レビュー

“爽快”にこだわったホンダ 新型「シビック」。デザインの魅力について開発者へ聞いてみた

2021年9月にフルモデルチェンジされた、11代目のホンダ 新型「シビック」。今後も、シビックはe:HEV(ハイブリッド)やタイプRなど、さまざまなモデルの発売が予定されている。今回は、新型シビックにおける大きな魅力のひとつとなっている、内外装のデザインなどについて、開発者へインタビューした。今回、話をうかがったのは以下の4人だ。

人物は、左から
エクステリアモデリング担当:本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 モデリングスタジオの打田敏秀さん

インテリア担当:本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ アシスタントチーフデザイナーの小川泰範さん

パッケージング担当:本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 テクニカルデザインスタジオ アシスタントチーフエンジニア デザイナーの小林慧さん

CMF(カラーマテリアルフィニッシュ)担当:本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ CMFデザイナーの渋谷恭子さん

シビックの製品画像
ホンダ
4.23
(レビュー115人・クチコミ4679件)
新車価格:319〜394万円 (中古車:19〜1258万円

「爽快シビック」というコンセプトが生まれるまで

クルマを開発するにあたっては、全体のコンセプトが重要になる。新型シビックのコンセプトは、“爽快シビック”。歴代のシビックは、ベーシックカーの代名詞とも呼べるような存在として、初代から連綿とその歴史を紡いできた。シビックの不変的な価値は、キビキビとした走りや、市街地などでの取り回しや駐車のしやすさ、経済性や環境との調和などである。

それらを踏まえ、新型シビックの開発にあたってはターゲットユーザーの調査が改めて実施された。その中で、小林さんは象徴的なユーザーへ出会ったエピソードについて話してくれた。

本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 テクニカルデザインスタジオ アシスタントチーフエンジニア デザイナーの小林慧さん

本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 テクニカルデザインスタジオ アシスタントチーフエンジニア デザイナーの小林慧さん

「失語症の子供達に音楽を教えているミュージシャンの方の、これまでのシビックに対するイメージがヒントになったのです」。それは、「自分を表現するための特別感や親しみやすさだったり、自分の家に帰ってきたような心地よさです」。11代目の新型では、そのシビックの強みを、さらに伸ばすことを考えたのだという。

さらにもうひとつ、大きなヒントがあったという。それは、初代シビックの試乗会で、あるジャーナリストが初代シビックを、“一服の清涼剤”と表現したことだった。小林さんは、当時のその言葉を聞いて「ホンダ車の、根源的な魅力であると感じましたので、それを11代目のコンセプトへ入れ込もうと考えたのです」。そこから生まれたのが、 “爽快シビック”というコンセプトだった。新型シビックは、親しみやすさと特別な存在感を両立させることによって、爽快さという価値観を達成させるのが狙いとなった。

新型の参考となった3代目「ワンダーシビック」

クルマにとっての骨格は、ボディ剛性だけでなくクルマ全体のプロポーションを決める重要なものだ。小林さんは、3代目の通称「ワンダーシビック」が大いに参考になったという。

3代目のホンダ「シビック」(通称、ワンダーシビック)

3代目のホンダ「シビック」(通称、ワンダーシビック)

「3代目シビックの、水平基調で開放的、かつグラッシーなキャビン。そして、薄くて軽快に見えるボディとのコントラストが、とても象徴的でした。そのような部分を、新型シビックへと落とし込んでいきました」。

ホンダ 新型「シビック」には、3代目シビックの低いベルトラインによる開放的なキャビンや、タイヤの存在感が強調されている軽快なサイドボディを参考にしてエクステリアがデザインされたという

ホンダ 新型「シビック」には、3代目シビックの低いベルトラインによる開放的なキャビンや、タイヤの存在感が強調されている軽快なサイドボディを参考にしてエクステリアがデザインされたという

また、新型シビックではデザインシルエットの要となるレイアウトにも、爽快さが表現されている。たとえば、グラッシーなキャビンを目指すために、広いガラスエリアに加えてボンネットが25mm低く抑えられていることによって、車内から斜め前方をみたときに抜けるような視界のよさが確保されている。さらに、Aピラーの付け根の位置が車内側へと移動されることによって、車内の水平視野角を広げ、見晴らしのよさも実現している。これは、リアシートに乗っていても感じることができるもので、ベルトラインが下がっていることもあって、水平基調によるクリアな爽快感が味わえるのだ。同時に、6ライトキャビンとなったことで、リアには新たにクォーターウインドウが設けられており、斜め後ろの視界の確保とともに、明るいキャビンを実現している。

