楽天グループが2023年11月1日、楽天ポイントの還元ルールを12月1日から変更することを発表しました。この改定は「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」と呼ばれる、楽天市場利用時の特典に関するものが中心で、多くの楽天ユーザーに影響を与える大がかりなものとなっています。
その内容を端的に言うと、
「楽天モバイルユーザー優遇」
「そのほかのユーザーのメリットは低減」
「楽天ヘビーユーザーには打撃」
象徴的なのが改定後、楽天モバイルが注力する「Rakuten最強プラン」の契約者は誰もが、楽天市場で5%還元(現在は3〜4%還元)を受けられるのに対し、上位グレードのクレジットカード「楽天プレミアムカード」会員は現状の5%から3%還元に引き下げられます。
楽天ポイントは、“ポイント経済圏”の中でも代表的な存在。圏内で活動するユーザーも多いだけに、発表後にはX(旧Twitter)で「楽天改悪」のワードがトレンド入りするなど、さまざまな声があがっています。本記事では、具体的に「どういったユーザーが、どんな内容の影響を受けるのか」という点を中心に説明していきます。
楽天グループは、楽天ポイント獲得の際の重要なプログラム「SPU」の変更を発表。その影響は?
本題に入る前に、今回改定の対象となるSPUについて説明します。楽天市場で買い物をするときには、楽天会員に登録すれば誰もが「1%」のポイント還元を受けられます。そしてSPUで定められた、楽天グループの対象サービス(楽天カード、楽天モバイルなど)を使うほどに、楽天市場で買い物する際のポイント還元率が、基本の「1%」から上乗せされていきます。
楽天のキャンペーンはエントリーが必要なものが多くを占める中、条件を達成すれば、エントリー不要で特典が適用されるSPUは、楽天ポイントを貯めるうえでは重要なポイントプログラムになっています。
なお、公式サイトでは上乗せ分について「+○倍」と表記。これは「+1倍」なら、基本還元率に1%上乗せで2%還元、「+2倍」なら、基本分に2%上乗せで3%還元となることを意味しています(本記事では基本的に「+○%」と表記します)。
参考HP:楽天市場「SPU対象サービス・達成条件」
SPUの対象サービス・達成条件の一例(画像は楽天市場公式サイトより)
下記の図表は、現在(改定前)のSPUの一例を抜粋したものですが、たとえば、楽天モバイルでRakuten最強プランを契約しているユーザー(後述するダイヤモンド会員の場合)が楽天カードを利用すると、基本の1%から計5%が上乗せされ、楽天市場での買い物の際に6%還元を受けられることになります。
SPU対象の条件は2023年11月時点で16あり、(現実的なハードルはかなり高いですが)すべての条件をクリアすると、楽天市場での還元率を最大15.5%までアップさせることができます。これまでも対象サービスの入れ替えや、還元レートの見直しは定期的に行われてきましたが、今回は多くのユーザーに影響を及ぼすかなり踏み込んだ改定となっています。具体的な改定内容をチェックしていきます。
今回、最も影響の大きい改悪点と言えるのが、「楽天プレミアムカード」の特典終了。同カードは楽天カードの中で最上位グレードの位置づけで(招待制の楽天ブラックカードを除く)、年会費は11,000円です。
SPUの対象サービスになっており、現在このカードを楽天市場で使うと「+2%」が上乗せされ、5%還元で買い物することができます。しかし、2023年12月からはこの「+2%」部分の特典が終了し、年会費無料の「楽天カード」と同じ3%還元に引き下げられます。
「楽天プレミアムカード」の「+2倍(+2%)」の特典が2023年11月で終了となります(画像は「楽天プレミアムカード」公式サイトより、赤枠は編集部追加)
さらに、楽天プレミアムカードには海外空港ラウンジを対象とした「プライオリティ・パス」を無料利用できるサービスが付帯されており、現在は回数制限が設けられていません。こちらの特典についても、2025年1月からと約1年間の猶予はあるものの、無料で利用できるのが「年間5回まで」という回数制限が設けられます。
楽天プレミアムカードは、コスパにすぐれたハイグレードカードとして知られていましたが、2つの目玉特典が終了・縮小することで保有価値は大きく下がると言えそうです。
楽天カード側も、この部分の影響の大きさを考慮したのだと推測していますが、今回の特典変更にあわせて楽天プレミアムカードの年会費を返金する措置をスタート。2024年1月8日までの期間限定で、返金申請を会員専用オンラインサービス上で受け付けています。
