曽根原ラボ

可動式モニター徹底解説! 各方式のメリットとデメリットを知ろう

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
可動式モニターにはいくつかタイプがあり、それぞれに使い勝手が異なります

可動式モニターにはいくつかタイプがあり、それぞれに使い勝手が異なります

カメラやレンズの基本的なことから最新のトピックまで、知っているとちょっとタメになる情報をお伝えする連載「曽根原ラボ」。第8回で取り上げるのは、ローアングルやハイアングルで撮影するときに便利な可動式モニターです。

ミラーレスカメラが主流の現在では、ほとんどのモデルが何らかの方式による可動式モニターを搭載していると言っていいでしょう。でも「何らかの方式」にも趨勢(すうせい)というものがあって、ユーザーの要望やカメラの進化によって状況が変わっているのが実際のところです。

今回は、可動式モニターの各方式(上下チルト式、バリアングル式、特殊可動式)のメリットとデメリットを考えてみます。

最初に押さえておきたい固定式モニターの特徴

可動式モニターの違いをまとめる前に、モニターを動かせない、いわゆる固定式モニターの特徴を押さえておきましょう。固定式モニターの特徴を知ることで、可動式モニターの便利さをより深く理解できると思います。

固定式モニターは昔からあるタイプで、15年くらい前、デジタル一眼レフが全盛のころはこれが当たり前でした。今でも、一部のカメラはこの方式を採用しています。

モニターを動かすことができない(というよりはそもそもライブビュー撮影ができない)ため、ローアングル撮影の場合はいつくばるような姿勢でファインダーを覗き、ハイアングルの場合は脚立などを用意して高い位置からファインダーを覗いていたものです。

その後、ライブビュー撮影機能がデジタル一眼レフでも一般的に、ミラーレス一眼では必然的に搭載され、多少はハイ/ローアングルもやりやすくなりましたが、それでも後に紹介する可動式モニターと比べると圧倒的に不利と言えます。特に、構図づくりやピント合わせについてはカンに頼らざるを得ないところがあります。

筆者が所有する、ソニーのデジタル一眼レフカメラ「α700」。2007年発売のかなり古いモデルです

筆者が所有する、ソニーのデジタル一眼レフカメラ「α700」。2007年発売のかなり古いモデルです

「α700」のモニターは固定式。一切動かせません

「α700」のモニターは固定式。一切動かせません

そんな固定式モニターですが、デメリットばかりというわけではありません。動かない=動かさなくてよい、ですので操作の複雑さからは完全に解放されます。スマートフォンからステップアップしてきた人などにとっては、むしろこのほうがなじみやすいとさえ言えるかもしれません。

固定式モニターのメリット

・煩雑な操作を必要としないため初心者でも迷うことが少ない
・可動部分がない分、カメラの厚みと価格を抑えられる

固定式モニターのデメリット

・ハイ/ローアングル撮影は可動式モニターに比べ非常にやりにくい
・液晶面がむき出しなので傷ついてしまうことがある

上下チルト式モニターのメリットとデメリット

では、今回の本題である可動式モニターに移りましょう。まずは、上下チルト式モニターから説明していきます。

上下チルト式モニターは、モニターが上向きまたは下向きに展開するチルト式モニターのことを指します(単にチルト式モニターとも表記します)。

筆者の記憶が正しければ、初めて可動式モニターを搭載したレンズ交換式カメラが2006年発売のオリンパス(現OMデジタルソリューションズ)「E-330」で、それが上下チルト式モニターだったと思います。

意外に長い歴史の上下チルト式モニターは、その後、多くのデジタルカメラに搭載されていき、長らくの間、可動式モニターのスタンダードとなっていました。

上下チルト式モニターを採用した、ニコンの「Z 6II」

上下チルト式モニターを採用した、ニコンの「Z 6II」

上下チルト式モニターのメリットは何といっても、横位置でのハイ/ローアングルがやりやすいこと。ローアングル撮影の場合でもはいつくばったり、不安定な中腰になったりする必要がありませんし、ハイアングル撮影の場合でも手を伸ばすだけで高い位置から撮影できます。上下方向の動きなので、撮影者がモニターを見る視線とレンズの光軸のズレがない(少ない)のもメリットです。