ホンダ 新型「シビック」のリアエクステリア

ホンダ 新型「シビック」のリアエクステリア

また、エクステリアはよりワイド&ローな骨格を強調するためにトレッドが拡大されており、ルーフは先代では飛び出していたテールゲートのヒンジ部分をインクルードさせることによって、よりスリークで低い骨格が表現されている。

ホンダ 新型「シビック」のテールゲートのヒンジは、位置の変更やボリュームの低減などによって、先代に比べてルーフが低くなり、リアシート乗員の頭上空間のアップも確保している

ホンダ 新型「シビック」のテールゲートのヒンジは、位置の変更やボリュームの低減などによって、先代に比べてルーフが低くなり、リアシート乗員の頭上空間のアップも確保している

テールゲートのこだわりについて、小林さんは「先代のヒンジはスポイラー風の形状で、ルーフから飛び出させることによってインクルードさせていましたが、新型ではその配置を見直し、ルーフのカットラインをU字状にすることで、ヒンジ位置をクルマの前方かつ外側へと移動させました。ヒンジ位置がクルマの前方であるほど、ヒンジを埋め込みやすくなりますし、外側であるほど後席乗員のヘッドクリアランスの確保とハッチの開口部の広さを両立することができるのです。また、ヒンジ付近のルーフの高さを先代シビックよりも50mm下げており、爽快さと低重心の骨格を両立させるように力を入れて開発しました」と説明する。

エクステリアデザインで重要なのは「骨格」

さて、新型シビックの外観デザインがどのように生まれたのかについて、エクステリアデザインとモデリング担当の打田さんに語っていただこう。

本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 モデリングスタジオの打田敏秀さん

本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 モデリングスタジオの打田敏秀さん

エクステリアは、流れるようなプロポーションとグラッシーなキャビンの両立を目指したという。そのために、まずはスケッチでプロポーションを検討しながら、1/4モデルで立体的にも把握していったとのこと。「どのようなエクステリアであれば、爽快というキーワードへ直結できるのかを検討しました」と打田さん。また、「流れるようなプロポーションにすると、後席のヘッドクリアランスがかなり狭くなりますので、実際に着座してみて、デザインだけを先行するのではなく、機能もしっかりと考えながら立体を作っていきました」と説明する。

また、シビックハッチバックのメイン市場は欧州であるため、1/1モデルを欧州のデザインスタジオへと持ち込み、実際の欧州の太陽光の下で検証し、プロポーションを含めて手を入れていったのだそう。

さらに、打田さんは「シビックはグローバルな車種ですので、欧州で見た印象だけが正解なのかというと、そうではありません。そこで、VRを使って欧州だけでなくアメリカや日本など、グローバルでどのように見えるのかを、グリルのメッシュなどの細部に至るまで確認しながら、熟成させていきました」と言う。また、打田さんはシビックのデザインに携わりながら、アメリカやドイツに滞在することでわかったことがあるのだそうだ。それは、「エクステリアデザインで、『おっ!』と思わせるのはディテールではなく、骨格なのです。どの国においても、骨格は正義です。たとえば、アメリカのロサンゼルスなどの強い光の下では、ディテールが全部飛んでしまうのです。そのため、よりいっそう骨格が勝負になってきます。また、ドイツでは見る距離が近いので、『ディテール勝負だろう』と思っていたのですが、アウトバーンなどを一瞬で駆け抜ける時には、やはり骨格が勝負になります。そして、日本の街並みにおいても、視界に入って気付いてもらえるのは、やはり骨格です。キャビンやボンネットの低さなどを含めて、実現できたのは設計者のがんばりであったと思っています。それがなければ、新型のエクステリアデザインは絶対に実現できませんでした」と語った。

