備える
「都心・駅近」一辺倒から脱却し、新たな動きも

「郊外」「戸建て」にも脚光。テレワークの浸透で住まい選びの価値観が多様に

新型コロナウイルスの影響で、日々の仕事がテレワーク中心になった方もいらっしゃることでしょう。テレワークへの移行は、住宅選びにも影響を及ぼしています。コロナ前には、多くの人の住宅選びの基準は「都心・駅近」でした。もちろん今もこの基準は健在ですが、「毎日出社する必要がない」という生活によって、従来とは異なる動きも見え始めてきました。そこでここでは、住宅ジャーナリストとして、長年不動産業界を取材してきた山下和之さんに、住まい選びの新たなトレンドについて聞きました。

新型コロナウイルスの影響で、テレワークが一気に浸透しました

新型コロナウイルスの影響で、テレワークが一気に浸透しました

住宅購入時に、広さを求める人が増加。駅近重視の人は減少

――新型コロナウイルスの感染拡大前と後で、消費者の住宅選びの意識はどう変わったのでしょう?(編集部、以下同)

(山下さん、以下同)かつて、「安・近・短」(安く、近い場所に、短期間レジャーを楽しむ傾向を指す造語)という言葉がはやりましたが、今後の住宅選びのひとつの基準になりそうなのが、「安・遠・広」です。住まいを求める際、「安い価格で、職場から遠い場所でもOK、そして広いスペースを」という意味です。

この傾向は今年(2020年)5月に、リクルート住まいカンパニーが首都圏の住宅購入の検討者を対象に行ったアンケートに顕著に表れています。ここでは、住宅購入の際に広さを重視する人が52%、駅近を重視する人は30%という結果が出ました。同様のアンケートを、コロナ前の昨年(2019年)12月にも実施していますが、このときは広さ重視派が42%、駅近重視派が40%ときっ抗していたのが、その差が開きました。

「通勤時間は30分以上でもよい」人も増加

通勤時間についても尋ねていますが、「公共交通機関を使って30分超でもよい」と回答した人が2020年5月は34%と、昨年12月と比べ10ポイント増加しました。通勤時間や駅からの距離などの交通利便性を重視する傾向が薄れるいっぽうで、住み心地を重視する人が増えたと考えられます。

山下和之さん。住宅ジャーナリスト。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に「よくわかる不動産業界」「家を買う。その前に知っておきたいこと」(日本実業出版社)、「住宅ローン相談ハンドブック」(近代セールス社)など。

山下和之さん。住宅ジャーナリスト。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に「よくわかる不動産業界」「家を買う。その前に知っておきたいこと」(日本実業出版社)、「住宅ローン相談ハンドブック」(近代セールス社)など。

千葉、埼玉の今年8月の新築マンション発売戸数が急増

――意向調査だけではなく、実績値などでも、新たな傾向は出てきたのでしょうか?

「郊外」住宅に目を向けられ始めたのが、新築マンション発売戸数にも表れています。不動産経済研究所によると、首都圏(1都3県)の新築マンション発売戸数は、2020年7月は前年同月比7.8%増で、11か月ぶりにプラスに転じましたが、8月には同8.2%減と再び減少に転じました。これだけ見ると、「好転の兆しを見せた首都圏のマンション市場が再び失速した」と見られるかもしれませんが、8月は東京都とそのほかの3県では異なる動きを見せました。

東京都は前年同月比43%減だったのに対し、神奈川県は同41%増、埼玉県は同179%増、千葉県にいたっては、同296%増になりました。これは消費者の郊外志向の反映の表れと考えられます。なお、8月は東京全体では同8.2%減となりましたが、23区は同51%減と落ち込んだのに対し、23区以外は30%増だったのも特徴的でした。

ちなみに、コロナ感染拡大前の今年1月のマンション発売戸数は、東京23区が前年同月比21%増、23区以外も同4%増。これに対して埼玉は同89%減、千葉が同58%減、神奈川が同40%減となっていました。コロナ前には「郊外から都心へ」が中心となる動きでしたが、半年でそれが大きく変わりました。

テレワークの環境を整えやすい戸建てが見直され始めた

――そのほかのデータから、読み取れることはありますか?

