ガーミンのランナー向けGPSウォッチ「Forerunner」シリーズのフラッグシップモデル「Forerunner 965」。ランナーをサポートする機能は従来機「Forerunner 955」からそのままに、有機ELディスプレイを新たに採用し、視認性などの使い勝手が格段にアップしています。
今回は、従来機「Forerunner 955」や、同時期に発売されたミドルクラスモデル「Forerunner 265」との違いなども含めてレビューします。
「Forerunner 965」の公式サイト販売価格は84,800円(税込。以下同)
ガーミンの「Forerunner」シリーズは、ランニングやトライアスロン、トレイルランニングなどを楽しむ人向けのランニングGPSウォッチです。ただし、ガーミンのほかのモデルと同様に、モバイルSuica対応の電子決済機能や音楽再生機能、メールなどの通知機能なども取りそろえており、スポーツ、主にランナー向けの機能に特化したスマートウォッチとも言えるでしょう。ですので、以降はランニングGPSウォッチではなくスマートウォッチと表現させていただきます。
「Forerunner」シリーズの中でも、フラッグシップモデルに位置づけられるのが「Forerunner 965」です。従来機「Forerunner 955」から1年足らずでの登場なので、従来機ユーザーの中には「もう発売されたの!」と残念な気持ちになった人もいるかもしれませんが、さらに使いやすく進化を遂げています。
機能面では、フラッグシップモデルらしく、正確な位置情報と心拍計、ロングバッテリー、さらにはトレーニングのサポート、休養など、ランナーをサポートする機能を豊富に搭載。従来機からアップグレードされたのは、主に有機ELディスプレイ、チタンベゼル、そして疲労を数値化する機能「負荷比」、手首ベースでの計測が可能になった「ランニングベース」などです。
進化点の中で特に注目したいのが有機ELディスプレイ。チタンベゼル採用による外観の変化も見逃せませんが、「負荷比」などの機能面についてはマイナーアップグレードにとどまっており、大きく気にする必要はないと思います。
有機ELディスプレイについては、ランニングの細かいデータやグラフが見やすくなるなど視認性に関わる部分に大きく貢献しています。正直なところ、MIP液晶を採用している従来の「Forerunner」シリーズを使っているときに"視認性が悪い"とは思ったことはありません。しかし、「Forerunner 965」を使うと、やはり視認性のよさは圧倒的だと感じます。
鮮やかで高コントラストな表示の有機ELディスプレイは、グラフや細かい数値なども見やすいです
夕方や夜間などの暗いところはもちろん、MIP液晶に比べて弱いとされている太陽光の下でもかなり見やすくなった印象です。
左は従来機と同じMIP液晶の「Forerunner 255」です。横に並べると、「Forerunner 965の視認性の高さがわかりやすいですね
ただし、MIP液晶は電力の消費が少なく、バッテリー駆動時間が長くなるという特徴もあります。これが有機ELディスプレイになったことで、バッテリーの駆動時間が少なくなったのでは? と心配していましたが、カタログスペック上ではGPSモードでも約31時間駆動を実現しており、ガーミンのスマートウォッチの特徴であるロングバッテリーはきちんと継承されている模様です。
・「Forerunner 965」
スマートウォッチモード: 約 23 日間
GPSモード: 約 31 時間
・「Forerunner 955 Dual Power」
スマートウォッチモード: 約 15 日間+5 日間
GPSモード: 約 42 時間+7 時間
「Forerunner 955 Dual Power」は、ソーラー充電による超ロングバッテリーが売りのモデルですが、「Forerunner 965」は、それと遜色のないバッテリー駆動時間を実現しています。GPSを駆動させても約31時間駆動するので、制限時間17時間という過酷な競技で知られるトライアスロンのアイアンマンにも対応できます。
また、有機ELディスプレイを採用するスマートウォッチでは、バッテリー駆動時間を伸ばすためにデフォルトで常時表示がオフになっているものがほとんどです。もちろん、常時表示をオフにすると駆動時間は長くなるのですが、打ち合わせ中などに時計をチラ見しても時刻は表示されません。これって地味に不便なんですよね。
その点、長時間駆動の「Forerunner 965」は、常時表示をしても、さほどバッテリーの縁を気にせずに使えます。実際に、常時表示をオンにして約24時間使用(1時間のランニング計測含む)した後のバッテリー使用量は8〜9%くらいでした。常時表示をオンにしていても、約10日間くらいは充電なしでいけそうですね。
バッテリーが減りやすい常時表示をオンにしても、電池の減りはあまり気にしなくて大丈夫です
ガーミンの「Forerunner」シリーズといえば、やはりランナー向けや健康管理、睡眠モニタリングなどの機能が豊富に用意されているのが特徴です。その中でもフラッグシップモデルの「Forerunner 965」は、使いこなせるのか心配になるくらいの数の機能が搭載されています。
・おすすめワークアウト
トレーニングとリカバリーの状況やアプリ「Garmin Connect Mobile」のカレンダーに登録されたレースの予定を考慮しておすすめワークアウトを提案
・トレーニングレディネス
睡眠の質やリカバリータイム、トレーニング負荷などに基き、今日はトレーニングをすべき日なのか、それとも休息のために過ごす日なのかを知ることができる機能
・トレーニングステータス
HRVステータス、最近の運動履歴、パフォーマンスなどの指標を使用して、生産的にトレーニングしているか、ピークに達しているか、疲労しているかを把握できる機能
・ランニングパワー
地面にどれだけの力を加えて走っているかを計測する機能
・PacePro機能
目標タイムや好みのペース配分、コースデータに基づくガイド