操作もモニターを引き出して角度を調整するだけと非常に簡単なため、初めて可動式モニターを使う人でもそれほど悩むことなく使えます。

モニターを上向きに引き出せばローアングル撮影が容易にできます

モニターを上向きに引き出せばローアングル撮影が容易にできます

地面すれすればかりでなくウエストレベルでの撮影でも便利に使えます

地面すれすればかりでなくウエストレベルでの撮影でも便利に使えます

モニターを下向きに引き出せばハイアングル撮影が容易にできます

モニターを下向きに引き出せばハイアングル撮影が容易にできます

下向きの展開角度は上向きより小さいのですが、ハイアングル撮影は通常カメラを下向きに構えるため、モニターが見にくくなることはありません

下向きの展開角度は上向きより小さいのですが、ハイアングル撮影は通常カメラを下向きに構えるため、モニターが見にくくなることはありません

使いやすく簡単に横位置でのハイ/ローアングル撮影ができる上下チルト式モニターですが、決定的なデメリットとしてあげられるのが、縦位置でのハイ/ローアングル撮影にまったく対応できないところです。まあ、構造上当たり前といえば当たり前のことですね。

また、モニターの展開角度がそれほど大きくないため自撮り撮影ができない(上方向または下方向に180度モニターが展開することで自撮りに対応したモデルもあるが、どちらかというと少数派)、モニターを内向きに収納できないので傷が付きやすいといったことも、デメリットといえばデメリットです。

上下チルト式モニターのメリット

・比較的簡単な操作で展開し、横位置でのハイ/ローアングル撮影が非常にやりやすい
・レンズの光軸とのズレがない(少ない)

上下チルト式モニターのデメリット

・縦位置でのハイ/ローアングル撮影にはまったく対応できない
・一部モデルを除き、自撮り撮影には対応していない
・液晶面がむき出しなので傷が付きやすい

デメリットのほうがわざわいしてしまったためか、一時は可動式モニターのスタンダードだった上下チルト式モニターは、最近では次に紹介するバリアングル式モニターの勢力に押され、じわじわと数を減らしている状態です。

しかし、ハイ/ローアングル撮影は横位置がほとんどな人(筆者もそのひとりです)を主として、いまだ根強い人気を保っているのも事実であります。

バリアングル式モニターのメリットとデメリット

バリアングル式モニターは、カメラの左側方向に180度展開する軸と、展開した状態で360度回転させる軸の、2軸を持った可動方式のことを指します。言葉で説明すると難しく聞こえますが、動画撮影用のカムコーダーでなじみのある「開いてくるくる回るモニター」と言えば、おおむねわかってもらえるのでないかと思います。

バリアングル式モニターを採用した、富士フイルムの「X-H2S」

バリアングル式モニターを採用した、富士フイルムの「X-H2S」

バリアングル式モニターの大きなメリットは、可動範囲の自由度の高さ。横位置撮影での上方向と横方向はもちろん、縦位置撮影での上方向と横方向にも余裕で対応でき、さらには前向きに回転して自撮り撮影にも対応します。

横に展開して上向きにすればローアングル撮影が容易にできます

横に展開して上向きにすればローアングル撮影が容易にできます

バリアングル式モニターでローアングル撮影をしているところ。無理な姿勢になる必要はありません

バリアングル式モニターでローアングル撮影をしているところ。無理な姿勢になる必要はありません

横に展開して下向きにすればハイアングル撮影が容易にできます

横に展開して下向きにすればハイアングル撮影が容易にできます

モニターはほぼ360度回転できるので、ハイアングル撮影での自由度は上下チルト式より高いです

モニターはほぼ360度回転できるので、ハイアングル撮影での自由度は上下チルト式より高いです

バリアングル式モニターは、展開して回すという動作が可能なため、上下チルト式モニターではできなかった、縦位置でのハイ/ローアングル撮影がやりやすいです。これは上下チルト式モニターとの決定的な違いです。縦位置撮影が多い人にとってバリアングル式モニターは必須と言えるのではないでしょうか。

縦位置でのハイ/ローアングル撮影が容易にできるのが、上下チルト式にないバリアングル式モニターの大きな特徴

縦位置でのハイ/ローアングル撮影が容易にできるのが、上下チルト式にないバリアングル式モニターの大きな特徴

縦位置でのハイ/ローアングル撮影は、先にバリアングル式を採用していたカムコーダーでもほとんど享受することのない(カムコーダーで縦位置撮影をすることはほぼないため)、スチルカメラならではのメリットです

縦位置でのハイ/ローアングル撮影は、先にバリアングル式を採用していたカムコーダーでもほとんど享受することのない(カムコーダーで縦位置撮影をすることはほぼないため)、スチルカメラならではのメリットです

