特別企画

空冷クーラーでも大丈夫? 今どきのCPUの発熱との付き合い方

インテルもAMDも、最新世代のCPUは動作中の温度が高い。制限をかけずに動作させると簡単に上限の温度まで上がり、サーマルスロットリングが動作してしまう。自作PCのユーザーにとって、CPUの発熱との付き合い方は重要なテーマのひとつと言ってよいだろう。

冷却性能の高い水冷CPUクーラーを使うなどの対策で、温度を下げてCPU性能も引き出せればそれがベストだ。それでは、反対に「きちんと冷やせていない」とはどんな状態で、どんな影響があるのだろうか。今回はインテルの第13世代Coreシリーズと空冷のCPUクーラーを使い、冷却能力が足りないとどうなるのか、空冷CPUクーラーでの運用はできるのかを見ていく。

サーマルスロットリングは危険のサインではない

CPUが安全に動作する温度の範囲はモデルによって異なり、一概に何度だから危険だと言うことはできない。またCPUには許容する最大温度が設定されており、その温度に達するとCPUの処理性能を落とすことで温度を下げる機能がある。これを「サーマルスロットリング」と呼び、しきい値となる温度は「TjMAX」と呼ぶ。「TjMAX」は100度前後に設定されていることが多い。先述のとおり、インテル製CPUもAMD製CPUも、最新世代の製品は簡単にCPU温度が「TjMAX」に到達してしまう仕様になっている。そのためBIOS(UEFI)の設定を変更し、CPU温度を低く保とうとしている人は多いだろう。

しかし実は、サーマルスロットリングは危険信号ではない。CPUの温度管理機能が発達する前は、温度が上がり過ぎると熱暴走してシステムのフリーズや再起動といったトラブルが発生していた。サーマルスロットリングはそれを防ぐための機能で、PCの動作に問題が起こる手前でそれ以上の温度上昇を防ぐ。本当に危険な温度のラインはさらに上にあり、サーマルスロットリングが正常に働いている限り、CPUは安全に動作していると言える。参考までに、安全のためにシステムをシャットダウンする「Thermal Trip」という機能は、おおむね130度を超えると作動する。

以前はCPUの平均的な動作温度がそこまで高くなかったこともあり、90度や100度までCPU温度が上がることはまれだった。そのため、その当時であればサーマルスロットリングが動作するほどCPU温度が高いのは異常だという認識でおおむね正しかったと言える。しかしここ数年で登場したCPUは発熱を許容するのがトレンドのため、考え方を変える必要が出てきたのだ。

サーマルスロットリングは、CPU温度が一定以上に上がらないようにする機能。「Extreme Tuning Utility(XTU)」(インテル)などのツールで動作していることを確認できる

サーマルスロットリングは、CPU温度が一定以上に上がらないようにする機能。「Extreme Tuning Utility(XTU)」(インテル)などのツールで動作していることを確認できる

高負荷時にはほぼ100度に張り付く

それでは、空冷CPUクーラーを利用した場合のCPU温度を見ていこう。今回はCore i5-13600Kと「Hyper 212 Halo White」(Cooler Master)を使用した。その他の検証環境は以下のとおり。

今回使用したCPUはCore i5-13600K。Core i7やCore i9より発熱量は少ないが、それでもCPU温度は空冷CPUクーラーでは簡単に100度まで上昇する。CPU温度は「Extreme Tuning Utility」のログ作成機能で記録し、「Package Temperature」の値を使用した。CPU温度の最大値となる「TjMAX」は、CPUの仕様に合わせて100度に設定した。計測時の室温は26±1度

今回使用したCPUはCore i5-13600K。Core i7やCore i9より発熱量は少ないが、それでもCPU温度は空冷CPUクーラーでは簡単に100度まで上昇する。CPU温度は「Extreme Tuning Utility」のログ作成機能で記録し、「Package Temperature」の値を使用した。CPU温度の最大値となる「TjMAX」は、CPUの仕様に合わせて100度に設定した。計測時の室温は26±1度

「Hyper 212 Halo White」は120mmファンを搭載したタワー型CPUクーラー。ファンにアドレサブルRGB LEDを搭載しており、鮮やかに光る

「Hyper 212 Halo White」は120mmファンを搭載したタワー型CPUクーラー。ファンにアドレサブルRGB LEDを搭載しており、鮮やかに光る

テストには「CINEBENCH R23」(MAXON Computer)の「CPU(Multi Core)」を利用した。CPUのすべてのコア、スレッドを使用するため、温度が上がりやすい。マザーボードのBIOS(UEFI)の設定で電力制限を行わないようにし、実行した結果が以下のグラフだ。

「CINEBENCH R23」の「CPU(Multi Core)」テスト実行のCPU温度の推移。テストの継続時間は10分。開始直後に100度付近まで到達し、終了するまでそのままだった。何度か瞬間的に温度が下がっているのは、テストがループしたタイミングだ

「CINEBENCH R23」の「CPU(Multi Core)」テスト実行のCPU温度の推移。テストの継続時間は10分。開始直後に100度付近まで到達し、終了するまでそのままだった。何度か瞬間的に温度が下がっているのは、テストがループしたタイミングだ

