多くの人が関係する、スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は新春特別編として、2024年の予想を交えつつ、昨年2023年に起こった大きな出来事を振り返ろう。
「1円スマホ」は高騰するスマートフォンを安く購入できることから人気を博していたが、転売ヤーによる買い占めを招き社会問題化。2023年12月27日に電気通信事業法が一部改正され、1円スマホを実現する仕組みに規制が設けられることとなった。
そのいっぽうで、通信契約とセットで端末を購入したときの値引き上限額は原則4万円に引き上げられたものの、端末価格によって変動する仕組みとなったことから最大限の恩恵を受けられるのは8万円以上のスマートフォンに限られる。2024年も円安が続くようであれば、低価格帯を中心としてスマートフォンがいっそう買いづらくなることは間違いない。
総務省「電気通信事業法施行規則等の一部改正」概要より。端末の価格自体を大幅に割り引く「白ロム割」という手法に規制がなされたことで、今後「1円スマホ」の実現は難しくなる
2023年に携帯各社は新料金プランを提供開始したが、円安による物価高や人件費の高騰などで基本料金を上げざるを得なかった。そのいっぽうで、携帯各社は飽和する通信事業に代わる成長事業として、金融・決済サービスを大幅に強化している。
そうしたことから、2023年に登場した新料金プランは、いずれも自社系列の金融・決済サービスを組み合わせることで通信料が安くなる割引が加えられた。それを機として金融・決済サービスを使ってもらう“導線”の役割を担わせて、トータルでの売上を上げたいのが各社の狙いと言えるだろう。
経済や通信事業を巡る厳しい状況が続く限り、こうしたスマホ決済やクレジットカードの利用を組み込んだ料金プランは今後も続くだろう。
ソフトバンクが2023年10月に提供開始した「ペイトク」は、基本料金は従来より高いものの、系列のスマートフォン決済「PayPay」を多く利用すると安くなる仕組みだ
2023年7月にNTTドコモは料金プランを刷新し、「eximo」「irumo」という新プランを発表した。
「eximo」は、従来の「ギガホ」の後継と言うべきプラン。データ通信が使い放題となるだけでなく、あまり使わなかった月は通信量が引き下がる「ギガライト」の仕組みも加えられている。
もうひとつの「irumo」は、データ通信量は0.5〜9GBと少ないが低価格で利用でき、なおかつショップでのサポートが受けられるプラン。通信量が20GBとやや多く、基本的に店舗でのサポートがない「ahamo」とは明確に差異化が図られている。どちらかといえば「UQ mobile」「ワイモバイル」といった競合のサブブランドに対抗するためのプランと言えるだろう。
2023年7月にNTTドコモは料金プランを刷新し、「eximo」「irumo」という新プランを発表した。
MVNOは携帯各社からネットワークを借りて事業をしていることから保有する設備が少ないうえ、販売やサポートもオンラインが主体で携帯各社のように実店舗やスタッフを抱えていない。それゆえ構造的にインフレの影響を受けにくいので、低価格を維持できるのだ。
実際、日本通信が2023年11月に提供した「合理的30GBプラン」は、従来提供していた「合理的20GBプラン」から通信量を10GB増やしながら、料金を2,178円に据え置いて提供。実質的な大幅値下げということでSNSでも話題を集めた。インフレでMVNOの競争力が高まったことは間違いないだろう。
日本通信の「合理的30GBプラン」は、従来提供していた「合理的20GBプラン」の通信量を10GB増やしながらも、料金を含めそれ以外のサービスに変更点はなく、実質的な値下げとなっている
バルミューダ、京セラ、そして経営破綻したFCNTと、2023年5月に国内スマートフォンメーカーが相次いで撤退を表明し衝撃を与えた。その理由は、市場の飽和と政府によるスマートフォン値引き規制によって販売が大きく落ち込んでいたところに、半導体の高騰や円安によってスマートフォンを作るための部材が高騰し、価格やシニア向け設計、デザインといったニッチ領域で生き残りを図っていた国内メーカーが利益を出せなくなってしまったためだ。
ただ、一連の影響は海外の大手メーカーにも影響しており、2023年にはハイエンドモデルが軒並み20万円を超えたほか、ミドルクラスの端末に至っては価格を抑えるため、2022年のモデルとあまり変わらない性能のものも増えていた。消費者からしてみればスマートフォンが買いにくかった1年であったことは間違いない。
2023年2月に新機種「arrows N」を発表したのFCNTは、それから約3か月後に突如経営破綻。一時はサポートも停止する事態となったが、2023年9月に中国のレノボ・グループが事業承継を発表している
2023年春ごろから都市部を中心に、NTTドコモのデータ通信が遅い、つながりにくいといった不満の声が急増している。その理由として同社は、コロナ禍による人流回復での通信トラフィック急増を読み切れなかったことをあげており、300億円を投資するなどして通信品質対策を急ピッチで進めている状況だ。
だが、通信トラフィックは今後も増加の一途が見込まれており、それに対処するには大容量通信に耐える、5G向けの高い周波数帯でネットワークを整備する必要がある。しかしながら携帯各社は2020〜2021年の政府主導による料金引き下げで業績が大きく落ち込んだため、5Gの投資にはかなり消極的だ。それゆえ今後NTTドコモ以外でも、通信品質の急低下は十分起き得ると覚悟しておく必要がありそうだ。
2023年に都市部を主体としてNTTドコモの通信品質が著しく低下したことが問題視されたことから、同社は300億円を費やして通信品質対策をするなどの対応に迫られることとなった
楽天モバイルは2023年10月、新たに割り当てられたプラチナバンド、700MHz帯の免許を獲得したものの、開設計画を見るとそれを活用したサービスの提供開始時期は2026年3月ごろと、かなり遅い。楽天モバイルは先行投資による赤字で苦しんでおり、親会社の楽天グループもそのために発行した社債の償還に今後2年間で8000億円が必要とされるなど、資金繰りに苦しんでいることがその背景にある。
そこで楽天モバイルは最もコストがかかる基地局整備を大幅に減らし、KDDIとのローミングをフル活用してコストを抑える方針へと切り替えている。2023年6月に提供した新料金プラン「Rakuten最強プラン」で、ローミングエリアでもデータ通信が使い放題となったのはそのためで、2026年9月末とされるローミング契約の終了までプラチナバンドの本格活用は進まない可能性が高い。
楽天モバイルは2023年10月に、総務省から新たなプラチナバンドとなる700MHz帯の免許割り当てを受けたが、開設計画ではそれを活用したサービスの開始が2023年6月ごろとされていたことには疑問の声が多くあがっていた