比較的古くからカムコーダーで採用されていた方式だけに、動画撮影との親和性が高いのも特徴のひとつです。動画配信的な用途で使う場合でも展開したモニターを被写体側に回せば、外部モニターがなくても撮影状況を確認できます。

動画撮影との親和撮影も高く、自撮りでの動画配信などでは重宝します

動画撮影との親和撮影も高く、自撮りでの動画配信などでは重宝します

固定式モニターや上下チルト式モニターでデメリットとしてあがっていた、液晶面むき出しで傷が付きやすいという心配も、液晶面を内側にして収納することで解消されます。カメラバックに入れるときなどは安心ですね。

液晶面を内側に収納することで傷の心配も軽減されます

液晶面を内側に収納することで傷の心配も軽減されます

以上のようにメリットの多いバリアングル式モニターですが、デメリットがないということはありません。

代表的なのは横位置撮影の際に、モニターへの視線とレンズの光軸がずれてしまうこと。レンズを被写体に向けつつ、撮影者の視線は別方向のモニターを見ることになるので、慣れるまでは結構とまどってしまいます。なお、縦位置撮影の際は、モニター画面とレンズの光軸の方向は一致しますので、横位置時のような問題は発生しません。

バリアングル式モニターでのローアングル撮影。レンズが被写体に向かう方向と、モニターを見る撮影者の視線の方向がズレていることに注目してください

バリアングル式モニターでのローアングル撮影。レンズが被写体に向かう方向と、モニターを見る撮影者の視線の方向がズレていることに注目してください

また、モニターに対してストラップが干渉しやすいのもデメリットです。展開しようとして引っ掛かり、回転させようとして引っ掛かり。さらにはストラップがモニターの視界を妨げることもありますので、わりと多くの人が、撮影中にじゃまに感じてイライラしてしまった経験があるのではないでしょうか。

運用時にストラップが干渉しやすいバリアングル式モニター。広い心を持ちたいところですが、ついイライラしてしまうことだってあります

運用時にストラップが干渉しやすいバリアングル式モニター。広い心を持ちたいところですが、ついイライラしてしまうことだってあります

バリアングル式モニターのメリット

・横位置撮影だけでなく縦位置撮影でのハイ/ローアングル撮影もやりやすい
・自撮り撮影も可能
・動画撮影との親和性が高い
・液晶面を内向きに収納できるので傷が付きにくい

バリアングル式モニターのデメリット

・横位置撮影時に展開したモニターへの視線とレンズの光軸がズレてしまう
・ストラップがモニターに干渉しやすく撮影の妨げになることがある
・上下チルト式に比べ操作がやや複雑

上下チルト式モニターを抑え、現在はスタンダードになっているバリアングル式モニターですが、その理由は縦位置でのハイ/ローアングル撮影にも対応していることと、動画撮影との親和性の高さにあるのではないかと思います。デメリットもあるとはいえ、メリットの多いバリアングル式モニターですので、当面は可動式モニタースタンダードの地位を維持しつづけるのではないでしょうか。

高機能な特殊可動式モニターのメリットとデメリット

「高機能な特殊可動式モニター」というのは、本稿執筆のために便宜上付けた名称です。これは上下チルト式モニターやバリアングル式モニターのデメリットを解消するために、各メーカーが独自に工夫を凝らして設計した可動式モニター、くらいの意味でとらえてください。

「4軸マルチアングル液晶モニター」を採用したソニー「α7R V」

「4軸マルチアングル液晶モニター」を採用したソニー「α7R V」

各メーカーが独自に工夫を凝らして設計した可動式モニターだけにさまざまなタイプがありますが、なかでも横位置と縦位置のハイ/ローアングル撮影と自撮り撮影のすべてにほぼ完全対応した、ソニーの「α7R V」に採用された「4軸マルチアングル液晶モニター」を今回は取り上げてみます。

上下チルト式とバリアングル式のハイブリッドで、あらゆる方向にモニターを向けることができます

上下チルト式とバリアングル式のハイブリッドで、あらゆる方向にモニターを向けることができます

「4軸マルチアングル液晶モニター」は上下チルト式とバリアングル式を組み合わせたハイブリッドタイプの可動式モニターです。上下チルト式の2軸とバリアングル式の2軸が組み合わされているので4軸というわけですが、これが「そうきたか!」とうなりたくなるほど見事なマルチアングル化に成功しているのです。

