映画「アバター」シリーズを題材にしたUBIソフト「アバター:フロンティア・オブ・パンドラ」をストーリークリアまでプレイしたので、その感想を交えながらレビューしていこう。率直な感想を述べると、本作はオープンワールドとしては平凡の域を超えてこないが、「アバター」のゲーム版としては目を見張る部分があり、筆者は50時間ほど楽しんでプレイできた。
なお、本記事はストーリーについても触れており、核心的な内容は取り上げないものの、場合によってはネタバレを含む可能性があるため、注意して読み進めていただきたい。
「アバター:フロンティア・オブ・パンドラ」は、ジェームズ・キャメロン監督の映画「アバター」シリーズを題材にしたオープンワールドアクションアドベンチャーゲーム。「ファークライ3」や「ディビジョン」シリーズを手掛けた、UBIソフト傘下の老舗スタジオ、Massive Entertainmentが開発していることもあり、UBIソフトによる今世代家庭用ゲーム機の本領発揮作として発売前から注目度は高かった。
「アバター」の舞台である惑星パンドラをオープンワールド化し、原住民ナヴィと、パンドラを侵略するRDAのスカイピープル(人間)との戦いが繰り広げられる。美しいパンドラの世界を探索しながらRDAの拠点を襲撃したり、採取したアイテムで装備などを作成したり、パンドラで出会える各部族と交流したりすることなどがメインのゲームプレイだ。
次章からは各ゲーム要素についてレビューしていく。なお、筆者は映画「アバター」(2009年)と最新作「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」(2022年)を鑑賞済みのうえでプレイした。
本作のゲーム世界への作り込みや描写は文句なしですばらしい。パンドラでは、多種多様な生物や植物などのオブジェクトが圧倒的な物量で描かれている。それに加えて浮遊する山々などの壮大な景色で作り込まれた世界は、数ある今世代家庭用ゲーム機基準の作品の中でも最高水準の壮大なスケールだ。
圧倒的な描写と作り込みが感じられるパンドラ
この広大で美しいパンドラの大地を探索し、ナヴィ族の集落やレジスタンスの中継地点、RDAの拠点などを回りながら、探索できる領域を増やしていく楽しさがベースにあり、その流れでさまざまなアクティビティーに触れていく。
マップの拠点を巡っていくシステムは、ファストトラベルポイントを増やすというオープンワールドゲームにおける典型的なモチベーションに支えられてはいるが、RDAの拠点を倒すことで枯れたパンドラの大地が元の美しい姿に戻り、探索領域が増える楽しさは終始本作を遊び続けてしまう最大の理由のひとつだ。
RDAの拠点周辺は、大地が荒れ果て、動植物も死に絶えている。しかし、RDAの拠点を破壊すると、パンドラの大地が瞬く間に復活する
広大なフィールドを自由気ままに探索しているだけでも、新たなロケーションやアクティビティーの発見につながり、自然とゲームに没頭していく感じだ。また、「サイレントゥ族のトーテム」や「景色の記憶」など、「アバター」ならではのアクティビティーも登場し、パンドラの美しい自然や景色に触れ合う神秘的な体験が味わえる。
プレイヤーを本来の目的から逸らせ、突発的な発見に導くオープンワールドならではのクオリティーの高い寄り道要素がありながらも、そこからはアバターらしいオープンワールド体験が得られるのだ。
「サイレントゥ族のトーテム」や「景色の記憶」などパンドラの美しい風景を生かした神秘的なアクティビティーも本作の魅力だ
「アバター」らしいオープンワールド体験は、採集パートにも色濃く見られる。本作では、パンドラならではのサバイバル要素が取り入れられており、狩猟や植物採取、調理などのパートには開発陣のこだわりを感じずにはいられない。
たとえば、パンドラの生物を狩猟する場合は、ナヴィの感覚で弱点を見抜き、そこを正確に弓矢で射撃しなければならない。弱点以外の部分を攻撃して無理やり殺してしまうと、採取できるアイテムのレア度が下がるからだ。また、人間の武器(アサルトライフルやショットガン)を使って殺してしまった場合、アイテムの採取自体ができなくなる。
動物を狩る際は、オレンジ色で表示される弱点を弓矢で正確に射貫く必要がある
すべての動植物がエイワとつながり、一体となってパンドラを形成しているという、生物との調和を重んじる自然共生主義的なアバターの世界観が表現されたシステムを、ゲームに違和感なく落とし込んでいるのだ。
ほかにも植物の採取に関しては場所によってレア度が変わるだけでなく、採取する際もちょうどいい場所をピンポイントで探し当てないと適切に採取できないなど、単調な探索にパンドラでのサバイバル生活を演出するためのひと工夫があり、これらもうまく機能している。
