2015年5月28日発売の、NTTドコモの新型スマートフォン「AQUOS ZETA SH-03G」(シャープ製。以下、SH-03G)。高性能かつバッテリー持続性能の高さで人気のある「AQUOS ZETA」シリーズの最新モデルだ。期待値の高いハイスペックモデルだが、使い勝手や、シリーズの特徴であるバッテリー持続性能、新搭載の指紋センサーなどを中心にレビューしよう。
ここ数年のAQUOS ZETAは、NTTドコモのスマートフォンのラインアップでも、高いハードウェアスペックを備えつつ、シャープ自慢のIGZO液晶などの低消費電力技術を使って、バッテリーの持続性能にすぐれたスマートフォンとして評価を確立している。
今夏モデルであるSH-03Gは、従来機種のSH-01Gと同じく、約5.5インチのIGZO液晶を搭載する大型モデルである。サイズは、従来の約76(幅)×141(高さ)×8.9(厚さ)mmで重量約159gから、約76(幅)×141(高さ)×8.3(厚さ)mm、重量約150gと、わずかに薄く・軽くなっているが、サイズの大きなスマートフォンであることに違いはない。
また、本機のIGZO液晶は、今期の注目トレンドのひとつである1440×2560のWQHD表示ではなく、従来と変わらない1080×1920のフルHDにとどまっているが、新開発のバックライトとカラーフィルターを採用した「S-PureLED」にアップデートされている。S-PureLEDを採用することで、赤、青、緑の光の三原色のいずれの領域でも表現できる色域が広がっている。
約5.5インチという大画面のIGZO液晶を前機種より継続して採用。大画面ならではの操作性や視認性は本機の大きな魅力だ
かつては不自然さがあったIGZO液晶の発色だが、S-PureLEDを採用する本機では、そうした過去の印象は完全に過去のものとなっている
白がきちんと白く表現されており、電子書籍リーダーとしても見やすい端末ではないだろうか
デザインは、最近のスマートフォンAQUOSシリーズの六角形をモチーフにした、“ヘキサグリップシェイプ”や、狭額縁設計を極限まで推し進めた“EDGEST”が受け継がれているが、その内部は、最新の技術トレンドをしっかり押さえたものになっている。
まず、搭載されるOSが、従来のAndroid 4.4から最新のAndroid 5.0に引き上げられた。Android 5.0は、アプリの実行環境が従来のJITコンパイラを使った「Dalvik VM」から、事前コンパイル方式の「ART VM」に変更され、全体的なパフォーマンスが向上している。また、64bit対応なので、本機に備わるような64bit対応CPUの性能をフルに発揮できる。
このほか、Android 5.0には数多くの新しいAPIが実装されているので、将来登場する新しいサービスや周辺機器にも対応しやすい。この点は、いっけん地味ではあるがAndroid 2.X世代が4.X世代に置き換わったように、長いスパンで大きな影響が現れるはずである。
なお、Android 5.0は、画面デザインのガイドライン「マテリアルデザイン」に準拠しているが、本機は比較的その影響が薄めで、タスクの切り替えや通知メニュー周辺、アイコンデザインなどの点で、従来のイメージを強く残している。
裏面はフラットかつ滑らかな質感。前機種ではカラーごとに表面の質感が異なっていたが、今夏モデルでは共通している
側面がメタルのフレームに変更されたため、質感や剛性感といった感触がかなり改善されている。microUSBポートはキャップレスだが、ボディはIPX5/7等級をクリアする防水仕様だ
側面に「グリップマジック」センサーが備わっており、本体を握るだけでスリープから復帰したり、握り続ける限り画面が消灯せずに使い続けることができる。なお、LEDランプが内蔵されており、電話やメールなどの着信インジケーターとしても機能する
SIMカードとmicroSDメモリーカードスロットはボディ上面のキャップ内に配置されている
シャープ製アプリのデザイン
タスクの切り替え画面など、マテリアルデザインらしさが抑えられており、シャープ独自の画面デザインが貫かれている
スマートフォンの性能に大きな影響を与えるCPUには、最新世代のオクタコア「Snapdragon 810 MSM8994(2.0GHz×4+1.5GHz×4)」が搭載されている。RAMは3GBの大容量RAMタイプで、ストレージ容量は32GBだ。このCPUは、熱処理に問題があるとされており、搭載する海外モデルの中には、持ち続けることができないほどの熱を持つ製品も存在する。しかし、本機は発熱処理がかなりうまいようで、ベンチマークアプリをまわし続けても、ボディ表面から感じられる熱はさほど高くなかった。
