで行われた
ワークショップの内容は、福島県福島市のPR動画を制作することを目的に、2〜4人のチームで行動しながら、3日間(作業できるのは実質2日間)でPR動画の企画・構成から撮影、編集までを一貫して行い、完パケ(完成品)を納品するというもの。いわゆる「チームでのクライアントワーク」を体験するプログラムである。納品後は審査が行われ、受賞チーム(1〜3位)の作品はソニー公式ページに掲載される予定だ。
少しでも映像制作の仕事に関わったことがある人なら、「3日間(作業は実質2日間)で完パケ納品」というオーダーの厳しさが伝わるのではないだろうか。かなり詰め込んだ内容だが、ソニーマーケティングの担当者によると、「5日間くらいの長い開催期間も検討したが、仕事や学校など普段の生活に支障が出ないのは3日間(3連休)が限度」と判断したとのこと。3日間では厳しい行程になることは理解しながらも、「個人で頑張っているクリエイターに向けて、メーカーとして実践的な学びの場を提供することに意味がある」と考えたとのことだ。
「CREATORS' CAMP」の第1回のタイムテーブルは以下のとおり。
Day 1(10/7)
12:00〜13:10 開会のあいさつ〜講師紹介〜参加者自己紹介〜チーム分けなど
13:10〜13:25 アンケート回答〜チーム内アイスブレイク
13:25〜14:55 カメラ機材の使い方/設定レクチャー
14:55〜17:55 撮影に向けた企画構想(テーマ設定、ロケ地設定、撮影工程作成、ラフ画コンテ作成)
17:55〜18:25 撮影機材準備
18:45〜20:45 懇親会
Day 2(10/8)
9:00〜9:30 機材確認
9:30〜19:00 移動・撮影
19:00〜23:00 編集作業
Day 3(10/9)
9:30〜12:30 編集作業
13:15〜14:05 各チームの作品の上映
14:05〜17:40 審査〜講評〜結果発表〜優勝チームコメント
17:40〜17:55 閉会のあいさつ〜記念撮影〜アンケート
第1回の参加費用は33,000円(税込)。福島市までの移動費や宿泊費を考えると、それなりの出費になる場合もあるだろう。しかも、「Adobe Premiere Pro」もしくは「DaVinci Resolve」がインストールされた動画編集用PCやSDXCカード(UHS-II V90以上) もしくは CFexpress Type A メモリーカード、カメラバッグを持参する必要があるという条件付きだ。
申し込みページには「ご用意いただくもの」として動画編集用PCやメモリーカードなどが明記されている
メーカー主催のイベントとしてはなかなか敷居が高い価格と条件に思えるが、第1回では、定員の30名が埋まる応募があったとのこと(キャンセルが出たため実際の参加者は27名)。次項目で紹介する講師陣が豪華というのもあるが、それにしてもこの価格と条件で30名の応募があるのは、本格的な映像制作に興味がある人が増えていることを実感するところだ。
参加者の顔ぶれは、企業や団体のYouTubeチャンネルのディレクターを担当している人や、ウェディングムービーやファミリームービーを制作しているフリーランス、地元のPR動画を作成したい人、趣味で動画を撮っている人などさまざま。初心者の人もいたが、大半が何かしらの映像制作を経験している人で、20〜30代を中心に10〜60代まで幅広い層が集まった。
「CREATORS' CAMP」の第1回に講師として招かれたのは、第一線で活躍している映像クリエイター/ディレクター5名。10〜30代を中心に映像クリエイターを目指す人にとって憧れの存在で、参加者のほとんどは、5名の講師から直接レクチャーを受けられることに魅力を感じて今回の申し込みを決めている。
※講師のプロフィールは「CREATORS' CAMP」公式ページからの引用
Ussiy氏
福島県で生まれ育ち、高校卒業後は工場に就職。友人と結婚式余興ムービーを制作したことをきっかけに映像へ興味を持ち、独学で映像制作スキルを習得し、2018年末に工場を退職。現在は独自の世界観を表現する映像クリエイターとして活動し、日本だけでなく海外企業とのタイアップも数多くこなす。2022年にはスタジオジブリからのオファーを受け、愛知県観光動画『風になって、遊ぼう。』や、ジブリパーク公式映像ディレクターも務める。
