セガを代表する人気ゲームシリーズの最新作「龍が如く8」が2024年1月26日に発売された。発売後1週間で世界累計販売本数が100万本を突破したうえ、ユーザー評価も高い話題のタイトルだ。
この「龍が如く8」をストーリークリアまでプレイしたのでレビューしていこう。ちなみに、本作はボリュームが非常に多く、やり込み要素をおおよそ最後までプレイ(トロフィー達成率82%)しての全クリに要した時間は100時間を超えた。
ストーリー優先でプレイすれば40時間ほどでクリアできそうだが、アクティビティーをやり込むほどメインストーリーの深みが増していくため、サクッとクリアするという選択は容易に取れない。
なお、本レビューはストーリーに関する記述を含むため、場合によってはネタバレに感じられる可能性がある。その点は注意して読み進めていただきたい。
「龍が如く8」は、セガの龍が如くスタジオが開発するアクションアドベンチャーゲーム「龍が如く」シリーズのナンバリング8作目となるタイトルだ。バトルシステムは、前作「龍が如く7」から引き続きコマンドRPGシステムを採用。舞台は新マップのハワイで、ハワイらしいさまざまなアクティビティーが登場する。
主人公は前作「龍が如く7」から登場する春日一番と、初代から「龍が如く6」まで主人公を務めた桐生一馬のダブル主人公形式で描かれ、「龍が如く7」の続編としての特徴を強く保持しながらも、これまでの「龍が如く」作品で描かれなかった要素がふんだんに取り入れられている。
次章からは、ゲームの各要素に触れていき、「龍が如く8」の魅力を掘り下げていく。
本作最大の目玉は新マップのハワイだろう。歴代マップのなかでもトップクラスに広いだけではなく、ビジュアルにも徹底的にこだわっている。グラフィックにおいてもPS5版は今世代機基準に向上しており、青空と美しい海が広がる常夏の楽園を見事に表現している。
新マップのハワイは作り込みが非常に豪華で、歴代随一の完成度
そんな最高のマップに、長い時間遊べるやり込み要素がふんだんに盛り込まれているのだ。かつ、ストーリー後半に入ると伊勢佐木異人町と神室町を自由に探索できるようになり、この3マップに詰め込まれたアクティビティーが遊べる。
アクティビティーも「龍が如く」らしいユニークなものが多く、バイト感覚でお金を稼げる「クレイジーイーツ」や、女性とチャットしてデートできるマッチングアプリなどの新規要素だけではなく、主人公・春日の人間力を上げられる資格検定や、各仲間との会話が楽しめる絆ドラマなど、前作から継承されているアクティビティーも登場。シリーズ特有のコミカルなサイドストーリーも50個以上用意されており、やり込み要素は非常に豊富だ。
マッチングアプリは成功すると女の子とのデートイベント(中)が発生するが、サクラ(下)に騙されることもある
本作でもとりわけ重要だと感じたアクティビティーが「スジモンバトル」「ドンドコ島」「エンディングノート」の3種類だ。この3つはどれも外せないのでひとつずつ紹介しよう。
まずは「スジモンバトル」。「スジモン」とは前作から登場していた要素で、街中でエンカウントする敵達を“スジモン”と呼称する博士が現れ、春日たちが彼のスジモン研究に協力するという内容だった。
前作では「スジモン図鑑」という図鑑を埋めていくゲームプレイに留まっていたが、今作ではスジモンを集めるファイター同士でスジモンを戦わせる「スジモンバトル」が追加されたのだ。
「スジモンバトル」は互いに6体のスジモンを場に出して勝負するゲーム
この「スジモンバトル」が予想以上に面白かった。対戦相手のファイターは街のどこにでも現れるので気が向いたときにいつでも「スジモンバトル」を楽しめるだけではなく、四天王と呼ばれるボスファイターを倒すたびにレベル上限が解放されていく。
街中でエンカウントする敵はスジモンとして捕まえることができ、進化や覚醒システムもある。さらに「スジモンガチャ」というガチャが存在し、レア度の高いスジモンを当てるよろこびも感じられるように設計されている。ガチャを引くために必要なチケットは、「スジモンバトル」の報酬やショップで手軽に手に入るため、自然にのめり込んでしまうのだ。
ガチャや覚醒、進化システムまで用意されており、スジモンの収集や育成が予想以上に面白かった