モニターを上向きにしたいときは上下チルト式モニターと同じ要領で動かします

モニターを上向きにしたいときは上下チルト式モニターと同じ要領で動かします

通常の上下チルト式モニターと同じく、光軸からモニター画面がズレることなく容易にローアングル撮影ができます

通常の上下チルト式モニターと同じく、光軸からモニター画面がズレることなく容易にローアングル撮影ができます

モニターを下向きにしたいときも上下チルト式モニターと同じ要領で動かします

モニターを下向きにしたいときも上下チルト式モニターと同じ要領で動かします

ハイアングル撮影も写真の通り簡単に。ストラップが干渉することもなく撮りやすいです

ハイアングル撮影も写真の通り簡単に。ストラップが干渉することもなく撮りやすいです

「4軸マルチアングル液晶モニター」は、以上のように上下チルト式モニターとしても使えますが、横に展開すれば今度はバリアングル式モニターになるのがすごいところ。

横向きに展開すればバリアングル式モニターとして使えます

横向きに展開すればバリアングル式モニターとして使えます

この状態なら縦位置でのハイ/ローアングル撮影も容易です。通常のバリアングル式モニターでは真似できない技ですね

この状態なら縦位置でのハイ/ローアングル撮影も容易です。通常のバリアングル式モニターでは真似できない技ですね

バリアングル式でもあるということは、自撮り撮影もできて動画撮影との親和性も高いということになります

バリアングル式でもあるということは、自撮り撮影もできて動画撮影との親和性も高いということになります

もちろん液晶面を内側にして収納することも可能。まさに上下チルト式とバリアングル式の“いいとこどり”です

もちろん液晶面を内側にして収納することも可能。まさに上下チルト式とバリアングル式の“いいとこどり”です

「4軸マルチアングル液晶モニター」のメリット

・横位置と縦位置の両方向で光軸からモニター画面をズラすことなくハイ/ローアングル撮影ができる
・自撮り撮影も可能
・動画撮影との親和性も高い
・液晶面を内向きに収納できるので傷が付きにくい
・ストラップが干渉してじゃまになることが少ない

「4軸マルチアングル液晶モニター」のデメリット

・現状では「α7R V」だけに採用されており選択肢が少なく高価
・複数方式を組み合わせておりカメラの厚みが増す
・可動部分が多いため操作は複雑で初めてだと迷いやすい

デメリットはすべて複雑な構造ゆえに仕方がないといったところでしょう。デメリットを差し引いてもメリットのすばらしさが際立ちます。個人的には、現状で最もすぐれた可動式モニターだと感じており、薄型化を目指しながら他モデルへの採用も検討してほしいと思っています。

なお、高機能な特殊可動式モニターとしては、縦位置と横位置の両方向をチルト式とした富士フイルムの「3方向チルト式モニター」や、ニコンの「縦横4軸チルト式画像モニター」、リコーイメージングの「フレキシブルチルト式液晶モニター」などがありますが、これらは自撮り撮影には非対応です。また、「α7R V」と同じくチルト式とバリアングル式を組み合わせた「チルトフリーアングル構造」の可動式モニターがパナソニックにありますが、こちらはチルト方向が上方向のみなのがソニーとの違いです。

まとめ バリアングル式の長所をうまく活用したい

実際のところ、モニターの可動方式に主眼をおいてカメラを選ぶ人は少ないのではないかと思います。それでも、自分が持っているカメラや、次に手に入れたいカメラの可動方式がどのようなものであるかを知っておくと、カメラの使い方や写真の撮り方が変わるかもしれません。たかがモニターとは思わずに興味を持ってもらえるとうれしく思います。

ハイエンドクラスにしか搭載されていない「高機能な特殊可動式モニター」を除けば、現実的には上下チルト式モニターかバリアングル式モニターから選ぶことになると思いますが、上下チルト式モニターはカメラがモデルチェンジするたびにバリアングル式モニターに置き換わっているのが実際のところです。

バリアングル式モニターが多数を占めている現状では、好むと好まざるとに関わらずバリアングル式モニターの長所をうまく活用するのが有意義なのではないかと思います。もちろんソニーの「4軸マルチアングル液晶モニター」をはじめとした「高機能な特殊可動式モニター」を採用したカメラを手に入れられるなら、それに越したことはありません。

曽根原 昇
Writer
曽根原 昇
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。
記事一覧へ
真柄利行(編集部)
Editor
真柄利行(編集部)
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣とこだわりを持っています。フォトグラファーとしても活動中。パソコンに関する経験も豊富で、パソコン本体だけでなく、Wi-Fiルーターやマウス、キーボードなど周辺機器の記事も手掛けています。
記事一覧へ
記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
本ページはAmazonアソシエイトプログラムによる収益を得ています
関連記事
SPECIAL
ページトップへ戻る
×