2024年5月、ジープブランドで最も歴史あるクルマ、「ラングラー」の改良モデルが発売された。新型「ラングラー」は、Z世代やその少し上あたりの若年層がターゲットユーザーという。そこで今回は、改良後の「ラングラー」に乗って、近年の若者にも人気のある、昭和レトロ感あふれる温泉街を目指して走らせた長距離レビューをお届けしたい。
今回は、2024年5月10日に商品改良されたジープ「ラングラー」を長距離試乗してみたので、その印象をお伝えしたい
「ラングラー」商品改良の詳細については、以下の関連記事をご覧いただくとして、まずは今回の試乗車のスペックについてカンタンにお伝えしよう。
試乗車のグレードは、「アンリミテッド サハラ」。今回、エントリーグレードの「アンリミテッド スポーツ」が新たに追加されたことで、「アンリミテッド サハラ」は中間グレードとなった(上級グレードは「アンリミテッド ルビコン」)。エンジンは、全グレード共通の4気筒2リッターターボを搭載。最高出力は272ps/5,250rpm、最大トルクは400Nm/3,000rpmを発生させる。
ボディサイズは、全長4,870mm、全幅1,895mm(「アンリミテッドルビコン」は1,930mm)、全高1,845mm(同1,855mm)と堂々とした体躯だ。車重は、「アンリミテッド サハラ」は2,000kgになる
では、「アンリミテッド サハラ」に乗り込んで出発しよう。今回の目的地は、信州・戸倉上山田温泉。いくつもの源泉が湧き出る温泉街で、同時に昭和レトロな街並みや四季折々の風景や食事が楽しめる場所である。
ちょうど、訪問した時はあんずの収穫時期なので、それも楽しみのひとつだ。生あんずは足が早く、すぐに熟れきってしまうので、そうそう食べることはできないからだ
まず、ステップに足をかけて大きめのドアハンドルを引き、よじ登るかのようにシートに座ってドアを閉めると、とてもしっかりとして硬質感あふれる、ドアの閉まり音が聞こえてきた。これだけでも、「ラングラーに乗っている」という実感が伝わってくる。
新たに備わった「電動パワーシート」などを操作して、適切なシートポジションをセット。スタートストップボタンを押すと、軽快なエンジン音とともにラングラーは目覚めた。実は以前、V型6気筒エンジンの「ラングラー」を試乗したことがあるので、エンジンの比較も少しレビューしてみよう。
がっしりとしたサイドブレーキを手で解除し、グラブをしていても操作できるATのセレクトレバーでDを選び、副変速機が「4H AUTO」になっていることを確認したうえで、アクセルを踏み込む。すると、エンジンの回転を上げながら、「ラングラー」は軽々と走り出した。
「ラングラー」はパートタイム4WDでありながら、「4H AUTO」を選べば前後のトルク配分をクルマ側が適宜判断するオンデマンド式なので、よほどの悪路でない限り、クルマ任せにしておくのが最適だろう。実際に、今回は少し強い雨などにも見舞われたのだが、「4H AUTO」で気疲れすることもなく、安心してドライブを楽しめた。
左のノブが「ラングラー」の副変速機
市街地を走行して感じるのは、ボディの大きさをあまり感じさせないことだ。見切りのよさに加えて、高くから見下ろす視界なので車幅がつかみやすくて乗りやすいのだ。そして、アクセルを踏み込んでいくと軽々と加速が始まる。加速感は、6気筒エンジンよりも軽快さを覚える。それは、ターボによる影響も大きいのもしれない。
交差点などを曲がる際は、「4H AUTO」を選んでいる限りは、四駆によるブレーキ現象はそれほどではない。それほど、と述べたのは、たとえば交差点などでUターンをする際などでは一瞬、抵抗が生まれることがあるからだ。ただ、それもわずかな時間なので、心配する必要は無いだろう。
高速道路の走行では、ラダーフレームの影響によって、若干コーナーの安定性が気になる。また、コーナーなどでは、ステアリングを切ってからほんのわずかに遅れが生じるので、このあたりは少し慣れが必要かもしれない。コツは、一気に切らないことだ。少しだけ早いタイミングで、ステアリングをゆっくりと切り始めれば、とてもスムーズにコーナーを抜けられる。つまり、早め早めのステアリング操作が、「ラングラー」をスムーズに走らせるには重要になるだろう。ちなみに、試乗車のタイヤにはブリヂストン「DUELER H/T(255/70 R18 M+S)」が装着されていた。
