PlayStation 5専用のタイトル「Rise of the Ronin」がSIEより2024年3月22日に発売された。50時間ほどかけて全クリまでプレイしたので、そのレビューをお届けしよう。なお、本記事ではストーリーに触れており、場合によってはネタバレに感じられる可能性があるので、その点だけ注意して読み進めていただきたい。
本作は、コーエーテクモゲームスの開発スタジオTeam NINJAが手掛けた、幕末を舞台にしたオープンワールドゲームだ。Team NINJAは、これまでに「仁王」シリーズや「Wo Long: Fallen Dynasty」といったタイトルなど、ソウルライクな特徴を持つゲームを多く手掛けてきた。本作においても、その経験がいたるところで生かされており、”死にゲー”的な要素を盛り込んだゲームデザインになっている。
本作は、幕末の時代が舞台のオープンワールドゲーム。主人公が誰の下にも付かない自由な浪人として幕末を生き抜く冒険劇を描いている。PS5専用タイトルであり、美麗に再現された幕末のオープンワールドや、Team Ninjaの経験が存分に生かされた戦闘やアクション、そしてプレイヤーの選択が展開に影響を与えるストーリーデザインなどが特徴だ。
次章からは各要素について掘り下げていこう。
本作で特筆すべきなのがストーリーだ。日本史上最も暗かった時代としての幕末を史実に基づきながら描くというコンセプトを掲げている。
ゲーム開始時に男女それぞれひとりずつ主人公となるキャラクターを作成するのだが、この2人が故郷を焼き払われ、隠し刀と呼ばれる2人組の戦闘兵に育てられるところから物語は始まる。
そして、とある事件をきっかけに片方が死別してしまう。生き残った主人公は、自身の片割れがまだ生きていると信じ、その足取りを追うため誰の下にも属さない自由な浪人として幕末の世に旅に出る。さまざまな人物と交流を深めながら、幕末を生き抜いていくのがストーリーの大筋だ。
プレイ前は、幕府という組織をゲームの中の悪者・倒すべき対象として描く、テレビドラマや映画などでもおなじみの“倒幕モノ”という印象だった。ただし、個人的には幕府を悪として描くストーリーは一方的な視点であり、その後の戊辰戦争で新政府軍が勝利したからこそ大衆に響きやすくなったものだと感じる。そのような「勝てば官軍負ければ賊軍」的な歴史観を”史実”と銘打ってゲームという作品にしていいのかと懐疑的な部分があったのだ。
しかし、いざフタを開けてみると「Rise of the Ronin」は筆者の予想を裏切ってきた。物語がある程度進むと、倒幕派と佐幕派(幕府側に味方する派閥)の2つの派閥が登場し、どちらに協力するかをその都度選んでいくようになる。倒幕派と佐幕派の両方で“因縁”の人間関係が発展していくのが面白いうえに、登場人物もほとんどが実在した偉人たちなのだ。
序盤の横浜では、倒幕派として桂小五郎、高杉晋作、久坂玄瑞らと交流でき、佐幕派としては村山たか、福沢諭吉、ペリーらと交流できる
もちろん、街で横暴に振る舞う幕府の役人と戦うシーンが登場するし、幕府の腐敗や過激な弾圧なども描かれる。いっぽうで、倒幕派の悪事もしっかり描いているのが重要な点だ。
黒船来航から薩長同盟にいたるまでの期間、倒幕派は尊王攘夷(そんのうじょうい)という思想を元に各地で活動していた。攘夷とは「異人を日本から追い出す」という意味であり、表向きは日本を異国から守るという活動だった。
しかし、異国と交易し友好な関係を築く幕府に反対の姿勢を貫く攘夷志士は、商人や一般人であっても西洋人を見境なく襲撃、殺害するという過激な行動をとるようになる。これもまた歴史で実際に起こった話であり、本作ではこのような攘夷志士とも戦うことになる。
ストーリーの中でも面白いポイントは、主人公の戦う相手が状況によって幕府、倒幕派、異人と変化することだ。ストーリーを進めながら、それぞれの立場の視点を通すことによって、幕末という混乱期の時代情勢がより鮮明に見えてくる。
しかも、場合によっては仲間として行動していた人物と斬り合わなければいけなくなったりするため、誰の味方をするか? 敵対するのか? という選択が常に重要になり、プレイヤーを悩ますことになる。
序盤こそ幕府の大老・井伊直弼の圧政に反抗する倒幕派と行動し、彼らに寄り添いながら進むが、とあるタイミングでそれが逆転する。誰の味方でもない自由な浪人という主人公の立場だからこそのめり込める幕末冒険劇が、本作では味わえるのだ
ゲームである以上、史実からの改変や脚色は見られるし、重大な事件や人物すべてに触れているわけではない。そういった意味では、本作の物語もひとつの歴史観に過ぎず、本質はあくまでファンタジーとして見るべきだろう。
しかし、その時代を生きた人物の立場から幕末を俯瞰するという物語の構造は、歴史を多角的にとらえるという立ち位置を貫いており、プレイヤーに選択の余地を与えるゲームだからこそ描けたと言えるだろう。
次は、本作におけるオープンワールドのゲーム性をレビューしよう。セミオープンワールド形式のフィールドデザインを採用しており、江戸、横浜、京都などのマップが登場。PS5専用タイトルとしてはグラフィックのテクスチャが若干粗いが、PS5の光学表現、レイトレーシングによって幕末の世界が美麗なオープンワールドとして再現されている。