DIN氏
YouTubeにて本物の映画のような映像作品を作り続けている若手映像クリエイター。グラフィックデザイナーを経験した後に、独学で映像制作技術を習得。独特な世界観と色味で構成された映像は日本人離れした作品が多く、日本だけではなく海外からも注目を集めている。現在は美しく再現度の高いカラーグレーディングが評価され、国内外問わずカラリストとしての地位も築き上げている。
AKIYA氏
東京を拠点に活動する25歳の映像ディレクター。映画、ミュージックビデオ、テレビCMなど幅広く映像制作に携わる。演出に加え、撮影から編集までをワンストップで手掛ける。また DaVinci Resolve認定トレーナーとしても活動中。自身のYouTubeチャンネル「AKIYA MOVIE」は登録者数約5万人。
Ryo Ichikawa氏
1996年東京生まれ。2018年度武蔵野美術デザイン情報学科卒業。フリーランスを経て、株式会社コエ所属。映像ディレクターとして数多くのMVやCMなどを手掛ける。代表作に、Fujii Kaze+Google Pixel、ヨルシカのライブ映像など。映像の枠にとらわれない演出を得意とする。
Kai Yoshihara氏
関西を拠点に活動するシネマトグラファー。撮影現場では主に撮影監督として活躍を見せる。MVをメインとしながら、企業PR、ドキュメンタリーなどさまざまな映像を手掛けている。また、撮影監督だけでなく、自身での映像ディレクションも担う、若くして数多くの実績を刻む注目クリエイター。
Day 1タイムスケジュール
12:00〜13:10 開会のあいさつ〜講師紹介〜参加者自己紹介〜チーム分けなど
13:10〜13:25 アンケート回答〜チーム内アイスブレイク
13:25〜14:55 カメラ機材の使い方/設定レクチャー
14:55〜17:55 撮影に向けた企画構想(テーマ設定、ロケ地設定、撮影工程作成、ラフ画コンテ作成)
17:55〜18:25 撮影機材準備
18:45〜20:45 懇親会
それでは、実際のワークショップの内容を、日別にレポートしていこう。
初日は12時からスタートし、冒頭での木幡浩 福島市長のあいさつ、講師の紹介、参加者の自己紹介が終わると、すぐにチーム分けとアイスブレイクが行われた。チームは年齢層別にA〜Iまで9チームに分けられ、チームA/BのグループはKai Yoshiharaさんが、チームC/DのグループはDINさんが、チームE/FのグループはAKIYAさんが、チームG/HのグループはRyo Ichikawaさんが、チームIはUssiyさんが講師を担当した。
木幡浩 福島市長が登場し、「福島市の魅力を引き出した、インパクトのある動画を撮ってほしい」と参加者にエールを贈った。福島市はクリエイターの移住を積極的に推進していることなどにも触れた
5名の講師が登場。代表してAKIYAさん(いちばん右)があいさつを行った
その後、使用するカメラ機材の使い方や設定のレクチャーに移った。今回は、ソニーの映像制作用カメラ「Cinema Line」シリーズのAPS-Cモデル「FX30」を使って各チーム2台体制で撮影するということで、ソニーマーケティングの担当者が「FX30」の基本的な使い方を紹介した。
さらに、映像モニタリング・リモートコントロールアプリ「Monitor&Control」や、クラウドメディアサービス「Ci Media Cloud」の説明も行われた。今回は「Ci Media Cloud」上で納品を行うため、このサービスについては、かなり細かいところまで機能や使い方を解説していた。
ただし、機材とツールの説明時間は2時間程度しかなく、かなり駆け足の印象。もちろん必要な説明は行われたが、正直なところ、普段からカメラやツールに使い慣れていないと理解するのは難しいと感じた。このあたりは、初心者向けではなく、経験者向けの講座というのが大きいのだろう。
映像モニタリング・リモートコントロールアプリ「Monitor&Control」の説明
クラウドメディアサービス「Ci Media Cloud」の説明
