PS5の最新ゲーム「Marvel's Spider-Man 2」が2023年10月20日に発売された。ストーリークリアに加えて、トロフィーコンプリート(トロコン)まであと少しというところまでプレイしたのだが、本作はPS5というハードの実力を最大限引き出した、まごうことなきSIEの本気作だと感じるほど完成度が高かった。本作の魅力をレビューでひも解いていこう。
ちなみに、筆者はゲーム好きというだけでなく生粋のスパイダーマンファンであり、過去作「Marvel's Spider-Man」「Marvel's Spider-Man Mires Morales」をプレイ済みだ。加えて、サム・ライミ版の映画「スパイダーマン」(2001)から最新作映画「スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース」(2023)までほぼすべての作品を網羅している。そんな幼少期からスパイダーマンを愛してきた筆者なりの視点も本レビューには入っているので、スパイダーマンファンもぜひ読んでみてほしい。
また、本レビューはストーリーにも触れており、場合によってはネタバレに感じてしまう可能性があるので、その点は注意して読み進めていただきたい。
「Marvel's Spider-Man 2」は、SIE傘下のスタジオInsomniac Gamesによって開発されたPS5専用タイトルであり、過去作「Marvel's Spider-Man」(2018年)と「Marvel's Spider-Man Mires Morales」(2020年)の続編にあたる。
誰もがスパイダーマンになれる圧倒的なヒーロー体験を醍醐味としている本シリーズだが、過去作「Marvel's Spider-Man」はその高いアクション性とニューヨークのフィールドをウェブスイングで駆け回る爽快なオープンワールド性が非常に高く評価され、最終的にPC版と合わせて全世界で売り上げ3000万本という驚異的な記録を樹立。PS4を代表するソフトのひとつとなった。
開発元であるInsomniac Gamesは、2021年に「ラチェット&クランク パラレル・トラブル」も手掛けており、PS5の高速処理能力を生かしたゲーム体験が高く評価された。そのときの経験が今作「Marvel's Spider-Man 2」にも多く注がれていると感じた。
今作で注目なのは、ピーター・パーカーとマイルズ・モラレスという2人のスパイダーマンを操作するダブル主人公形式が採用されている点。2人の主人公を適時切り替えて進めていくゲームプレイが新たな特徴である。次章からは、本作の各要素に触れていき、前作から進化した点や、PS5ならではの秀逸なゲーム体験を実現している点などを掘り下げていこう。
本作も前作から引き続きニューヨークを舞台にスパイダーマンとなってアクティビティーめぐりに奔走するゲームデザインが主軸だ。ウェブアクションによる移動の爽快感は本シリーズの要とも言える。
前作においてもニューヨークの中心部を華麗なスパイディーアクションで駆け巡る楽しさは非常に高く評価された部分であり、そのクオリティは目的地までの移動の際にファストトラベルを使いたくないと思わせるレベルの完成度であった。その爽快感は今作で驚くほど進化している。
最も象徴的な追加要素が、フィールドを超高速で移動する新アイテム「ウェブウィング」だ。ニューヨーク中心部に加え、ブルックリンとクイーンズが新エリアとして追加されたため、フィールド面積自体は前作の約2倍に広がっている。
この広大化したフィールドにおいて、移動のスムーズさを損なわせることなく、本シリーズ特有の爽快感を飛躍的に進化させ、新鮮な体験を提供しているのが「ウェブウィング」なのだ。
新しく実装された超高速滑空型ギミック「ウェブウィング」
「ウェブウィング」は、空中移動時に△ボタンで展開できる超高速の滑空型ギミックなのだが、これによって前作以上のスピード感でニューヨークの街を駆け巡ることができる。「ウェブウィング」は滑空時間に制限があるものの、ビル屋上から出る上昇気流に乗れば高度と速度が回復する。さらに、「ウェブウィング」を使って、ビル群の間や橋の下にある風洞(風の通り道)を通れば、目にもとまらぬ速度でフィールドを超高速に移動することができる。
ニューヨーク中心街とブルックリン・クイーンズの間には巨大なイースト川が流れているのだが、「ウェブウィング」を使えばそこを横断することすらできるのだ。
「ウェブウィング」を使えば広大なイースト川も難なく渡れる
ニューヨークの街並みもさらに美しくなっており、この景観を高速で移動するゲーム体験は、間違いなくPS5の高速処理能力がなせるわざだと感じた。
