クレジットカードには「Visa」「Mastercard」「JCB」「American Express(以下、アメックス)」「ダイナースクラブ」といった国際ブランドが必ずついています。これらは、それぞれのクレジットカードの決済ネットワークを指すもので、そのカードがどの加盟店で使えるかを示しています。皆さんは、クレジットカードを作るときに国際ブランドを意識して選んでいるでしょうか? ブランドごとに使える店は異なり、また、受けられる特典やサービスも異なります。可能であれば、複数の国際ブランドのクレジットカードを持って、場所やシチュエーションによって使い分けるのが理想的です。しかしそうなると気になるのが年会費などのランニングコストや入会の手間、貯まるポイントの分散などです。今回は、そんなときに役立つ「デュアル発行」というサービスを紹介します。
(本記事内の価格表記は基本的に税別です)
今回は下記の4つの「デュアル発行」をご紹介。各国際ブランドの特徴や、クレジットカードに関わる事業者など知っておいて損のない基礎知識も解説します
本題に入る前に、それぞれの国際ブランドの特徴をつかんでおきましょう。ひと口に国際ブランドと言ってもそれぞれ特徴が異なります。「加盟店の多さを優先するならVisaやMastercard」「日本国内での決済がメインならJCB」「上質なサービスを体験してみたいならアメックス」など、ニーズに合わせて国際ブランドを使い分けられると、クレジットカードの魅力を存分に楽しむことができます。
▼Visa……世界トップの加盟店網を持つ国際ブランドです。あらゆる国や地域で幅広く使えます。来年2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックではメインスポンサーを務めています。
▼Mastercard……Visaに次いで知名度の高い国際ブランドです。もともとはヨーロッパに強いブランドでしたが、現在はVisa同様に世界のあらゆる場所に加盟店網が広がっています。近年はプラチナカードを中心に付帯特典にも力を入れ、高級レストランの優待や、出張や旅行時に役に立つ手荷物無料配送などサービスを拡充しています。
▼JCB……日本で生まれた国際ブランドです。海外では対応していない店舗も多いので注意が必要です。ただし日本人観光客の多い国や地域におけるカード会員への観光サポートが充実しており、ラウンジでの無料インターネット接続やプリントアウトサービス、荷物の一時預かりなどに対応してくれます。
▼アメックス……ステータスの高い国際ブランドとして有名です。JCBと提携しており日本国内では利用できる店舗も増えています。旅行やエンターテインメントの分野に強く、普通では予約の取りづらい一流レストランの予約、ホテルの優待、空港ラウンジの利用などのサービスを受けることができます。
▼ダイナースクラブ……こちらもステータスの高さが売りのブランドです。使える加盟店の数は多くありませんが、アメックスと同様、グルメや旅行、エンターテインメント系のサービスにすぐれているのが特徴です。会員限定のイベントも多数開催しています。
有名レストランでの優待など、国際ブランドによって特典の内容は異なります
国際ブランドについてもう一歩深く理解するために、ぜひ、クレジットカードに関わる事業者の種類についても知っておいてください。それが、「ブランドホルダー」と「イシュアー」です。
▼ブランドホルダー……Visa、Mastercard、JCBなどの国際ブランドを持つ事業者のこと。ブランドごとの規則を策定したり、非接触など新しい決済方法を開発したり、ライセンスの管理などを行っています。
▼イシュアー(Issuer)……カードの発行会社を指します。ブランドホルダーからライセンスを受け、そのブランドがついたクレジットカードを発行しています。そのほか、カード会員の勧誘、申し込み受付、本人確認、審査、カードの発行、会員サービスの提供などを担っています。クレジットカードの裏面にはそのカードがどのイシュアーによって発行されているかが明記されています。
以上のことから、皆さんがお使いのクレジットカードは、「ブランドホルダーからライセンスを取得したイシュアーが発行したカード」と説明することができます。これから紹介していくデュアル発行は、イシュアーが提供しているサービスになります。
※クレジットカードでは、このほか「アクワイアラー(Acquirer)」と呼ばれる事業者も関係しています。加盟店の管理や開拓、審査などを担っています。
(コラム)ブランドホルダーがイシュアーやアクワイアラーを兼ねるケースもある
少しややこしいのですが、JCBとアメックスの2つのブランドホルダーは、日本国内でイシュアーやアクワイアラーの機能を持ち、クレジットカードを自社でも発行しています。「Visaが発行するVisaカード」は存在しませんが、「JCBが発行するJCBカード」や「アメックスが発行するアメックスのカード」は存在するということになります。デュアル発行とも関わる点ですので、ぜひ、ブランドホルダーとイシュアーの違いを少し意識してみてください。