育てたスジモンはバトルで活躍するだけではなく、後に解説する「ドンドコ島」でも役立つなど、副次的なメリットが用意されている。本作の「スジモン」は育成シミュレーションゲームとして単純にクオリティーが高く、いうなれば「ポケットモンスター」と「パズル&ドラゴンズ」のいいとこ取りという印象だ。
こんなおっさんたちをなぜ育てたいと思うのか? 自分でも不思議だったが面白いのだ
次は「ドンドコ島」。「ドンドコ島」は、ゴミの不法投棄によって汚染され廃れてしまったドンドコ島をリゾート地に発展させる島運営型シミュレーションゲームだ。
最初はゴミだらけのエリアを整地していき、木や石材、プラスチックなどの素材を集めて作る家具や建物を配置して島の充実度を上げていける。充実度を上げてリゾートランクを上昇させると、その都度新しいエリアが解放され、探索できる場所や配置できるモノの数が増える。
DIYでビルまで作れる
ゼニーと呼ばれる島特有の通貨システムも面白い。最初は魚や虫、鉱石などを売って稼ぐのだが、ある程度進むと島にリゾート客を招待することができるようになり、彼らから宿泊費や施設の利用費を払ってもらうことでより効率的に稼げるようになる。
島を発展させればさせるほど大量のゼニーを稼ぐことができ、その一部はメインマップで使用できるドルや円としても還元される。中盤時点で重要な金策用アクティビティーとして本作は機能しているわけだ。
宿泊客を招待して商売ができるようになれば一気にゼニーが稼げる
しかし、重要なのは「ドンドコ島」が単なる金策向けアクティビティーに留まっていないことだ。物語後半に入ると、通常バトルで手に入る金銭報酬もグンと上がるので、金策として「ドンドコ島」を遊ぶ必要が少なくなる。
それをわかっていながらも筆者は「ドンドコ島」で10時間以上遊んでしまった。なぜなら、自分好みのリゾート地を作っていくプロセス自体が本当に楽しいからだ。
最初はゴミだらけの島(上)だが、遊び続けると自分好みのリゾート地を作れるのが楽しい(下)
「ドンドコ島」のDIYで作成できるオブジェクトは非常に豊富で、自分好みの飲食街や風俗街まで作ることができる。離れのエリアは宿泊施設専用にしたり、別のエリアは農場にして素材集め専用にしたりなど、プレイヤーの理想とするリゾート地を作れる。島作り的なゲームデザインに加えて、リゾート地特有の経営シミュレーションゲーム的な要素が組み合わされているわけだ。
先述の「スジモンバトル」も純粋な育成シミュレーションゲームとして楽しめたように、本作のミニゲームは何かしらのメリットに突き動かされているのではなく、純粋に「それで遊びたい」と思わせてくれるクオリティーだ。
一見すると、どこかで見たゲームのパクリと感じられるかもしれないが、それでも「龍が如く8」のアクティビティーは単体で面白いと思わせるだけのポテンシャルを秘めていると思う。
最後に紹介するアクティビティーは「エンディングノート」。これはストーリー後半に始まる桐生をメインに操作するイベントの数々のこと。異人町と神室町という、シリーズで思い出深い2つの街を散策していると、桐生の過去を振り返るイベントや、桐生に関係のある人物に会いにいくイベントが楽しめる。
桐生が思い出の地で過去を振り返る
トレーラーで明かされていたのだが、本作の桐生は末期がんを患っている。余命半年という寿命のなかで自分にゆかりの深い地をひとつずつ巡っていくのだ。
残された人生でやりたいことを存分に楽しむ桐生と、それに全力で付き合う仲間たちの姿はただただエモい
「エンディングノート」は過去作を遊んだプレイヤーにとって懐かしく郷愁的な体験となるいっぽうで、あまり遊んでこなかったプレイヤーにとって桐生の一生について詳しく知ることができるイベントだ。
「エンディングノート」の数は約80個と非常に多く、すべて回るのに10時間程度はかかる。それでもすべてを回らないと気が済まないと思わせてくれる。このイベントを見ずして本作で桐生一馬に待ち受ける運命に立ち会うわけにはいかないと、アクティビティー自体にそう思わせてくる力強さがある。
本作のバトルは、前作から引き続きコマンドRPGシステムが採用されたいっぽうで、前作からの進化も見られる。そのひとつが新しい追加されたジョブだ。
ゲームの進行度に応じてさまざまなジョブを解放していき、プレイヤーの好きなタイミングでジョブチェンジを行う。格種ジョブランクを上げていけば新たな技が解放され、より戦略の幅が広がるのは前作と同様だ。
