大手レンズメーカーであるシグマが開発した、ソニー製ミラーレス用のマウントアダプター「MOUNT CONVERTER MC-11」(以下、MC-11)のEF-Eモデルが話題を集めている。シグマ製キヤノン用レンズを、35mmフルサイズセンサーを採用する「α7シリーズ」に代表されるソニーのミラーレスに装着できるコンバーターで、価格.comの「コンバージョンレンズ・アダプタ」カテゴリーでは売れ筋ランキング/注目ランキングともに1位(2016年6月21日時点)。似たような製品はほかにもいくつかあるが、カメラ側での絞り操作やオートフォーカス、手ブレ補正の動作に対応する高機能を実現したのが特徴となっている。シグマ製レンズを何本か使って、その使い勝手を試してみた。
シグマ純正のマウントアダプターとして2016年4月に発売されたMC-11。シグマ製キヤノン用レンズ、もしくはシグマSAマウント用レンズを装着できる2モデルをラインアップする
MC-11の装着イメージ。レンズは標準ズームレンズ「24-105mm F4 DG OS HSM」で、ボディは「α7R II」
「α7S」に単焦点レンズ「50mm F1.4 DG HSM」を装着したイメージ
価格.comマガジンでマウントアダプターを紹介するのは初めてなので、最初にマウントならびにマウントアダプターについて簡単に紹介しておきたい。
一眼レフやミラーレスなどのレンズ交換式カメラは、広角レンズや望遠レンズ、マクロレンズなどさまざまなレンズを付け替えて利用できるのが魅力だ。ただし、カメラボディとレンズを結合する部分(マウント)は、たとえば、キヤノンの一眼レフはEFマウント、ニコンの一眼レフはFマウント、ソニーのミラーレスはEマウントといったように、カメラメーカーならびにカメラシステムごとに規格が異なっている。古くはライカL/MマウントやM42マウント、最近ではパナソニックとオリンパスが採用するマイクロフォーサーズシステムなど、複数メーカーが共通で採用するユニバーサルマウントも存在するが、ほとんどのカメラメーカーは独自のマウントを開発・採用している。マウント間の互換性はほとんどなく、基本的に、マウントが異なるカメラボディとレンズは直接取り付けて利用することができない。
メーカーやシステムによってマウントが異なるのは、交換レンズによるユーザーの囲い込みという側面もあるが、独自マウントのほうがレンズ交換式カメラを開発しやすいという技術的な事情がある。マウントは単にレンズをカメラに装着するためだけの機構ではない。口径やフランジバック(マウントから撮像素子までの距離)といったシステムの仕様を決める部分であることに加えて、オートフォーカスや手ブレ補正などの制御でカメラボディとレンズの通信を橋渡しする部分でもある。高度に電子制御化されたカメラでは、どうしても制限が発生してしまう共通のマウント規格よりも独自規格のほうが新しい技術・機能を実現しやすく、各メーカーは独自マウントを継続して採用してきたのだ。技術的な競争が生まれ、レンズ交換式カメラが進歩してきた背景には、独自マウントがあったと言ってもおおげさではない。
とはいえ、異なるマウントのカメラとレンズを組み合わせて使いたいというニーズもある。マウントアダプターは、そのニーズに応える製品なのだ。レンズとカメラの間に装着することで、マウントが異なるレンズとボディの組み合わせでの撮影を可能にするコンバーターとなっている。
マウントアダプターの原理は比較的簡単で、アダプターにレンズを装着した際の全体のフランジバックが、レンズのマウント規格に合うようになっている。たとえば、ソニーEマウント(フランジバック18mm)のボディにライカMマウント(フランジバック27.8mm)のレンズを装着するアダプターの場合、マウントアダプター分の長さを加えたフランジバックがちょうど27.8mmに拡張するように調整されている(※ただしピントの精度が出るように作るのは難しい。レンズのバックフォーカスが短い広角レンズなどは装着ができないこともある)。フランジバックの短いカメラに、それよりもフランジバックが長いレンズを付けるのが基本となるため、マウントアダプターを使ううえではフランジバックが短い仕様のカメラのほうが、いろいろなレンズを装着できるという点で有利だ。特に、一眼レフに比べてフランジバックが短いミラーレスは、マウントアダプターの利用に向いている。