2つ目の改悪点が、月間の獲得ポイントの上限数が引き下げられる点です。SPUでは、「楽天カード利用の特典:+1倍(+1%)、月間上限5,000P」などと、それぞれの条件ごとに獲得できる月間の上限ポイント数が設定されています。この上限が現在はおおむね「1,000〜7,000P(多くの条件は5,000〜7,000P)」で設定されていますが、「500〜2,000P」に縮小されます。
参考HP:楽天市場「SPUの特典内容変更について」
2023年12月から適用されるSPUの変更内容。赤字部分が変更箇所で、月間の獲得上限はほとんどの条件でダウンします(画像は楽天市場公式サイトより)
ただ、上限ダウンはもちろん改悪には間違いありませんが、楽天市場を“普通に”利用しているユーザーにとって影響は限定的、というのが私の考えです。たとえば、SPUの楽天カードの利用特典として「1%」が上乗せされ、これの月間上限も5,000Pから1,000Pまで大幅ダウンします。ただ、改定後も月間税別10万円(10万円×1%=1,000P)までは上限に引っ掛からずに利用可能で、上限ダウンの影響を受けるのは、楽天市場を月に10万円超利用するヘビーユーザーのみだからです。
もちろん、楽天市場をひんぱんに月間10万円超利用する場合や、ふるさと納税や高額な家電を購入する際は、改定によってダウンした獲得上限に留意しておく必要はあるでしょう。
活用しているユーザーも少なくないと思いますが、3つ目の改悪点として、楽天カードと楽天銀行を併用したときに受けられる還元率も下がります。
現在は
(1)楽天カードの引き落とし口座に楽天銀行を設定:+0.5%還元
(2)さらに、楽天銀行で給与・賞与・年金を受け取り:+0.5%還元
となり合計「+1%還元」の優遇を受けられますが、改定後は(1)が+0.3%、(2)が+0.2%の計「+0.5%」に下がります。そして、この条件をクリアした際に適用される、獲得ポイントの月間上限数も5,000Pから1,000Pにダウンします
SPUの特典ではありませんが、楽天市場でよく知られたキャンペーン「5と0のつく日はポイント5倍」も縮小の対象になります。楽天市場では毎月5と0のつく日(5日、10日、15日、20日、25日、30日)に楽天カードで決済をすると(要エントリー)、5%還元になる特典がありますが、こちらも2023年12月5日から1%下がり4%還元となります。月間の獲得ポイント上限数も3,000Pから1,000Pにダウンとなります。
2023年12月から大きく改定される楽天ポイントの還元ルール
いっぽう、改定を機に大きく優遇を受けるのは楽天モバイルユーザーです。
現状は「Rakuten最強プラン」を利用している場合、楽天ポイントの会員ランクで最上位のダイヤモンド会員(※)は「+3%」、それ以外の会員は「+2%」となりますが、12月からは会員ランクにかかわらず「+4%」にアップ。つまり、楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」契約者は、誰もが楽天市場で5%還元を受けられることになります。
※〈楽天ポイントの会員ランク〉
シルバー:過去6か月で楽天ポイントを200P以上、かつ2回以上ポイント獲得
ゴールド:過去6か月で楽天ポイントを700P以上、かつ7回以上ポイント獲得
プラチナ:過去6か月で楽天ポイントを2,000P以上、かつ15回以上ポイント獲得
ダイヤモンド:過去6か月で楽天ポイントを4,000P以上、かつ30回以上ポイント獲得、かつ楽天カードを保有
ただし、この条件の月間の獲得ポイントの上限数が7,000Pから2,000Pにダウン。4%に対する2,000Pなので、楽天市場で月間税別5万円(5万円×4%=2,000P)を超えて利用する場合は、この上限に引っ掛かる点は要注意です。
楽天モバイル「Rakuten最強プラン」契約者は2023年12月以降、楽天市場で最低5%還元にアップします
また、楽天グループはここ最近、毎月所定の条件をクリアすると、街中での楽天カードのショッピング利用の還元率を2倍(2%還元)にするキャンペーンを実施しています(上限500Pまで、要エントリー)。この条件を、「楽天カードを使って、楽天市場で2万円以上買い物したユーザー」だったものを、2023年11月実施分は「楽天モバイル契約者」に変更しました。
こちらは1か月ごとに開催するキャンペーンで、2023年12月以降、どのような条件にするかは公表されていませんが、仮に11月と同様の条件で継続する場合、楽天モバイル契約者にとっては、誰もが2%還元となるので改善点と言えそうです。いっぽう、楽天モバイル非契約者で、これまで楽天市場で2万円以上買い物をしていたユーザーはこの特典を受けられなくなり、改悪と捉えることができそうです。
