多くの人が関係する、スマートフォンなどのモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。連載第7回は、KDDIとソフトバンクが開始した「副回線サービス」を取り上げる。バックアップ回線を身近にするものだが、特徴とともに既存のサブブランドやMVNOと比べた場合の経済性に迫った。
※本記事中の価格は税込で統一している
2022年のKDDI大規模通信障害を機として、携帯各社で提供に向け準備が進められていた、非常時に他社回線を利用できる予備回線サービス。既に2023年2月に、KDDIとソフトバンクが双方の回線を用いた予備回線サービスを提供するというのは本連載の第2回でも触れた通りだが、その具体的なサービスが両社から2023年3月27日に発表されている。
それは「副回線サービス」というもの。KDDI、ソフトバンクともに名称とサービス内容はほぼ共通しており、KDDIはソフトバンク、ソフトバンクはKDDIのネットワークを用いた予備の回線を、緊急時の備えとして提供するものになる。
料金はどちらも月額429円。メイン回線とは別のSIMが提供され、近ごろ見かける機会が多いスマートフォンに2つのSIMを登録できる「デュアルSIM」の仕組みを用いて1台のスマートフォンでメインのSIMと共用することを想定しているようだ。
ソフトバンクのWebサイトより。副回線サービスはデュアルSIMの仕組みを用いてメイン回線とは別のSIMをスマートフォンに追加し、非常時に手動で切り替えて通信を維持できるものだ
それゆえ、通常はメイン回線として契約しているSIMを用いて通話や通信をこなすが、通信障害などが発生してそちらが使えなくなったときに、副回線サービスのSIMに手動で切り替えて通話や通信をする、というのが主な使い方となるだろう。
ただ副回線サービスで利用できるのは、30秒22円の音声通話と1通(全角70文字まで)当たり3.3円のSMS、そして最大300kbpsのデータ通信を500MBまでだ。KDDIの「povo 2.0」のように有料で通信量を追加できる仕組みなどは用意されなかったようで、緊急用とはいえ利用できるサービスにかなりの制約がある印象は否めない。
なぜデータ通信を中心に大きな制約がかけられているのかといえば、やはり“共倒れ”を防ぐためだろう。仮にKDDIで通信障害が発生した場合、副回線サービスの契約者はソフトバンク回線に切り替えて通話や通信をすることになるが、当然ながらソフトバンクの回線では、ソフトバンクの契約者が平常時と同じように通話や通信を行っている。
そこに一部とはいえKDDIのユーザーが入り込んで大容量の通信をしてしまえば、アクセスが集中して回線がパンクしてしまい、ソフトバンクユーザーまでもが通信できなくなる可能性が出てくる。結果として、一層深刻な状況を生み出しかねない。副回線サービスの制限を厳しくしたのはそうした事態を防ぐためと言えそうだ。
各社の副回線サービスの内容を確認するに、その利用用途は通信障害や災害発生時の緊急連絡や、日常生活に欠かせなくなったスマートフォン決済をすることなどが想定されているようだ。あくまで通信障害発生時に必要最小限の通信を確保するためのサービスだけに、過度な期待は禁物だろう。
KDDI(au)のWebサイトより。副回線サービスの利用は緊急時の通話やスマートフォン決済の利用などを想定している様子がうかがえる
もうひとつ、このサービスで制約が出てくるのが電話番号だ。なぜなら副回線サービスはメイン回線と異なるSIMを用いることから、メイン回線とは異なる電話番号を使って通話やSMSをする必要があるからだ。
これは早期にサービスを提供するためのやむを得ない措置ではあるのだが、相手が副回線サービスの番号を知らないと、電話をかけても「知らない人からの電話」と判断され、出てもらえない可能性がある。副回線サービスを契約したら、少なくともよく連絡する人にはメイン回線と副回線サービス、両方の電話番号を伝えておくべきだろう。