序盤のマップである横浜は、日米修好通商条約(1858年)によって正式に開港されたばかりの港町。19世紀前半まで小さな漁村に過ぎなかった横浜の発展途上を描いている。多くの西洋人が訪れるようになったことで西洋風の建物が町中に建てられ、伝統的な日本家屋と西洋風景が交じり合う、この時代ならではの風景が楽しめる。
和と洋が混在する横浜
江戸は、元禄時代に花の都として栄華を誇った面影を残しつつも、中心街から離れるとコレラ患者が放置されているなど、政治の混乱期であった幕末の様相をリアルに反映したデザインになっている。
かつて花の都として栄華を誇った江戸には、荘厳な遊郭が再現されている
本作では、各マップが地名ごとにエリア分けされており、各エリアの因縁を深めると新たなクエストが発生したり、マップ情報が判明したりする仕組みになっている。新しいエリアを解放しながら、アクティビティを周っていくのが主なオープンワールド探索となる。
アクティビティややりこみ要素は、登場人物との因縁を上げて受注できるサイドエピソードを周るのが主になる。それに加えて、各地の治安改善、お尋ね者の征伐、流鏑馬・射撃・滑空といったミニゲームなども豊富に用意されている。
筆者がやり込み要素の中で最も気に入ったのは猫収集クエストだ。これは、各地に散らばった猫を探し出すという一見普通のサブクエストだ。
筆者がハマった猫収集クエスト
猫や動物と触れ合うというのは、昨今のゲームでトレンドとも言えるが、多くの場合は猫を撫でるというかわいいアクションが発生して終わりだ。しかし、本作では、猫を見つけることの対価が用意されており、強力なスキルを解放するのに必要なアイテムでさえ手に入る。かわいいだけで終わりではなく、プレイヤーにメリットをもたらすやり込み要素になっているというわけだ。
猫だけではなく、犬とも触れ合える。ちなみに、犬はアイテムを取ってきてくれるというメリットがある
良質な物語と、しっかりと作り込まれた幕末オープンワールドにより、ゲームへの没入感は非常に高く、それとともに序盤に抱いていたグラフィックの粗さが気にならなくなり、細部まで作り込まれたディテールの美しさを感じられるようになった。
最後は本作の戦闘、アクションについて語っていこう。本作の戦闘は、武器の種類や派生技によって繰り広げられる剣技アクションが主だ。死にゲーのゲームデザインが採用されており、たとえば全回復ポイントに触れると敵が復活したり、敵に敗北すればそれまで獲得した経験値などを消失する。そのため、本作の戦闘は基本的にシンプルなボタン操作だけで勝てるものではなく、プレイヤーのアクションスキルが一定量求められるものになっている。
ただし、一般的な死にゲーとは違い本作は難易度の変更が可能だ。難しいと感じれば敵の強さを即座に下げることができるほか、任意のタイミングでセーブスロットを作れるため、どのタイミングからでもやり直せる。表面的なデザインこそ死にゲーっぽさが見られるものの、本質的には異なるジャンルに当たる。そのため、アクションゲームが苦手な人でもチャレンジしやすいだろう。
本作の戦闘は、敵の攻撃のタイミングに合わせて技を発動し、それにより敵の気力ゲージを削る。その気力ゲージがゼロになると、大ダメージを与えられる。これが戦闘の基本だ。敵の攻撃を見極め、タイミングをひたすら読むことが重要な戦闘デザインになっている。
ほかにも、天・地・人それぞれのタイプを切り替えることによって有利不利が変わる“流派”システムが存在し、いかに流派をうまく切り替えられるかが重要。また、メイン武器のほかに装備できる副武器は、それぞれでまったく違う特性を持っており、状況に応じて使いわけることでアクションの幅が広がっていく。
刀や太刀などのメイン武器は約10種類用意。装備する武器によって異なるアクションが楽しめるほか、遠距離武器と組み合わせることでまた違った技を発動させることもできる。
主武器や、副武器との組み合わせによって異なるアクションが楽しめる
タイミングを合わせて技を仕掛ける爽快感と、多彩なアクションビジュアルによっていろいろな武器や戦法を試したくなり、飽きの来ない戦闘デザインと言える。
ただし、本作の戦闘には気になる点がいくつか存在する。その中でも致命的だったのが、CPUのAIが脆弱なことだ。敵に発見されると近接戦闘になるわけだが、敵に見つかっても付近にいるほかの敵がまったくこちらに気付かず棒立ちしているときがあった。ほかにも、敵に攻撃を仕掛けたのに、ほかの敵がまったくこちらに注意を向けなかったり、隠密での行動時に味方が敵の前を素通りしたりといったことが多々見受けられた。
こういったAIの脆弱性はゲームへの没入感を削いでしまっている。昨今のAAA級タイトルと比べると、正直完成度が低く見えたので、改善していただきたいところだ。
「Rise of the Ronin」は、特定の人物や派閥にスポットを当てる英雄伝的な作品とは違い、幕末をより多角的にとらえ没頭することができる作品だ。ぜひ、幕末全般に興味がある人に遊んでいただきたい。今まで知らなかった幕末の一面に触れることができ、勉強として楽しむこともできるだろう。
ただし、難度の高い死にゲーを期待する人にはあまりおすすめできない。難易度がゲームの根幹になっている作品ではないので、そこに楽しみを見いだす人にとっては期待通りのゲームにはならないかもしれない。