マウントアダプターは、カメラメーカー純正のものもあるが、サードパーティーが作ったものが数多く流通している。レンズ側とボディ側のマウントごとに製品が用意されているので数は非常に多い。カメラメーカーの純正品を除き、基本的にはマニュアルフォーカスで利用することになるが、ボディ側のマウントにEマウントやマイクロフォーサーズといったオープンな規格を採用するものの中には、電子的な接点を持ち、絞りの操作やオートフォーカス・手ブレ補正の動作に対応するものも登場している。
MC-11は、シグマが開発した、ソニーEマウントミラーレス用のマウントアダプターだ。電子接点を装備した高機能な製品で、シグマ製キヤノン用レンズを装着できるEF-Eモデルと、シグマSAマウント用レンズを装着できるSA-Eモデルの2モデルが用意されている。
アダプター内に対応レンズのデータと制御プログラムを搭載しているのが大きな特徴で、カメラ側での絞りの制御・操作や自動露出に対応するだけでなく、レンズにあわせた最適なオートフォーカス動作も可能。位相差AFとコントラストAFを併用する「ファストハイブリッドAF」に対応するボディであれば快適なオートフォーカスを行えるとしている。さらに、レンズ側の手ブレ補正も動作。「α7R II」などボディ内手ブレ補正機能を搭載したモデルでは、ボディ側とレンズ側を組み合わせた高度な手ブレ補正にも対応する。EFマウントに装着した場合には利用できない、周辺光量、倍率色収差、歪曲収差といったボディ側のレンズ補正機能に対応するのも見逃せない点だ。もちろん、焦点距離や絞り値などレンズ情報は画像のExifデータに反映される。
さらに、アダプター本体にUSB端子(ミニ8ピン平型)を搭載し、パソコン経由でのファームウェアアップデートに対応しているのも特徴。今後発売されるレンズについては最新のファームウェアに更新することで利用できるようになるとのことだ。
電子接点を持つアダプターで、オートフォーカスや手ブレ補正の動作が可能。鏡筒内部にはレンズ性能の低下を防ぐための植毛処理が施されている
アダプター側面にレンズやアダプターの状態を示す小さなLEDを内蔵。グリーンが点灯する場合は対応レンズを装着している状態で、グリーンが点滅する場合はレンズのファームウェアアップデートが必要なことを意味する。オレンジが点滅する場合はMC-11のファームウェアアップデートが必要となる
USB端子(ミニ8ピン平型)を搭載し、付属のUSBケーブルでパソコンとの接続が可能。専用ソフト「SIGMA Optimization Pro」を使うことでMC-11のファームウェアアップデートが行える
ただし、オートフォーカスの動作については、一度ピントが合うと固定されるAF-Sのみの対応となっている。ピントを合わせ続けるAF-C や、AF-S/AF-Cを自動で切り替えるAF-Aは動作保証外。今後、ファームウェアアップデートで機能強化が図られる可能性もあるが、現時点ではAF-Sでの単写撮影が基本となる。また、オートフォーカス合焦後に手動でピントを合わせるDMFも対応レンズすべてで動作を保証しているわけではない。シグマ製レンズのファームウェアのアップデートや合焦位置の調整が行える「USB DOCK」経由で設定変更を行うことで一部レンズがDMFに対応する。また、動画撮影はマニュアルフォーカスで利用することが推奨されている。
オートフォーカスや手ブレ補正の動作に加えて、レンズ補正機能の利用やファームウェアアップデートも可能となっており、マウントアダプターとしては非常に高機能だ。現時点で対応するレンズは、Artライン9本、Contemporaryライン4本、Sportsライン2本の計15本。レンズラインアップが3つのプロダクトラインに再編された2012年以降に発売になったレンズが対象で、それ以前のシグマ製レンズや、キヤノンの純正EFレンズ、他のサードパーティー製のレンズは動作保証外となる。
MC-11で特に話題を集めているのが、ユーザー数が多いシグマ製キヤノン用レンズを装着できるEF-Eモデル。シグマほどの大きな規模のメーカーが他社製のマウント間で本格的なマウントアダプターを発売するのは極めて珍しい。
今回、MC-11のEF-Eモデルを使って、「35mm F1.4 DG HSM」「50mm F1.4 DG HSM」「24-105mm F4 DG OS HSM」「120-300mm F2.8 DG OS HSM」といったレンズと、「α7R II」「α7S」「α7」「α6300」のボディを組み合わせて試してみた。なお、レンズによってはMC-11に対応する新しいファームウェアが追加されているので、USB DOCK経由で最新ファームにアップデートを行ってから利用してほしい。
