レビュー
試乗でわかった、性格が明らかに異なる2台

マクラーレン「720Sスパイダー」「GT」2台のスーパーカーを比較試乗

自動車ジャーナリストの仕事をしていると、戦前から最新モデルまでさまざまなクルマを取材する機会が多い。しかし、「1日、自由にマクラーレンに乗ってみませんか」というお誘いはめったにあるものではない。しかも、今回試乗するのは「720Sスパイダー」と「GT」という2台なのだから驚きだ。

今回は、英国のスーパーカーメーカーであるマクラーレン・オートモーティブの「720Sスパイダー」(右手前)と「GT」(左奥)の2台に試乗した

今回は、英国のスーパーカーメーカーであるマクラーレン・オートモーティブの「720Sスパイダー」(右手前)と「GT」(左奥)の2台に試乗した

クーペと同様にハイパフォーマンスな「720Sスパイダー」

すぐにでも走り始めたい気持ちを押さえて、まずはこの2台のおさらいから。720Sスパイダーのベースモデルである「720S」は、マクラーレンブランドにある3つのライン(アルティメットシリーズ/スーパーシリーズ/スポーツシリーズ)の中核となる、スーパーシリーズに属しているクルマだ。

最高峰のアルティメットシリーズは、いわゆる究極のマクラーレンで、サーキットに重きを置いたワンオフに近いモデルなどをさす。そして、スポーツシリーズは一般的な走行シーンにも対応できる、いわばマクラーレンの入門シリーズといっていい。そして、720Sが属するスーパーシリーズはその両方を視野に入れた、ハイスペックな走行性能を持ち合わせながら公道での走りも両立させているシリーズになる。

マクラーレン「720Sスパイダー」のフロントエクステリアとリアエクステリア

マクラーレン「720Sスパイダー」のフロントエクステリアとリアエクステリア

720Sの製品画像
マクラーレン
-
(レビュー-人・クチコミ26件)
新車価格:3461万円 (中古車:2580〜3680万円

2017年3月に開催されたジュネーブショーでデビューした720Sは、2019年に「スパイダー」をラインアップへ追加。今回、試乗したのはその720Sスパイダーである。720Sスパイダーは、720の名が示すように最高出力720PS、最大トルク770Nmを発揮する4.0リッターV8ツインターボエンジンを搭載。0-100km/h加速は2.9秒、0-200km/h加速は7.8秒を記録し、最高速度は341km/h(ルーフを下ろした状態では325km/h)を誇る。いっぽう、ストッピングパワーも強力で、200km/hから停止までは4.6秒で、その間の移動距離は117mに収まっている。

マクラーレン「720Sスパイダー」のリアイメージ

マクラーレン「720Sスパイダー」のリアイメージ

720Sスパイダーのカーボンファイバールーフシステムは電動式で、開閉時間はおよそ11 秒。50km/h までであれば、走行時の開閉も可能だ。720Sスパイダーの骨格はカーボンファイバー構造となっており、「モノケージ II-S」と名付けられている。これは、クーペの720Sの「モノケージII」を発展させたもので、上部構造の最後部は、リトラクタブルハードトップを収納するスパイダーならではの形状を持ち、ウィンドウスクリーンの上部を通るヘッダーレールも、中央のラッチ機構と一体化するように変更されている。

マクラーレン「720Sスパイダー」のサイドイメージ

マクラーレン「720Sスパイダー」のサイドイメージ

実は、クーペをベースとして改良が施された720Sスパイダーの骨格は、追加補強がなされておらず、たとえばAピラーなどはそのまま採用されているほどだ。したがって、重量増は49kg以内に収まっている。ちなみに、この重量増は主にリトラクタブルハードトップとトノーシステムに起因するのものという。

