ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(以下、BAT)は、加熱式タバコデバイス「グロー・ハイパー」専用のタバコスティック「ケント」シリーズに「StickSeal(スティックシール) テクノロジー」を採用したリニューアル版を2024年10月15日に発売した。価格は1箱20本入り480円(税込)。
フラッグシップライン「ネオ」と人気の廉価ライン「ラッキー・ストライク」に続き、中間ラインの「ケント」もそのスティック先端を閉じる技術を採用したことで、「グロー・ハイパー」専用のタバコスティックは全面的にメンテナンスフリー化が終了。“安価で喫味は強いが、ニオイが少々強めでデバイスのメンテナンスも必須”という特徴はもう過去の話になりそうだ。
ロゴを含むパッケージデザインも大胆に変更し、ジェントルに変身した新生「ケント」全5種を吸い比べてみた。
【写真上段左から】BAT「ケント・トゥルー・リッチ・タバコ」「ケント・トゥルー・タバコ」【写真下段左から】「ケント・トゥルー・リッチ・メンソール」「ケント・トゥルー・メンソール」「ケント・トゥルー・ベリー・ブースト」。全国の主要コンビニ、主要スーパーマーケット、たばこ販売店、「glo & VELO オフィシャルオンラインショップ」にて販売中
“加熱式タバコデバイスはクリーニングが面倒”。その常識を2021年8月に覆したのがフィリップ モリスジャパンの「アイコス イルマ」だ。同機種の専用タバコスティックは、先端からタバコ葉がこぼれてニオイを放つことに着目し、先端を閉じることによってほぼメンテナンスフリーで使用できるようになった。
そこから約3年、BATも2024年5月に「グロー・ハイパー」専用のタバコスティックのフラッグシップライン「ネオ」シリーズから、スティック先端を閉じる新技術「スティックシール テクノロジー」を採用。メンテナンスフリーの波に乗り始めた。
その後、廉価版ラインの「ラッキー・ストライク」も2024年8月に同技術を採用。そして今回、中間価格帯銘柄「ケント」も採用したことで、「グロー・ハイパー」専用のタバコスティックの先端はすべて閉じられ、メンテナンスフリーでの運用が可能になった。
ちなみに、タバコ葉はこぼれないが、ニコチン入り蒸気はデバイスに付着するので、1箱に1回くらいはウェットタイプの綿棒で内部を拭いたほうがいい味はキープできる。
写真左が従来の「ケント」でタバコ葉がむき出しなのがわかる。写真右が「スティックシール テクノロジー」で先端がふさがれた新生「ケント」。現状先端を閉じていないのは、JTの「プルーム・エックス」用スティックのみだ(2024年10月30日時点)
2023年12月に登場した新「グロー・ハイパー・プロ」と2024年8月に登場した新「グロー・ハイパー」は、最高加熱温度を約300度に高めた「HEATBOOST(ヒートブースト)テクノロジー」を取り入れ、加熱曲線の変更などの工夫で味の出し方を大きく変化させている。
「グロー・ハイパー・プロ」登場の1か月後、マスターブレンダーによる厳選タバコ葉採用でリニューアルした「ラッキー・ストライク・リッチ・タバコ」を吸ったときの衝撃は忘れられない。当時より新機構に最適化した改革は始まっており、その洗練された味わいに心底驚いたのだ。それまでの「喫味は強いけれどニオイがちょっと」という従来の「グロー・ハイパー」のイメージを払拭する仕上がりだった。
その後の2024年7月にブレンド刷新された「ケント・ネオスティック・トゥルー・リッチ・タバコ」もウマかった。しかし、「ネオ」も「ラッキー・ストライク」も「スティックシール テクノロジー」を採用したというのに、なぜ「ケント」だけがタバコ葉をのぞかせたままなのか、と不思議に思っていた……。
そんな「ケント」だったが、もちろん忘れられていたわけではなく、今回晴れて先端を閉じたというわけ。つまり、新「グロー・ハイパー」シリーズでどの銘柄もおいしく味わう環境が整備されたのだ。
新生「ケント」は種類は少ないけれど、実力派揃い
それでは実際に味を確かめていきたい。
新生「ケント」は、レギュラー2種類、メンソール2種、カプセル入りフレーバーメンソール1種という必要最低限のラインアップ。
ちなみに、「ネオ」も「ラッキー・ストライク」もそうだったが、「スティックシール テクノロジー」非搭載のものと比較すると、搭載スティックはフタをしている分、エアフロー(空気の流れ)が阻害され、ドローが重くなっているのが特徴だ。
ドローが重くなった分、蒸気をゆっくり吸い込むことになるので味が濃く感じる
未来感丸出しだった従来デザインから少し落ち着きを取り戻した濃厚レギュラー