移動ツールの強化とあわせて、やり込み要素として巡ることになるアクティビティーの数々も目が離せない。本シリーズは、フィールド上に何種類ものサブクエスト、犯罪イベント、コレクションパート、チャレンジ要素などが用意されている。
これらをこなすことでスパイダーマンのガジェットやスキル、アビリティーが強化されゲームプレイの幅が広がっていく。このゲームデザインは前作時でも徹底されていたが、そのやり込み要素にも工夫が加えられ、飽きないゲームプレイが実現されている。
前述のとおり、本作はピーター・パーカーとマイルズ・モラレスという2人の主人公を切り替えながらのゲームプレイが軸となっており、アクティビティーもそれぞれの主人公専用のものが用意されているのだが、驚くべきはその種類とプレイ内容の豊富さである。
たとえば、隠されたアイテムや情報を探索するパズル、ミニゲームは何種類も用意されており、ストーリーやアクティビティーを進めていくと、どんどん新しいものが増えていく。1つひとつのパズルやミニゲームは単調なものに留まっているものもあるが、それらが何種類も登場することで「ひとつのことをずっとやり続けているだけの時間」とは感じにくい。
ハチを保護するドローンを操作するミニゲーム
そのほかには、アクティビティーの発見システムにも工夫が加えられた。たとえば、写真スポットではカメラマークが画面に映る、サンドマンのイベントでは砂埃が舞っているなど、アクティビティーがどこで発生しているのかを知らせてくれるシステムがわかりやすい。
マップを開かなくてもアクティビティーの場所がひと目でわかるため、フィールド移動の流れで自然にアクティビティーをこなしていけるデザインになっているのだ。
この部分については昨今のオープンワールドゲームにおけるトレンドを取り入れたことがうかがえ、こういった要素を惜しみなく取り入れる姿勢は高く評価できる。移動ツールの強化、アクティビティーの発見システムの刷新といった工夫により、前作以上に充実したオープンワールド体験だと感じた。
本シリーズで移動アクションと肩を並べるほど高い完成度を実現していたのがバトルパートだ。前作では比較的簡単なボタン操作で超スタイリッシュなスパイダーマンバトルを楽しめるのが大きな魅力であったが、今作では新要素が加えられたことで前作以上のバトルへと変貌を遂げている。
基本的な戦闘のパターンは前作とあまり変わらず、攻撃を叩き込みながら敵の攻撃を回避し、アビリティーとガジェットで敵を翻弄してフォーカスゲージが溜まればフィニッシュブローで敵を倒すという流れだ。
前作で完成されていたアクションのクオリティは相変わらず安定しているいっぽうで、ダブル主人公を採用したことにより、アクションの多様性が広がっている。ピーター・パーカーとマイルズ・モラレスは、それぞれのスタイルで戦うため、ゲームパートごとに異なるバトルを味わえるのだ。
マイルズ・モラレスは、生体電気を身にまとって敵をスタン状態にできる「ヴェノムパワー」を使えるため、通常時のピーター・パーカーと比べるとより強力なバトルを展開できる。「ヴェノムパワー」で的をスタン状態にすれば、一方的に攻撃を仕掛けることが可能だ。
前作「Marvel’s Spider-Man Miles Morales」で覚醒した「ヴェノムパワー」だが、本作ではさらにパワーアップした
「ヴェノムパワー」は非常に強力なのだが、その上を行くのが「メガ・ヴェノム・ブラスト」だ。この技は、広範囲の的に感電ダメージを与える電撃攻撃で、範囲外の敵の目をくらませる効果もある。
敵に囲まれたときなど、不利な戦局を一気に転換させる必殺技だ。ちなみに、スキルを強化していくとチート級の性能にまで発展する。
マイルズの必殺技「メガ・ヴェノム・ブラスト」
いっぽうのピーター・パーカーにも「シンビオート」という強力な新要素が追加された。ストーリーのとあるタイミングで「シンビオート」の力を手にしたピーター・パーカーは、ブラック・スパイダーマンになるのだが、これにより解放されるアビリティーやスキルはブラック・スパイダーマンの狂暴性を見事に再現した攻撃になっている。
「シンビオート」が寄生しブラック・スパイダーマンとなったピーター
ブラック・スパイダーマンは、敵を強制的に壁に貼り付けたり、複数の敵をまとめて地面に叩き付けたりと、通常時のピーター・パーカーからは想像できないほどの残忍な攻撃を展開していく。
ブラック・スパイダーマンにもマイルズ・モラレル同様に強力な必殺技「サージ・モード」が用意されている。「サージ・モード」発動中は通常時の何倍ものダメージを与える攻撃を連発することができ、怒りの向くままに次々と的をなぎ倒す姿は、まさに「シンビオート」の凶暴さと危険性を表現しており、いつもの温厚で陽気なピーター・パーカーを知っている身からすると、背筋の凍るような体験だ。