■マクラーレン「720Sスパイダー」の主要スペック
駆動方式:MR
全長×全幅×全高:4,545×1,930×1,195mm
エンジン:4.0L V8 ツイン電動式ツインスクロールターボ
トランスミッション:7速SSG(シームレス・シフト・ギアボックス)
最高出力:720PS(710bhp)(530kW)/7,500rpm
最大トルク:770Nm(568lb-ft)/5,500rpm
最高速度:341km/h

いままでのマクラーレンのラインアップとは異なる性格の「GT」

マクラーレン「GT」のフロントエクステリアとリアエクステリア

マクラーレン「GT」のフロントエクステリアとリアエクステリア

GTの製品画像
マクラーレン
-
(レビュー-人・クチコミ-件)
新車価格:2695万円 (中古車:2510〜2880万円

そして、もういっぽうの「GT」は、すでに確立されているスポーツシリーズ、スーパーシリーズおよびアルティメットシリーズというマクラーレンファミリーへ、新たに第4のシリーズとして加わった車種だ。高速域までの性能を誇りながら、ラゲージはしっかりと確保。快適な長距離走行を実現する、グランドツアラーだ。

搭載される4.0L V8ツインスクロールターボエンジンは、このGTのために製造されたもので、630Nmのトルクが5,500rpmから6,500rpmにかけて生み出され、3,000rpmから7,250rpm までで、そのトルクの95%を得ることができる。トランスミッションは7速SSG(シームレス・シフト・ギアボックス)が組み合わされる。0-100km/hは3.2 秒、0-200km/hは9.0 秒、最高速度は326km/hを誇る。

マクラーレン「GT」のリアイメージ

マクラーレン「GT」のリアイメージ

専用設計の「モノセルII-T」モノコック(T は「ツーリング」の意味)には、カーボンファイバー製のリヤアッパー構造が組み込まれており、これによって重量は増えているものの、全体がガラス張りで縦開きのテールゲートの下に420リットルの収納スペースを生み出すことができている。また、テールゲートにはソフトクローズ機能が標準装備されており、オプションで電動式に変えることも可能だ。

マクラーレン「GT」には、リア(上画像)の収納スペースのほかに、フロントフードの下(下画像)にも収納スペースを備えている

マクラーレン「GT」には、リア(上画像)の収納スペースのほかに、フロントフードの下(下画像)にも収納スペースを備えている

また、エンジンの高さを低くして、エグゾーストの位置に工夫を加えることによって、ラゲッジスペースの容量や形状、使いやすさなどが最適化されているという。ゴルフバッグや、185cmのスキー板2セットにブーツなどを積載することができる。さらに、フロントにも150リットルの収納スペースがあるため、収容容量は合計で570リットルにもなる。

■マクラーレン「GT」の主要スペック
駆動方式:MR
全長×全幅×全高:4,685×1,925×1,215mm
エンジン:4.0L V8 ツイン電動式ツインスクロールターボ
トランスミッション:7速SSG(シームレス・シフト・ギアボックス)
最高出力:620PS(612bhp)(456kW)/7,500rpm
最大トルク:630Nm(465lb-ft)/6,500rpm
最高速度:326km/h

オープンカーでありながら、ミシリともいわないボディ剛性の高さ

まずは、720Sスパイダーのキーを手に取って、走り出してみよう。車両は、都心のビルの地下駐車場に置かれており、そこからそろそろと地上に這い上がらなければいけない。そういった時に、ハイパワーエンジンの癖で低速トルクがなかったり、あるいはトランスミッションのセッティングがシビアだったりすると、ぎくしゃくしてしまいがちだ。それでなくても、車高の低さや車幅などで気を使うので、正直駐車場から脱出するだけで疲れてしまうといったこともありがちだ。

しかし、この720Sスパイダーはどうだ。見切りのよさはもとより、車高もオプションの車高調整機能が搭載されている(フロントのみ、最低地上高を通常の107mmから134mmにまで上げることができる)こと、さらにトランスミッションのマナーのよさなどから、ヒップポイントの低いスポーツカーに乗っているような気楽さで地上へと躍り出てしまった。ただし、ペダルレイアウトは若干センター寄りなのが、唯一気になったところだ。