機材関連では、超広角から望遠までのEマウント純正レンズだけでなく、ASUSのプロフェッショナル向け液晶ディスプレイや、平和精機工業のビデオ三脚、DJIのジンバル、可変式のNDフィルターなど、ソニー以外の製品が豊富に用意されていて、自由に使用することができた。
これらは各メーカーが本イベント用に貸し出したもの。ソニーマーケティングの担当者によると、ソニーの製品だけで完結するのではなく、業界を巻き込んでの取り組みにしていきたいため、各メーカーに声をかけて協力いただいたとのことだ。
ASUSのプロフェッショナル向け液晶ディスプレイや、平和精機工業のビデオ三脚、DJIのジンバルなどが用意された
ASUSのプロフェッショナル向け液晶ディスプレイ
DJIのジンバルも数多く並べられていた
機材やツールの説明が終わると、以下のオーダーに沿って撮影に向けた企画構想がスタートした。
クライアント:福島市観光交流推進室
納品物:自治体PR動画(4K動画)1本
動画の長さ:1分以上(推奨は〜2分程度、長くても3分)
納品日時:2023年10月9日 12時30分まで
制作意図:日本各地はもちろん、遠く離れた異国の人にも福島市の魅力を知ってもらいたい。福島市の空気感や雰囲気を、動画を通して伝え、観光地としての魅力を訴求し、福島市に旅行に行きたい! と思ってもらいたい。
そのほか:ドローン使用は不可、大勢の人が集まる場所では三脚・一脚の使用は不可
企画構想の作業は大きく、1.PR動画のテーマ設定、2.ロケ地の選定、3.撮影工程の作成、4.ラフ画コンテの作成の4つ。これらの工程を3時間程度で終わらせねばならず、参加者にはかなりスピーディーな意思決定が求められた。
Ussiyさんからのアドバイスをもとにテーマ設定を話し合うチームI
チームEはAKIYAさんが講師を担当。今回の参加者の中では年齢層が高いチームだった
Kai Yoshiharaさんと会話しているチームAのメンバーたち
取材可能な撮影ロケーションはソニーマーケティングと福島市があらかじめ準備していて、主に以下のエリアを選択できた。参加者が講座の前にロケハンできないようにロケ地の事前連絡はなく、1日目に初めて発表するという念の入れようだ。
・飯坂温泉(温泉街や旅館など)
・福島駅周辺(福島稲荷神社例大祭)
・信夫山(展望台や神社など)
・フルーツライン(果樹園やカフェ)
・阿武隈川(県庁裏)
これらの中からどのエリアを選択し、どのように移動して撮影していくのかはグループ/チームの自主性に任せられた。また、撮影中の事故を防ぐ目的もあって、移動は公共の交通機関とタクシー(タクシー代は一部の移動を除いて参加者が負担)で、自家用車やレンタカーの使用は不可だった。
取材できる撮影ロケーションの全体図
ロケ地の選定で話し合うチームG/Hのグループ。講師はRyo Ichikawaさん
ロケ地を選定中のチームC/Dのグループ。講師はDINさん
各チームの撮影工程がまとめられたエクセルファイル。10分刻みでスケジューリングされていた
さらに驚かされたのは、各ロケ地の事業者にはグループごとに個別で連絡し、アポ取りを行う必要があったこと。もちろん、事前に福島市の担当者から取材・撮影が行われることは連絡しているものの、現場で体験できることを重視して「必要以上のサポートはしない」というスタンスが垣間見えた。ここからも、より実践的なクライアントワークという印象を強く受けた次第だ。
チームとグループで別々の作業が混在する少々複雑な進め方のため「とまどうチームも出るかもしれない」と思って見ていたが、参加者の意識が高く、コミュニケーションをしっかり取っていて、思った以上にスムーズに作業は進んでいった。最終的にはスケジュールが遅延することなく、オンスケで完了していた。
ただし、いくつかのチームではテーマ設定が大きな問題となった。参加者それぞれの考えや思いがあるため、なかなかうまくまとまらないチームが出てきたのだ。詳細は後述するが、これが後々の結果に大きな違いを生むことになる。
Day 2タイムスケジュール
9:00〜9:30 機材確認
9:30〜19:00 移動・撮影
19:00〜23:00 編集作業
2日目は実際の撮影と編集作業が行われた。
