スマホとおカネの気になるハナシ

高コスパスマホに危機到来!? グーグルとアップルの優位が見えた最新スマホ事情

多くの人が関係する、スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、国内メーカーのスマホ事業撤退のニュースを紹介しつつ、人気の高いミドル・ロークラススマホのコストパフォーマンスが急速に悪化していることを解説しよう。

※本記事中の価格は税込で統一している。

国内のスマートフォンメーカーが相次いで事業撤退・経営破綻

2023年5月、国内スマートフォンメーカーが一気に3社も撤退・破綻したことが大きな話題を呼んだ。2023年5月12日にはスマートフォン市場に参入して間もないバルミューダが撤退を表明したのに続き、2023年5月16日にはそのバルミューダのスマートフォンを製造していた京セラが、コンシューマー向けスマートフォン事業の一部を終息することを表明している。

だが、より大きな驚きをもたらしたのは、やはり2023年5月30日にFCNTが民事再生法を申請し、事実上経営破綻したことではないだろうか。FCNTは携帯電話メーカーとして老舗だった富士通の事業を引き継いだ企業で、シニア向けの「らくらくスマートフォン」など販売が安定している定番のシリーズを持っていただけに、同社の経営破綻が大きな驚きを与えたことは確かだろう。

国内スマートフォンメーカーの撤退が相次ぐ中、「らくらくスマートフォン」などで知られるFCNTが2023年5月30日に突如民事再生法の申請を発表。事実上経営破綻したことは大きな驚きをもたらした

国内スマートフォンメーカーの撤退が相次ぐ中、「らくらくスマートフォン」などで知られるFCNTが2023年5月30日に突如民事再生法の申請を発表。事実上経営破綻したことは大きな驚きをもたらした

なぜこれだけのメーカーが一気に撤退・破綻にいたったのかと言えば、直接的な原因として、コロナ禍での半導体不足を機とした半導体の価格高騰があげられる。さらに、2022年なかば頃から急速に進んだ円安の影響も無視できない。

国内メーカーは世界的なシェアが非常に小さく、スマートフォンの製造に欠かせない半導体の調達力が弱いことから価格高騰の影響を受けやすい。加えて半導体など多くの部材はドルで取り引きすることが多いので、円安が重くのしかかったわけだ。

しかも国内で販売するスマートフォンの多くは、海外で製造し、日本に輸入して販売することから円安の影響を受けやすく、価格高騰で販売が伸び悩んだことも国内を主戦場としている日本のメーカーに悪い影響をもたらす結果となった。

だが、それ以前から日本のスマートフォン市場はすでに飽和傾向で、買い替えサイクルが長期化していたのに加え、2019年の電気通信事業法改正により、政府がスマートフォンの値引きに非常に厳しい規制をかけたことで販売も大きく落ち込んでいた。市場が冷え切っていたところに先の2つの事象がほぼ同時期に起きたことで環境が劇的に悪化し、耐えられなくなったメーカーが撤退・破綻にいたったわけだ。

ミドル・ロークラス新製品のコスパが急速に悪化している

ただ、一連の影響はこれら3社だけに限ったものではなく、それだけに2023年のスマートフォン市場には非常に大きな異変が起きている。そのひとつは、連載第9回でも触れたとおり、各社の高性能なフラッグシップモデルの価格が軒並み20万円近くを記録するなど大幅に上がっていることだ。

そしてもうひとつ、低価格の領域をカバーするミドル・ローエンドクラスのスマートフォンにも大きな動きが起きている。それはこのクラスの製品のコストパフォーマンスが急速に悪化していることだ。2023年に投入が発表されたミドル・ローエンドのスマートフォンは、チップセット(SoCと呼ばれる場合もある)が2022年のものと変わっていない、あるいはそれより性能が低いものを採用するケースが増えているのだ。

たとえば、ソニーのミドルクラスの新モデル「Xperia 10 V」に搭載しているチップセットは、クアルコム製の「Snapdragon 695 5G」。これは2022年発売の前モデル「Xperia 10 IV」と同じものだ。