上記に記したのは一部の機能のみです。すべてを紹介するのは難しいので、ここでは私が気に入っている機能「ボディバッテリー」「トレーニングレディネス」「モーニングリポート」をピックアップして解説します。
自分の身体を電池に見立てて数値化するボディバッテリー。私もよく使っている機能です。運動だけでなく睡眠なども関係してきて、睡眠の質や量が十分だと、朝の起床時にバッテリーが大きくチャージされます。自分が感じている以上に疲れていたりするので、非常に参考になります。
ボディバッテリー
トレーニングに対しての準備がどれくらい整っているかを数値の高低によって表す「トレーニングレディネス」もかなり気に入っている機能です。
トレーニングできるかどうか、その準備具合を数値化する「トレーニングレディネス」
「トレーニングレディネス」で算出される数値は、睡眠の状況やトレーニングからの回復時間、ストレスなど、「Forerunner 965」で収集される複合的な項目から割り出されます。トレーニングから完全に回復していても、直前の睡眠時間が少ないと「準備が整っていない」と判断されて数値が低くなります。数値が低いと、のんびり走るなどの強度が低いトレーニングを、逆に数値が高い場合はペースを上げて走る強度が高いトレーニングをおすすめしてくれます。
ボディバッテリーやトレーニングレディネス、睡眠モニタリングなどのデータを、起床時に通知してくれるのが「モーニングリポート」です。スマートウォッチはさまざまなデータを収集するものの、ユーザーが自発的に確認、管理をしないと、逆に活用しにくいということもあります。計測したのはいいものの、後から確認せずにやりっぱなしになっていることってありますよね。こういう人にぜひ使っていただきたい機能です。
睡眠データやボディバッテリー、おすすめのトレーニング、天気などを自動的に通知してくれます。自分でわざわざ確認しなくてもいいのはありがたいですね
「Forerunner 965」と、ほぼ同時期に発売された「Forerunner 265」のどちらを選ぶかで迷っている人もいるでしょう。「Forerunner 265」は公式サイトでの販売価格が62,800円です。「Forerunner 965」は84,800円なので、2つのモデルには2万円強の価格差があります。
外観は両モデルで違っていて、「Forerunner 965」はチタンベゼルの採用によって高級感のあるデザインに仕上がっています。サイズも「Forerunner 965」のほうがわずかに大きいです。ただし、有機ELディスプレイやGPSは両モデルで同じものが採用されています。
盤面のサイズと重量は「Forerunner 265」(左)が32.5mm、47g。「Forerunner 965」(右)は35.4 mmで53gです
バッテリー駆動時間は、GPSモード時で「Forerunner 265」が約20時間、「Forerunner 965」が約31時間。そのほかの主な違いは搭載されている機能にあります。
「Forerunner 965」のみの機能としては、運動中にあとどれくらい運動が続けられるかを「時間」や「距離」などで数値化する「リアルタイムスタミナ」機能が搭載されています。繰り返し運動をしてどんどんデータを蓄積していくと、この数値の精度が高まっていくとのことです。
たとえば、初めてフルマラソンにチャレンジする場合、どれくらいのペースで走ればいいか、なかなかわからないところがあると思いますが、「リアルタイムスタミナ」機能を使えば、自分の残りスタミナ的にどれくらいのペースで走ればいいかがつかめるというわけです。
あとどれくらいエネルギーが残っているかがわかる、リアルタイムスタミナ機能
また、「マップ」機能も「Forerunner 965」に搭載された独自機能です。マップの拡大/縮小、スクロールはタッチパネル&ボタンで操作が可能。スマートフォンの地図アプリのように、ヌルヌルと操作できるわけではありませんが、出発した地点まで戻るためのナビゲーション機能も備わっているので、初めての場所でランニングする際にも役に立つ機能だと思います。
「Forerunner 965」に搭載されたマップ機能
正直なところ「Forerunner 965」と「Forerunner 265」は、どちらを選んでも満足できる機能を備えているスマートウォッチだと思います。一般的に考えれば、トップモデルの「Forerunner 965」は上級者向けと言えますが、自分があとどれくらい走れるかがわかる、「リアルタイムスタミナ」機能はベテランランナーよりも、経験の少ない初心者ランナーのほうが実際のレースなどで役に立つのかな、と考えてしまいました。
約2万円の価格差をどうとらえるかにもよると思いますが、高級感のあるデザインが欲しいならば「Forerunner 965」、よりカジュアルに決めたいならば「Forerunner 265」という感じですね。
1年ほど前に発売された従来機「Forerunner 955」の段階で、すでにスポーツ向けのスマートウォッチとして「突き抜けていた」感じはありましたが、新モデル「Forerunner 965」は視認性が進化したことで、スポーツ向けのスマートウォッチとして完全体になったような印象さえあります。
スポーツシーンでの使い勝手はもちろん、健康管理の機能も充実。そしてモバイルSuica対応といった決済機能も搭載。これ以上の進化といえばバッテリー駆動時間を改善するくらいかなと思わせるほどの完成度の高さです。
スポーツシーンにおいては圧倒的な視認性と機能を備える
ちなみに、筆者の場合、これまでのモデルではスマートウォッチで収集したデータをスマートフォンで確認していたのですが、「Forerunner 965」を使っているうちに、自然とスマートウォッチ本体で数値を確認するようになっていました。「Forerunner 965」の視認性の高さは、スマートウォッチの使い方の習慣を変えてしまうほどのインパクトがあると思います。
ミラソル デポルテ代表。自転車、トライアスロン、アウトドア関連のライターとしても活動中。趣味はロングディスタンスのトライアスロン。