スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、値上がりした新しい「iPad」シリーズを取り上げる。製品からアップルの狙いを読み取り、よりよい買い物につながる情報をお届けしよう。
※本記事中の価格は税込で統一している。
スマートフォンやタブレットの新機種ラッシュが続いているが、特に大きな注目を集めたのは、やはりアップルのタブレット「iPad」シリーズ新機種ではないだろうか。アップルは日本時間2024年5月7日に開催した新機種発表イベントで「iPad Air」と「iPad Pro」の新機種を発表したが、いずれも従来機種から大きく変化したことで注目されているようだ。
新しく発表された「第6世代iPad Air」。製品力はかなり高い
まずは新機種となる第6世代の「iPad Air」だ。大きな変化となったのは13インチモデルの追加だろう。従来の「iPad Air」は、ディスプレイサイズが10〜11インチの1モデルのみの展開となっていたが、「第6世代iPad Air」では従来と同様の11インチモデルに加え、「iPad Pro」シリーズと同様に、より大画面となる13インチのモデルが追加された。
「第6世代iPad Air」は11インチモデルに加え、新たに13インチモデルが追加。より大画面のモデルを選べるようになった
13インチモデルはもちろんサイズが大きくなるが、その分画面サイズも広い。それゆえ動画などのコンテンツ視聴やビデオ会議などがしやすくなる。当然、広い画面を生かして作業もしやすくなるだろう。
アップルは「iPad Pro」だけでなく「iPad Air」でも、コンテンツ視聴だけでなく学習やビジネス、クリエイティブ関連など、パソコンのように何らかの作業をすることに重点を置くようになってきている。大画面モデルの投入から、そうした用途のツールやアプリを利用しやすくする狙いがあるようだ。
「第6世代iPad Air」はコンテンツの視聴だけでなく、クリエイティブなどの作業への活用も重視された設計に。それが13インチモデルの追加や性能の向上に影響していると考えられる
それだけに「第6世代iPad Air」はチップセットも強化がなされている。「iPad Air」は前機種となる第5世代から、チップセットにiPhoneなどと同じ「A」シリーズではなく、Macなどと同じでより高性能の「M」シリーズに位置づけられる「M1」を採用するようになったが、「第6世代iPad Air」はMシリーズの1つ上の世代となる「M2」を搭載している。
これによってCPUやGPUの性能が向上し、各種ツールの快適動作に貢献するのはもちろんのこと、より高度なゲームなども楽しみやすくなった。しかも、昨今話題となっているAI関連の処理を高速化する、Neural Engine も強化されている。今後AI技術はあらゆるツールで活用されると考えられるだけに、Neural Engineの強化でAI関連のアプリも快適に動作するだろう。
続いて「iPad Pro」シリーズの新機種となる「第7世代iPad Pro」だが、こちらは従来と変わらず11インチと13インチの2モデル展開となる。しかし、本体の薄さとディスプレイが大きく変化した。薄さは11インチモデルが5.3mm、13インチが5.1mmと、いずれも5mm台という驚異的な薄さを実現している。
「第7世代iPad Pro」は非常に薄く、11インチと13インチの両モデルはいずれも5mm台という驚異的な薄さを実現している
その薄さの実現にも貢献していると見られるのが、もうひとつの変化であるディスプレイだ。「第7世代iPad Pro」はバックライトが必要な液晶ではなく、スマートフォンで一般的となった、パネル自体が発光する有機ELを採用。しかも2枚の有機ELパネルを使った「タンデムOLED」という技術を用いることで、非常に高い輝度を実現しているという。
ディスプレイにはスマートフォンで一般的な有機ELを初採用。「タンデムOLED」技術で輝度も大幅に高めている
さらに「第7世代iPad Pro」はチップセットも大きく変化しており、「Mac」に先駆けて新開発の「M4」を搭載。CPU、GPU、そしてNeural Engineともに、前機種や「第6世代iPad Air」にも採用されている「M2」よりもいっそう高い性能を備えていることから、負荷の大きい動画や音楽の編集などがより快適になるものと考えられる。
チップセットには「Mac」に先駆けて、最新の「M4」を搭載。大幅な性能向上が見込まれる
一連の内容を見ても、新しい「第6世代iPad Air」と「第7世代iPad Pro」は非常に大きな進化を遂げており、魅力的な機能・性能を持つことがわかる。いっぽうで、落胆の声が聞かれたのはやはり価格である。
アップルはほかのメーカーと比べると、為替の変化を製品価格に素早く反映する傾向が強く、ここ最近の記録的な円安を受けてアップル製品は軒並み大幅な値上がりを記録している。それは今回の新機種も例外ではなく、いずれも決して安いとは言えない価格だ。
実際、「第6世代iPad Air」の価格は最も安いストレージ128GB+Wi-Fiの構成で、11インチモデルが98,800円、13インチモデルが128,800円で、10万円クラスの支払いは覚悟しなければならない。前モデルがある11インチモデルで比べた場合、「第5世代iPad Air」の発売当初の価格がストレージ64GB+Wi-Fiモデルで74,800円であっただけに、最小の構成同士で比べるといっそう値上がりしている印象を受ける。
