レビュー

現代最高峰のRPG! GOTY受賞「バルダーズ・ゲート3」は何が面白かったのか?

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

2023年のGame Of The Year(The Game Award 2023)に輝いた「バルダーズ・ゲート3」。数々のRPGをプレイしてきた筆者にとっても5本の指に入るほどの名作であり、おそらく今世代ゲームの最高傑作と言ってほぼ間違いないだろう。

今回はそんな「バルダーズ・ゲート3」 のSteam版を100時間以上かけてクリアした筆者の感想を基にレビューしていこうと思う。一部表現を除きPS5版とほぼ相違ないのでPS5ユーザーもぜひ参考にしていただきたい。また、本記事はストーリーに触れており、場合によってはネタバレに感じられる可能性があるため、その点は注意していただきたい。

「バルダーズ・ゲート3」とは?

本作は「Divinity」シリーズを代表に、ストラテジー系のゲームを長年手掛けてきたベルギーのゲームスタジオ Larian Studios の作品。1974年に発売され、欧米で社会現象になっただけでなく、その後のゲーム文化に絶大な影響を与えたTRPG(テーブルトークRPG)「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下D&D)の世界がベースになっている。

ゲームシステムも実際のTRPGの仕組みそのままに、あらゆる現象がダイスの目によって決まっていく点や、膨大に用意されたアイテムや呪文・能力値など、まるで原作のD&Dを最新ゲームとしてそっくりそのまま再現したような作品になっている。

本作の魅力の大前提は、壮大なD&Dの世界を、ビデオゲームとして作り上げ、TRPG的なゲーム性を忠実に落とし込んだことだ。しかし、その奥深さは単にTRPGの世界を可視化できるようにしたことには留まらず、より洗練されたRPGとしての価値が内包されている。

ここからはより詳細な本作の魅力について掘り下げていこう。

あらゆる現象を決定するダイスシステム

まずは、本作の肝となるダイスシステムについて解説しよう。先ほども述べたとおり、本作はあらゆるゲーム内の現象がすべてダイスによって半ばランダムに決まっていき、ストーリー・戦闘・探索あらゆる局面が無限のパターンに展開していく。

ダイスは1〜20の目が出る正二十面体であり、プレイヤー自身が振るもの、ゲームの裏側で勝手にシステムが振っているものの両方があるのだが、その出目によってプレイヤーの可能、不可能が決定される。

最もわかりやすいのは宝箱や扉の鍵開け、罠の解除などのギミックだ。ゲーム内で登場する鍵は”盗賊の道具”という専用のアイテムで開けられるのだが、鍵開けを成功させるにはダイスを振って目標値以上の数を出さなければならない。罠解除の場合も同様だ。

基本的にプレイヤーは、このダイスで有利な出目が出るようにキャラクター育成やスキルを選択していかなければならない。しかし、これに対応するうえで興味深い点が2つ用意されている。

1つはダイスによるゴリ押し的な攻略が可能なことだ。ギミックによってはダイスの目標値が極端に高く設定されているものがあり、これはより難易度の高い現象につながっていることや、クリアするためにはほかの方法を見つけなければならないことを示唆しているのだが、逆にいうとダイスでよい出目さえ出せばクリアできることになる。

本作はキャラクターの種族・職業による特性やゲーム内で獲得できるスキルなどをとおしてダイスの出目を水増しできたり、サイコロを2個振っていい出目のほうを採用できたりする。これらをフル活用することによって、スキルなしでは絶対に達成できないダイスイベントも、ゴリ押しで突破することが確率上可能になる。

ダイスの出目が有利になるボーナススキルは豊富に用意されており、これらを駆使すれば難易度の高いダイスイベントも高確率で突破できる

ダイスの出目が有利になるボーナススキルは豊富に用意されており、これらを駆使すれば難易度の高いダイスイベントも高確率で突破できる

もう1つは、ゲーム内でいかなる時点においてもセーブが可能なことである。これによって重要なダイスイベントの直前でセーブしておけば、仮に失敗した場合でもロードするだけで簡単にやり直せる。

極端なはなし、よい出目が出るまでロードを繰り返せば必ずクリアできる。ただし、実際によい出目が出るまでひたすらロードを繰り返すゲームプレイは、テンポを著しく損なうので実践しないことがほとんどで、スキルを育てていくのがセオリーだ。ただし、セーブさえしておけばいつでもやり直せる保険が用意されているのは、本作の魅力を語るうえで重要な点だ。

面白いのは、充分な準備をしてきたにもかかわらずダイスイベントで失敗して敵対したくないキャラクターと敵対してしまうなど、期待とまったく違う展開が突如起こることだ。この時点でやり直すかそのまま進むかはプレイヤーの自由なわけだが、プレイヤーの予定調和が不意に崩れた瞬間、自分の想像の範疇にない未知の展開を知ることになる。このダイスシステムこそ、本作の根幹となっており、RPG的な面白さを何倍にも増大させているのだ。

