2024年11月14日、HD-2D版「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」が発売された。PS5版をストーリー全クリまでプレイしたのでレビューしていこう。なお、本記事はストーリーについても触れており、場合によってはネタバレに感じられる可能性があるので、注意して読み進めていただきたい。
本作は1988年にファミリーコンピュータで発売された「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」(※以下、「ドラクエIII」)のリメイク作。ファミリーコンピュータ版の「ドラゴンクエストIII」はゲームシステム的にも物語的にも、その後のシリーズの基礎を築いた作品であり、西洋RPGと国産RPGの袂を分かったという意味でも、国産RPGの真の金字塔と呼ばれる超名作である。
本作ではHD-2Dというドット絵と3DCGが融合したグラフィック表現がフル活用され、ゲームシステムの基本こそ変わらないものの「ドラゴンクエストIII」の世界がさらに美しくよみがえった。ここからは実際にプレイした感想を交えつつ、評価を掘り下げていこう。
第一印象として抱いたのは「ドラゴンクエストIII」自体が現在プレイしても驚くほど面白いということだ。この感情はゲームクリアまで一瞬も途切れることがなかった。筆者にとってある意味いちばんの裏切りだったかもしれない。
筆者が「ドラゴンクエストIII」(スーパーファミコン版)をプレイしたのは20年以上前だが、ゲームを進めるほどに幼少期の情景がよみがえってくる。ヒントや誘導が限られている昔ながらのRPGゆえに、町中の人に話しかけ、行ける場所をしらみつぶしに捜索し、プレイヤー自身が想像と思考を駆使して物語を進めていくやりごたえは今もまったく色褪せない。スーパーファミコン版をプレイしているとはいえ、やはり忘れている部分も多いので、物語の展開を覚えていてもキーアイテムの場所探しや謎解きは改めて新鮮な気持ちで挑めた。
物語を進めるうえでの重要ポイントはマークで表示されるが、そこにいたるまでの道はプレイヤー自身で考えなければならない
ちなみに、次に行かなければいけないポイントを表示してくれる目的地マーカーが実装されている。筆者は一度も使用しなかったが、昔ながらのRPGに不慣れな人にはありがたい要素だろう。
ラスボスは主人公のレベルが45前後あれば十分撃破できるはずなのだが、仲間をダーマの神殿で転職させまくってあらゆる呪文や特技を習得した最強パーティを作り上げたり、レベル上げのためにはぐれメタルを狩りまくったりといったゲームプレイの達成感は現在でも健在だ。
はぐれメタル撃破の瞬間
子どものころはすべての仲間に「めいれい」してていねいにプレイしていたコマンドバトルも、HD-2D版『DQIII』では自分で考えた最強パーティを作り上げ、「さくせん」で行動をオート化し「たたかう」ボタンを押すだけで基本的なバトルに対応できる状況を作ることも可能だ。現在プレイしても幼少期と同じかそれ以上に楽しめた。
ここからは新要素によってより鮮明になった点や、遊びやすくなった点について述べていこう。まず印象的だったのは、重要なシーンでは画面が切り替わり、演出が豪華になっていることだ。
加えて、キャラクターボイスが付いたことで各キャラクターの心情もより直感的に伝わってくるため、名シーンがさらに熱くよみがえっている。重要な敵キャラクターのボイスが大物声優さんであることもうれしいポイントだ。名シーンがどのようによみがえっているか、楽しみにしながら物語を進めるのも、ゲームをプレイする大きなモチベーションだったと思う。
ほかにもフィールドやマップビジュアルが繊細な描写で生まれ変わったことによる新鮮さも大いに感じられた。ファミリーコンピュータ版では簡易的なドットと、使い回しのモニュメントで作られていた地形や建物などもすべて1つひとつ作り直され、本来の見た目らしく刷新されている。
また細かな描写にも力を入れており、廃墟の中を這い回るネズミや砂漠に舞う砂埃など、ドットでは描写不可能であったディテールもしっかり描かれている。ビジュアルの新鮮さはゲームを進めていく楽しさを最後まで後押ししてくれた。
また、ゲーム全体を遊びやすくするいくつかの新要素も印象に残った。ワールドマップ内にはプレイヤーの目を引くような木や岩などが用意されており、近づくと「ひみつの場所」という別マップに入ることができる。
ワールドマップ内で時折見かける不自然に目立つ木
そこでタルやツボなどの中からさまざまなアイテムをゲットできるのだ。さらにマップ内にはキラキラ光る場所が表示されており、そこでアイテムを拾える。このアイテムは意外と強い装備だったり、レア度の高いアイテムだったりするので、探索を念入りに行えば武具屋や道具屋をあまり利用しなくても大丈夫な設計になっていた。装備などを揃えるための金策の重要度が、ファミリーコンピュータ版や過去のリメイク版より調整されているので遊びやすくなったと言える。
ワールドマップ内のキラキラ。ここでレアアイテムを入手できることも
