2014年秋に発表された初代「Apple Watch」から数え、「Apple Watch」シリーズは2024年秋で10周年。節目を飾る「Apple Watch Series 10」(以下、「Series 10」)は、数世代ぶりにデザインが刷新され話題となっています。初代から「Apple Watch」の取材を続ける筆者が、個人的に購入した「Series 10」を約1か月間使用したうえで感じたことをお届けします。
アップルのスマートウォッチ「Apple Watch Series 10」、価格.com最安価格(2024年10月28日時点)は42mmケースが55,700円〜、46mmケースが61,100円〜。2024年9月20日発売
昨今は、なぜ「Apple Watch」を選ぶのか――という動機付けが弱くなりつつあります。市場には、多くのメーカーが「iPhone」と連携できるスマートウォッチを展開しており、いずれもワークアウト計測やヘルスケア関連のモニタリングなど、機能をかなり充実させています。なかには、一度の充電で数週間以上バッテリーが持つような製品も少なくありません。こうした市場背景を踏まえるならば、盲目的に「iPhoneユーザーだからApple Watchを買ったほうがよい」と言えるかは微妙です。
しかし、筆者は、「Apple Watch」の大きな利点として、“安全性の高いデザイン”があると考えています。たとえば、活動量の測定やライフログ用途で利用することを想定した場合、どうしても運動中や就寝中にもデバイスを装着し続けることになります。スマートウォッチの中には、ケースが角張っているものありますが、「Apple Watch」にはエッジやひっかかりがなく、非常に滑らかです。運動時や就寝時の安全に配慮して使ううえでは特に適した一台だと感じています。
筆者が購入したのは、「Apple Watch Series 10」のアルミニウムの「シルバー」、42mmケース、GPSモデルで、バンドはテキスタイルの「スポーツループ」を選択
また、当然ながらApple製品とのスムーズな連携も「Apple Watch」ならではのメリットです。たとえば、筆者はいまだに混雑した場所ではマスクを着けていたい派ですが、「Apple Watch」を装着していれば、マスクしたままでも「iPhone」をアンロックでき、パスコードを入力する手間が省けます。こうした地味な理由の積み重ねが、「Apple Watch」を引き続き選択する動機になっています。
そんな前提を踏まえたうえで、数年ぶりのデザイン刷新を遂げた「Series 10」は、多くの「iPhone」ユーザーの目に留まっていることでしょう。筆者も実際に新モデルを購入したユーザーの1人です。
ただし、実際に新モデルを装着してみると、付け心地や使い勝手に、既存モデルと比べて衝撃的な違いがあるわけではありません。もし、誰かが腕に装着した「Series 6」と「Series 9」と「Series 10」を見たとしても、それらの違いを一瞬で認識するのは難しいでしょう。
「Apple Watch Series 10(42mm・シルバー)」を装着した様子。文字版は新登場の「リフレクション」
しかし、“1mmスリムになった最新世代”を腕に装着したとき、毎日デバイスを見ているユーザー本人は、若干の外見の差を認識し、製品に洗練された印象を受けます。そしてこのわずかな差が、「Apple Watch」を装着するモチベーションを上げてくれるのです。ライフログを取ったり、活動量をチェックしたりするために毎日装着することを考えると、この地味なモチベーションアップがジワジワと効いてきます。
特に、「Series 4」、「Series 5」などの古い世代のウォッチを使い続けてきた人は、今秋の「watchOS 11」で、ついにデバイスがアップデート対象外になったので、この機に買い換えを検討しているかもしれません。そんなときに、新しいApple Watchを買って「格好いいから毎日身に着けたい」と思えることは重要。ぼんやりと抱える「飽き」が解消され、新鮮な気持ちで再度装着し始められるわけです。
ちなみに、筆者は定番の「シルバー」を購入しましたが、新色の「ジェットブラック」の実物を見た際に「うーん、やはりこちらのほうが格好よかったかも……」とやや後悔しました。公式サイトで見ていた画像よりも、実物のデザインがよかったのです。これから購入される人は、ぜひ「Series 10」らしさのある新色「ジェットブラック」をじっくりチェックしてみることをおすすめします。
試用中の「Apple Watch Series 10(46mm)」のジェットブラックが格好いい
ケース側面まで黒で統一されていて、スッキリした印象
さて、「Series 10」を購入してから、実用性の面で特によかったと感じるのは、充電速度の向上です。バッテリーの持ち自体は、結局のところ、常時表示や睡眠計測をしていると1日に1回は充電が必要になります。旅行や出張など、遠出の際には「低電力モード」をオンにしてバッテリーの持続時間を長くする工夫が欠かせません。