今回の改定によって、大きく影響を受けるのは楽天プレミアムカード会員。
たとえば、
(1)楽天プレミアムカードを保有:「+4%」→「+2%」にダウン
(2)カード引き落とし口座を楽天銀行に設定し、この口座で給与などを受け取っている:「+1%」→「+0.5%」にダウン
というユーザーの場合、現状(改定前)は基本分の1%を含め計6%還元だったのが、3.5%還元にダウンします。概算になりますが、年間12万円(月1万円)楽天市場を利用していた場合、改訂前と後で3,000P程度の減少、年間36万円(月3万円)だと、その差は9,000P程度まで拡大しそうです。
いっぽう、還元率が上がるのが楽天モバイルユーザー。
たとえば、
(1)楽天モバイルユーザー「Rakuten最強プラン」契約者(ダイヤモンド会員):「+3%」→「+4%」にアップ
(2)年会費無料の楽天カードを保有:「+2%」→「+2%」(変化なし)
というユーザーの場合、現状(改定前)計6%還元だったのが、7%還元にアップします。
年間36万円(月3万円)、楽天市場で利用すると年間の獲得ポイントは単純計算で3,500P程度アップしそうです。楽天モバイルでは、貯めた楽天ポイント(期間限定ポイント含む)を携帯の料金に充当可能なので、利用金額が大きければ、ポイントのみで楽天モバイルを利用することもできそうです。ただし、楽天モバイルの「+4%」に対する月間の獲得上限ポイント数は2,000P。税別で月間5万円以上使う際はこの上限を頭に入れておいたほうがよいでしょう。
今回の改定を受け、X(旧Twitter)では、“楽天経済圏の住人”(楽天ポイントを日常的に貯めているユーザー)がほかの経済圏への引っ越しをほのめかすツイートも見られます。ただ、実行に移すユーザーは一定数出てくる可能性はありますが、それが大きなトレンドにはならないのではないか、と私は見ています。
メジャーな経済圏として一般的にあげられるのが「楽天」に加え「PayPay」「ドコモ」「au」の4つで、それぞれの経済圏内の主要サービスをまとめたのが下表です。このうち、ECサイトで比較してみると、PayPayの「Yahoo!ショッピング」、ドコモの「dショッピング」、auの「au Payマーケット」は、おトクさや知名度の面で「楽天市場」より力不足な点は否めません(ドコモユーザーは「d払い」をAmazonで利用可能ではありますが)。
経済圏の各種サービスの中で、ECサイトはとりわけ利用頻度が高いので、今回の改定で“楽天経済圏”の魅力が低下した側面はあるものの、相対的な優位性はキープされるのではないかと考えています。
ただ、気になるのは三井住友グループが提供する「Vポイント」です。Vポイントは2024年春に、共通ポイントの先駆けである「Tポイント」との統合を予定しているほか、近年は訴求力のある還元の施策も次々と打ち出し、ポイント経済圏としての魅力を高めています。
そして、三井住友カードはAmazonと提携カードを発行する関係でもあります。仮に、三井住友グループ(三井住友カード)がこの機会に、Amazon利用にあたっての強力なポイント還元などの施策を打ち出してきた場合には、“楽天経済圏”への影響も大きくなるのではないか、と見ています。
以上、2023年12月から大幅改定となる楽天ポイントと、その影響について説明してきました。今回の改定の要点は
「楽天プレミアムカードの魅力大幅減」
「楽天モバイルユーザー優遇」
「月間のポイント獲得上限引き下げ。ヘビーユーザーには大きな改悪だが、一般ユーザーへの影響は限定的」
の3つにまとめられると思います。
今回の改定の背景にあるのが、苦境が続く楽天モバイルのてこ入れにあることは間違いないでしょう。楽天グループをはじめとした各社は経済圏で顧客の囲い込みを図り、いっぽうのユーザーは、経済圏内の各種サービスを使えば、ポイント還元などの面でおトクさを享受できます。
ただ、このときに覚えておきたいのは、(今回がそうだったように)経済圏のルールは基本的に、企業の方針によって変更されるものであること。仮に数年後、モバイル事業が堅調で、金融事業が不振だった場合、今回と真逆の内容の改定が行われることもありえるでしょう。ユーザーは基本的に、各経済圏のその時々のルールにしたがってポイ活をしていくしかありませんが、ルールを普遍のものと思わず、常に情報をアップデートしていく意識は持っていたほうがよいでしょう。