撮影は9時30分〜19時までの約10時間。その後、23時まで「Fukushima-BASE」にて編集作業を行うというスケジュールだ。
出発前に30分ほど機材の確認や設定の時間が設けられたが、ここで印象深かったのは、ジンバルのセッティングに思った以上に時間がかかっているチームが多かったこと。慣れた人もいるのだが、やはりジンバルのセッティングは難しいようで、多くのチームがあわただしく準備していた。ただ、講師の人がフォローするとすぐにセッティングが終わったのが印象的で、機材の扱いを見ても「第一線のプロは違う」と思わされた。
ジンバルを設定しているチームI
ジンバルの設定とアプリをチェックするチームC
充電済みのバッテリーが多数並べられていた
カメラの設定として主催者から提示されたのは、XAVC S 4K方式、4:2:2 10bit、4p/30p/60pいずれかのフレームレート、120fpsでのスローモーションなど。プロキシーの利用ももちろん可能だ。
面白かったのは、Logを使うか、S-Cinetoneなどプリセットを使うかはチームの判断に任せられたこと。編集作業をできる限り省略するのであればS-Cinetoneは便利だが、映像の仕上がりにこだわるのであればLogを選択したいところ。結果としてはLogで撮影するチームがほとんどだった。
カメラの設定の説明
移動用として福島市が用意したタクシー。かわいらしいペイントが施されていた
何チームかの撮影に同行したが、チームごとに撮影の進め方が異なっていて興味深かった。
最も若い参加者が集まったチームIは、Ussiyさんのアドバイスもあって、撮影監督、カメラマン、オペレーターといったように分業制を敷いていた。それぞれがアイデアを出しながらチーム全員で撮影を進めていた。
ほかには、個人個人がそれぞれカメラを持って気になるシーンを撮影しているチームも。参加者のひとりが演者となるパターンも見られた。
Ussiyさんが講師を務めるチームIは分業制を採用
チームIの撮影の様子。カフェの中だけでなく窓の外からも撮影していた
取材する側から見る限り、講師のアドバイスがとても的確だったことも報告しておきたい。撮影・制作をフルでサポートするのではなく、困っていると感じたときや、質問されたときなどに、細かい技術的なことを含めて親身にアドバイスを送っていた。このあたりのアプローチのうまさは、さまざまな経験を積んだ第一線のプロならではの部分だろう。
このほか、ロケ地の現場では思わぬトラブルも。現場の担当者に「どういった撮影なのか」の説明を求められるケースがあったのだ。今回のようなロケ撮影では、責任者から現場の担当者に情報が落ちないこともある。事前にアポを取っていたとしても、現場では担当者に対して積極的にコミュニケーションを図り、目的や内容を説明することが重要だと改めて気づかされた。
チームFの撮影の様子。AKIYAさんがカメラワークを具体的にアドバイスしていた
チームFは撮影中に笑みがこぼれることも。比較的なごやかに撮影しているようだった
撮影後の編集では、データ整理、タイムライン並べ、編集・グレーディングといった作業が行われた。ここでもチームによって対応の違いが出て、使用するカット選びからタイムラインに並べるまでに時間がかかるチームも。また、一部のカットでLogを設定し忘れるトラブルが発生するチームもあった。
編集作業中はどのチームも集中しており、声をかけるのもはばかるほどだった。「Fukushima-BASE」で作業できるのは23時までだったので、その後、自主的に場所を移動して追い込むチームがほとんどだったことも付け加えておきたい。
編集作業を行うチームH
編集作業を行うチームC
編集作業を行うチームF
Day 3タイムスケジュール
9:30〜12:30 編集作業
13:15〜14:05 各チームの作品の上映
14:05〜17:40 審査〜講評〜結果発表〜優勝チームコメント
17:40〜17:55 閉会のあいさつ〜記念撮影〜アンケート
3日目の朝、「Fukushima-BASE」に行くと大量のエナジードリンクが用意されていた……
最終日の3日目は、午前中に編集作業を行い、12時30分までに納品というスケジュールだ。朝一に各チームの進捗を確認したところ、70%程度まで終了しているチームもあったが、なかにはカット選びが完全にフィックスしていないチームも。