ソニーの「Xperia 10 V」は、搭載するチップセットが「Xperia 10 IV」と同じ「Snapdragon 695 5G」。カメラなどの性能が強化されているが、ベースの処理性能、グラフィック性能、通信性能、画像処理性能などは変わっていない

ソニーの「Xperia 10 V」は、搭載するチップセットが「Xperia 10 IV」と同じ「Snapdragon 695 5G」。カメラなどの性能が強化されているが、ベースの処理性能、グラフィック性能、通信性能、画像処理性能などは変わっていない

もちろん、「Xperia 10 V」はメインカメラのイメージセンサーをより性能の高いものに変えたり、前面にステレオスピーカーを搭載したりするなど、チップセット以外の部分をいくつか進化させている。だが、新旧モデルの販売価格を見ると、「Xperia 10 V」はすでに価格が公表されている楽天モバイルで72,800円、「Xperia 10 IV」はオープン市場向け(SIMフリー)モデルがソニーストアで60,500円と差がある。ベースの性能が上がっていないだけに、前モデルと比べた場合にお得感が弱いという印象は否めない。

武器だったコスパが封じられた中国メーカー

この傾向は海外メーカー製のスマートフォンでも同様で、高いコストパフォーマンスを武器にミドル・ローエンド市場で旋風を巻き起こしてきた中国メーカーも、円安の影響が直撃してその力を発揮できなくなっているようだ。

実際、オッポが2023年6月13日に発表した「OPPO Reno9 A」を見ると、搭載するチップセットは「Snapdragon 695 5G」と前モデルの「OPPO Reno7 A」と変わっておらず、RAMが6GBから8GBに増量されてはいるものの、全体的に性能の大幅な向上は見られない。

オッポのミドルクラスの新モデル「OPPO Reno9 A」も、チップセットは「Snapdragon 695 5G」で前モデル「OPPO Reno7 A」と変わっていない

オッポのミドルクラスの新モデル「OPPO Reno9 A」も、チップセットは「Snapdragon 695 5G」で前モデル「OPPO Reno7 A」と変わっていない

さらに、もうひとつの事例として、2023年6月7日にモトローラ・モビリティ(中国企業レノボ傘下の米国企業)が発表した新製品「moto g53j 5G」を紹介しておきたい。

「moto g53j 5G」はチップセットにクアルコム製の「Snapdragon 480+ 5G」を搭載し、背面のカメラには広角カメラとマクロカメラの2眼構成を採用している。2022年発売の「moto g52j 5G」が上位のチップセット「Snapdragon 695 5G」と、広角/超広角/マクロの3眼カメラを採用していること考えると、型番は更新されたものの、基本性能は低下している印象を受ける。

モトローラ・モビリティの新機種「moto g53j 5G」は、前モデル「moto g52j 5G」と比べて下のクラスのチップセットを採用しており、カメラも2眼に減少している

モトローラ・モビリティの新機種「moto g53j 5G」は、前モデル「moto g52j 5G」と比べて下のクラスのチップセットを採用しており、カメラも2眼に減少している

もちろん、RAM容量を見ると「moto g53j 5G」は8GB、「moto g52j 5G」は6GBと、新モデルが上回っている部分もあるが、全体的に性能が引き下げられている印象は否めない。それゆえ同社としては、「moto g53j 5G」を「moto g52j 5G」の下位モデルとして販売する方針のようだ。ただ、価格は「moto g53j 5G」が34,800円で、「moto g52j 5G」が39,800円と、その差は5,000円しかなく、コストパフォーマンスからすると、新モデルに対してどうしても微妙な印象を受けてしまう。

苦境の他社を横目に、コスパで他社を圧倒するグーグルとアップル

なぜミドル・ローエンドの端末でチップセットの性能を抑える動きが強まっているのかと言うと、チップセットがスマートフォンを構成する部材の中でも価格が高いためだ。円安で端末価格が高くならざるを得ないだけに、チップセットを古いものや性能が低いものに変えることで価格を引き下げているわけだ。