新型「シビック」のヘッドライトとリアコンビランプ

新型「シビック」のヘッドライトとリアコンビランプ

とはいっても、やはりディテールも気になるところだ。こだわりのヘッドライトについて、打田さんは「ボディサイドに、かなり特徴的なショルダーラインがありますので、そこをうまく突き抜けられるように、連続性を持たせて抜けのいいデザインとしています。また、リアコンビランプも同様に、ショルダーラインから流れるような造形としつつ、シビックとしては“C”というモチーフをとても大切にしているので、それを表現できるようなデザインとしました」と解説してくれた。

爽快な朝をイメージした質感の高いインテリア

新型「シビック」のインテリア

新型「シビック」のインテリア

新型シビックは、インテリアにも随所にこだわりが見られる。インテリア全体のコンセプトとしては、「爽やかで、気持ちのいい朝を提供できるようなデザインを狙っています」と小川さん。また、「ノイズを抑えて、解放的な空間という部分と、華美ではないのですが、気持ちを刺激するような質感を狙っています」とのこと。

新型「シビック」開発にあたっての、インテリア初期スケッチ

新型「シビック」開発にあたっての、インテリア初期スケッチ

小川さんは、 “爽快シビック”のインテリアを実現するために「日々の生活の中で、『朝が気持ちいいと、1日を気持ちよく過ごせるよね』といった、皆の実体験から仮説を立てました」と、開発当初について振り返る。たとえば、古いデータではありますが、と前置きしたうえで、「アメリカの平均通勤時間は約45分。その時間を、前向きにさせるような45分に変えることができないかが、考え方の背景となっています」と説明する。そして、この仮説を検証するために、若手デザイナーたちとロサンゼルスに一軒家を借りて暮らしながら、アメリカのスタジオに通った。そこで、「どのような要素が、爽快な朝に必要なのかを確認していきました」。そこで気付いたことは、「まず、朝の光の中で目覚めるのはやはり気持ちいいですよね。そのためには、大きな窓やその配置が大事になります。また、アメリカの大容量な収納は大げさだと思っていましたが、実は前夜楽しんだものなどを全部押し隠して、翌日にその痕跡が見えないようにするという意味もあるのですよね。いっぽう、かなり低い角度で外光が入って来ますので、エアコンのアウトレットの中身や、余計なインパネなどのカットラインが結構如実にわかってしまうので、そこは爽快さにつながらないなということもわかりました」。

本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ アシスタントチーフデザイナーの小川泰範さん

本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ アシスタントチーフデザイナーの小川泰範さん

このような気づきをもとに、小川さんは3つのキーワードを立てた。まず、「新鮮な気分で朝がスタートできる“清潔性”。そして、起きた気持ちのまま、テンポよくタスクがこなせる“リズム”。それを、次の仕事につなげていくような、目覚めのための心地よい五感への“刺激”。その3つを、キーワードとしました」と話す。そして、それぞれのキーワードをインテリアデザインへと落とし込むために、さらに大きくかみ砕いた。「清潔性は、すっきりとしたノイズレスな骨格やサーフェイスで表現しました。リズムについては、日常の使い勝手の中での適正な導線をしっかりとやりきる。そして、刺激については形など以外にも、車内で何かを使った際にしっかりとしたフィードバックが得られるための質感というものを狙いました」と述べる。

そこからは、通常ではスケッチを描いてというステップになるが、新型シビックでは実際に動くモデルも制作し、インパネの高さやクルマが動いた時の視界、狙ったボリューム感などをひとつひとつ確認しながら進めていったそうだ。また、同時にスイッチ類などは3Dプリンターでいくつも作成しながら、理想の形状や触感などを確かめていったとのこと。たとえば、インナーハンドルも「表面の形状だけであれば、すぐに決まります。ですが、指を引っかけて開けるという動作に対してフィーリングのよさを狙うために、かなりの数を作成しては削って、を繰り返しました」。

新型「シビック」では、ボタンひとつをとっても数多くのデザインのものが試作された

新型「シビック」では、ボタンひとつをとっても数多くのデザインのものが試作された

また、エクステリアと同様に、インテリアもVRを使ってインパネなどのカットラインや合わせ、エアコンダクトの中身が見えるかどうかなどを含めて、相当に検証されたという。このようなことを行いながら、スケッチやモデルを作成して完成形へと近づけていった。