納品まで終わらせるのは難しいのかもしれないと思うチームもあったが、結果は、全チームがきっちりと時間どおりに納品を完了。参加者の意識の高さを感じる結果となった。
音声を含めて最終チェックを行うチームI
チームDの編集作業の様子
AKIYAさんのアドバイスに耳を傾けるチームF
午後には各チームの作品が上映され、審査が行われた。それぞれに個性があって映像のクオリティも高いと感じたが、2日目の段階でテーマやターゲットがしっかりとまとまっているチーム、撮影中に新しいコンセプトを見つけて舵を切り直したチーム、テーマがまとまらないまま撮影・編集を行ったチームに分けられたのが興味深かった。
審査は、講師4名(担当講師は受け持ったチームの審査は行わない)と福島市の担当者1名(観光交流推進室の守山さん)の計5名が担当。各審査員が「映像美」「企画構成」「PR動画としての質」「福島市の魅力」の4項目をそれぞれ25点満点(計100点満点)で評価し、審査員5名の総得点(計500点満点)で順位を競う形だ。
審査は「映像美」「企画構成」「PR動画としての質」「福島市の魅力」の4つを評価項目に行われた(※このスライドでは各項目の持ち点は5点と書かれているが実際は25点)
真剣なまなざしで作品をチェックしている講師陣
結果、優勝したのは最も若い参加者が集まったチームI(講師:Ussiyさん)だった。2位は同点でBチーム(講師:Kai Yoshiharaさん)とチームD(講師:DINさん)。いずれもテーマやターゲットがしっかりとまとまっていたチームだ。
優勝したチームIは、「福島に触れる」をテーマに、福島の人々や物に触れて何かを感じているシーンを美しい映像にまとめていた。2位のチームBは、「日常にちょっと疲れた女性」をターゲットに、福島市には感動(おいしいものや癒やし)があることが伝わる動画を制作した。同じく2位のチームDは、「福島市での体験」をテーマに、「日々の仕事などで疲れがたまっていて癒やしの旅がしたい人」をターゲットにして、福島市の魅力がストレートに伝わるような動画に仕上げていた。
優勝したのはチームI。得点は411点で、2位とは33点の差があった
チームIの4人のメンバー。今回の最年少チームだ
結果発表の前にチームごとに講評が行われ、講師から感想やアドバイスが述べられたのだが、そのなかで最も印象に残ったのが「技術は後から付いてくる」という講師陣のメッセージだ。「どういった映像を撮影・制作したいのか」が先にあって、それを突き詰めていけば技術は自然に身に付くというのだ。
映像制作と言えば、ジンバルを使ったカメラワークや、グレーディングに代表される編集技術に目が行きがちだが、最も大事なのはマインド。今回の自治体PR動画のクライアントワークであれば、何を伝えたいのかをしっかりと決めることが大事というわけだ。
確かに、今回各チームが制作した作品を見ると、自治体PR動画というのも大きいのだろうが、テーマやコンセプトが伝わってくるものは、やはり映像に説得力があるように思えた。
講評の様子。講師陣が参加者に「技術は後から付いてくる」というメッセージを送っていたのが印象的だった
審査員を務めた、福島市 商工観光部 観光交流推進室 室次長の守山忍さん。各チームが制作した福島市のPR動画を見て感動し、目に涙を浮かべながら参加者に感謝の言葉を述べていた
講座の最後に、ソニーマーケティングの担当者は「このワークショップはあくまでもきっかけなので、今回得たことを今後の作品作りに生かしてほしい」と参加者に呼びかけた
最後に、「CREATORS' CAMP」の第1回がどのように企画・開催されたのかを少し説明しておこう。
個人で映像クリエイターとして活動している人の課題は、どうしてもワンオペレーションや最小人数でできることしか経験を積めないことだ。スキルや仕事の幅をさらに向上させるには、クライアントワークとチームオペレーションを知る必要があるのだが、それらを経験できる場は少ない。そこでソニーマーケティングが、スキルアップに悩みを持つ映像クリエイター向けの講座として企画したのが「CREATORS' CAMP」というわけだ。
