多くの人が関係する、スマートフォンなどのモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。連載第8回は、実質的な値下げ発表が相次ぐMVNOの格安SIMを取り上げる。注目したい料金プランをいくつかピックアップしつつ、円安やエネルギーの値上げといった逆境の中で値下げが可能な理由に迫ろう。
※本記事中の価格は税込で統一している
「格安スマホ」として注目を集め、スマートフォンの料金を抑えたい人に人気のMVNOのサービス。現在では月額1,000円以下どころか、500円以下で利用できるサービスも登場しており割安感は非常に高い。注目したいのは、ここ最近、いくつかのMVNOがプランの内容を見直していることだ。
具体的には、一部の料金プランで、料金は据え置きのまま、月当たりのデータ通信量を増量している。たとえば、インターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJmio」が提供する「ギガプラン」では、音声通話とデータ通信が利用できるプランのうち、通信量が4GBのプランが月額990円のまま5GBに、8GBのプランが月額1500円のまま10GBにとそれぞれ増量している。
IIJのプレスリリースより。同社がMVNOとして提供する「IIJmio」の「ギガプラン」は、4GBと8GBの音声付きプランで料金据え置きのまま通信量が増量している
また、日本通信が提供する「合理的みんなのプラン」は、6GBのデータ通信量と70分間の国内無料通話がセットとなって月額1,390円で利用できるプランだったが、同社はこれを2023年4月28日に刷新。料金据え置きのまま通信量が10GBに増量したのに加え、国内通話に関しても70分間無料と、5分かけ放題のどちらかを選べるようになった。
日本通信のプレスリリースより。同社が提供している「合理的みんなのプラン」も、料金据え置きで通信量が6GBから10GBに増量している
それと同時に、同社は「合理的みんなのプラン」を含むすべての「合理的プラン」で、通信量が不足したときの追加データ料金を1GB当たり275円から220円に引き下げている。こちらは増量ではなく料金引き下げとなるが、お得感が増していることは理解できるだろう。
いっぽう、携帯電話会社の動向を見ると、KDDIに続いてソフトバンクが手数料の値上げを発表するなど、料金プランの値上げこそ起きていないものの、何らかの形で料金を引き上げようとしている様子がうかがえる。そこにはほかの業種と同様、電気代の高騰や円安などが影響しているのだろうが、なぜ携帯電話会社が値上げ傾向である中で、MVNOは実質的な値下げができるのだろうか。
そこに大きく影響しているのが「接続料」である。MVNOは仮想移動体通信事業者の略で、“仮想”という名前からわかるように、みずから基地局などのインフラ設備を持っていない。それゆえネットワークを携帯電話会社から借りてサービスを提供しているのだが、そのうちデータ通信の回線を借りる料金が接続料となる。
この接続料は携帯電話会社が勝手に決められるわけではなく、電気通信事業法で定められた方法で計算が行われている。具体的には設備にかかる「適正な原価」と「適正な利潤」を足し、それを「需要」、つまり通信トラフィックの総量で割ったものが接続料となる。
総務省「接続料の算定等に関する研究会」第71回会合資料より。データ通信の接続料は適正な原価と適正な利潤を需要で割ったものと、電気通信事業法によって算定式が定められている
年々原価は下がり、トラフィックは増加する傾向にあるため、接続料も毎年減少傾向が続いているというわけだ。実際携帯3大手の2023年度の接続料を見ると、前年比でそれぞれNTTドコモが23%、KDDIが38%、ソフトバンクが33%減少しているようだ。
総務省「接続料の算定等に関する研究会」第71回会合資料より。接続料は毎年低廉化の傾向にあり、2023年は3社ともに2〜3割程度下がっている
当然のことながら、接続料が安くなればMVNOは同じ幅のネットワークを借りるのに支払う料金が安くなる。IIJや日本通信の場合、その接続料の引き下げ分を直接顧客に還元する方針を採用し、料金据え置きのままデータ通信量を増やすにいたったと言えよう。
ただ、接続料が安くなった分のメリットを、どうサービスに生かすかはMVNOの戦略によって違ってくる。最も多くのMVNOが取っていると考えられるのが、通信品質を向上させるため借りるネットワークの幅を増やすことだ。
MVNOは携帯各社のネットワークを、お金を払った分の幅だけ借りているので、自社のネットワークをフル活用できる携帯各社と比べ一度に通信できる幅が狭い。それゆえ昼休みや通勤・通学の時間帯など、スマートフォンの利用が増える時間帯は利用が増え、通信速度が極端に落ちやすい傾向にある。
だが接続料が下がれば、同じ金額でより大きな幅のネットワークを借りられることから、昼休みなどの混雑を減らし通信速度を向上させ、顧客の満足度を高められる。ネットワークの品質は顧客満足度に大きく影響し、不満が多いと解約されてしまう可能性が高まるだけに、接続料の引き下げをネットワーク品質の向上に生かすMVNOは少なくないようだ。
しかしながら、最近では、接続料が下がったことを生かして“攻め”の姿勢を見せるMVNOも出てきている。その代表例がソニーネットワークコミュニケーションズの「NUROモバイル」が提供する「NEOプラン」である。
NEOプランは、同社のほかのサービスとは異なる専用のネットワーク帯域を用意し、混雑する時間帯も快適に通信ができる料金プラン。なかでも20GBの「NEOプラン」と40GBの「NEOプランW」は、「LINE」「Instagram」など対象のSNSのデータ通信量をカウントしないほか、アップロードのデータ通信が無制限で利用できる「あげ放題」が付き、さらに3か月ごとに15GBの通信量がプレゼントされる仕組みが用意されており、実質的に定められた通信量以上のデータ通信を利用可能だ。
「NUROモバイル」が提供する料金プラン「NEOプラン」「NEOプランW」はMVNOとしては料金が高めだが通信量も大きく、一部SNSの通信量をカウントしない、アップロードのデータ通信が無制限になるなど特徴的な要素を多く盛り込んでいる
「NUROモバイル」が提供する料金プラン「NEOプラン」「NEOプランW」はMVNOとしては料金が高めだが通信量も大きく、一部SNSの通信量をカウントしない、アップロードのデータ通信が無制限になるなど特徴的な要素を多く盛り込んでいる
その分、NEOプランは月額2,699円、NEOプランWは月額3,980円と料金もMVNOとしては高い部類に入るのだが、同価格帯の携帯各社のサブブランドやオンライン専用プランなどと比べてもお得感が高い。MVNOでこれだけ攻めた料金プランを提供できるのには、接続料が大幅に引き下がったことが少なからず影響していると言えよう。
無論、接続料がどれだけ下がっても通信品質でMVNOが携帯大手を上回ることはないだろうし、コンテンツや決済などの付加価値サービス、そして店舗でのサポートなどといった面では依然携帯大手のサービスに分がある。だが、接続料の低下によってMVNOのサービスも、低価格化とサービスの充実が高まっていることは間違いない。
現在は契約の“縛り”が存在しないのに加え、電話番号だけでなく携帯メールのアドレスも維持したまま他社のサービスに乗り換えることが可能なことから、MVNOのサービスをお試しで契約しやすくなっている。スマートフォンの料金をもっと抑えたい、あるいは特徴的なサービスを使いたいという人は、接続料の低下で魅力が高まったMVNOを一度試してみるのも悪くないだろう。
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。