タブレットというと真っ先にiPadを思い浮かべるかもしれませんが、最近はAndroidタブレットにも注目が集まっています。Androidタブレットはコストパフォーマンスの高さに加えて、個性的な機能を持つものが多く用意されているのが魅力です。
今回は、専用のペンデバイスが同梱される11インチAndroidタブレット「Lenovo Tab M11」と「Galaxy Tab S9 FE」をピックアップ。スペックや機能を細かく比較してみました。
ペンデバイスが付属する「Lenovo Tab M11」と「Galaxy Tab S9 FE」の比較レビューをお届けします
今回使ってみたのは、2024年1月に発売されたレノボの「Lenovo Tab M11」と、2023年10月に発売されたサムスン電子の「Galaxy Tab S9 FE」。筆圧を感知する高性能のペンデバイスが同梱されているのが両モデルの特徴です。まず、両モデルの主なスペックを押さえておきましょう。
※2024年3月21日時点における価格
両モデルのサイズは近いものの、CPUやメモリーのスペックは異なります。「Lenovo Tab M11」はコスパを重視して設計されたミッドレンジモデル。いっぽう、「Galaxy Tab S9 FE」の「FE」は「Fan Edition」の略で、フラッグシップの機能を手ごろな価格で提供することを目的として開発されたモデルです。基本スペックは「Galaxy Tab S9 FE」のほうが高く、両モデルには3万円の価格差があります。その前提で、両モデルの使い勝手を比較していきます。
「Lenovo Tab M11」は10.95インチ、「Galaxy Tab S9 FE」は10.9インチの液晶ディスプレイを搭載。画面のアスペクト比も近く、本体サイズはほぼ同等という印象です。スペックの数値では、「Galaxy Tab S9 FE」のほうが若干小さいのですが、実際に手にすると、「Lenovo Tab M11」の軽さが際立ちました。
左が「Lenovo Tab M11」、右が「Galaxy Tab S9 FE」
「Lenovo Tab M11」は横向きにして、左側面の上に電源ボタン、上辺の左側に音量ボタンを搭載しています。横向きでは左手、縦向きでは右手で操作しやすい仕様です。
いっぽう、「Galaxy Tab S9 FE」は横向きで上辺の左側に電源ボタンと音量ボタンを並べて搭載。こちらもスムーズに操作できました。電源ボタンに指紋センサーを搭載し、指紋認証に対応しているのは本機の優位性です。
「Lenovo Tab M11」は上辺の左側に音量ボタンを搭載(左写真)。電源ボタンは左側面に備わっています(右写真)
「Galaxy Tab S9 FE」は上辺の左側に、指紋センサーを兼ねる電源ボタンと音量ボタンを並んで搭載
「Lenovo Tab M11」は上辺にマイクとmicroSDXCメモリーカードのスロットを、左右にそれぞれ2口のスピーカーを搭載。右側にはイヤホンジャックと、USB Type-Cポートを備えています。イヤホンジャックは「Galaxy Tab S9 FE」にはなく、「Lenovo Tab M11」のメリットと言えます。
「Lenovo Tab M11」の右側面。左右に2口ずつのクアッドスピーカーを搭載し、イヤホンジャックも備わっています
「Galaxy Tab S9 FE」は上辺にマイクを搭載。左右それぞれに1口ずつスピーカーがあって、左側にはマイクとmicroSDのスロットも装備。右側にはUSB Type-Cポートを備えています。さらに、底面には別売のキーボードを装着するためのマグネット式のコネクターが用意されています。
Galaxy Tab S9 FEの右側面。スピーカーは左右に1口ずつで、すっきりとしている
「Lenovo Tab M11」は背面パネルの上部に斜線のデザインをあしらい、スタイリッシュな雰囲気。サラサラとした手触り感で、IP52相当の防滴防塵性能を備えています。いっぽう、「Galaxy Tab S9 FE」は薄型ながらメタル感が強く、強靱な板といったおもむき。800万画素のアウトカメラの近くにマイクも搭載しています。IP68の防塵・防水性能を備えているので、水回りでも安心して使えます。