「720Sスパイダー」の試乗イメージ

「720Sスパイダー」の試乗イメージ

高速道路の入り口までは、しばらく市街地を進んでいく。アクセル開度はほんのわずかではあるが、そのコントロールが非常にしやすい。したがって、思い通りの加速が手に入るので、乗りづらさを一切感じないのは特筆すべき点だ。これは、十分に低速トルクが発揮されていることと、トランスミッションのセッティングがエンジンときちんと協調されていることに起因する。このバランスが崩れると、特にこういったハイパワーなクルマだと、ガクガクとした妙な挙動が生まれがちだ。さらに、視界のよさにも助けられ、それほど苦もなく高速道路の入り口まで到達できた。ここからは、ほんの少しだけ馬力を解き放ってみたい。

「720Sスパイダー」の試乗イメージ

「720Sスパイダー」の試乗イメージ

料金所を通過して、感覚としては市街地の時よりも、もう少しだけアクセルを踏み込んでみると、体をシートにしっかりと押し付けられるような豪快な加速が開始される。同時に、7速SSGは小気味よく自動的に変速を繰り返していくが、そのショックはまったくといっていいほど感じられない。ステアリングは、若干重めではあるが十分に路面からのインフォメーションを伝えてくれるので、安心してクルマを走らせることができる。特に、720Sスパイダーはファットなタイヤを履いているので、若干わだちなどに取られることがあったのも事実だが、その時は適宜修正すれば済むし、ひんぱんに取られるようなことはなく、さほど神経質にならずに済んだのには感心した。

そのままクルマに任せてクルーズするのも面白くないし、720Sスパイダーの面白みも味わえないだろうと、マニュアルモードに切り替えてパドルシフトを駆使してみる。とはいっても、日本の高速道路の制限速度はせいぜい100km/h(残念ながら新東名の120km/h区間までは、時間の都合上たどり着けなかった)。720Sスパイダーの実力の30%程度なので、ほんのわずかな片鱗を味わう程度に過ぎないが、そのエンジンレスポンスのよさや回転の落ちの速さ、さらに変速速度の速さなどは十分に感じることができた。特に、80km/h程度で3速から2速に落として加速に入る際などは、若干フロントを持ち上げて後ろから蹴り飛ばされるような豪快な加速感が病みつきになること請け合いだ。その際も、カーボンモノセルのボディはがっしりとその加速を受け入れ、タイヤがしっかりと路面をとらえて一糸乱れることがないのは感動的ですらある。

「720Sスパイダー」の試乗イメージ

「720Sスパイダー」の試乗イメージ

そのカーボンモノセルのおかげで、ボディ剛性は非常に高く、荒れている道でもミシリともいわないし、仮にルーフを開けていたとしても、その印象はまったく変わらない。かといってスパルタンな印象は一切なく、意外にも快適な移動が可能なのは発見だった。目的地で撮影などを済ませ、帰路へ着く。せっかくのスパイダーなので、そのままルーフを開けて帰ろう。屋根を開けていても、後ろのガラス部分さえ上げておけば100km/h程度であれば風の巻き込みはほとんど気にならないので、日本においては常にオープンで過ごすことも可能だ。

「720Sスパイダー」の試乗イメージ

「720Sスパイダー」の試乗イメージ

さらに、720Sスパイダーには積極的にオープンにしたくなる理由がある。それは、トンネルなどでエグゾーストノートを楽しみたいためだ。シフトダウンすると、あくまでも周囲に影響を与えない程度のボリュームながら、そのサウンドは十分に官能的なのである。

元の地下駐車場へと戻り、GTに乗り換えるべく所定の位置に停めて降りる時、サイドシルが前下がりになっていることに気付いた。これは乗降性のしやすさを狙ったもので、足の動きを考えて作られたもの。そういった細かな気配りも、感心する点のひとつだ。