しかし、充電スピードが非常に速くなりました。公称値によると約30分で最大80%の充電が完了するとあり、さらに8分間の充電で最大8時間の睡眠記録が可能とされています。古い世代ならば満充電に1時間半以上かかるのは当たり前でしたし、高速充電に対応した「Series 9」でも約45分で最大80%ほどでした。バッテリーの面だけでも、使い勝手はかなりよくなったと感じるはずです。
充電用のスタンドを用意しておくのも、快適な運用のコツ
シャワーを浴びる間や夕食中など、ごく短い時間に充電器にセットしておくだけで十分な充電が完了している印象があります。古い世代の「Apple Watch」では、ランニングに行こうとする直前や、就寝前などに「あぁ、充電していなかった……」とため息がよく出たものですが、充電スピードが速い「Series 10」では、そんな残念なことも少なくなりました。結果的に、ウォッチを装着している時間は、長くなった気がしています。
また、「Series 10」には、新しく「バイタル」アプリが追加されました。このアプリは、血中酸素ウェルネス(SpO2)や皮膚温など、これまでも測定できたけれど、いまいち使い道のわからなかった指標を、そのユーザーにおける標準値からの変動として可視化。長期的な目線で健康の変化をモニタリングでき、異変がある場合は通知してくれます。さらに、「Series 10」では、睡眠時無呼吸のチェック機能も追加されたので、睡眠モニタリング用デバイスとしてのポテンシャルも高いと感じます。
ここ数年で測定できるようになったヘルスケア関連の指標が、「バイタル」アプリに集約されて見やすくなっています
ここまでは、ヘルスケアの裏方的な話が多く、どうも地味な内容が多かったのですが、ここで「Series 10」のアップデート機能であるウォッチ単体での「BGM再生」を紹介します。これまでも通話は内蔵スピーカーで可能でしたが、「Apple Music」や「ポッドキャスト」の音声を直接再生できるようになりました。
「Apple Watch Series 10」の内蔵スピーカーは、楽曲再生や「ポッドキャスト」などのコンテンツ再生にも対応しました
もちろん、「iPhone」や「AirPods」、「HomePod」などで音楽を再生することが多いと思うので、「Apple Watch」でのBGM再生がメインになるというケースはそれほど多くはないでしょう。しかし、脱衣所で洗濯乾燥機の中身をたたみながら音楽をかけたいとき、手元に「iPhone」がなくても、「Apple Watch」で手軽に音楽を楽しむことができるのはよいなと思いました。実際にサウンドを確認してみると、音質もまずまず。クオリティとしては、「iPhone」の内蔵スピーカーで音楽を流しているときの体験に近いですね。
また、「Apple Watch」を手の動きで操作できる「ジェスチャー操作」も、使いどころに悩んでいたのですが、「曲送り」に使うならちょうどよいです。
ただし、音楽再生時に内蔵スピーカーを選択する操作がやや煩雑なので、もっと簡単にウォッチから音楽を再生できればよいのに……、とは思いました。どうしても直前まで音楽を再生していたほかのデバイスが優先表示されるので、切り替えにはひと手間がかかってしまいます。
ちなみに、そのほかのアップデートとしては、ディスプレイが見やすくなったことがトピック。輝度自体も「Series 9」と同様に2000nitsと高いので、数世代越しの買い替えならば、屋外で非常に見やすくなったことに恩恵を感じるはずです。そして、斜めから見たときの明るさが維持されるようになったことも最新世代のポイントです。個人的には、最近デイキャンプをする機会が増えたので、屋外でもパッと時刻が確認できて便利でした。
直射日光下、こんなに斜めからの角度でも画面に表示された内容を視認できます
いっぽう、購入前に期待していた常時表示中の秒針表示対応は、「こんなものか」といった感じ。今のところは限られた文字盤にしか対応しておらず、まだ本領が発揮されていない印象です。とはいえ、今後のアップデートでもっと楽しめるようになるポテンシャルを秘めているとは思うので、長い目で期待しています。
ちなみに、マリンスポーツをする機会はあまりないので、水深計や水温センサーの出番は今のところまだありません。個人的には、こちらを期待して購入したわけではないので、買い替える前に旅行などで1〜2回使えれば十分でしょう。
まとめると、「Apple Watch Series 10」は、既存のApple Watchユーザーが、新鮮な気持ちで再使用に臨め、運動時にも就寝時にも安全に装着でき、ライフログ機能が充実し、しかも充電が速い――という常時接続を前提としたヘルスケア管理用のデバイスとしての完成度がグッと高まった世代だと感じます。そのほかの機能アップデートはオマケのようなもので、「機会があったら使ってみよう」くらいに考えておけば十分でしょう。「転ばぬ先の杖」ならぬ「心身壊す前のウォッチ」として、健康祈願のお守り的な期待度は、とても高いです。