左が「Lenovo Tab M11」、右が「Galaxy Tab S9 FE」
「Lenovo Tab M11」の背面パネルにはデュアルトーンのデザインが施されています(左写真)。「Galaxy Tab S9 FE」の背面パネルは硬質感が強く、リッチな印象(右写真)
「Lenovo Tab M11」はSoCが「MediaTek Helio G88」(最大2GHz、オクタコア)、メモリー(RAM)が4GB、ストレージが64GBという構成です。昨今のタブレットとしては必要最低限の仕様と言っていいでしょう。
いっぽう、「Galaxy Tab S9 FE」はSoCが自社開発の「Exynos 1380」(最大2.4GHz、オクタコア)、メモリー(RAM)が6GB、ストレージが128GB。「Lenovo Tab M11」よりもワンランク上の内容です。タブレットの基本操作において不安がないスペックと言えます。
しかし、実際に2モデルを使ってみると、スペックの差ほどの違いは認識できませんでした。全体的に、「Galaxy Tab S9 FE」のほうがキビキビとした操作感で、パワフルな印象を受けましたが、「Lenovo Tab M11」も基本アプリを使っていて不便に感じることはありませんでした。
ただし、「Lenovo Tab M11」はメモリーが4GBしかないため、マルチタスク作業には不向き。実際、起動するアプリが多くなると、ややもっさりとした感じになりました。しかし、音楽を再生しながらほかのアプリを起動した際に、「Galaxy Tab S9 FE」は音が途切れたりするなど、「Galaxy Tab S9 FE」もやや不安定な挙動を見せることがありました。
処理速度を客観的に比較するために、「Geekbench 6」というアプリで両モデルのベンチマークを測定してみました。結果は、「Lenovo Tab M11」はシングルコアが435、マルチコアが1417なのに対して、「Galaxy Tab S9 FE」はシングルコアが1006、マルチコアが2670となり、かなりの大差でした。基本アプリの操作には支障はないものの、負荷が大きいゲームや動画編集などを行うと、「Lenovo Tab M11」では物足りなく感じるでしょう。
「Geekbench 6」で測定したLenovo Tab M11のベンチマークスコア(上画面)。「Galaxy Tab S9 FE」のもの(下画面)。シングルコアとマルチコアの両方で、倍近い差になりました
ハイエンドのタブレットの多くは有機ELディスプレイを採用していますが、今回取り上げた2モデルはどちらも液晶ディスプレイ。解像度は「Lenovo Tab M11」が1920×1200ドットで、「Galaxy Tab S9 FE」は2304×1440ドット。スペックは「Galaxy Tab S9 FE」が若干上回っていますが、肉眼で見たときの精細さはほぼ互角です。
違いを感じたのは画面の明るさ。自動調節をオフにして、画面の明るさを最大限にしたところ、「Galaxy Tab S9 FE」のほうが断然明るく鮮やかな色で表示されました。スペックを見ていなければ、有機ELだと勘違いするかもしれません。屋外でも使うのであれば、輝度が高い「Galaxy Tab S9 FE」を選ぶのが得策です。
左が「Lenovo Tab M11」、右が「Galaxy Tab S9 FE」。画面の明るさを最大限にして、「Googleフォト」に保存した同じ画像を表示させてみました
地図を表示させた場合も、「Galaxy Tab S9 FE」のほうが明るく見やすいです
画面リフレッシュレートはどちらも最大90Hz。素早いスクロール操作でも画面がカクカクせず、残像感が少ない滑らかな画面表示を楽しめます。
タブレットを購入したら映画や音楽ビデオなど、映像コンテンツを存分に楽しみたいという人もいるでしょう。両モデルの内蔵スピーカーの音質を聴き比べてみました。
「Lenovo Tab M11」は4つ、「Galaxy Tab S9 FE」は2つのスピーカーを搭載していますが、「Galaxy Tab S9 FE」のほうが音量が大きく、音が広がる印象。音質としても、音に厚みが感じられ、高音域まで明瞭に聴こえる本機に軍配が上がります。