ただ今回の新モデルでは、時代に合わせたストレージ容量の見直しがなされており、最小容量のモデルでも128GBからとなっている。そこで「第5世代iPad Air」でも同じストレージ容量のものが存在する、256GB+Wi-Fiモデルの発売当初の価格を比較してみると、「第6世代iPad Air」が114,800円であるのに対し、「第5世代iPad Air」が92,800円と、22,000円の値上がり。やはり高くなっていることは間違いないだろう。
では「iPad Pro」はどうか。「第7世代iPad Pro」の価格は、ストレージ256GB+Wi-Fiの構成で、11インチモデルが168,800円から、13インチモデルが218,800円となっている。いっぽうで「第6世代iPad Pro」の発売当初の価格を見ると、最小構成となるストレージ128GB+Wi-Fiで、11インチモデルが124,800円、12.9インチモデルが172,800円であったことから、やはり価格は上がっていることがわかる。
いっぽうで第7世代の最小構成と同じ256GB+Wi-Fiモデルの価格も確認すると、11インチモデルで140,800円、12.9インチモデルで188,800円。128GB+Wi-Fiモデルよりは価格差が小さくなるものの、差額がおよそ3万円と、かなり価格が上がっている様子だ。
そうした価格を考慮すると、消費者の「iPad」シリーズの選び方も考え直す必要があるだろう。元々「iPad Pro」シリーズは、ビジネスやクリエイティブのプロに向けた製品という位置づけであり、価格は高くても高性能が効率や利益につながり、クオリティの向上を図りたいという要望に応えられる。大画面が欲しい人に向けて13インチの「iPad Air」が用意された以上、一般的な消費者は、オーバースペックの「iPad Pro」シリーズを、無理に選ばなくてもよいのだ。
M4を搭載した「iPad Pro」の性能は最新の「Mac」をも超えるだけに、動画や音楽の編集などでは有効だが、文書作成や動画視聴などにはかなりのオーバースペックな面はある
そして「iPad Air」シリーズだが、大画面の「iPad」がどうしても欲しいというのであれば13インチモデルの「第6世代iPad Air」一択になりそうだが、価格が13万円近いことは冷静に見る必要がある。「Apple Pencil Pro」による手描き操作を重視するなら「第6世代iPad Air」のメリットは大きい。しかし、ペン操作を重視せず、キーボード入力を行うなら、価格が近いM2を搭載した13インチの「MacBook Air」を選んだほうが、キーボードが付いているぶん安価に済むことも覚えておきたい。
「第6世代iPad Air」と同じ「M2」を搭載した「MacBook Air」の2022年モデルは、メモリー8GB・ストレージ256GBの最小構成で148,800円。13インチ「iPad Air」の最小構成との価格差は2万円ほどで、キーボードなどの周辺機器にかかるコストを考慮すると用途によってはこちらを選んだほうが安い
また11インチモデルに関しては、ビジネスやクリエイティブなどの作業に積極的に用いるのでなければ、1つ下のクラスとなる「iPad」も検討する余地があるだろう。現行モデルである「第10世代iPad」は、チップセットが2020年発売の「iPhone 12」シリーズと同じ「A14」なので性能は不利だが、ディスプレイサイズは11インチでUSB Type-Cポートを搭載するなど、それ以外の部分は現行の「iPad Air」シリーズに近しい内容となっている。
それでいて価格は、今回の新機種発表に合わせて値下げがなされており、ストレージ64GB+Wi-Fiモデルで58,800円、256GB+Wi-Fiモデルでも84,800円となっている。円安以前と比べれば高い印象はどうしても受けてしまうが、「第6世代iPad Air」の11インチモデルより安く購入できるだけに、あまり高い性能を必要としない、コンテンツ視聴などの利用が主だという人はこちらを選んだほうが安く済む。
2022年発売の「第10世代iPad」は、処理性能を除けば「iPad Air」に近しい部分が多く、それでいて今回の新機種発表に合わせて値下げも実施されていることからお買い得感が高まっている
さらに言えば、「iPad」で使うのは動画視聴や書籍閲覧、ネットの調べものやSNSくらいという人は、OSの違いを意識する必要もあまりない。もっと割り切って2万〜3万円でも豊富な製品が選べるAndroidタブレットを選ぶことも視野に入れたほうがよい。一例として、13インチ「第6世代iPad Air」の代わりになりそうなものを探すと、シャオミ「Xiaomi Pad 6S Pro 12.4」は69,800円で、アナログ入力ペンや手ごろな価格のキーボード付きのカバーもオプションで用意されている。
為替の動向を見通すのは難しく、当面アップル製品が高いという状況は続くと考えられる。それゆえ「買うならとりあえず最新・最高性能のiPadを」と考えていた人も、自身の用途とお財布に応じて割り切った機種選びをする必要が出てきたのだろう。
シャオミが2024年6月中旬発売予定の12インチクラスAndroidタブレット「POCO Pad」も、「iPad」の代替候補だ。チップセットにミドルハイクラスの「Snapdragon 7s Gen 2」を搭載し、動画視聴以外でも快適な操作が可能ながら、販路をオンラインに絞ることで価格は44,800円とお得感がかなり高い