多くの人が関係する、スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、MVNO事業者2社の新料金プランを取り上げつつ、物価高騰の進む経済情勢に逆らうようにコスパを高められた背景を解説しよう。
厳しい経済状況と逆行する実質値下げを進める格安SIMを解説します
携帯4社が2023年に相次いで新料金プランを投入するなど大きな動きが続いたが、いっぽうでMVNOには大きな動きが少なかった。とは言え、ここ最近になって、やや動きが活性化しているようだ。近ごろ発表されたMVNO2社の新料金を解説しよう。
ソニーネットワークコミュニケーションズが展開するNUROモバイルは、2023年11月1日に新しいプランをいくつか打ち出している。そのひとつが「かけ放題ジャスト」だ。
NUROモバイルは2023年11月1日に、「かけ放題ジャスト」など新料金プランをいくつか発表している
「かけ放題ジャスト」は、NUROモバイルが従来提供していた、通話し放題のプラン「かけ放題プラン」に、新たに時間限定の通話し放題プラン「5分かけ放題プラン」「10分かけ放題プラン」を追加し拡充を狙ったもの。音声通話重視のためデータ通信量は1GBと少ないが、追加された2つのプランはともに、LINEのメッセージ送受信時のデータ通信量をカウントしない仕組みが備わっているので、実質的には1GB以上のデータ通信が可能だ。
加えて「5分かけ放題プラン」は月額930円、「10分かけ放題プラン」は月額1,320円と、MVNOらしい料金の安さは維持されている。高齢層を中心とした通話重視のユーザーに向けたプランと言えそうだ。
「かけ放題ジャスト」は通話に重点を置いたプラン。通信量は1GBと少ないが、「LINE」のメッセージ送受信にかかる通信量をカウントしないなど、実質的に1GB以上利用できる仕組みが整っている
そしてNUROモバイルはもうひとつ、主力の「バリュープラス」に新しく「VLLプラン」を追加する。バリュープラスは従来、通信量3GBの「VSプラン」から通信量10GBの「VLプラン」まで3つのプランが用意されていたが、VLLプランは通信量が15GBとより大きいプランで月額1,790円から利用できる。
「バリュープラス」には通信量15GBとなる最上位の「VLLプラン」を追加。従来プランでは通信量が不足する人に向けたプランと位置付けられている
NUROモバイルには、より上位の「NEOプラン」が用意されており、こちらは通信量20GBで月額2,699円となることから、サービス内容的にかなり近しく顧客を食い合ってしまうように見える。だがNEOプランは、MVNOの最大の課題である通信品質の低下を抑える仕組みが用意されていたり、特定のSNSやアップロード時の通信量をカウントしない仕組みが備わっていたりするのに対し、「バリュープラス」にはそうした仕組みがない。
それゆえNUROモバイルとしては、「NEOプラン」はスマートフォンを積極的に利用する人向けのプラン、「バリュープラス」の「VLLプラン」はそこまでスマートフォンを利用するわけではないが、動画の利用が増えるなどしてもっと多くの通信量を利用したい人向けのプランと位置付けているようだ。
「NUROモバイル バリュープラス VLLプラン 15GB」を価格コムでチェック
もう1社、新料金プランを発表したのが日本通信である。同社は2023年11月10日、「合理的30GBプラン」を2023年11月27日より提供開始すると発表した。
これは従来提供していた「合理的20GBプラン」の通信量を30GBに増やしたもの。それ以外のサービス内容に変化はないようで、合理的20GBプラン同様5分間の通話定額も利用でき、なおかつ料金は月額2,178円のまま変わっていない。
日本通信の「合理的30GBプラン」は、従来提供していた「合理的20GBプラン」の通信量を10GB増やしたもの。料金も含めそれ以外の部分は合理的20GBプランと変わっていない
同社のリリース内容を見ると、通信量が少なくてよい人には通信量1GBで月額290円から利用できる「合理的シンプル290プラン」、平均的な通信量を求める人には通信量10GBで月額1,390円の「合理的みんなのプラン」、そして通信量がやや多い人には今回の「合理的30GBプラン」を用意し、さらに大容量の通信を求める人は「携帯キャリアのプランをお使いください」としている。それだけ今回の新プランに対する自信のほどが見て取れる。