テスト実行中のCPU温度はほぼ98〜100度で推移した。想定どおり非常に高い。ただし動作自体は安定しており、テストを10分から30分に伸ばしても問題なく完走した。サーマルスロットリングが正しく動作している証拠だ。

サーマルスロットリングが作動すると、CPUの電圧や動作クロックを落として発熱を抑える。性能への影響が大きいのは動作クロックだ。そこで、サーマルスロットリングが発生しない水冷CPUクーラーを使用した場合と比較した。

「CINEBENCH R23」の「CPU(Multi Core)」テスト実行中の動作クロックをまとめた。数値は6個あるPコアの平均。水冷CPUクーラーでは約5.1GHzで推移したところ、空冷CPUクーラーでは約4.8GHzとなっており、サーマルスロットリングで動作クロックが落ちていることが確認できた

「CINEBENCH R23」の「CPU(Multi Core)」テスト実行中の動作クロックをまとめた。数値は6個あるPコアの平均。水冷CPUクーラーでは約5.1GHzで推移したところ、空冷CPUクーラーでは約4.8GHzとなっており、サーマルスロットリングで動作クロックが落ちていることが確認できた

「CINEBENCH R23」の「CPU(Multi Core)」テストのスコアを比較した。このスコアは10分の継続テストを完走した際に取得したもの。動作クロックが下がったぶん、スコアも4.5%ほど下がっている

「CINEBENCH R23」の「CPU(Multi Core)」テストのスコアを比較した。このスコアは10分の継続テストを完走した際に取得したもの。動作クロックが下がったぶん、スコアも4.5%ほど下がっている

空冷CPUクーラーでは水冷CPUクーラー利用時と比べて動作クロックが約0.3GHz下がり、それにともなって「CPU(Multi Core)」テストのスコアも約4.5%下がった。これが冷却が不十分な場合の影響と言ってよいだろう。小型のCPUクーラーを使用した場合など、冷却性能がより低い場合はもっと差が開く可能性がある。

設定を落とした場合と比較してみる

次に、設定で発熱を落とした場合と比較してみよう。電力を制限するパターンと最大温度を抑えるパターンを検証する。上のテストと同様に、CPU温度、Pコアの動作クロック、「CINEBENCH R23」のスコアで比較した。

「Z790 LiveMixer」には「CPU Cooler Type」という設定がある。CPUクーラーのタイプによって電力設定が変更される。上のテストでは「360〜420mmラジエーターモデル(265W)」を使用しており、ここでは「空冷クーラー(125W)」に変更した

「Z790 LiveMixer」には「CPU Cooler Type」という設定がある。CPUクーラーのタイプによって電力設定が変更される。上のテストでは「360〜420mmラジエーターモデル(265W)」を使用しており、ここでは「空冷クーラー(125W)」に変更した

CPUの発熱を抑えるには、使用する電力に制限をかければよい。Core i5-13600Kの「Maximum Turbo Power(MTP)」は181Wなので、最大値が265Wとなる「360〜420mmラジエーターモデル」の設定では実質的に制限なしと考えてよいだろう。そこで最大125Wになる「空冷クーラー」の設定を利用した。

CPUの最大温度は「CPU Tj Max」の項目で設定する。上のテストでは100度に設定したが、ここでは90度に下げてテストした。今回は使っていないが、最大値は115度であり、「Auto」の設定でも100度を超える場合がある

CPUの最大温度は「CPU Tj Max」の項目で設定する。上のテストでは100度に設定したが、ここでは90度に下げてテストした。今回は使っていないが、最大値は115度であり、「Auto」の設定でも100度を超える場合がある

もう1つのアプローチとして、「CPU Tj Max」を変更する方法も試した。こちらはサーマルスロットリングのしきい値を下げる方法だ。電力制限は行わないが、最大温度を指定する方法のため、より確実にCPU温度を下げられる。

CPU温度をより下げられたのは「空冷クーラー」に設定した場合で、負荷時の平均が約81度。「CPU Tj Max」を90度に設定すると90度でサーマルスロットリングが動作するため、制限なしと似たグラフになった

CPU温度をより下げられたのは「空冷クーラー」に設定した場合で、負荷時の平均が約81度。「CPU Tj Max」を90度に設定すると90度でサーマルスロットリングが動作するため、制限なしと似たグラフになった

設定によってPコアの動作クロックにも違いが現れた。CPU温度を下げると、そのぶん動作クロックも下がることになる。「空冷クーラー」の設定では、負荷時に約4.5GHzまでしか上がらなかった

設定によってPコアの動作クロックにも違いが現れた。CPU温度を下げると、そのぶん動作クロックも下がることになる。「空冷クーラー」の設定では、負荷時に約4.5GHzまでしか上がらなかった

動作クロックの差は、「CINEBENCH R23」の「CPU(Multi Core)」テストのスコアにも影響している。「空冷クーラー」の設定では約7%スコアが落ちた

動作クロックの差は、「CINEBENCH R23」の「CPU(Multi Core)」テストのスコアにも影響している。「空冷クーラー」の設定では約7%スコアが落ちた