もうひとつの大きな変化が、戸建てを希望する人が増えてきたことです。先ほどのリクルート住まいカンパニーのアンケートでも、戸建てを希望する人が63%と昨年12月より7ポイント増えたいっぽう、マンション希望者は10ポイント減り22%となりました。

また、東日本不動産流通機構がまとめた、今年の首都圏の新築戸建ての成約件数は、「4月:−26.4%(前年同月比)」「5月:−4.0%(同)」「6月:+15.3%(同)」「7月:+23.9%(同)」「8月:+35.8%(同)」となりました。緊急事態宣言が出されていた4月、5月は前年同月比でマイナスだったものの、6月から急速に回復し、8月は35.8%増になりました。ちなみに地域別に見ると、8月は神奈川が46.9%増と最も高く、東京が37.3%増、千葉25.9%増、埼玉22.5%増でした。中古戸建てについても、首都圏の8月の成約件数は1,175件(前年同月比21.8%増)となり、8月としては1,990年以降で過去最高の数字だったそうです。

戸建てが注目され始めたのもテレワークの影響が考えられます。ミサワホーム総合研究所がテレワーク経験者に、仕事を行った場所を尋ねたところ、最も多かった場所は「リビング」(55.3%)で、「書斎」(23.2%)を大きく上回っています。お子さんにじゃまされて集中できなかったのでしょうか、中には「車」(1.0%)、「浴室」(1.0%)、「トイレ」(0.8%)と答えた人もいました。同時に、住まいに今後取り入れたい要素を尋ねたところ、「4畳半(約7平方メートル)程度の個室」とする回答が最も多くなりました。

新築マンションの専有面積の平均は約68平方メートル、戸建て(建売住宅)は約100平方メートルです。たとえば、70平方メートルのマンションで7平方メートルを個室(仕事部屋)に充てると、LDKや寝室にしわ寄せが来て、かなり狭く感じると思います。その点、戸建てなら無理なく仕事部屋を設けられるなど、仕事に集中しやすい環境を整えやすい戸建てが好まれ始めたのだと考えられます。

在宅勤務の環境を整えやすい、戸建てに注目が集まっています

在宅勤務の環境を整えやすい、戸建てに注目が集まっています

マンション価格は高止まり

――新型コロナウイルスの感染拡大は、マンション価格に影響を与えましたか?

一部には、「感染拡大でマンション価格が大きく下落するのでは」と予想する声が聞かれましたが、結論から言えば、マンション価格は大きく変わらず、高止まりしたままです。リーマン・ショック後の2009年には、首都圏の新築マンションの平均価格が前年比で約5%低下しました。これは、資金繰りが厳しい中小の不動産業者が値引き販売をしかけた結果と見られています。

当時は、「メジャー7」と呼ばれる大手不動産業者(住友不動産、大京、東急不動産、東京建物、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス)の新築マンションの発売戸数に占める割合は3割前後でしたが、今は5割近くに上昇しています。これらの企業は経営基盤も安定しているので、今すぐに売れなくても値引きせずに「売れるまで待とう」と我慢できる。結果として、首都圏の新築マンションの成約価格は6000万円台の高値をキープしています。中古マンションや戸建ても底堅く、一部はコロナ前より値上がりしているケースもあります。

都心と郊外、物件価格はどのくらい違う?

――郊外の物件に注目が集まっているとのことですが、都心から離れると価格はどの程度変わるのでしょうか?

調査会社・東京カンテイが、同社のデータベースに登録された中古マンション価格について、鉄道路線別にまとめたデータを見るのがわかりやすいでしょう。東京駅でつながっている、JR横須賀線の主要駅近くにある中古マンションの平均坪単価と平均専有面積などをまとめたのが以下の表です。

品川駅(東京都港区)の坪単価は359万円なのに対し、戸塚駅(神奈川県横浜市)は105万円、久里浜駅(神奈川県横須賀市)までいくと61万円になります。専有面積70平方メートルのマンションとして計算すると、品川駅の物件は7615万円、戸塚駅は2272万円、久里浜駅は1293万円になります。

頭金に1000万円を充て、残りをローンで返済したとすると(金利1%、35年元利均等、ボーナス返済なし)、品川駅の物件では毎月返済額は約18万6,000円、久里浜駅の場合は約7,600円となります。高級住宅地として人気のある鎌倉駅など、例外はありますが、都心から離れるほど価格は安くなる傾向があります。ちなみに、品川駅からのJRでの所要時間は戸塚駅で約30分、久里浜駅で約1時間15分〜1時間30分です。

「東京カンテイ」調べ

「東京カンテイ」調べ

同様に東京カンテイがまとめた、東京と千葉を結ぶ総武本線の主要駅の中古マンションの価格表は以下のとおりです。基本的には同様の傾向で、都心近くの錦糸町駅(東京都墨田区)の平均坪単価が262万円、船橋駅(千葉県船橋市)がその半分以下の121万円、四街道駅(千葉県四街道市)までいくと5分の1の49万円になります。東京駅からの所要時間は、錦糸町駅が約8分、船橋駅が約25分、四街道駅が約55分です。

「東京カンテイ」調べ

「東京カンテイ」調べ

――上記は中古マンションのデータですが、新築マンションでも同じ傾向でしょうか?