プレイヤーの自由度が高すぎるストーリーや攻略

本作は非常に自由度が高いが、それを象徴するのは、ストーリー展開の豊富さだろう。本当に物語の展開が無限なのだ。メインストーリーこそあるものの、その過程を歩むなかで起こる展開は、プレイヤーによってまったく違うものを味わえると言っていい。

本作の物語は主人公がマインドフレイヤーという怪物に寄生生物を埋め込まれ、同じく寄生生物を埋め込まれた仲間キャラクターたちととらえられた船から脱出するところから始まる。

物語冒頭、マインドフレイヤーに寄生生物を埋め込まれる主人公の目線

物語冒頭、マインドフレイヤーに寄生生物を埋め込まれる主人公の目線

用意された仲間キャラクターから1人選んで主人公とするか、自身で主人公を作成するかを選べるようになっている。寄生生物を埋め込まれた者同士がテレパシーのような力で通信できることを知った主人公たちは、マインドフレイヤーの謎に迫るため“バルダーズゲート“を目指すというのが物語の大筋だ。

筆者が作成した主人公

筆者が作成した主人公

物語の自由度を述べるうえで最もわかりやすいのは仲間に関する部分。そもそも仲間キャラクターを仲間にしなくてもよいだけでなく、物語の展開によっては裏切って殺害することすらできる。

さらに、途中加入する仲間キャラクターに関しても面白い仕掛けがある。途中加入可能な仲間キャラクターは何人かいるのだが、そのキャラクター同士が敵対関係にある組織に所属していることがある。

どちらかの陣営の味方しかできないので、ストレートにプレイするとどちらかの仲間キャラクターを仲間にするのは諦めなければならない。しかし、これにも巧妙なカラクリがあり、ゲームのとある仕様を使って適切な手順でゲームを進めると、後々その仲間キャラクターが敵組織を裏切ってパーティに合流してくれるようになる。このような現象を自分で見つけ出す、あるいは調べて実践してみるのがストーリーの醍醐味だ。

本作は、キャラクターとの会話に何種類もの選択肢が発生し、どれを選ぶか、そして選んだ会話がダイスで成功するかによって相手の態度やその後の行動が変わってしまう。「説得」や「威圧」など、対人関係技能が設定されているのがTRPGの基本だが、本作でもキャラクターによって相手を説き伏せるスキルが変わってくる。

筆者の主人公のクラス(職業)は口八丁で相手をだませるバード

筆者の主人公のクラス(職業)は口八丁で相手をだませるバード

こちらの正体を暴こうとしてくる敵をうまくかわしたり、好戦的な相手を威圧して戦意喪失させたり、敵地に潜入する際は真正面から戦うのではなく、味方のふりをしてこっそり敵地内部の情報を暴いたりなど、プレイヤーの思考力とダイス力さえあれば、正攻法以外にさまざまな攻略が可能だ。

動物と会話する、手なづける能力を持っているキャラクターがいれば、巨大な野生生物と遭遇しても襲われるのを回避できる

動物と会話する、手なづける能力を持っているキャラクターがいれば、巨大な野生生物と遭遇しても襲われるのを回避できる

圧倒的な多様性を備える攻略方法と連動するように、物語もさまざまな展開を見せるので、プレイヤーの選択や行動1つひとつはシナリオを進めるのに非常に重要な要素。仲間と最善の交友関係を選択し続ければ特別な関係に発展させることも可能で、何を重視してゲームを進めるかはすべてプレイヤーの自由だ。

納得のいくシナリオ展開のために、時には10時間ほどプレイをやり直すことすら検討してしまうほど、カラクリを理解した際の熱中度は異様に高い。プレイする際はじっくり考えながら慎重にプレイしてほしい。

あらゆる要素で戦況が変わるストラテジー強めのバトル

本作の戦闘はストラテジー要素が強いターン制のバトルであり、敵味方それぞれのキャラクターが順番に行動を選択して進んでいくのだが、この部分も本家TRPGをなぞっている。

敵への攻撃が通るかはすべて確率で事前に表示されているだけでなく、ダメージ数もかなり上下の幅があり、これらもすべてダイスで管理されている。高所からの攻撃であれば攻撃成功の確率が上がり、敵からの攻撃は成功確率が下がるので有利を取りやすい。遠距離攻撃は近すぎると発動しないので適度な距離を保ちつつ撃たないと効果が薄くなるため、味方の配置や敵の行動の予測、さらにはそもそも戦闘を始めるタイミングや位置までもが非常に重要になってくる。

行動や呪文の種類は非常に多く、すべての効果を覚えることすら大変だ

行動や呪文の種類は非常に多く、すべての効果を覚えることすら大変だ

行動のために必要なリソースは「アクション」「ボーナスアクション」「呪文スロット」の3種類があり、それぞれの行動によって消費されるリソースが異なる。「アクション」「ボーナスアクション」は毎ターン回復するが、強力な技は主に「呪文スロット」の消費で使えることが多く、この使いどきが重要になる。