いっぽうで、チップセットを強みとして圧倒的なコストパフォーマンスを継続しているスマートフォンもある。それがグーグルの「Pixel 7a」だ。

「Pixel 7a」は「Pixel 7」シリーズの低価格モデルとして2023年5月に発売されたものだが、チップセットにはほかの「Pixel 7」シリーズと同様、ハイエンドスマートフォンに並ぶ性能を持つ「Tensor G2」を搭載。それでいて直販価格は62,700円と、円安の影響から前モデルの「Pixel 6a」(53,900円)より1万円近く値上がりしているものの、この価格帯のモデルの中では圧倒的なコストパフォーマンスを維持している。

グーグルの「Pixel 7a」は、前モデル「Pixel 6a」と比べて1万円ほど価格が上昇しているが、上位モデルと同じチップセット「Tensor G2」を搭載しており性能は非常に高く、コストパフォーマンスは圧倒的だ

グーグルの「Pixel 7a」は、前モデル「Pixel 6a」と比べて1万円ほど価格が上昇しているが、上位モデルと同じチップセット「Tensor G2」を搭載しており性能は非常に高く、コストパフォーマンスは圧倒的だ

なぜグーグルだけがこれだけの安さを実現できているのか? その答えのひとつとして、グーグルが純粋なハードウェアメーカーではなく、ほかに多くの事業を持つ巨大企業であることがあげられる。そして、もうひとつ大きなポイントとして見逃せないのが、その資金力・技術力を生かして自社でチップセットを開発していることだ。

半導体は同じものをたくさん製造・調達すれば価格を安く抑えられるので、グーグルは自社開発の「Tensor G2」をハイエンドモデルだけでなく、ミドルクラスに位置する「Pixel 7a」にも搭載している。さらに、折り畳みスマートフォンの「Pixel Fold」やタブレットの「Pixel Tablet」などにも搭載して横展開することにより、価格を下げようとしているわけだ。

同様の戦略は、やはり自社でチップセットを開発しているアップルも実践している。たとえば、同社の低価格帯を担ってきた「iPhone SE」シリーズがわかりやすい。「iPhone」としてはエントリー向けながら、最新モデルと同じ高性能なチップセットが採用されており、コストパフォーマンスの高さで人気を集めている。

チップセットを他社から調達している多くのメーカーが、これら2社に対抗するのは容易ではない。それゆえ現在の市場環境が長く続くようであれば、国内メーカーだけでなく海外メーカーからも、日本市場にギブアップの声を上げるところが出てもおかしくない。

2022年春に登場した「iPhone SE(第3世代)」のチップセット「A15 Bionic」は、「iPhone 14」および「iPhone 13/13Pro」の各シリーズなどに搭載されているものと同じ。処理性能などの基本性能はこれらと共通なので、今なおコスパは圧倒的だ

2022年春に登場した「iPhone SE(第3世代)」のチップセット「A15 Bionic」は、「iPhone 14」および「iPhone 13/13Pro」の各シリーズなどに搭載されているものと同じ。処理性能などの基本性能はこれらと共通なので、今なおコスパは圧倒的だ

製品選びの視点を変える必要がある? コスパ重視なら旧モデルは一考の価値アリ

これまで、スマートフォンの価格高騰は、フラッグシップモデルがその象徴的な製品として語られることが多かったが、今夏モデルでは、ミドル・ロークラスにも影響が及んでいる。ただそれらのモデルは価格が売れ行きを大きく左右することから、価格を維持するため性能を犠牲にしているのがフラッグシップモデルとは異なる点だ。

それゆえ視点を変えると、ミドル・ロークラスでは新製品の登場によって価格が下落した旧モデルの魅力が高まっているととらえることもできる。円安などが続く現状では必ずしも最新モデルが最高の選択肢とは限らないだけに、今までとは異なる視点での製品選びが求められていると言えるかもしれない。

佐野正弘

佐野正弘

福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。

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