バトルにおいても遊びやすくなった要素がいくつもある。たとえば、バトルが終わるごとにオートセーブが入るため”ぜんめつ”するリスクが少なくなった。ファミリーコンピュータ版やスーパーファミコン版などの場合、”ぜんめつ”すると所持ゴールド半分と引き換えに教会で復活するか、冒険の書からやり直すしか選択肢がなかったのだが、オートセーブによって”ぜんめつ”直前からやり直せるので、立て直しやすくなっている。
とらえようによっては緊張感がなくなった部分とも言えるが、現代ゲームとしてはストレスを軽減するという意味でユーザーフレンドリーな改良だと思う。バトルの速度も3段階で切り替えられるようになったので、サクサクプレイしたいユーザーは「超はやい」を選択して速攻で終わらせることも可能だ。ゲームテンポへの配慮もしっかり行き届いている。
バトルは、さまざまな点が調整されているものの、注目したい点が2つある。ひとつは仲間のバトルボイスだ。ルイーダの酒場で仲間のキャラクターを登録する際に、たとえばクール、ギャルなど、それぞれプレイヤーの好きな声を選べる。
さらにバトル中は呪文名や技名、かけ声などを叫んでくれるのが戦闘の熱さを倍増させる。また、武器を変えるとバトル中の武器の見た目が変わるのも、さまざまな装備を試すきっかけになっているのが面白い。
もうひとつは演出だ。序盤「メラ」や「ヒャド」など低レベルの呪文しか使えないときはそれほど感じないが、「メラゾーマ」や「ギガスラッシュ」などを発動できる終盤は、非常に激しいバトルシーンが描かれる。ゲーム全体のビジュアルが鮮明になっただけでなく、戦闘の臨場感も増したことで「ドラゴンクエストIII」の世界がさらに近く感じられるようになったと言えるだろう。
新要素として新ボスが実装されていたことにも驚いた。これまでボスが登場しなかったタイミングで新たなボスが登場するのだ。
ピラミッドに登場する新ボス「ナイルのあくま」。原作では素通りできる場所で戦うことになる
新ボスは原作をプレイしているユーザーにとってはうれしいサプライズであると同時に、なかなかやりごたえがある強さに設定されている。新ボスは複数登場するので、これからプレイする人はどこで新ボスが登場するのか予想しながらプレイしてみてほしい。
ここでは発売前から目玉とされていた2つの大型新要素について感想を述べていこう。
1つめは主人公の父「オルテガ」に関する新規エピソードだ。「ドラゴンクエストIII」の物語は主人公の勇者がまだ幼いころ旅立った父・オルテガの足取りを追いながら進んでいく。しかし、これまでオルテガの描写は王様や町の人から聞ける会話レベルに留まり、詳細を見られる場面はほとんどなかった。本作ではオルテガの過去や旅路が描かれること新規エピソードが物語の要所ごとに挟まれている。
新規エピソードではオルテガが旅路の中でどんな出会いをしたか、どのような災禍に見舞われたか、そして主人公はじめ家族に対してどのような気持ちを抱いていたかが明かされる。これは古参ファンにとっては大きな発見であり、物語を進めていく重要なモチベーションとして機能していた。
2つめはモンスター同士を競わせる新たなコンテンツ「モンスター・バトルロード」である。本作ではダンジョン内や町の中に魔性が消えたモンスターが存在しており、近づいて保護すると、各地の「バトルロード場」で戦わせることができる。なかには近づくだけでは保護できないモンスターもおり、より多くのモンスターを集めれば当然バトルロードも勝ち上がりやすくなる。
町の中にいるホイミスライム。近づくと保護できる
驚いたのは、バトルロードは金策やレア装備集めという点で有用であり、特に終盤のバトルロードでは(ネタバレになるので詳細は避ける)かなり使える装備が手に入る。バトルロードはモンスターに細かい指示は出せず“さくせん”の指定だけで戦況を乗り越えなければならないのだが、ランクS以上のバトルロードはなかなかに難しい。
回復役を入れたほうがいいのか、入れないほうがいいのか? 呪文の相性が悪いから負けたのか? など考えさせられることが多かった。しかし、報酬がどうしても欲しい装備だったため、何度も編成を考え直し再挑戦し続けた。バトルロードはゲーム全体の進行にうまくハマっていたと思う。
バトルロードでは、ざっくりとした指示だけで連戦を勝ち上がらなければならない
個人的に一点残念だったのは、バトルロードと入れ替わりでSFC版やGBC版に実装されていた「すごろく場」が廃止されたことだ。幼少期すごろくにハマった筆者にとっては思い出深い要素だ。ちいさなメダルを100枚集めると無限にすごろくが遊べるゴールドパスがもらえるのは、ちいさなメダルを集める大きなモチベーションだった。その半面、HD-2D版ではちいさなメダルを集めるモチベーションが相対的に弱まったと思う。
本作はこれまで「ドラゴンクエストIII」をプレイしたことがあるユーザーにこそ遊んでほしいタイトルだ。ゲームシステムの基本こそ大きく変わらないものの、「ドラゴンクエストIII」は本当に面白い作品だったのだと今でも再確認できるリメイク作になっている。発売前は昔のゲームなので今プレイしても退屈かと思うところも正直あったが、少なくとも約4日間で40時間)かけてクリアしてしまうほどハマった筆者にとってその不安は杞憂だった。
もちろん、原作をプレイしていなくても楽しめること間違いなしなので、初見の人もこの機会にぜひ遊んでいただきたい。