新型「シビック」のインテリアで特徴的な、ハニカムデザインのエアコン吹き出し口は、色にこだわっているという

新型「シビック」のインテリアで特徴的な、ハニカムデザインのエアコン吹き出し口は、色にこだわっているという

小川さんが特にこだわったのが、エアコンの吹き出し口だという。インパネの横方向へと広がるパンチングメタルの加飾は、特徴的なハニカムデザインでありながら自然とインパネに収まっている。だが、先ほど述べたように低い角度から光が入ることで、中身が見えてしまうことを考えて、色にこだわったのだという。「少しだけ明るい色にすることで、視線が手前に行くようにコントロールしているのです。色については、実際の外光の中で何枚か色を当てていき、チューニングしながらトーンを決めていきました」と小川さん。また、ハニカム形状は、エクステリアのグリルでハニカムパターンを使っていることから、連動性をもたせたとのこと。また、ハニカムは構造的に安定していて、しっかりして見えるということもあったのだそう。さらに、副次的効果として、風が少し拡散するので心地よいエアコン風になっているという。

ポイントは、心地よいアイキャッチ

デザイナーや設計担当者などが完成させた形をどう見せていくのかは、色、素材、加工といったサーフェイス(表面)デザインを担当するCMF(カラーマテリアルフィニッシュ)の腕にかかっていると言える。渋谷さんは、「爽やかで気持ちのいい朝を目指し、感性に心地よいCMFをテーマとして取り組みました」と言う。

本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ CMFデザイナーの渋谷恭子さん

本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ CMFデザイナーの渋谷恭子さん

爽快な世界観を作るため、北米で出会ったターゲットユーザーから聞いた、「自分にとって必要なもの」「自分の家にいるような心地よさ」「自分を表現するための親しみやすさ」などをベースにしながら、爽快をかけ合わせて「爽やかで心地よい朝の空気感」をデザインチームで作り上げていったという。

また、質感向上を目指すため、北米のデザイン部門とも協力して、どのような点がユーザーに響くポイントなのかを、競合車を含めて分析したとのこと。そこでわかったのは、「アイキャッチになるような、心地いい“キカセ”がポイントでした。先代シビックでは、ネクタイのような中央のシートアクセントやロングステッチ、インパネの加飾などのポイントが高いことがわかりましたので、それらをさらに進化させました」と言う。

具体的には、シートは「シビックらしく、走り出したくなるような軽快なコーディネートとするために、スニーカーをイメージしました」。また、コンソールパネルの加飾部分については、「スイッチパネルにも一部施してますが、高精細で艶やかな樹脂加飾とするために、ヘリンボーンブラックなどを使っています。華美な加飾というよりも、空間に溶け込みつつもキラリと光るものがほしいと思いましたので、小川とも話し合いながらこのような加飾にしました」と説明する。

新型「シビック」では、シフトノブやその周囲の細かな加飾などについても、こだわってデザインされている

新型「シビック」では、シフトノブやその周囲の細かな加飾などについても、こだわってデザインされている

また、シフトレバー周りの加飾については、「朝日が当たることで輝くようなものが欲しかったのです。そこで、型をドリルで削ることで微細な加工が可能になりましたので、指紋やキズが目立ちにくい柄でありながら、目を引くツヤ感を両立させました。光をあてると、虹色に輝きます」と、そのこだわりを語ってくれた。

近年のホンダ車のデザインは、秀逸なものが多いと感じる。新型シビックも、サイドに通るきれいなプレスラインとともに、上下の面構成は清潔感にあふれたものだ。さらに、リアフェンダー周りのボリューム感の表現なども見事で、インテリアも同様に質感がとても高く、ステアリングホイールやスイッチの触感に至るまで、こだわりをもって開発されていることを感じ取ることができる。また、たとえば空調関係の金属調のスイッチであれば、そのクリック感も金属的な感触であったりと、違和感を覚えさせないところまでよく考えて作られている。

今回のインタビューを通じて、新型シビックのデザインはデザイナーたちのこだわりがふんだんに込められている1台ということが、改めてわかった。今回の4人が、異口同音に「ぜひ、一度実車を見てほしい」と言っていたのが印象的であった。もし、ホンダディーラーに行く機会があるのであれば、ぜひ新型シビックを見ていただき、こだわりや爽快さを感じてもらえればと思う。

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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