ファイナンシャルプランナーの山崎です。「国の年金制度なんてアテにならない」。こんな意見をよく耳にします。「よくわからないけど、いまの年寄りだけが得をして、最後はどうせつぶれてもらえないんでしょう」というイメージです。皆さんが思うほど、国の年金制度って信用できないものなのでしょうか。専門家として、年金の将来について説明したいと思います。
皆さんが65歳になると、国から年金(老齢年金)を受け取ります。自営業者や専業主婦であれば国民年金(基礎年金)、サラリーマンであれば国民年金+厚生年金が定期的にもらえます。
国の年金については、紙ベース時代の年金記録が完全にデータ化されていなかったことから不信感が生じ、また年金未払い問題がクローズアップされたことをきっかけに、一時期はメディアも政治家も、年金は破たんするのでは?と激しくあおりました。年金制度についてはかなり悪いイメージがあります。若い世代ほど「どうせつぶれるんでしょ」「もらえないんでしょ」と思っているでしょう。
実際のところ、国の年金はつぶれませんし、もらえない、ということはありません。「公的年金制度が崩壊しているけれど、日本の国が何食わぬ顔で存続し続ける」ということは、そもそもありえません(国家が存在しなくなる「北斗の拳」状態の荒廃が日本に訪れれば別ですが)。
「公的年金の仕組みが成り立たなくなる」いわゆる「年金破たん」については、厚生労働省が徹底的なシミュレーションと情報開示(財政検証結果)を行い、いまから約100年後の2110年度までは財源が十分ある、という結果を公表しました。まともな学者であれば「このままでは破たん」というコメントを出せないくらいになりました。最近のメディアで「年金破たん特集」が消えたのはそのせいです。
万が一、年金制度が破たんしたとしても、老後の最低限度の生活は生活保護制度によって守られるでしょう。これは憲法が保障していることです。そうなれば、日本人の3000万人以上が生活保護を要求することになります。生活保護の財源はすべて税金であることを考えれば、国は年金制度だけ破たんさせるほうが損な選択であり、制度を存続させるためにあらゆる手を尽くすことでしょう。
「いやいや、お金がなくなる(財源が枯渇する)と破たんするでしょう」という声がありますが、これも心配はほとんど無用です。国は年金を支払うための財源として190兆円ほど積み立てています。世界でこのレベルの積立金があるのは日本とアメリカだけといわれて、積立金がほとんどない先進国もたくさんあります。
この積立金は今日明日で使い切る予定もありません。毎年50兆円ほどの年金支払いがありますが、一方で保険料や国の負担分などを合わせて50兆円強の収入もあり、できるだけ収支のバランスをとりつつ、団塊世代の高齢期の年金支出増に備えて積立金を徐々に取り崩していくようコントロールされています。そのため、いきなり積立金がゼロになることもありえないのです。
株価が下がった時期に「年金の運用はX兆円も損をしている」というイメージもありますが、これも誤解で、実際には売り払ったわけではないので、株価が戻ればマイナスもなかったことになります。長い目で見て株価は上がっていますから、厚生年金の運用は今世紀に入ってから累積で69兆円も利益を生み出しているほどです。
よくよく考えると、年金不安は「そもそも知らなかった」「そもそもよくわかっていなかった」ということがほとんどです。それでも「将来は年金がもらえないかもしれない」と多くの人が思ってしまったのは、なぜでしょうか。「メディアがそう報道するなら、そうなのかな」「データ不備があったらしいから、いい加減なのだろう」というくらいに考えてイメージが大きく膨らんでしまったからではないでしょうか。
ただしひとつ大事な事実があります。年金制度が崩壊したり、財源が枯渇したりする心配はないものの、もらえる金額自体は「減る」ということです。
実は国の年金の最大のメリットは「死ぬまでずっともらえる」ことです。85歳でも90歳でも100歳でも、引退生活に入ったあと長生きしているあいだ、年金はずっと払い続けてもらえます。これにより長生きして銀行の預金残高がゼロになって焦る心配はなくなります。しかし、日本人が長生きするほど、年金制度が支払うお金も増えることになります。
かつて、お年寄りに年金を支給する期間は10年ぐらいでしたが、いまでは平均的に20〜25年も支払う時代になりました。人生100年時代が到来すれば、30〜35年もの間、年金を支払い続ける必要があります。
普通に考えて、年金額が同じであれば、国は昔と比べて2〜3倍の年金を払わなければなりません。現在、夫婦のモデル年金額は月22万円なので、20年もらったとすれば累計5280万円ですが、みんなが30年長生きすれば7920万円にもなってしまいます。ある意味、長生きするということは、同じ年金額であったなら、20〜30年前のお年寄りより多くもらえる(受取総額で)ということでもあるわけです。しかし100歳まで払い続ける時代になったとしたら、どこかで調整が必要です。