日本通信では1〜30GBまでの通信量をカバーできるとし、それ以上の通信量を求める人は携帯電話会社を使うよううながしている
料金もサービス内容も変わらずに通信量を10GBも増やすとなると、どこかに歪みが生じるようにも見えるが、同社の代表取締役社長である福田尚久氏は、そうした声に対してX(旧Twitter)で「うちが安すぎるのではなく、キャリアが高すぎるだけです。うちは適正、合理的な価格でご提供し、適正な利益をいただいております」と回答している。通信量を増量しても赤字覚悟というわけではなく、十分利益を出せると判断しているようだ。
ここで紹介した新プランはいずれも、サービス内容もさることながら、従来どおりの安さを維持していることに注目してほしい。日本通信の「合理的30GBプラン」は料金が変わらずサービス内容の充実が進んでいるし、NUROモバイルの新プランも従来プランと比べれば十分な安さを実現している。
そして何より、既存プランの値上げをしていないのも注目すべきポイントだろう。携帯3社が2023年に打ち出した新料金プランは、いずれも通信量を増やしつつ月額料金も値上げしており、それを自社系列のサービスを利用することで安くすることに力を入れていた。
そのことを顕著に現していたのが、MVNOの直接的な競合となる「UQ mobile」「ワイモバイル」といった携帯各社のサブブランドだ。いずれも通信量を増やしながらも月額料金を値上げし、新たに自社系列のクレジットカードに紐づく割引を追加するなどして値上げ分を抑えることに苦心しており、安くてわかりやすいサブブランドの料金プランが複雑化してしまった印象は否めない。
ソフトバンクの「ワイモバイル」ブランドが2023年10月から提供開始した「シンプル2」は、通信量が増えたいっぽうで料金も値上げされており、「PayPayカード割」の追加など割引で料金を抑えることに力が入れられている
MVNOはなぜ値上げをせず、むしろ通信量を増やすなどお得感が高まる施策を展開できているのだろうか。その理由のひとつは本連載の第8回で触れたように、携帯各社からネットワークを借りる際に支払う接続料が年々下がっていることなのだが、ここ最近の状況を見ていると、携帯電話会社とMVNOという立場の違いも非常に大きく影響しているように見える。
そもそも携帯電話会社が値上げする理由は、ほかの産業と同様に円安などの影響で物価が上がっているためだ。その値上げが大きく影響する要素のひとつが電気代である。携帯電話会社はみずから全国基地局を設置してネットワークを構築しているが、その基地局を動かし続けるには電力が必要で、電気代が上がるとその分運営コストが上がってしまうからだ。
さらに、より物価高の影響を大きく受けているのが全国にある携帯各社のショップだ。ショップを運営するのには電気以外にもさまざまなモノが必要だが、物価高でそれらを調達するためのコストが上昇。加えて政府の給与引き上げ要請に応えることでスタッフの人件費も上がっており、それら一連のコスト上昇が携帯各社に重くのしかかり、値上げせざるを得ない状況となっているわけだ。
だがMVNOは、事業構造上そうしたコスト高の影響を受けにくい。先にも触れたとおり、MVNOは携帯電話会社からネットワークを借りている立場なので、保有する設備が圧倒的に少なく電気代高騰の影響もそこまで大きくはない。
しかも大半のMVNOは、元々ショップを持たずオンラインでの運営を主体とすることで低価格を実現している。ショップにかかるコスト高の影響をほぼ受けないことから低価格を維持できるのだ。
そうしたことからMVNOはインフレに非常に強く、しかも接続料が今後もいっそう低下することが見込まれている。その点を考えると、MVNOは今後、相対的に競争力が高まるのではないだろうか。もちろん混雑時の通信品質の低下や、対面のサポートが受けられないなどMVNOならではの弱点は変わっておらずそこは許容する必要がある。だが、物価高で家計が苦しくなっているのであれば、改めてMVNOのプランを検討してもむだにはならないだろう。