マネー連載
FP中川優也の「それ間違っていますよ!」

医療保険は必要? 入院時の費用と公的医療保険の保障内容から考えてみよう

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住宅ローンや保険を選ぶとき、どんな点に注目しますか? 「とにかく金利が低い」「ネットのクチコミで人気」。こんな理由だけで選んでいたら、実は間違いかもしれません。「お金に不安のない暮らしを実現してもらう」をモットーに全国の顧客にお金のアドバイスをしている経験を生かし、住宅ローンや保険の正しい知識と選び方をお伝えします。

1回目は「民間の医療保険は必要か?」がテーマです。いろいろな生命保険会社から出ている医療保険。「どんな保障が必要かな?」「いくらぐらいもらえば足りるのかな?」と、保険選びに迷うことも多いでしょう。

生命保険文化センターによると、医療保険の加入率は88.1%(平成25年疾病入院給付金の有無(民保・かんぽ生命含む−加入者ベース))。多くの人が当たり前のように加入していますが、充実した公的医療保険(健康保険)もある中、本当に加入すべきでしょうか? 民間医療保険の必要性について、入院にかかる費用や公的医療保険の保障内容などから考えてみましょう(※ここでの医療保険とは、入院したら1日5,000円や1万円支払われる保障のこと)。

医療保険にいくら支払っていくら受け取れそうなのか?

民間の医療保険に入った場合、いくらぐらい保険料を支払うのでしょうか。30歳男性で入院1日1万円、一生涯の保障で、保険料の支払いも加入期間中払い続ける契約で計算します。ある保険会社では、この条件での保険料は毎月3,180円でした。

30歳の男性の平均余命は51年。3,180円を51年間(612か月)支払うと合計194万6160円です。一方で、入院や手術などで医療保険が必要になった場合、いくら受け取れるのでしょうか。厚生労働省発表のデータをもとに計算します。

30歳男性が85歳までに入院する日数は平均16日

平成26年度のデータでは、平均の在院日数(入院日数)は31.9日。平成元年ころをピークに毎年減っています。また、30歳の男性が85歳までに入院する確率は約50%とされ、このデータから計算すると、男性は85歳になるまで平均で16日入院する計算です(31.9日÷50%)。入院で1日1万円もらえる医療保険であれば、16万円もらえます。

30歳男性が85歳までに医療保険で受け取れるのは19万〜28万円

手術すれば、手術の種類によって1万円の10倍、20倍、40倍の手術給付金が受け取れます。ただ、入院しても手術しなかったり、手術しても手術給付金の対象でなかったりすることもあります。手術給付金を受け取れる確率は、全体の30%というデータもあります。そこで、10倍、20倍、40倍した金額の30%(3万円、6万円、12万円)を受け取れると仮定して計算すると、30歳の男性が85歳になるまでに医療保険で受け取れる金額は、推計で16万円+(3万円〜12万円)=19万円〜28万円です。

この結果はあくまで平均値をベースに計算しています。すべての人が必ずしもこうなるとは限りませんが、ケガや病気になって受け取れるであろう金額と、実際に保険料として支払う金額の差額はだいぶ大きいことがわかります。

入院するといくらかかる?

そもそも、なぜ医療保険に加入するのでしょうか? それは、入院したときに手元のお金で医療費を支払えるかどうかわからない不安が背景にあるからでは? それならば、入院すればいくらかかるのか確認しましょう。

入院でかかる費用は治療費、差額ベッド代、食事代、雑費の4種類です。それぞれ、どんな出費でいくらかかるのか説明します。

治療費

治療費とは診察や投薬、手術など治療のための費用です。皆さんの多くが加入している健康保険には「高額療養費制度」という仕組みがあり、治療にかかる費用で1か月に支払うのは最大9万円ほどです(年収約370万円〜約770万円の場合)。

ただし、1か月というのは4月なら4月中、5月なら5月中という区切りです。4月の終わりから5月中旬まで入院した場合は、4月と5月にそれぞれ9万円ずつかかる可能性があります。

差額ベッド代

差額ベッド代は、個室や一定の条件を満たす4人部屋以下の部屋に入院すると支払う費用です。費用は病院や病室によって違いますが、平均で1日5,300円ほどです。30日入院すると15万9000円です。

食事代

食事代は入院中に支給される食事に対して支払うお金です。現在1食260円です。1食260円で30日入院すると260円×3食×30日=2万3400円になります。

雑費

雑費は入院中にテレビを見たり、雑誌や着替えを買ったりする費用です。金額は人によりますが、1日あたり500〜1,000円くらい見積もっておけば十分でしょう。1日500円かかるとして、30日入院すると1万5000円です。