「呪文スロット」は1日の活動を終える”大休憩”と専用アイテム・術でしか回復しないため、考えなしで使用するとリソースが一気に枯渇して何もできなくなる。特にパーティメンバーから離脱できない主人公キャラの「呪文スロット」の管理を疎かにすると、最悪やり直しが必要になるほどだ。

火や氷・雷・回復呪文といったわかりやすいものから、ガス化・短剣の群れ・怪光線などなじみのない呪文も山ほど存在するため、各呪文の有効な使い道を網羅するには半端なやり込みでは足らない。

「短剣の群れ」は敵が必ず通る狭い通路に配置すると効果的。呪文の使い方やダイスの結果次第で戦況は一気に変わる。呪文の使いどころを見極めるのが大事だ

「短剣の群れ」は敵が必ず通る狭い通路に配置すると効果的。呪文の使い方やダイスの結果次第で戦況は一気に変わる。呪文の使いどころを見極めるのが大事だ

この手のバトルは、シミュレーションバトルゲームなどとも違う部分が多いのでライトゲーマーには特に難しく感じられるかもしれない。ノーマルモードでもかなり思考が必要なため、序盤は道中の雑魚敵との戦闘ですら人によっては苦戦を強いられるだろう。

だが、本作の戦闘はクエストやストーリーの決まった場面を除き、多くの場合で回避できることが多い。会話の際の交渉術や選択肢によって敵を欺き、素通りできるだけでなく、戦闘でクリアした際と同じ経験値がそのまま得られる。つまり、回避できる戦闘は回避して進めたほうが賢いゲームプレイになる場合が多いのが本作の面白いところだ。

選択肢とダイスの結果次第では、戦うはずの相手と戦わずに目的を達成できることも

選択肢とダイスの結果次第では、戦うはずの相手と戦わずに目的を達成できることも

戦闘を回避すると敵の持っているアイテムが入手できなかったりするので、その際は隠れ身でステルス状態になり、”スリ”を成功させればノーリスクで目的を達成できたりする。

もちろんそういった能力に特化した仲間キャラクターも存在する。ゲームクリアのために最終的には戦闘システムを理解し勝てるようにならなければならないが、戦闘は無暗にしなくてもいくらでも解決法があるのが本作の特徴であり、初心者でもなんとかなる理由だ。

よく考えないと見えてこない選択肢を模索することこそ、本作の醍醐味であるという点はここでも変わらないだろう。

総評

「バルダーズ・ゲート3」の面白さの本質とは何か? それは壮大なD&Dの世界の中で行える実験や想像にあるというのが筆者は正しいと思う。本作は原作であるTRPGのゲーム性をそのまま落とし込んでいるが、そこで味わえる楽しさは似て非なるものと言える。

通常のTRPGであれば数人のゲームプレイヤーとゲームマスターがいて、プレイヤー同士で相談しながらダイスを振っていき、数々の現象を突破してゲームクリアを目指す。そんななかで「本当はこんなことができたのではないか?」「こんな選択肢をしていればあの場面ではどうなったんだろう?」という気づきがあるだろう。

通常のTRPGであればそれを巻き戻してやり直すことはかなわないが、本作はビデオゲームであるがゆえにそれが可能なのである。より最善な選択を模索するだけでなく、あえて滅茶苦茶な選択をとってゲーム内のキャラクターの行く末を眺めてもいい。ふと気になった瞬間に過去のセーブデータに戻ってその場面をもう一度別の展開で進めてみてもいい。プレイヤーの想像力がそのままゲームのボリュームとなるTRPGを、ビデオゲームに変換したからこそ想像と実験を繰り返すゲーム性が実現された。

元々、昔のビデオゲームにおけるRPGはTRPGに基礎を持っており、なるべくそのゲーム性を損なわないようにデザインが試行錯誤された。しかし、近年はTRPGのゲーム性はどんどん削がれていき、最終的によりわかりやすくシンプルなゲーム性がビデオゲーム文化でRPGとして根付いた。

だが、ここにきて「バルダーズ・ゲート3」は現代のゲーム技術をフル活用し、もう一度TRPGのゲーム性を細部にいたるまでビデオゲーム内に復活させ、D&Dの完全再現をやり遂げた。さらにいえば、本家TRPGにすらない面白さを実現して見せた。だからこそ本作は今世代機の最高傑作であり、RPGの新たなる巨頭なのである。

ぐう実況(ゲーム紹介系YouTuber)
Writer
ぐう実況(ゲーム紹介系YouTuber)
YouTubeを中心に活動するゲーマー。PSやPCのソフトを中心にゲーム紹介をする機会が多く、同分野を専門に活動しています。プライベートでは任天堂などの作品も頻繁に遊びます。
記事一覧へ
水川悠士(編集部)
Editor
水川悠士(編集部)
デジタル系メディアから価格.comへ。スマホ、スマートウォッチなどのガジェット周り、ゲーム関連を担当。触ってきた製品は数えきれないほど多いです。価格.comマガジンのYouTubeにも出演中。
記事一覧へ
記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
本ページはAmazonアソシエイトプログラムによる収益を得ています
関連記事
SPECIAL
ページトップへ戻る
×