マリンマスター(上)やワイルドダンサー(中)、くノ一(下)など、ユニークなジョブが多数追加された
ここに新しいジョブが追加されることで多彩な戦闘が楽しめるようになったというわけだ。そもそも、コマンドRPGシステムの利点は、雑魚敵との集団戦を一瞬で終わらせられること。敵全体に大ダメージを与える技を使用すれば、一瞬でバトルが完了する。従来の喧嘩アクションではひとりずつ殴っていかなければならなかった作業が、ボタンひとつで完結するスムーズさこそがコマンドRPGシステムの売りである。
強力な極技や絆技を習得すれば一瞬で戦闘を終わらせられる
「龍が如く」と言えば喧嘩アクションバトルのイメージが強いため、前作から続くコマンドRPGシステムは邪道に見られることもある。しかし、本作のコマンドRPGシステムは、簡略化を多彩な演出でカバーすることで、敵をぶっ飛ばす爽快感が得られるのがポイントだ。
ただし、桐生を操作するパートではアクションバトルが導入され、コマンドRPG×アクションというバトルシステムになる。絆ゲージがたまったときに使える絆覚醒によりアクションバトルへと移行するのだが、時間制限が設けられており、アクションバトルを楽しむ時間が短い。
そのため、桐生のアクションバトルはコマンドバトル中に楽しめる要素のひとつの範疇を超えず、絆ゲージが溜まるととりあえず発動しておくくらいの重要度であり、画期的なバトルシステムとは感じられなかった。この点は、本作のバトルで少し残念だった点だ。
「龍が如く」と言えば、ドラマチックな展開が目白押しのストーリーにも注目だ。ましてや、本作はシリーズ初のダブル主人公形式で描かれているため、従来の作品にはなかった切り口や展開が印象的だった。
本作の物語は主人公の春日がハローワークで働き、元暴力団たちの社会復帰を手助けしているところから始まる。前作からの仲間が新たなビジネスを始めていたり、想い人へのプロポーズだったりなど、前作から3年経った春日の現在を序盤から非常にていねいに描いてくれる。
そして、物語は告発系YouTuberにデマを流され大炎上し、春日や仲間たちが職を失うという急展開を迎える。積み上げたものが一瞬で崩壊してしまった絶望のなか、とある人物から春日の母親がハワイで生きていることを告げられ、ハワイに飛び立つことになる。いわば、物語の導入パートだが、なんと4〜5時間かけて展開されるのだ。
桐生と合流する春日
しかも、もうひとりの主人公、桐生と合流するまでだとゲーム開始から6〜7時間もかかる。一般的なゲームであれば、この間にプレイを止めてしまってもおかしくないくらいの長さだ。
しかし、本作からはこういったリスクに対して一切の躊躇を感じさせない。ハワイからゲームが始まるのではなく、春日がハワイに行くことになった経緯をしっかり描くことによって“どん底から這い上がる”をテーマにする春日という男をより深く理解できるようになっている。
そして、新しい仲間との出会いやハワイの裏社会との攻防、水面下で進むとある陰謀に近づきながら物語は進むのだが、後半に入ってもうひとつの急展開を迎える。後半以降は、序盤にサブキャラのような立ち位置だった桐生の主人公感が一気に増してくる。
あまり多くは語れないが、残されたわずかな時間で自分の使命をまっとうしようとする桐生と、陰謀に決着をつけようとする春日という2つの軸で進む物語は、興奮せざるを得ない激アツな展開で描かれる。
春日と桐生の物語を描きながら、ドラマチックな急展開や各キャラクターに隠された人間像、何重にも重なる伏線回収を駆使し、長時間の物語に耐える没入感を実現している。ボリューム的な満足感を目指しつつも中だるみはさせない。シリーズ集大成を目指す制作陣の本気度が非常に伝わってくる完成度の高さだった。
「龍が如く8」は、シリーズ最高レベルのボリュームであると同時に、歴代作品の総決算のような役割を果たしており、圧倒的に重厚な物語と、エモさで構成されたぜいたくな作品だ。
ただし、本作を十分に楽しむには「龍が如く」という作品への理解度がかなり求められる。特に「龍が如く7 光と闇の行方」と「龍が如く7 名を消した男」のプレイは必須だと感じる。せっかくボリューム大の本作を楽しむのであれば、この2作品を遊んだほうが無難だろう。