以上4つの出費を合わせると、1か月入院してかかる費用は約28万円となります。1日あたり約1万円で、この金額であれば1日1万円の保障で加入を勧められるのも納得です。

しかし、実はこの4つの出費のうち、1つは支払わなくてもよいのです。

差額ベッド代は本来支払う必要のないお金

入院時にかかる費用の中で一番高額になりがちな差額ベッド代は、本来支払う必要のない費用です。厚生労働省の資料には、このような記載があります(抜粋、一部改変)。難しい用語が並んでいるので、読み飛ばしてしまってかまいません。

患者に特別療養環境室に係る特別の料金を求めてはならない場合としては、具体的には以下の例が挙げられる。
・同意書による同意の確認を行っていない場合(当該同意書が、室料の記載がない、患者側の署名がない等内容が不十分である場合を含む)
・患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室へ入院させる場合
・病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院させた場合であって、実質的に患者の選択によらない場合

簡単にいうと「治療上必要な場合」や「ほかに空いていない」などの理由で差額ベッド代がかかる部屋に入院したのであれば、病院は差額ベッド代を請求してはいけないということです。

差額ベッド代の有無は入院時の同意書でしっかり確認しよう

患者が差額ベッド代の発生する部屋を希望した場合以外は、支払う必要はありません。差額ベッド代を回避する方法は「差額ベッド代が発生しますよ」という同意書にサインしないことです。望んでいないのに同意書にサインを求められる場合は、ここでの入院を希望したわけではないとして、サインを拒否してください。

もし、同意書へのサインを拒否することで病院とトラブルになるようであれば、お住まいの地域を管轄する厚生局へ相談しましょう。もしくは、病院側へ厚生局に相談すると伝えてください。

差額ベッド代を省けば毎月の入院費は11万〜12万に

差額ベッド代を省くことで、合計28万円の入院費用が12万ほどに減ります。さらに、家での食事でなく1食260円の病院食となることで家計の食事代が1万円減るとすれば、1か月入院して実際にかかる費用は28万円−16万円−1万円=11万円ほどです。

長期入院になるともっとお金がかかるのでは?

「1か月11万円でも、長期入院ならもっとたくさん費用がかかるだろう」という心配もあると思います。長期入院したときの費用も考えてみましょう。

高額療養費制度の「多数該当」なら自己負担の上限は毎月4万4400円に

6か月間入院したとします。1か月11万円なら6か月で66万円です。ただし、入院が4か月以上になると自己負担の上限が1か月あたり4万4400円になる高額療養費制度の「多数該当」という仕組みがあります(高額療養費に該当する月が過去1年以内に4回以上)。

つまり、3か月の間は入院費用として計11万円かかりますが、4か月目からは支払うべき治療費の上限が9万円→4万4400円になるので、治療費とそのほかの費用を合わせた実際の負担は単純計算で6万4400円(11万円−(9万円−4万4400円))となります。6か月入院でかかる費用は、最初の3か月が11万円×3=33万円、4か月目以降が6万4400円×3=19万3200円で、合計52万3200円です。

税還付が受けられる医療費控除の制度も活用できる

52万円というと結構な金額ですが、その分、医療費控除のメリットも大きくなります。医療費控除とは、医療費として支払った10万円以上の金額を所得控除の対象とする制度です。収入によって所得税率は変わりますが、所得税5%、住民税10%とすると、52万3200円から10万円を差し引いた42万3200円分に所得控除が適用され、42万3200円×15%=6万3480円の還付があります。

まとめると、6か月の入院でかかる費用は、還付金もあわせて45万9720円です。ちなみに、生命保険文化センターが発表している『生活保障に関する調査(平成25年度)』の『過去5年間に入院した人の直近の入院時の入院日数(平成25年度)』をみると、過去5年間で入院経験がある人のうち61日以上入院した人は、全体の4.4%です。6か月(180日)入院した人、という項目はありませんが、4.4%より低い割合でしょう。

働けなくなっても収入はゼロにはならない

長期入院でかかる費用をお伝えしましたが、働けなくなることによる収入減のリスクもあるでしょう。家族のため、生活費の確保などを目的に医療保険に入る場合もあるかもしれません。しかし、公務員やサラリーマンであれば、病気やケガで仕事を休んだからといって、収入がゼロになるわけではありません。