「サージ・モード」が発動すると攻撃力は格段に跳ね上がり、攻撃方法も残忍になる
このダブル主人公という新システムと、新たな力の解放により、バトルはより多様なものへとバージョンアップし、前作のプレイヤーも新鮮な気分で楽しめるはずだ。
ニューヨークを守るヒーロー、スパイダーマンを取り巻く陰謀と迫りくる脅威、そしてヴィラン達によって巻き起こる熱すぎる展開といったストーリーの前作「Marvel’s Spaider-Man」は高く評価された。
今作のストーリーにおいても、前作と同様の興奮は間違いなく味わえるが、それ以上に際立つのはスパイダーマンに一石を投じる物語展開と、現代的な価値観を非常に重視したストーリーテリングである。ここからは具体的な物語の内容を含むので、未プレイでネタバレを危惧する人は自己判断で読み進めていただきたい。
2人の主人公にスポットを当てて物語が進むという展開は、スパイダーマン関連の映画やゲーム作品の中で初めてだ。そこにクレイブン・ザ・ハンターとヴェノムという大敵2人、そしてピーター・パーカーの大親友であるハリー・オズボーンという新たな登場人物を交えて物語は急展開していく。特に、ヴェノムは単体映画が作られるほどの人気を誇るヴィランなので、その点でも本作は注目が高かった。
多くのプレイヤーが楽しみにしているであろうヴェノムがヴィランで登場
ピーター・パーカーは実生活とスパイダーマン業の両立に悩んでおり、メリー・ジェーン・ワトソン(MJ)の献身的な支えがありながらも苦しむ姿が描かれる。いっぽうのマイルズ・モラレスも、父親の仇であるマーティン・リーへの執着心にとらわれ、その気持ちにどう決着をつけるかで苦しんでいた。
そんななか、大親友ハリー・オズボーンの帰還や、新たな強敵クレイブン・ザ・ハンター率いるハンター集団のニューヨーク侵攻を受け、2人のスパイダーマンは新たな脅威に立ち向かっていく。
長い間スパイダーマンとしての責任を果たしてきたピーター・パーカーが、マイルズ・モラレスという新参のスパイダーマンと本格的に手を組み、それぞれの事情を抱えながら互いにどのような影響を与えあうのか、というのが本作のテーマだ。
単独主人公であれば描き切れなかった物語に加えて、2人のスパイダーマンを交互に操作することによりピーター・パーカーとマイルズ・モラレスのそれぞれを主観と客観で見る機会をプレイヤーに提供している。ダブル主人公のゲームだからこそ描ける物語手法が徹底されており、劇的な展開の数々に終始のめり込んでしまった。
2人の心の隙間に「シンビオート」がどう関わってくるのかを楽しみながらプレイしてほしいし、一部だがヴェノムを操作するパートも登場する。ヴェノムファンにもぜひプレイしてみてほしい。
そして、サブストーリーにも現代的な価値観や社会性を反映するものが多かった。最も感銘を受けたのは、マイルズ・モラレスの想い人として登場する女性・ヘイリーのサブストーリーだ。
ヘイリーは聴覚障害者であり、会話をする際も手話を使う必要があるキャラクターなのだが、サブストーリーの中にはヘイリーを操作するイベントがある。
このイベントでは、ヘイリーが難聴であるということで、周りの音がほぼ聞こえなくなる。会話相手の表情を読み取って進めていくのだが、「耳が聴こえにくい人にとって世界がどのように見えているのか」ということがゲームを通じて疑似体験できるようだった。
難聴のヘイリーを描くパート。相手の表情を読み取り状況を理解する様子が非常にわかりやすく描かれる
このように身体が不自由な生活を送る人々の事情は、頭では理解した気でいるものの、感覚的にはどうしてもわからない。これをゲームという媒体で表現する試みはすばらしいことだと思う。
SIEは、障がいのあるユーザー向けのコントローラー「Accessコントローラー」を発売するなど、ゲームにおける身体的障壁をなくしていこうとする姿勢を見せているが、それがゲーム内にも現れていると同時に、多くのユーザーにとっても興味深い、新鮮な体験を提供する形でコンテンツ化する姿勢はさすがだと感じた。
「Marvel's Spider-Man 2」は前作で培われた技術をPS5でさらに高め、より洗練されたスパイダーマン体験を味わえるゲームだ。前作をプレイした人は、飛躍的な進化を実感できることだろう。
筆者の本作のプレイ時間は30時間程度で、それでもほぼトロコンまで行けてしまった。そう聞くとボリュームの少ないゲームと思われるかもしれないが、本作の圧倒的なスピード感、興奮止まらぬゲーム体験、怒涛の物語展開によってその体感時間は何倍にもなっているように思う。非常に密度の濃いゲーム体験が用意されていると同時に、やり込み要素も自然と遊んでしまうような作りになっているので、ぜひ手軽に手に取ってみてほしい。