クレジットカードに関わる事業者の中で、ポイントサービスの提供や紛失や事故時の対応などを担うのがイシュアー。ユーザーにもっとも近い存在です
原則として1枚のクレジットカードにはひとつの国際ブランドしかつきません。したがって、複数の国際ブランドを使い分けるには、複数のクレジットカードを持つ必要があります。そうなると当然、それぞれのクレジットカードごとに入会審査を受けたり、年会費を支払ったりする必要があります。さらに、クレジットカードの利用でもらえるポイントが分散して、管理が煩雑になるのもデメリットと言えるでしょう。
そのコストや手間を軽減できるのが、イシュアーの「デュアル発行」と呼ばれるサービスです(各社でサービス名称は異なりますが、本記事ではデュアル発行で統一します)。簡単に言うと、同じイシュアーから、異なる国際ブランドのカードを2枚発行できるサービスのこと。その際、1枚1枚別々に発行するのではなく、1枚を”セカンドカード”的な位置づけにすることで、単体で持つより年会費などが優遇されます。すでにカードを保有している人が追加できたり、2枚同時に申し込みできたりと、申し込み方法はさまざまです。クレジットカードで貯まるポイントも合算されるので、管理の手間も省けます。具体的にデュアル発行の4つのサービスを紹介していきましょう。
画像は三井住友ゴールドカード公式サイトより
三井住友カードが発行するクレジットカードのブランドと言えばVisaブランドがで有名です。これは1980年に三井住友カードが日本のイシュアーとして初めて(アジアでも初)Visaブランドのクレジットカードを発行したことに起因しているのでしょう。この三井住友カードで、Visaと一緒にMastercardを発行できるサービスが「デュアル発行」です。新しく三井住友カードを申し込む際に利用できるサービスです。
本サービスでは2枚目のカードの年会費が割引されます。たとえば、「クラシックカード」の年会費は通常1,250円。しかし、デュアル発行の場合は2枚目の年会費は250円となります。つまり、合計1,500円でVisaとMastercardの2枚のカードが持てる計算になります。本サービスの対象となるカードは下記のとおりです(カード名称、通常年会費、デュアル発行時の2枚目の年会費)。
・プラチナカード 50,000円 → 5,000円
・ゴールドカード 10,000円 → 2,000円
・プライムゴールドカード 5,000円 → 1,000円
・エグゼグティブカード 3,000円 → 500円
・クラシックカード 1,250円 → 250円
・アミティエカード 1,250円 → 250円 ※在学中は無料
記事の最初のほうで述べたとおり、VisaもMastercardも加盟店数が豊富なので、この2つのブランドを持つことで国内外で「カードが使えずに困る」という心配はほとんどなくなることでしょう。また、「固定費はメインカード、プライベートはセカンドカード」のように用途別にクレジットカードを使い分けたい人にとっても、2枚目の格安の年会費は魅力的だと思います。
デュアル発行
●イシュアー:三井住友カード株式会社
●デュアル発行できる組み合わせ:VisaとMastercard
●カードの発行方法:カードのブランド選択欄で「Visaカードとマスターカード(2枚)」を選択
●特徴、メリット:決済できる加盟店が増え、VisaとMastercard両方の特典が利用可能
画像は三菱UFJカード「デュアルスタイル」公式サイトより
Visa、Mastercard、JCBのいずれかのMUFGカードと「MUFGカード・アメリカン・エキスプレス・カード」を組み合わせて発行することができるのが三菱UFJニコスの「デュアルスタイル」というサービスです。すでにMUFGカードを持っている人が本サービスの対象となります。発行できるMUFGカード・アメリカン・エキスプレス・カードは、ゴールドプレステージ、ゴールド、一般など、すでに保有しているMUFGカードと同一のカード種類になります。
デュアルスタイルはすでに持っているMUFGカードの年会費が優遇される仕組みになっています。たとえばゴールドカードを持っている人がデュアルスタイルを利用した場合、MUFGカード・アメリカン・エキスプレス・カードの年会費1,905円と、割引されたMUFGカードの年会費250円の、合計2,155円で2枚のクレジットカードを保有することができます。本サービス利用時の年会費は下記のとおりです。
▼MUFGカード・アメリカン・エキスプレス・カードの年会費
・ゴールドプレステージ 10,000円 ※初年度無料
・ゴールド 1,905円 ※初年度無料
・一般 1,250円
▼MUFGカードの年会費(通常年会費→デュアルスタイル時の年会費)
・ゴールドプレステージ 10,000円 → 2,000円