乗り心地は、6気筒エンジンを試乗したときよりも、クルマが跳ねる印象がある。特に、タイヤが少しバタつく感じがあるのだが、前後重量はほぼ変わらず、タイヤも同じサイズと銘柄で空気圧も同じだったことから、フロントの車軸に対するエンジンの搭載位置による影響が考えられそうだ。そのバランスが、6気筒よりも前後にずれることで乗り心地の変化が起きたのだろう。
また、高速道路で最も気になったのはフットレストがないことだ。フットスペースがなく、かつ左足の置き場がないので、どうしても無理な姿勢になりやすい。悪路でもしっかりと体を支える必要があるので、これについてはぜひ装備してもらいたいと思う。
だが、気になったのはそのくらいだ。「アダプティブクルーズコントロール」をセットして、前車追従機能を使えば(「ステアリングアシスト」はないものの)疲労も大きく軽減できる。
「ラングラー」は、視界が高く見晴らしがよいので、景色を楽しみながら快適にドライブできる
せっかくなので、今回の目的地である信州・戸倉上山田温泉について少しご紹介させていただきたい。東京からはおよそ200km、関越・上信越道坂城インターチェンジから15分、中央道・長野道の更埴インターチェンジから20分という、宿泊を伴う旅行に便利な場所に位置している。
観光案内などを見ると、姥捨棚田などの景観のよいところだけでなく、昭和レトロ感満載な飲み屋街などもあって、街歩きも楽しめる。実は、夜の飲み屋街に「ラングラー」でつい入り込んでしまったのだが、見切りのよさに助けられて、安心して通ることができた。ただし、運転席から左右のフロントフェンダーはつかみにくいので、そこだけは慣れるまで注意が必要だ。また、先代と比較して小回り性能が上がった(先代の7.1mから6.2m)のは、大きなメリットのひとつだ。
今回、お世話になった宿は、信州・戸倉上山田温泉圓山荘。今年で創立50周年を迎えるホテルで、圓山荘自家源泉のアルカリ性単純温泉と、単純硫黄温泉の千曲温泉の源泉をひいているところが特徴だ。露天と内湯がある大浴場とともに、“さらしなの月うさぎ”と呼ばれる貸し切り温泉が8つ備わっている(うち2つは間もなくサウナが設けられる予定)。
部屋数は77室あり、大人数から友人同士、家族連れまで満足できるホテルだ
お湯は、やさしく滑らかでありながら、肌にしっとりと馴染む。癖はなく、何度でも入りたくなる心地よい温泉だった
https://www.marusansou.com/index.html
今回の実燃費については、以下のとおりだ。
※( )内はWLTCモード値
市街地:5.1km/L(7.4km/L)
郊外路: 7.7km/L(10.1km/L)
高速道路:10.5km/L(11.1km/L)
ちなみに、以下はV型6気筒に試乗した時の実燃費だ。
市街地:5.8km/L(6.1km/L)
郊外路:8.5km/L(9.5km/L)
高速道路:9.9km/L(10.9km/L)
直列4気筒とV型6気筒の実燃費を比較してみると、それほど大きな差は見られない。やはり「ラングラー」は、エンジンよりも2トンの車重や空気抵抗の大きさ、四駆による抵抗などが燃費悪化につながっているようだ。ただし、V型6気筒よりもわずかではあるが実燃費が下回ったのは予想外ではあった。この要因として、4気筒エンジンも高回転タイプであり、トルクよりもパワーを活用したセッティングであることから、アクセルの踏み込み量が多くなったためではないかと推測する。
いずれにしても、いまどきのクルマとしては少々燃費の評価は低いと言えるだろう。だが、レギュラーガソリンなので財布へのダメージが少し軽減されるということは付け加えておきたい。
やはり、「ラングラー」というクルマを買うかどうかは、「欲しいか」「欲しくないか」でしかないと、試乗を通じて筆者は改めて思った。経済性や使い勝手などといった側面からクルマを選んでいけば、おそらく「ラングラー」には辿り着かないからだ。だが、「ラングラー」は、走っているところや止まっているところをひと目見て、直感的に「欲しい!」と思える、現代では数少ないクルマのひとつではないだろうか。
多少、乗り心地に難があったり、燃費が悪かったりしても、それ以上に「ラングラー」のデザインやジープブランドに惹かれるその感性こそが、購入してからの愛情へとつながると思うからだ。
(写真:内田俊一/写真・取材協力:信州千曲観光協会、信州戸倉上山田温泉圓山荘)