「ケント・トゥルー・リッチ・タバコ」は濃厚タイプのレギュラーで、「グロー・ハイパー」用でありながら、味は深くてもクセのないタバコ葉の旨味を感じさせてくれる名品。従来品でも好印象だったが、「スティックシール テクノロジー」の採用で、より雑味を減らした洗練された味わいに仕上がったことがとてもうれしい。
「スタンダードモード」では、ゆったりとくゆる蒸気が煙的なフォルムですてきだ。良質なバージニア葉とオリエンタル葉が生み出す上品な喫味がスーッと広がった。後半はロースト感が少し強めに出るが、酸味はしっかりと抑えており、クセ少なめでウマい。ゆっくりめに吸い込み、吐き出すときもゆっくり。この価格でラミナ(タバコ葉の葉肉の部分)使用ならではの上品な旨味を感じられるのがすごい。
「ブーストモード」では、ニコチンの辛みが喉奥を直撃して、紙巻きタバコに近いフィール。吐き出す蒸気も同じく辛みを秘めており、蒸気なのに“けむたい”感じ。いっぽうで「スタンダードモード」に比べると、喫味にエッジが効いているのはいいが、旨味の部分が若干飛びがちなのがもったいなかった。
ジェントルな喫味でイヤミなし
次は「ケント・トゥルー・タバコ」。
「スタンダードモード」では、まろやかでほんのり甘く、酸味と苦味のバランスが取れた自然なタバコ葉の味わいが感じられて、まさに王道ライトタバコ。クセのない香りとともに、往年のマイルドタバコやライトタバコならではの旨味がしっかりと舌に感じられるのがいい。ニコチン特有の辛みも控えめ。後半に多少酸味が目立ってもイヤな感じはまったくしなかった。
「ブーストモード」では、グンとシャープに辛さが際立った。まろやかさが減少してしまう分、少し物足りないまま終了。同モードは3分しか喫煙時間がないので、少々もったいないと思った。
重厚な冷感とタバコ感のせめぎ合い
激辛ではなく、濃厚な清涼感を目指した「ケント・トゥルー・リッチ・メンソール」。
「スタンダードモード」では、喉奥までまっすぐ伸びていく甘さ控えめの冷感のほうが際立つ。それでいて、タバコ葉の苦味もしっかり感じ取れるので、紙巻き版「クール」のような50/50のバランスのよさが光る。後半になるとタバコ葉の味わいが濃くなってきておいしい。
「ブーストモード」では、上品な冷感メンソールにエッジの効いた辛みが加わって喉奥を刺激する。ただその分、タバコらしさは薄まってしまうのがもったいなかった。
「ケント・トゥルー・メンソール」は、「スタンダードモード」では、ほどよいスースー感とタバコ葉の苦味が共存するジェントルなメンソールタバコ味。舌先では辛さを感じるが、冷涼感のほうが強めに感じられた。後半になると、タバコ味がクローズアップされてきて、すっきりとしたスタンダードなウマさに。「ブーストモード」では、ひと吸いめにミント感を強めに感じたが、それでもジェントルな部類に入る。最初からむせずに深呼吸できるレベルだ。タバコ葉の味わいも消えずに苦味がピリッ。一服して気合いを入れたいときにぴったりのおいしさだ。
人気のベリー系メンソール
「ケント」唯一のフレーバーメンソールタイプで、フィルターには潰すと味変可能なカプセルが内蔵されている。加熱式タバコブーム初期には「カプセルメンソールといえば『ケント』」というぐらい種類が豊富だったが今はこの1種のみだ。
「スタンダードモード」では、わずかにベリー風の甘みも感じるが、通常のおとなしいメンソールタイプ。だが、カプセルを潰した途端にドバッとベリーの風味が広がるのに驚く。風味は、甘酸っぱいというよりは紫色のブドウの甘さが中心。清涼感とニコチンの辛みとベリー風味のバランスがよく、おとなしいベリーメンソールタバコとして吸いやすい。
「ブーストモード」では、ほどよい辛さのメンソール味。カプセルを潰すと、際立ったベリーのアロマが大きく拡がり、ジェントルだけれどバランスが絶妙に取れていて見事。タバコ葉の苦味と旨味を消さないまま、メンソールがほどよく飛び、吐き出す蒸気にも辛みが加わって紙巻きタバコフィールを感じられた。この感覚を存分に楽しみたいなら、最初からカプセルは潰すべきだ。
「ケント・トゥルー・ベリー・ブースト」の構造。写真左側のフィルター部分にカプセルが仕込まれている。右側はもちろん「スティックシール テクノロジー」のフィルター状素材でフタがされている
BATの1箱480円の「ケント」は、加熱式タバコ界において、1箱430円という同社の「ラッキー・ストライク」に次ぐ2番目に安いブランド。今どきワンコインでお釣りが来るのだからスゴい。
味わいは「ラッキー・ストライク」ほどクセはなく、「ネオ」のようなスペシャル感もない。実に庶民派でコンサバティブ、それでいて十分なタバコ感が楽しめるブランドという位置付けになるだろう。そんなクセのなさがクセになる。
なかでも、「ケント・トゥルー・タバコ」は、「マイルド」あるいは「ライト」と言える軽快さで、気軽に吸うのに最適。肩ヒジ張らずに、ゆったりとした時間を過ごしたいなら、「ケント」を選べばイイ仕事をしてくれるだろう。