スムーズで快適だが、やはり本質はスーパーカー

そして乗り換えたGTは、720Sスパイダーとはまったく別の印象をドライバーに与えてくる。

「GT」のインテリア

「GT」のインテリア

まずGTに乗り込むと、ホワイトのインテリアカラーによって、まるでゴージャスなスポーツサルーンにでも乗っているかのような印象を受ける。

「GT」の試乗イメージ

「GT」の試乗イメージ

また、市街地での移動は気をつかうことがなく、実にスムーズだ。720Sスパイダーも、同セグメントとしては非常に洗練された乗り心地だったが、GTに比べるとはるかに荒々しく感じる。それほど、GTはグランドツアラーとしての特質を備えているクルマと言えそうだ。

「GT」の試乗イメージ

「GT」の試乗イメージ

その印象は高速道路でも変わらず、100km/hで7速、1,700〜1,800rpmくらいのエンジン回転数のまま、淡々と距離をこなしていく。遅いトラックなどに阻まれ、60km/h程度まで落ちた速度を回復すべくアクセルペダルを踏み込んでも、720Sスパイダーのような豪快な感じではなく、非常にスムーズに加速が始まっていく。だが、そこで間違ってはいけないのは、それはあくまで“印象”だけということである。実際に速度計を見ていると、あっという間に100km/hをオーバーしそうになるのだ。それはまさに、ごくわずかな時間でもたらされるのだが、すばらしくスムーズな加速を見せることから、それほど速度が出ているとは思えないように錯覚してしまうのだ。

「GT」のエクステリアイメージ

「GT」のエクステリアイメージ

もちろん、720Sスパイダーと比べるとパワーは小さく、乗り比べるとアクセルレスポンスやトルクの出方などはGTのほうが少しおとなしく感じる。だが、それはあくまでも今回のように乗り比べて初めて気づくことだ。GTは、あくまでも快適でありながら、その本質はスーパーカーなのである。

そうそう、最後にひとつだけ。両車に共通する気になったこととして、助手席側の足元が奥に行くにしたがって狭くなっていることだ。おそらく、もともと右ハンドルであったことから左側のタイヤハウスが張り出している影響だと思われるが、ぜひ、もう少し助手席でもリラックスできる空間を望んでおきたい。

今回、2台のマクラーレンを試乗してみて、あるシーンを思い出した。今から7年以上前に、マクラーレンとイタリアのスーパースポーツカーの記者発表会が続けて開催されたことがある。そのプレゼンテーションでは、イタリアのスーパースポーツカーはきわめて情熱的に、そして感情に訴えるものであったのに対して、マクラーレンのプレゼンは淡々と数値をもとに進行していったのだ。どちらがいいとか悪いとかではなく、これこそがメーカーにおけるクルマづくりの違いを表していると感じた。マクラーレンは、クルマ作りにおける目的達成のために状況を分析し、それにふさわしい手段を講じて結実させている。それは、マクラーレンのGTを入れた、4つの大きなラインアップを見ればわかるだろう。それぞれにふさわしい選択肢を、ユーザーに与えているのだ。そして、そのいずれもが快適性を犠牲にしないのはさすがである。これは、F1の開発によるところが大きいのかもしれない。レースでは一瞬の速さだけでなく、最初から最後までコンスタントに速くなければ勝つことができない。それには、運転のしやすさとともに、ある程度の快適性が求められる。ドライバーだって人間なので、疲れればミスを誘発するし、無理にドライビングすればトラブルが発生する。そして、それではレースに勝つことはできないだろう。そのような経験を詰んでいるマクラーレンだからこそ、なるべくドライバーに負担をかけずに、ハイパフォーマンスカーとしてのすばらしい速さを提供するクルマづくりができるのだろう。

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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マクラーレン
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(レビュー-人・クチコミ26件)
新車価格:3461万円 (中古車:2580〜3680万円
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マクラーレン
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(レビュー-人・クチコミ-件)
新車価格:2695万円 (中古車:2510〜2880万円
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