しかも、「CREATORS' CAMP」が興味深いのは、代理店もイベンターも関わっていないこと。あくまでもソニーマーケティング主導で開催しているのだ。これは、映像クリエイターに届けたいことをしっかり届けられるように、あえてそうしているとのこと。担当者によると、自分たちで企画・準備しているので、その分、濃い内容のプログラムを提供できると考えているという。
ただし、ソニーマーケティングには本格的なワークショップを開催する知見が足りないため、共同企画として映像プロダクションのAOI Pro.にサポートに入ってもらっているとのこと。AOI Pro.は広告映像や映画・ドラマの制作をメインで行っているほか、トップクリエイターによるセミナーやワークショップなどのコンテンツを揃えたオンラインコミュニティ「AOI Film Craft Lab.」も運営しており、“学びの場”を提供してきた経験がある。そこで得られた知見を、プログラムの内容や講師の選定などで「CREATORS' CAMP」でも生かしているとのことだ。
株式会社AOI Pro. 制作部 チームリーダー プロデューサーの千原秀介さん。「CREATORS' CAMP」開催のサポートを担当した
また、「CREATORS' CAMP」の第1回は、福島市の全面協力によって開催されたのも見逃せない。福島市の担当者によると、ソニーマーケティングからワークショップ実施の話が来て、すぐに開催の意思表示をしたとのこと(ソニーマーケティングによると、連絡した自治体の中で最も返答が早かったのが福島市だったとのこと)。
このスピード感の早さは、福島市が普段からロケ撮影の誘致を積極的に行っていることが大きいのだろう。ロケ撮影をサポートする経験があるので、「CREATORS' CAMP」のプロジェクトが始まってからも、講座で使用する場所やロケ地の選定などをスムーズに行えたという。
福島市 商工観光部 観光交流推進室 観光プロモーション係 副主査の小野主喜さん(左)と、福島市観光コンベンション協会 ロケツーリズムプロデューサー コンテンツマーケッターの金澤千裕さん
「CREATORS' CAMP」の第1回を3日間取材してみて、ソニーマーケティングが狙ったことを確実に参加者に届けられた、大成功の講座だと感じた。主催するソニーマーケティング、福島市の担当者、講師、参加者のすべてが“本気”で妥協がないのが清々しく、取材していてとても心地よかった。メーカーが主催するワークショップとしては熱量が半端なく、参加者だけでなく、取材する側も映像制作に関していろいろと気づかされるイベントだったと思う。
今回講師を務めた映像クリエイター/ディレクターにインタビューする機会があったのだが、全員がほぼ同じ意識を持っていたのが興味深かった。全員が等しく口にしたのが「自分が身に付けたスキルを多くの人に伝えたい」という思いだ。個人で映像制作の世界を切り開いてきたクリエイターとして、その世界をさらに広げることに意欲を持つのはすごい。
講師陣からは「今回のワークショップは自分自身も勉強になった」「次の機会があったらぜひ参加したい」「次回はもっとうまくサポートできるようにしたい」といった意見が見られたのも印象深い。とにかくポジティブな姿勢で、映像制作の世界にまっすぐ向き合っている人たちだと感じた。
なかでも特に印象に残ったのが、今回の開催地である福島県出身のUssiyさんだ。自身も福島でクリエイター向けのイベントを開催しようとしていたが、コロナ禍で断念した経緯があり、地元で開催される本講座にかける強い意気込みを感じた。ワークショップでは終始、若い参加者と真剣に話をしているのが印象的だった。
「CREATORS' CAMP」は、間違いなく第2回目も開催されるはずだ。生半可な気持ちではしっぺ返しを食らうかもしれないが、個人で映像を制作していて壁を感じている人や、これから映像制作を仕事として取り組む意欲のある人、仕事の幅を広げるためにチームオペレーションを体験してみたい人など、映像制作に本気で向き合っている人なら、ぜひ参加を検討してみてほしい。貴重な“気づき”が得られるはずだ。
最後に参加者と講師、関係者で記念写真を撮影した
取材協力:ソニーマーケティング