新築マンションの場合、一定の供給戸数が常にあるわけではなく、上記のようなデータはありませんが、基本的な傾向は同じです。今春売りに出された、下北沢駅(東京都世田谷区)を最寄り駅とする新築マンションは、専有面積83.42uの3LDK+WICが1億3900万円。。これに対し、橋本駅(神奈川県相模原市)を最寄り駅とする新築マンションは、専有面積88.49uの4LDK+FC+Nが3798万円でした。もちろん、物件の設備や仕様なども異なるため単純な比較はできませんが、ほぼ同じ専有面積の物件が立地の違いで1億円近い価格差が出ました。なお、新宿駅からの所要時間は下北沢駅が約10分、橋本駅は約40分です。

マイホーム購入の際、職場までの通勤時間を以前ほど気にしない人も

マイホーム購入の際、職場までの通勤時間を以前ほど気にしない人も

80uのマンションを手ごろな価格で購入できるエリアに注目

――今後、首都圏で注目を集めそうなエリアをどう考えますか?

今は、専有面積80平方メートルと通常より広めの新築マンションを検討する人が増えています。首都圏でこの条件で3000万円〜4000万円台で購入できる物件は多くはありませんが、多少の通勤時間を覚悟すればなくもない、という状況です。そうした意味で、たとえば、千葉県なら柏の葉キャンパス駅(柏市)や、流山おおたかの森駅(流山市)周辺、埼玉県では再開発が進む所沢駅(所沢市)周辺は人気を集めそうです。神奈川県は千葉、埼玉より物件価格が高い傾向がありますが、こちらも再開発が進む海老名駅(海老名市)などは人気が出そうです。これらは、いずれも都心から1時間程度のエリアです。茨城県になりますが、個人的には、つくば市も今後一層人気が出るエリアだと感じています。今は、秋葉原駅で止まっている、つくばエクスプレスの東京駅延伸が検討されているのも追い風になるでしょう。

――コロナ対策を意識した設備の住宅も人気を集めていると聞きました。

戸建てでは、玄関周りに手洗い場をつくったり、全館空調にして常時換気できる設備を備えたりする住宅が人気を集めています。マンションでは、非接触で荷物の受け渡しができる宅配ボックスに関心が集まっています。せっかく宅配ボックスがあっても、すぐにいっぱいになって住人全員が使えないことがあったのですが、最近では全戸分の宅配ボックスを用意するマンションも増えてきました。

郊外に家を買うことの不利な面も認識しておこう

――今、マイホームの購入を検討している方にアドバイスはありますか。

これまで説明してきたとおり、コロナの影響で「都心・駅近」が必ずしも絶対的な基準ではなく、郊外の物件に注目が集まっているのは事実ですが、その不利な点も知っておいてほしいと思います。都心の物件は高額ですが、時間が経って売却する際も高値が付きやすい傾向にあります。いっぽうで、郊外の住宅は割安に購入できますが、逆を言えば、売却する際に高値で売れることは期待できません。資産価値として劣る点は認識しておくべきです。

また、今自分の勤務先・部署がテレワークを中心にしていたとしても、コロナ終息後もそれを続けているのか、という視点は持っておいたほうがよいでしょう。社会全体としては、テレワークは今後も推進されていくと思いますが、コロナ終息後、働き方をどうするかは企業間で異なってくるはずです。こうした点も踏まえて、家を買うエリアを慎重に判断したほうがよいでしょう。

なお、これはコロナとは関係のない話ですが、マイホーム購入を検討する際は必ず、現地を訪れることが大切です。できれば1、2泊するのが理想です。同じ場所でも朝昼晩、あるいは休日と平日で景色や人の混み具合も異なります。幹線道路が近くにある場合、土日は静かでも、平日は大型ダンプがひんぱんに通り、その道路を通って子どもが学校に行かなければならない、というケースもあるので、現地を複数回訪れたほうが安心でしょう。

まとめ(取材を終えて)

従来はマイホーム選びの際「都心(職場)や駅からどれだけ時間がかかるか」という点を考慮しないわけにはいきませんでした。しかし、その人の置かれた状況にもよりますが、テレワークが浸透していくことで、必ずしもこの点に縛られずに、マイホーム選びの選択肢が広がったのはよい点と言えるのではないのでしょうか。実際、現時点では、郊外(首都圏で言えば、東京以外の千葉県や埼玉県、神奈川県)に関心を持つ消費者が増えているのが数字にも表れています。ただし、山下さんが資産価値について触れたように、郊外にマイホームを持つことのメリットもあれば、デメリットもあります(もちろん、都心についても同じことが言えます)。マイホーム購入は大きなお金が動く、やり直しがしにくい選択であるため、家族や職場環境など自分の置かれた状況を踏まえて、慎重に検討するべきでしょう。

価格.comマネー編集部

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