調整方法にはいろいろありますが「若い世代の負担を増やす」は、いまは行わないことにしています(厚生年金保険料は給与の18.3%でこれ以上上がらない)。「受け取り開始年齢を一律に引き上げる」つまり68歳や70歳から受け取り開始にする方法もありますが、これも現状では強制しない方向です(個人的に遅らせると年金額を増やすことができる「繰り下げ」の仕組みはある)。
そこで、100年人生の時代に対応して行う年金政策は「毎年支払う金額をちょっと減らす」というものです。難しい言葉で「マクロ経済スライド」という仕組みで、簡単にいえば15%くらいの支払い水準の引き下げを数十年かけてやろうとしています。ただし物価の上昇をみつつ、毎年の引き下げは1%くらいに抑え、できれば金額では減らないようにしようとしています(物価が1%くらい上がっても年金額は据え置くなど)。
メディアは「破たんするから減らすのだろう」といいますが、支払う年金を減らせばむしろ破たんリスクは減っていくことになるのです。そして長生きすれば、むしろもらえる額は増えることになるかもしれません。
「年金がもらえなくなることはないが、もらえる金額は減る」という枠組みを理解したうえで、「自分はどうなのか」を知ることが次の年金理解のステップです。
実は国の年金制度は、WEB対応が進んでいます。誕生月に送られてくるはがき形式の「年金定期便」には、ネットで自分の年金情報を確認できる「ねんきんネット」を利用するための「アクセスキー」が記載されています。
これを使ってログインすると、自分のアカウントがすぐ作成されます。一度アカウントを作っておくと、それ以降は「年金制度の加入状況」「年金額の見込額」「将来のシミュレーション」などが利用できるようになります。
自分のアカウントを作っておけば、年金の加入状況などがすぐに確認できる。画像は一部加工
まずは、いままでの加入状況をチェックしてみるといいでしょう。会社がちゃんとあなたの代わりに保険料を納めているかも、金額ベースで確認できます。
「年金定期便」では、年金見込額については「20歳からいままでの加入に見合う年金額」で表示されています。たとえば30歳の人なら「20〜30歳の加入分」の年金額であり、「30〜65歳まで払う保険料の見込み」は考慮していません。そのため若い人だと「あなたの見込み年金額は年間20万円」などとなっており、ちょっとびっくりするかもしれません。
ねんきんネットを使えば、「年金見込額試算」というページがあり、「いまから65歳までの加入見込み分」を追加したシミュレーションができます。こちらのほうが現実的な年金額になるので、WEBのほうで試していることをおすすめします。
ねんきんネットでは、将来自分がもらえるであろう年金額を試算できる
年金額を試算してみると、夫婦で大卒初任給レベルくらいはもらえるのではないでしょうか。これに退職金や自助努力(iDeCoやNISAがおすすめ)をして上積みしておけば、老後破産の心配はないでしょう。おひとりさまの場合は、年金がひとり分になってしまうので、自助努力を多めに頑張っておくと、より安心できる老後につながるはずです。
国の年金について「まだ信じられない」という人も多いでしょう。若い人が何十年も先の制度を無条件に信頼するのは難しいため、おかしいことではありません。ただし「信じてなかったけど、もらってみたら助かった」という人と「信じてなかったうえに、将来年金をもらう権利もなかった」という人は大違いです。
国の年金は結構ドライなところがあって「納めなくてもいいけど、未納ならその分将来もらえる年金を減らします」という対応をしています。言い換えれば、保険料をきちんと納めていた人はそれなりの年金がもらえる、ということでもあります。
会社員(正社員)の場合は、国民年金と厚生年金に同時に加入していて、年金保険料は給料から天引きされて会社が払っていますから、未納の心配はありません(心配なら、ねんきんネットで確認もできます)。
20歳以上の無職の人(収入がなければ、市区町村役場で手続きすれば免除される)、学生、自営業者、パートやアルバイトなどの人は、自分で国民年金保険料を納める必要があるため、納付書類が届いたら確実に保険料を納め、未納はしないようにしましょう。
年金制度は、高齢者になってはじめて「なんだ、これはいい制度じゃん」と思うことになります。老後の生活を支える糧であり、非常に重要な収入源になります。「どうせ破たんするんでしょ」といって未納を重ね、将来もらい損ねた人は、一生後悔することになりますので、注意しましょう。
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※本記事は、執筆者個人または執筆者が所属する団体等の見解です。
フィナンシャル・ウィズダム代表。FPとして、現役世代のお金と幸せのバランスについてユニークな視点でアドバイスする。連載多数。アニメもゲームも愛するオタクで、マンガの蔵書は約4,000冊。