給料の7割弱を1年6か月受け取れる傷病手当金

公務員やサラリーマンが加入している健康保険には「傷病手当金」という保障があります。傷病手当金は病気やケガで4日以上仕事を休んだ場合に給料の2/3(を1年6か月にわたり支給してくれるものです。入院の有無は問わず、仕事を休んだら受け取れます。月給が30万円であれば、1か月休んだ場合に傷病手当金として20万円もらえます。

傷病手当金がない自営業者は所得補償保険に加入しよう

自営業などで国民健康保険に加入している場合は、この傷病手当金はありません。その場合に収入の保障を確保するなら、所得補償保険を選ぶとよいでしょう。所得補償保険は傷病手当金のように、病気やケガで仕事を休んだ場合に補償される保険です。損害保険会社で取り扱いがあるので、調べてみてください。

健康保険組合によっては手厚い保障も

加入している健康保険組合によってはさらに手厚い保障があります。これらの保障を「付加給付」といいます。よくある付加給付は、「一部負担還元金(一部負担払戻金)」と「傷病手当金付加金」の2つです。それぞれ説明します

一部負担還元金(一部負担払戻金)は、1か月の医療費が一定額以上だった場合、超えた金額を払い戻してくれる仕組みです。一部負担還元金が2万5000円に設定されている場合、窓口で10万円支払えば差額の7万5000円が払い戻されます(健康保険適用の治療のみ)。1か月の治療費は2万5000円以上かかりません。

傷病手当金は基本的に1日あたり給料の2/3(66.6%)を受け取れますが、傷病手当金付加金は、この2/3が80%など、上積みされる制度です。給付期間も1年6か月でなく3年など、健康保険組合によって扱いが違います。

付加給付があるかどうかの調べ方

あなたが加入している健康保険組合の保障に付加給付があるかどうか、調べましょう。まず、健康保険証の「保険者名称」をチェックしてください。保険者名称が「全国健康保険協会○○支部」となっていれば付加給付はありません。

そうでない場合は、保険者名称でネット検索をしてみてください。たとえば、関東ITソフトウェア健康保険組合と書かれていたら「関東ITソフトウェア健康保険組合」で検索します。すると、関東ITソフトウェア健康保険組合のホームページが表示されます。ホームページ内の「給付一覧」や「短期給付」の中に付加給付の記述がないか、調べてみてください。

加入している健康保険組合のホームページがない場合は、職場の総務担当者に聞くか、健康保険組合に直接電話して確認しましょう。

「安心を買いたい」なら、医療保険もアリ

公的医療保険の充実ぶりについて説明しましたが、「やはり健康保険だけでは心許ない」という人も多いでしょう。そういう人の場合は、民間の医療保険に加入するのも選択肢の1つです。たとえば、以下のような人は、医療保険で「安心を買う」という選択をしてもよいかもしれません。

・子どもの学費などで家計に余裕がなく、あまり貯金を取り崩したくない人
・忙しくて生活が不規則だったり、食生活が乱れていたりして健康面に不安がある人
・両親や祖父母が病気がちで「自分もそうなるかも」と不安な人
・傷病手当金がない国民健康保険に加入する自営業者
・プライバシー確保のため入院したら個室に入りたい

結局、医療保険は必要なのか?

医療保険の保険料、入院時の費用、公的医療保険である健康保険などについて説明してきました。これらを踏まえると、医療保険の必要性は低いと思います。もちろん、私も加入していません。

たとえば、住宅ローンを組む際に団体信用生命保険(団信)に加入していないと、万が一の場合、のこされた家族が数千万円という借金を背負うリスクがあります。民間の自動車保険に入っていなければ事故で相手を死亡させたり、車を壊してしまったりしたときに、貯蓄ではまかないきれないほどの損害賠償金などを支払う可能性があります。

一方で、これまで見てきたように、医療保険で支払う費用は、決して支払えない金額ではありません。蓄えがあれば十分対応できることも多いです。データで示したように、長期入院の可能性も低いといえます。そのために何十年にもわたって100万〜200万円にもなる保険料を支払い続ける必要性はないといえます。

ただし、保険料として納得して支払えるのなら、「安心を買う」という意味で医療保険に入るという考え方もアリです。必要なのでなく、入らないという選択肢もあると認識したうえで、あなたにとってどちらが合っているのか選びましょう。

※本記事は、執筆者個人または執筆者が所属する団体等の見解です。

中川優也

中川優也

理想の家と豊かな生活を手に入れるためのコンサルタント。 全国から住宅購入相談を700件以上受ける。アドバイスは住宅ローンや保険の見直しにとどまらず、お金持ち思考へ切り替える方法など多岐にわたる。

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