「非接触」と「非対面」。
約1年半にわたるコロナ下の生活で、この2つのキーワードを軸にしたさまざまなサービスが浸透してきています。それらは私たちが普段使うスーパーやコンビニにも及び、お店の「レジ」にも大きな変化が訪れています。そこで今回、2つの小売りの決済ツールについて取材。前編として、自分のスマホで商品を登録することでレジ待ち時間を大幅に短縮できるイオンの「レジゴー」を動画と記事で紹介します。
(後日、後編としてファミリマートの「無人決済」を取り上げます)
「導入店舗での利用率は平均で買い物客全体の約2割。店舗によっては3割に達します。私たちがサービス開始時に予想していたものよりかなり高く、高齢の方も含め幅広い年代の方に広く受け入れられていると考えています」
イオンを運営する「イオンリテール」の担当者が、こう説明するイオンの「レジゴー」。2021年9月時点で、全国のイオン約70店舗で導入しています。開発がスタートしたのは2019年春。レジの待ち時間解消と、新しい買い物スタイルを体験してもらうことが目的でした。新型コロナウイルスの感染拡大前に動き出したサービスですが、結果的に「非接触」と「非対面」が重要視されたことで、利用が伸びた側面もあると言います。
サービスが始まったのは2020年3月。当初は、店舗入り口に「レジゴー」専用スマホを置き、買い物客はそれを借りる形(無料)で行ってきましたが、2021年4月からはアプリの配信も開始。店舗が用意した専用スマホに加え、アプリをダウンロードすれば自分のスマホを使って「レジゴー」で買い物ができるようになりました。
「レジゴー」対応店舗では、自分のスマホにアプリをダウンロードするほか、専用スマホを借りて行うこともできます
「レジゴー」の使い勝手はどうなのか。千葉市にある「イオンスタイル千葉みなと」を訪れて体験してみました。
筆者は事前にアプリをダウンロードし、公式サイトで買い物の進め方を確認してから来店しましたが、当日これらの作業をしても特に問題はなさそうです。また、アプリ登録の際にクレジットカードなどの決済情報はもちろん、氏名や住所などの情報を登録する必要はありません。
まずは、カートに設置されているホルダーにスマホを設置しアプリを立ち上げ。あとは、店内を回って欲しい商品のバーコードをアプリで読み取れば登録されます。ホルダーにスマホを置いたままスキャンできるので、スムーズに買い物を進められます。対面販売が必要な医薬品とタバコなどを除いたほとんどの商品をレジゴーで購入できます。たとえば、バーコードが付いていない野菜なども、画面の「バーコードが付いていない商品」をタップし、写真から選んで登録可能。1度登録した商品が「やっぱり不要」となったときも、2タップで簡単に削除作業が完了します。
アプリの「スキャン」ボタンをタップし(写真上)、商品のバーコードを読み取れば登録完了(写真下)
バーコードの付いていない野菜なども、アプリ上の写真から登録可能
欲しい商品をすべて登録したら、通常レジとは別の「レジゴー」専用レジへ。画面上の「買い物完了」ボタンを押した後、表示される「お支払いコード」をレジ端末に読み込ませれば、登録した商品と価格が瞬時にレジに転送されます。決済方法はクレジットカード、WAONやSuicaといった電子マネー、そして現金の中から選ぶことができます。支払いが済んだら、決済後に表示されるQRコードをゲートにかざせば買い物は完了です。なお、専用レジには、登録した商品とかごの中の商品に違いがないかや酒類販売時の確認をするスタッフがいます。
「お支払いコード」をレジ端末に読み込ませると(写真上)、瞬時にモニターに商品と価格が表示されます(写真下)
決済完了後に表示されるQRコードをゲートにかざせば買い物完了。レジでの支払いにかかった時間は30秒程度でした
「レジゴー」を使う前、筆者が少し心配していたのは操作性についてでした。というのも、スマホを使ったサービスとして筆者はQRコード決済サービスをひんぱんに利用していますが、これらはさまざまな特典が利用できるいっぽうで、アプリがなかなか立ち上がらなかったり、QRコードを読み込めなかったりと、操作にとまどった経験があるからです。この点「レジゴー」はシンプルなデザインで、スキャンについてもバーコードの上下に関係なく1秒程度で読み取り可能。強いて言えば、商品によってはバーコードを探すのに手間取ったことぐらいで「高齢者の方も1度説明すれば、スムーズに使っています」(レジゴー担当者)という説明も一定の説得力がありました。