そのため、本作の探索や採取は機械的に行うことが許されず、綿密な調査や慎重さが常に求められる。プレイヤーに考えることをうながす場面が多いため、それが遊びがいにつながっていると感じた。
採取のていねいさや環境、時間などによって採取できる植物のレア度が変わってくる
オープンワールドのデザイン自体は平凡で、1つひとつのアクティビティーに単調さを感じることもあるが、種類が豊富であり、かつ、パンドラ特有の神秘的な体験につながっている場面が多いため、「アバター」が好きな人であればずっと遊び続けたくなる魅力がある。
そして、アクティビティーなどで得たアイテムや、仲間である部族への貢献やスキルポイントが、より強力な装備の入手、能力の解放につながり、より難易度の高いクエストに挑めるようになる。一連の流れはシンプルだが、遊び続けたくなる動機付けとしては十分だろう。
圧倒的物量で忠実に再現されたパンドラの世界がもたらすゲーム体験は、今世代家庭用ゲーム機だからこそ実現できたものとして間違いなく価値がある。特に、新しい地形やフィールドで出会った壮大な景色は感動に値する。イクランと山々の間を飛行したり、ダイアホースで広大な草原を颯爽と駆け抜けていったりする体験は、その象徴的なものと言えるだろう。
映画でも印象的だったイクラン(上)や、ダイアホース(下)にも乗れる
本作の戦闘は平凡で特別感に欠けるという指摘が一部のユーザーから相次いでいるが、長時間プレイした筆者は若干異なる感想を抱いた。
戦闘パートは、主にRDAの拠点を襲撃して撤退させ、汚染されたパンドラの大地を元に戻していくのがメインになる。RDAの拠点は歩兵だけでなくAMPスーツ(人間が乗り込むロボットのようなスーツ)で強化された兵士が見張っており、正面突破が困難であることはもちろん、敵の警戒度も高いため、かなりシビアなステルス戦、ゲリラ戦を徹底しなければならない。
AMPスーツの敵は弱点を正確に射撃しないとすぐ位置バレし、増援を呼ばれ不利な対複数戦になってしまう。特に、ゲーム序盤は装備の弱さや、ステルスプレイの難しさから持久戦に持ち込まれることが多く、ダメージを食らったら遮蔽物に隠れて自動回復するまでやり過ごし、少しずつ敵を倒していくような展開が多い。
体力は食料さえ食べておけば自動で全回復できるシステムになので、強引な戦いさえしなければやられることはないものの、敵をチマチマ倒していく地味な戦闘に陥ってしまいがちだ。そのため、戦闘に慣れないうちは楽しさが見出しづらい。
ミサイルや火炎放射を装備したAMPスーツなど強敵も登場するため、正面突破はかなり厳しい
ただし、ゲームが進み装備が強化され操作に慣れてくると、戦闘の面白さは増していく。攻撃力が高く、扱いやすい重弓などの武器であれば、敵の弱点を正確に射撃しやすくなるため、バレずに敵をサクサク倒していけるのだ。
実際に、装備やスキルをアップさせ、力技ではなくステルスで巧みにクリアできるようになったときは、強烈な達成感を味わった。また、ゲリラ的な戦法によって敵軍を翻弄するゲームプレイは、軍事力に圧倒的な差があるRDAに対し、ナヴィが現実的に対抗しえる唯一の手段。キャラクターを成長させ、戦闘をこなせばこなすほど、「アバター」らしいリアリティーのある戦闘が楽しめるのは面白いと思った。
重弓などの武器は、遠くの敵も正確に射撃できるため弱点も狙いやすい
いっぽう、多くのレビューで指摘されていたのが、本作の戦闘システムは「ファークライ」シリーズのものを流用しているのではないかということだ。しかし、筆者としては、若干正確性を欠く指摘に感じる。むしろ、ゲリラ的な戦法を極めざるを得ない戦闘システムと、それが成せるようになったときの達成感や爽快感といったものは、「ファークライ」シリーズより本作のほうが高く、それが「アバター」らしさにもつながっていると感じたからだ。
ここからは、主観的な意見になるが、本作の戦闘が平凡と感じる主な要因は、映画「アバター」で見られたような戦闘に寄せる工夫が足りなかったことではないかと思う。たとえば、映画ではナヴィがAMPスーツのパイロットを正確に弓で射撃することによって、RDA兵を一瞬で倒す印象的なシーンが登場する。
そのシーンでは、RDA兵士の背後から映すカメラアングルになり、ナヴィによって無慈悲に撃ち抜かれ絶命する。視聴者としては、我々と同じ姿をした“人間”でもナヴィ達によって無残に殺されるというショッキングな印象を抱いた。しかし、ナヴィに肩入れしている視聴者としては、敵である人間を倒したというカタルシスも得られるのだ。これは映画「アバター」ならではの面白いポイントだと思う。