電力制限、温度制限、どちらのアプローチでもCPU温度を90度以下にまで下げることができた。いっぽうで、やはりそれにともなう性能低下は避けられない。水冷CPUクーラーを使った場合との比較では、差は約4.5%から約7〜11%に広がった。

普段使いでは負荷の低い使い方も多い

ここまでの負荷テストには「CINEBENCH R23」を使ってきた。「CPU(Multi Core)」テストの負荷が非常に高く、CPU温度が上がりやすいからだ。しかし、PCを使う時間のほとんどをこのような高負荷作業に費やしている人はあまり多くないだろう。そこで、普段使いを想定して「PCMark 10」(UL)と「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」(スクウェア・エニックス)を実行し、CPU温度を調べた。ここでは電力や温度の制限は設けていない。

「PCMark 10」の「PCMark 10」テストを実行し、CPU温度の推移をまとめた。温度が上がる瞬間はあるものの、おおむね40〜60度の間に収まっている。平均すると49度と非常に低かった

「PCMark 10」の「PCMark 10」テストを実行し、CPU温度の推移をまとめた。温度が上がる瞬間はあるものの、おおむね40〜60度の間に収まっている。平均すると49度と非常に低かった

「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」実行中のCPU温度は70度前後を推移した。平均で約68度と「PCMark 10」よりは高いものの、「CINEBENCH R23」と比べるとかなり低い

「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」実行中のCPU温度は70度前後を推移した。平均で約68度と「PCMark 10」よりは高いものの、「CINEBENCH R23」と比べるとかなり低い

グラフのとおり、CPU温度は高くても80度ほどで、当然サーマルスロットリングもほとんど動作していない。オフィスワークを想定した「PCMark 10」テストでは空冷CPUクーラーでも50度以下に抑えられていた時間が長い。ゲームはタイトルによってより高くなる可能性はあるものの、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」では80度を超えることはなかった。

サーマルスロットリングに任せるのも選択肢のひとつ

普段使いで問題なくとも、負荷の高い作業をしたときに冷却能力が不足するのではダメなのでは? と思うかもしれない。ここで思い出してほしいのが、サーマルスロットリングが危険信号ではないということだ。サーマルスロットリングはあくまでCPUの温度を一定以上に上昇させないための機能なので、その範囲で使うことに危険はない。であれば、特定の作業中だけサーマルスロットリングが動作することを受け入れて運用することも検討してよいだろう。

また、サーマルスロットリングを許容できるのであれば、発熱を落とす設定をしないという選択肢もある。サーマルスロットリングによって安全な範囲での動作は確保されているため、あえて複雑な設定をしなくても、温度を原因としたシステムのフリーズやシャットダウンなどは発生しない。設定で発熱を減らそうとすると、サーマルスロットリングに任せるよりも性能低下の幅は大きくなる。CPUの性能を引き出すという点でも、発熱の抑制はサーマルスロットリングを利用したほうが有利だ。

もっとも、安全だと言われてもCPU温度が100度まで上がるのは心情的に避けたいという人もいるだろう。その場合はCPU温度の最大値(今回使用したマザーボードでは「CPU Tj Max」の項目)を変更するとよい。設定した温度でサーマルスロットリングが動作するようになるため、より確実に温度を抑制できる。

冷却能力が極端に足りない場合にも注意が必要だ。インテルは冷却能力の目安として「Processor Base Power(PBP、従来のTDPに相当)」の値を公開している。PBPが125WのCPUに65W対応のCPUクーラーを使うなど、明らかに冷却性能が足りていない組み合わせは避けたほうがよい。

まとめ

第13世代Coreシリーズを空冷CPUクーラーで運用することについて検証してきた。CPUの性能を完全に引き出すことは難しくとも、実用的な範囲で運用することは可能だ。今回使用した「Hyper 212 Halo White」はタワー型CPUクーラーとしてはスタンダードなサイズなので、冷却性能の高い大型クーラーならより高いクロックでの動作を見込める。水冷CPUクーラーと空冷CPUクーラーでは製品価格の差が大きいため、コストパフォーマンスを求めるのであれば、空冷のCPUクーラーを選ぶのはありだ。

諸事情により横並びのテストができなかったためグラフからは割愛したが、Core i7-13700Kと「Hyper 212 Halo White」の組み合わせでも試した。電力制限をせずに「CINEBENCH R23」の「CPU(Multi Core)」テストを実行したところ、Pコアの平均動作クロックは約4.7GHzだった。より高性能なCPUクーラーを使ったほうがよいのは当然だが、Core i5-13600K同様、ある程度性能を妥協できれば空冷CPUクーラーでの運用も可能だ。

最新世代のCPUは、高い温度でも正常に動作するよう設計されている。限界まで性能を引き出すのでなければ、空冷CPUクーラーでの運用は可能だと考えてよいだろう。

宮川 泰明

宮川 泰明

編集プロダクション「スプール」所属。PCパーツショップ店員から雑誌編集部アシスタントを経て現職。Windows Vista発売の時は深夜販売のスタッフをしていました。自作PCを中心にPC全般が好きで、レビューやノウハウ記事を中心に執筆しています。

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