どちらも「Dolby Atmos」に対応しますが、「Galaxy Tab S9 FE」は好みの音質にカスタマイズできるイコライザー機能も搭載。さらに、ヘッドホン装着時に、年齢に合わせて最適な音質で聴こえるようにする「Adapt Sound」というユニークな機能も備わっています。サウンド機能では、「Galaxy Tab S9 FE」が大きく上回っていると言って差し支えないでしょう。
「Lenovo Tab M11」は「Dolby Atmos」に対応し、3つのモードから選択可能。「音楽」を選択すると、好みの音質を選べます
「Galaxy Tab S9 FE」のサウンド設定の画面
「Galaxy Tab S9 FE」は自分好みの音質に調整できるイコライザーが5種類プリセットされています。「カスタム」を選択すると、細かいカスタマイズが可能です
専用のペンデバイスが同梱されていることも両モデルの大きな特徴です。「Lenovo Tab M11」には「Lenovo Tab Pen」、「Galaxy Tab S9 FE」には「Sペン」が付属していますが、それぞれ仕様が異なります。
「Lenovo Tab Pen」は単6電池で駆動する仕組みで、「Sペン」はワコムの電磁誘導方式(EMS)という技術が用いられていて電池は不要。また、「Sペン」はマグネット式で、背面パネルやサイドフレームにピタッとくっつけて持ち歩けることも可能。使い勝手では「Galaxy Tab S9 FE」が上回ります。
「Lenovo Tab M11」(上)には「Lenovo Tab Pen」が、「Galaxy Tab S9 FE」(下)には「Sペン」が同梱されています
「Lenovo Tab Pen」は円筒状で、単6電池を入れて使います。電池は長く持ちそうですが、単6電池を取り扱わない店もあるので予備を持っておくと安心できるでしょう
「Sペン」は円筒状で、一部がフラットになっていて、背面パネルにくっつけて持ち歩けます。多彩な機能を使えるボタンを搭載するのもアドバンテージです
筆致感知はどちらも4096段階。ペン先でスクリーンをなぞった際に、適度な摩擦が感じられ、紙の上に鉛筆やサインペンで書いているような感覚を得られます。実際に使い比べる前は、ペンダブレットで実績のあるワコムの技術が用いられた「Sペン」のほうが書き心地はいいだろうと思い込んでいたのですが、使ってみると、「Lenovo Tab Pen」の書き心地も自然で滑らか。文字を書いたり、シンプルな絵を描いたりするには、両者互角と感じました。
「Lenovo Tab Pen」は紙にペンで書いているような書き心地でした
「Galaxy Tab S9 FE」は滑らかな書き心地に加えて、ボタンで機能を素早く切り替えられるのも利点
両モデルともに、ただ文字を書いたり、絵を描いたりするだけでなく、ペンを便利に使える機能を備えています。
たとえば、「Lenovo Tab M11」では、スクリーンの左下または右下からペンでスワイプするとスクリーンショットが撮れたり、「メモ」のクイックノート(フローティング表示)を呼び出したりできます。さらに、ペンでなぞった部分が赤く表示されるポインター、ペンで抑えた部分が拡大されるルーペのような機能も備わっています。
「Galaxy Tab S9 FE」では、さらに多くの機能を利用できます。たとえば、「Sペン」のボタンを押しながら画面をダブルタップすることで、画面オフの状態でも素早くメモが書けます。外国語のWebページを読んでいる際に、わからない単語や文章にペンを近づけて、翻訳することも可能。さらに「ギャラリー」などに保存した写真の一部を切り抜いて、「Samsung Notes」に貼り付けるといった作業もペンだけでスムーズに行えます。「Samsung Notes」では、ペンで書いた文字をテキストデータ化することもできます。
画面オフの状態でも素早くメモが書けるのは「Sペン」の大きな特徴のひとつ。画像の切り抜き、貼り付け、手書きでの文字入れなどの一連の作業が「Sペン」だけで完結します
「Galaxy Tab S9 FE」 は手書きの文字をテキスト化する性能も優秀