しかし、ゲームではRDA兵士を単なるモブ敵としてか見られず、映画のように複雑な感情を想記させるようなものではない。もし、ここにひと工夫あれば、「これぞアバターだ!」という特別なゲームになったかもしれない。
ストーリーは、主人公のナヴィがRDAの施設から脱出するところから始まる。主人公のナヴィは幼少期からRDAに育てられたが、とある出来事をきっかけにRDAから殺処分されそうになり、その窮地を逃れるため16年間の眠りにつくことになる。
その後、ナヴィ族によって起こされ、自身が滅んだはずのサイレントゥ族の生き残りであると知らされるのだ。主人公はRDAがパンドラで行っている侵略、悪事に抗うため、レジスタンス組織に入隊しRDAとの戦いに身を投じるというのが大筋である。
ナヴィ対RDAという構図と、RDAをパンドラから追い出すという最終目標は映画と同様だ。ストーリーを進めながら、パンドラで出会った部族たちと友好関係を築き、レジスタンス組織の勢力を拡大。そして、主人公と因縁のある憎きRDAからパンドラを守るため奔走する。「アバター」らしさという意味では筋がとおったストーリーでボリュームも申し分ない。
映画では詳細に触れられなかったパンドラの動植物にもフォーカスされ、ナヴィの悲しみや怒りが伝わるドラマチックな展開も多い
しかし、ストーリーの基本構造が映画に忠実でわかりやすい半面、ストーリーに抑揚を持たせるという点において物足りないものがあったのは事実。その理由のひとつは、プレイヤーのモチベーションを感情的に高めるという点だろう。
主人公のナヴィがRDAと対抗する最大の理由は、自身の姉がRDAにより殺されたからだ。しかし、それは主人公の事情という域を超えることなく、プレイヤーが感情移入するには今ひとつ足りない。
映画「アバター」では、主人公ジェイク・サリーがナヴィ族に帰化し、元々所属していたRDAと戦おうとするのは、自分がナヴィ族と親密な関係を築き友好的な交流を目指したにも関わらず、RDAが一方的に侵略したからである。これによって、視聴者は自分たちと同じ人間を敵と認識し、ナヴィ族に帰化したジェイクたちに共感することができる。
本作では、RDAがパンドラに対して悪事を働いていることは大前提でストーリーが進む。映画で描かれたことをプレイヤーが知っており、その流れを引き継いだままナヴィに共感してくれることを期待されているような感じだ。しかし、ゲームである以上、プレイヤーがRDAと戦わなければならない理由や動機は、プレイヤーの体験によってもたらされるべきだろう。こういったひと工夫があれば、ストーリーが単調に感じることも少ないと思う。
ナヴィの悲痛さは十分伝わるストーリーだが、プレイヤーに感情移入させるという点では若干弱く感じた
こういった理由から、プレイヤーはナヴィのパンドラ解放戦線の野望に付き合わされているような感覚が終始付きまとい、ストーリーは徐々に盛り上がっていくもののプレイヤーが熱中するのに時間がかかるのではないかと感じた。
ちなみに、サイドクエストを余すことなくプレイし、オープンワールドをていねいに遊んでいけば、非道なRDAの所行が明らかになっていき、RDAに対する敵対心は自然と沸いてくるようになっている。ただし、そこまで時間をかけずに遊びたいプレイヤーにとっては、感情移入してプレイするには難しいかもしれない。
本作は、「アバター」という題材の理解度によってストーリーへの没入感に差を生む結果となってしまっており、ジェームズ・キャメロンが描いた映画「アバター」のストーリーに対し、ゲームというメディアだからこそ描けるストーリーには到達できておらず、ここに物足りなさを感じたというのが本音だ。
「アバター:フロンティア・オブ・パンドラ」が、映画再現型のオープンワールドゲームとして特別な作品になっているとは言えず、ゲームプレイも「ファークライ」シリーズを中心に往年のMassive Entertainment作品から流用されている部分が多いのも間違いではないと思う。
しかし、「アバター」の世界をマイペースに探索し、さまざまなアクティビティーを堪能していくゲームプレイにはオープンワールドゲームの魅力である、のんびりマイペースに楽しんでこそ伝わる味わい深さが間違いなくある。それが、「アバター」の世界を冒険する楽しさを高めるのに貢献している。原作ファンには、「アバター」の世界をより深く知り体験したいという意味でも間違いなくおすすめできる作品だ。
ただし、これ1本で「アバター」の魅力がすべて包括されているとは言い難く、「アバター」になじみがない人にはあまりおすすめはできないため、「アバター」のファンゲームに留まってしまっているようにも感じた。