・ゴールド 1,905円 → 250円
・一般 1,250円 → 250円
旅行や食事、ショッピングなど、独自の特典があるアメックスのカードが持てるのがこのサービスの特徴と言えるでしょう。また、MUFGカード・アメリカン・エキスプレス・カード利用時に得られるポイントの還元率も優遇されていてお得です。国内利用時は、MUFGカードの通常還元率(1,000円で1グローバルポイント。グローバルポイントは1ポイント=4円)の1.5倍。海外での利用だと同2倍になります。
デュアルスタイル
●イシュアー:三菱UFJニコス
●デュアル発行できる組み合わせ:Visa/Mastercard/JCBとアメックス
●カードの発行方法:オンラインで申し込み
●特徴、メリット:アメックスカードは入会後3か月間ポイント3倍。その後も国内利用1.5倍、海外利用2倍
画像はセゾンカード「ツインゴールド」公式サイトより
セゾンカードが提供するデュアル発行サービスが「ツインゴールド」です。その名のとおり、セゾンカードのゴールドカードを2枚セットで持つことができるサービスになります。発行できるのは「ゴールドセゾンカード」(Visa、Mastercard、JCB)と「セゾンゴールド・アソシエ・アメリカン・エキスプレス・カード」の2枚。すでにゴールドセゾンカードを持っている人が本サービスに申し込めるほか、2枚同時に申し込むこともできます。ただし、新規に2枚申し込む際のゴールドセゾンカードのブランドはMastercardかJCBに限られます。
ゴールドセゾンカードの年会費は10,000円で、セゾンゴールド・アソシエ・アメリカン・エキスプレス・カードは2,000円になりますので、合計12,000円でセゾンカードのゴールドカードを2枚持てる計算です。
セゾンゴールド・アソシエ・アメリカン・エキスプレス・カードで支払った場合、国内での利用は還元率が1.5倍、海外での利用で還元率2倍となりお得です。もちろん、アメックスのショッピング、ダイニング、ホテルなどのお得な特典も楽しめます。
ツインゴールド
●イシュアー:セゾンカード
●デュアルできる組み合わせ:Visa/Mastercard/JCBとアメックス ※新規の場合はVisaはのぞく
●カードの発行方法:オンラインで申し込み
●特徴、メリット:セカンドカードはポイント還元率がアップ。アメリカン・エキスプレス・コネクトや国内空港ラウンジの利用にも対応
画像は三井住友トラストクラブ「コンパニオンカード」公式サイトより
最後は、三井住友トラストクラブが提供している「ダイナースクラブ コンパニオンカード」というサービスを紹介します。これは、同社が発行するダイナースクラブカードを持っている会員に、無料でMastercardブランドのカードを発行するサービスです。
無料で発行されるカードは保有しているダイナースクラブカードによって異なります。組み合わせは下記のとおりです(カッコ内の数字は年会費です)。
・ダイナースクラブプレミアムカード(13万円) × TRUST CLUB ワールドエリートカード(通常年会費13万円→無料)
・ダイナースクラブカード(22,000円) × TRUST CLUB プラチナマスターカード(通常年会費3,000円→無料)
ダイナースクラブは使える店が限定されるため、その弱点を補うサービスと言えます。また付帯されるMastercardブランドのカードは無料で発行できるので、もれなく活用したいサービスと言えます。
ダイナースクラブ コンパニオンカード
●イシュアー:三井住友トラストクラブ
●デュアルできる組み合わせ:ダイナースクラブとMastercard
●カードの発行方法:オンラインで申し込み
●特徴、メリット:ポイントはダイナースクラブ リワードプログラムに合算。請求や支払い口座はメインカードと一緒。ダイナースクラブの優待、サービスにコンパニオンカードの優待、サービスも利用できるのが最大の強み
まとめとしてデュアル発行サービスに共通するメリットを確認しておきましょう。
▼デュアル発行のメリット1:受けられる特典の幅が広がる
複数の国際ブランドのカードを持つことで、それぞれのブランドの特典を受けることができます。
▼デュアル発行のメリット2:ランニングコストが下がる
2枚目(三菱UFJカードは1枚目)のカードの年会費は安く抑えられたり、無料だったりするため、別々に発行するのに比べてランニングコストを押さえることができます。
▼デュアル発行のメリット3:ポイントの管理が楽
1枚目と2枚目を同じイシュアーから発行するので、ポイントを合算することができて管理が楽です。また複数の国際ブランドを持つことで使える加盟店が増えるため、ポイント獲得の漏れも減ります。
デュアル発行は現状あまり知られているサービスではありませんが、記事で紹介してきたとおり、メリットを感じられる人は多いと思います。ぜひ、選択肢のひとつにしていただければと思います。
※本記事は、取材者及び執筆者個人の見解です。