時計メーカーのシチズンは2018年、スーパーのレジでは3分間待たされると約6割の人がイライラし始めるというアンケート結果を発表しています。このように、レジ待ち時間はスーパーでのストレスのひとつですが、この点についても「レジゴー」の効果は大きいと言えそうです。筆者が「レジゴー」を体験したときもレジの待ち時間はなし。さらに、レジで商品を買い物客みずから登録する「セルフレジ」と異なり、「レジゴー」ではかごに入れた時点で登録済み。そのため、レジで会計を始めてから1分もかからずに支払いを終わらせ、ゲートを通過することができました。
そして、3つ目のメリットが途中でも買い物金額がわかること。レジでの会計後に「買いすぎてしまった」と後悔したことのある人は多いことでしょう。その点、「レジゴー」であれば買い物途中でもその時点の合計金額がわかるため、予算内に収めるのに役立ちます。
「1,270円分買っている」。買い物途中でも、そのときの合計金額がひと目でわかります
このように書くと、「レジゴー」利用者は買いすぎを嫌って節約するため、利用金額はほかより少なくなると予想するのが一般的ですが(筆者もそう考えていました)、実際のデータは逆でした。担当者によると「レジゴー」利用者はそのほかの利用者に比べて購入点数で20%アップ、客単価でも15%アップしているとのことです。この理由として担当者は「『レジゴー』利用者は買い忘れがちな調味料をよく購入するというデータもあり、購入した商品がひと目でわかるため、買い忘れが少ないのが理由と考えています。また、『レジゴー』利用の際はカートを使うことになるので、結果的に店内を広く回遊し滞在時間も長くなるので、売り上げアップにつながっているとも推測できます」と説明しました。
つまり、ここからは筆者の推測ですが、「レジゴー」を使うことで、
(A)使い方次第で節約につなげられる
(B)いっぽうで、買い忘れ防止にもなり購入点数アップにつながる
という2つの効果があり、現状では(B)の効果が大きく出ているため「客単価15%アップ」という結果につながっているのではないかと思われます。
以上、「レジゴー」の3つのメリットを紹介してきましたが、課題も感じました。
取材時にはレジ待ち時間なしで買い物ができましたが、このときは平日の昼間。後日、日曜の夕方に自宅近くの別のイオン店舗を訪れると、「レジゴー」専用レジにも7組程度の列ができていました。1人ひとりの会計時間がスピーディーなため、ほかのレジより列が進むスピードが格段に速いのは間違いありませんが、専用レジの台数の問題もあり、現状ではいつでも「レジ待ち時間ゼロ」とはいかないようです。
「レジゴー」利用者は現状、レジ待ち時間短縮というメリットを受けられます。ただ、これ以外にも、ポイントアップや割り引きなどのインセンティブ、あるいは登録した商品を基に、おすすめの併せ買い商品などをアプリ上で提案するなどの付加価値があると、さらに利用は進むのではないかと思いました。
以上、イオンの「レジゴー」を紹介してきました。
日用品を購入するスーパーでの買い物は通常、さほど面白みを感じるものではありません。ただ今回、店内を歩き回って1品1品スキャンしていくのは、「自分が欲しいもの・必要なものを買っている」という実感をもたらす新鮮な「体験」のようにも感じました。子どもにも人気のようで、子どもがスキャンしながら買い物をする家族連れもよく見かけました。
イオンリテールは2021年9月時点で約70ある「レジゴー」対応店舗を、2022年2月までに100店へと拡大していく方針と言います。また、イオン以外にも、埼玉県を地盤とするスーパー「ベルク」では、商品をアプリで登録後、ひも付けたクレジットカードで決済を済ませ、レジに並ぶことなく買い物ができるサービスを導入済みです。新型コロナウイルスが終息し、感染拡大防止を意識する必要がなくなった後も、こういった「非接触・非対面」のレジサービスは、ユーザーに便利さと楽しさをもたらすツールとして、導入するスーパーは確実に広がっていくと思われます。機会があれば、こうした新たな買い物サービスを体験してみてはいかがでしょうか。