ユーザーによって必要とする機能に差はあるのでしょうが、ペンデバイスの用途の広さでは「Galaxy Tab S9 FE」の「Sペン」に軍配が上がります。
なお、ペンを便利に活用できるアプリとして、「Lenovo Tab Pen」には手書きメモアプリ「Nebo」と手書き計算アプリ「MyScript Calculator 2」をプリインストール。「Galaxy Tab S9 FE」には、ペイントアプリ「Clip Studio Paint」と、メモアプリ「Goodnotes」がプリインストールされています。
「Lenovo Tab M11」はアウトカメラ/フロントカメラともに800万画素。いっぽう、「Galaxy Tab S9 FE」はアウトカメラが800万画素で、フロントカメラは1200万画素。
あまり多くのものを撮り比べたわけではありませんが、アウトカメラ、フロントカメラともにデフォルトで撮った場合、「Galaxy Tab S9 FE」のほうが明るく写りました。ただし、「Lenovo Tab M11」も適切と思える明るさや色で写るので、それほど差はありません。写真や動画はスマホで撮影する人が多いでしょうが、両モデルのカメラも日常的なスナップ撮影用としては使えそうです。
また、「Galaxy Tab S9 FE」のカメラには、動画に重ねて「Sペン」で手描きができる「AR手描き」といった機能も楽しめます。
「Galaxy Tab S9 FE」は、動画を撮影しながら「Sペン」で描画することも可能
タブレットは、ビデオ通話やオンラインミーティングにも重宝します。「Google Meet」を使って、フロントカメラの画質を確認しましたが、両モデルともに自分の顔が十分な明るさで映ることを確認できました。なお、ハイエンド機種での搭載が増えている、常に自分を中心に表示する「センターフレーム」「センターフォーカス」といった機能は搭載されていません。
バッテリー容量は「Lenovo Tab M11」が7040mAhで、「Galaxy Tab S9 FE」が8000mAh。連続駆動時間は「Lenovo Tab M11」が約10時間で、「Galaxy Tab S9 FE」は最大16時間(インターネット使用時間)。「Galaxy Tab S9 FE」のほうが長い電池持ちを期待できますが、「Lenovo Tab M11」のバッテリー容量も十分と言えます。
どちらも外に持ち出して使ったとしても、1日で電池が切れてしまう心配は少ないでしょう。万が一、電池残量がピンチになったときのために、「Lenovo Tab M11」は「バッテリーセーバー」、「Galaxy Tab S9 FE」は「省電力モード」という機能が備わっています。
「Lenovo Tab M11」は価格.com最安価格(2024年3月21日時点)が3万円台という安さながら、クアッドスピーカーを搭載し、ペンデバイスも付属。さらに、90Hzの画面リフレッシュレートに対応するなど、充実した機能が魅力です。
筆者はWindowsユーザーではないこともあり、今回は試していませんが、Windows PCのサブモニターとして使える「Lenovo Freestyle」という機能にも対応しています。Webページや動画を見るというタブレットとしての定番の使い方に加えて、ペンでお絵描きも楽しみたいという人にはよい選択肢となるでしょう。
「Lenovo Tab M11」はPCとファイルを共有できる「Lenovo Freestyle」にも対応
「Galaxy Tab S9 FE」は、フラッグシップモデル「Galaxy Tab S9」からSoCを変更し、ディスプレイも有機ELではなく液晶を採用するなど、スペックを抑えたモデルです。同梱の「Sペン」は標準タイプですが、フラッグシップモデルではより多機能な「S Pen Pro」にも対応し、画面に触れないジェスチャー操作やリモート操作も行えます。ペンを仕事などでも使いこなしたいならこちらのほうが適しています。
しかし、日常使いなら「Galaxy Tab S9 FE」でも十分で、フラッグシップモデルよりも電池が持つという利点もあります。ハイエンドのタブレットが欲しいけど、購入費用は抑えたいという人には格好のデバイスと言えるでしょう。