ただ裏を返せば、副回線サービスを契約すればかつての「2in1」(NTTドコモ)や「ダブルナンバー」(ソフトバンク)などのように、電話番号を1つ増やして使い分けができるメリットをもたらしてくれる。副回線サービスは平常時にも利用すること自体は可能なので、普段は1台のスマートフォンで2つの番号を持てるサービスとしてうまく活用するとよいかもしれない。
サービス内容は2社ともにほぼ共通している副回線サービスだが、対象サービスや申し込み方法などには違いもあるので注意が必要だ。まず利用できるブランドだが、KDDIは「au」「UQ mobile」が対象で「povo(1.0、2.0)」は対象外。ソフトバンクは「ソフトバンク」のみで「ワイモバイル」「LINEMO」は対象外だ。
SIMの提供形態にも違いがあり、KDDIはSIMカードとeSIMの両方に対応するいっぽう、ソフトバンクはeSIMのみ。それゆえソフトバンクユーザーが副回線サービスを利用するにはeSIM対応端末が必須になる。
申し込み方法にも大きな違いがある。KDDIはオンラインもしくは電話での受け付けとなり「auショップ」などでは申し込めない。ソフトバンクは逆に「ソフトバンクショップ」でのみ受け付けておりオンラインでは申し込むことはできない。
KDDI回線の場合Webサイトから申し込めるが、ソフトバンク回線はソフトバンクショップでの契約が必要になるなど、申し込み方法には大きな違いがある
こうした副回線サービスの内容を考慮したうえで、どのような人が利用すべきサービスなのか? と考えると、やはりスマートフォンやSIMにあまり詳しくない、サポート重視の人ということになるだろう。
連載第2回でも触れたが、知識のある人であればKDDI以外のユーザーなら、使わなければ基本料金は0円の「povo 2.0」や、KDDIユーザーであってもMVNOが500円を切るサービスを提供しているので、それらを契約すればより低価格でサービスも充実した予備回線を持つことが可能だ。だがその契約にはオンラインで手続きが必要になるし、eSIMで利用するとなればさらに難しさがともなう。しかもサービスの提供先が別会社になるため、サポートの窓口が違ってしまうのもデメリットだ。
ゆえにバックアップの回線は欲しいが、自分で契約や設定をするのは難しいと感じており、同じ携帯電話会社にまとめてサポートしてもらいたいという人に、副回線サービスは最適と言えるわけだ。ソフトバンクが副回線サービスの提供を実店舗に限定しているというのも、そうしたユーザーへの提供を意識したからこそだろう。
ちなみにもうひとつ、eSIM対応端末を使っているKDDIユーザーで、ソフトバンク回線を安く予備回線として使いたい人にも副回線サービスはメリットがある。というのも、ソフトバンク回線ではeSIMに対応したMVNOがまだ存在せず、「ワイモバイル」や「LINEMO」より安価、かつeSIMで利用できるサービスを選べないからだ。今後MVNOでソフトバンク回線のeSIM対応が進めば話は変わってくるだろうが、それまで副回線サービスを使うというのも悪くないだろう。
今後副回線サービスはNTTドコモも提供予定で、その際にはユーザーがKDDIとソフトバンクだけでなく、NTTドコモの回線も選んで利用できるようになることが予想される。「NTTドコモ回線が対応するまで契約を待つ」という人も多いかもしれないが、通信障害や自然災害はいつ起きるかわからないものだということを忘れてはならない。実際モバイルではないが、2023年4月3日には東日本電信電話・西日本電信電話(NTT東西)の「フレッツ光」で大規模通信障害が発生している。
それに加えて、災害が起こった場合に臨時で他社のネットワークに乗り入れる「非常時ローミング」を総務省が議論しているが、実現には数年の時間を要すると予想されていることから、少なくとも当面は通信障害の際、自身で身を守ることが求められる。
多少お金がかかるとはいえど、必要と感じた人は副回線サービスをはじめ、何らかの手段で早めに予備の通信回線を確保しておくことを、筆者としてはぜひおすすめしておきたい。
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。