気になるオートフォーカスの動作だが、フォーカスエリアの利用に制限はなく、ワイド、ゾーン、フレキシブルスポットなどひととおり利用できる。被写体を認識して追尾するロックオンAFや、選択したフォーカスポイントから被写体が外れてもその周辺のポイントに自動的に切り替わる拡張フレキシブルスポットも選択可能だ。また、フォーカスモードでは、AF-Sの利用が前提となっているが、クチコミ掲示板でも報告があるように動作保証外のAF-Cでも動作はする。レンズによっては挙動がやや不安的になるものの、アダプター側で機能に制限をかけているわけではないようだ。性能的なところは別にして、動作保証外であっても、オートフォーカスの機能に関しては純正のEマウントレンズとほぼ同じように使えると考えてもらっていい。
また、DMFに対応するモデルであれば、フォーカスリングの回転操作にあわせて自動的に拡大表示に切り替わるMFアシスト機能が有効になる。非対応モデルの場合、DMFの利用は可能だが、MFアシスト機能が働かないようだ。ちなみに、DMF対応の50mm F1.4 DG HSMで試した限りでは、DMFの挙動は純正のEマウントレンズとは少し異なっていた。純正レンズを使う場合、フレキシブルスポットでオートフォーカスのフォーカスポイントを選択した後にDMFでマニュアルフォーカスに切り替えると、選択したポイントの位置が連動して拡大表示されるが、MC-11を使う場合はその連動がないようだ。フォーカスポイントと拡大表示の位置は別々に選択するようになっていた。
ファストハイブリッドAFに対応するボディであれば位相差AFでのオートフォーカスが可能。拡張フレキシブルスポットも利用できる
すべてのレンズでAF-A/AF-Cは動作対象外となっているが、選択して利用することができる
オートフォーカスの合焦速度については、動作保証のあるAF-Sでの利用では、マウントアダプターを介していることを考慮すると速い。α7R IIやα6300などファストハイブリッドAFに対応するモデルのほうが高速に動作することを確認できたが、コントラストAFのみとなるα7Sでも極端な差はなく、十分にスピーディーだった。体感的には、最新の高速ミラーレスにはかなわないものの、一世代前のミラーレスや一眼レフのライブビューくらいの速度という印象。さすがに、マウントアダプターを使わない場合(シグマ製レンズ単体で使う場合や、ソニー純正レンズをEマウントボディで使う場合)と比べると、速度が遅かったり、ピントが迷ったり外れることも多くなるが、十分に実用的だ。本格的な動体撮影は厳しいと思うが、マウントアダプターを使ってのオートフォーカスとしては高性能である。
手ブレ補正については、レンズ側とボディ側の両方で動作を確認できた。スペック通りの効果が出るという印象で問題なく使うことができる。
加えて、アダプターの作りが非常にしっかりとしているのも報告しておきたい。安物のアダプターだと装着時にガタつくことがあるが、MC-11は、ボディ側・レンズ側ともに適度なかたさがあり、きっちり装着できる。大型の望遠ズームレンズ120-300mm F2.8 DG OS HSMを装着してもぐらつくようなことはなく、安心して利用できた。
しっかりとした作りのアダプターで、レンズ・ボディともにしっかりと装着できる
120-300mm F2.8 DG OS HSMをα6300に装着したイメージ。この組み合わせで手持ち撮影をしてみたが、レンズがぐらつくようなことはなかった
なお、クチコミ掲示板などでも話題になっているが、MC-11は、キヤノン純正のEFレンズでも動作することが確認されている。レンズによって機能に制限があるものの、オートフォーカスだけでなく手ブレ補正機能を利用できるものもあるようだ。クチコミ掲示板では、動作保証外レンズへの機能改善が盛り込まれた最新ファームウェア(Ver.1.01、5月13日リリース)によって、キヤノン純正のEFレンズを装着した際の性能が向上したという報告も見られる。ただ、手持ちのEFレンズ(EF24-105mm F4L IS USM、EF24-70mm F4L IS USM、EF85mm F1.8 USMなど)で試したみたところ、レンズによって挙動が異なり、シグマ製レンズを使う場合と比べると動作の安定度は低かった。EFレンズの使用はおまけ程度と認識して、過度な期待はしないほうがよさそうだ。