スマートフォンの処理性能は、どのモデルもかなり高いレベルになってきているが、本機を使ってみると、アプリの起動が速く、画面もなめらかに動作する。買い替えを検討している人が多いと思われる「Snapdragon S4」など2年ほど前に登場した、初期のクアッドコアSoC搭載スマートフォンあたりと比べると、Twitterアプリのスクロールひとつをとっても、レスポンスは明らかに向上している。
SH-03Gは、背面のカメラ下に指紋認証センサーを搭載している。指紋認証と言えば、富士通やアップル、サムスンなどがこれまでも搭載していたが、シャープとしては、ケータイ時代を含めて初めての試みになる。
本機に備わる指紋認証センサーは、NTTドコモが加入する、生体認証の標準化団体「FIDO Alliance」の定める規格「FIDO 1.0」に準拠したものだ。FIDO 1.0は、生体認証のオープンIDのようなもので、海外ではGmailなどでも採用実績がある。本機の場合、NTTドコモの「dゲーム」、「dミュージック」、「dブック」、「dデリバリー」、「ドコモのペット保険」などのNTTドコモのサービス課金や、「docomo ID」、「spモード」のパスワード認証に利用できる。
これまでも、携帯電話やスマートフォンには指紋認証が使われていた。しかし、それらは、それぞれの機種のみ利用可能な、いわばガラパゴスな技術である。しかしFIDO 1.0に対応する本機の指紋認証機能は、将来登場するさまざまなオンラインの認証サービスで利用できる可能性があるのだ。
なお、FIDO Allianceのボードメンバーには、NTTドコモ、VISAやMASTER、Googleなどもあり、発起人としてYahoo! JAPANもメンバーに入っている。個別のサービスの対応状況についてはまだ不明な点も多いが、今後、オンライン決済やパスワード認証などで採用される可能性が高い。
背面の指紋センサーは、生体認証の標準規格であるFIDO 1.0に準拠している。本体のロックに限らず、今後登場する同規格に準拠する各種のオンライン認証でも利用可能となる
FIDO 1.0は、GoogleやMASTERやVISA、マイクロソフト、レノボなどさまざまな企業が参加している。なお、今夏登場予定の「Windows 10」もFIDOに対応可能である
今夏に発売になるスマートフォンを見ると、カメラ機能で競い合っている部分が強い。そんな中、SH-03Gは、メインカメラに有効画素数約1310万画素のCMOSセンサーを採用し、854×480(FWVGA)では210fps 、フルHDでは120fpsのハイスピード撮影が可能となっている。そのうえで、撮影した各フレームがなめらかにつながるように、間に最大10枚のフレームを補間する技術によって、スーパースロー再生を実現しているのが特徴。FWVGA では、2100fpsの超ハイスピード再生が可能だ。
ハイスピード再生の主な用途としては、ゴルフのスイングなどスポーツのフォームを確認するといったことに活用できる。なかなかに面白い映像が撮影できるので、いろいろな被写体で試して見たくなる機能だ。
メインカメラは1310万画素と平凡なスペックだが、ハイスピード撮影機能を備えている
SH-03Gのスーパースロー再生
SH-03Gが搭載するオクタコアCPU「Snapdragon 810」は、海外で同じCPUを採用した製品を見る限り、電力消費と発熱の高さを指摘する声も少なくない。従来のAQUOS ZETAは、圧倒的に長持ちするバッテリー性能が持ち味だったので、ユーザーとしては新しいAQUOS ZETAのバッテリー持続性能は気になるところではないだろうか。
まずは、SH-03Gのバッテリー関連のスペックを見てみよう。搭載されるバッテリーの容量は3000mAhで、連続待ち受け時間は約370時間(LTE)/約400時間)(3G)、連続通話時間は約1120分(LTE)/約800分(3G)となっている。これを、旧モデルSH-01Gのバッテリー性能と比較してみた。以下の表をご覧いただきたい。
スペックを比べてみると、バッテリー容量が1割ほど減ったことももちろん大きな影響を与えているが、全体的にバッテリーの持続性能は、旧モデルよりも見劣りする。特に連続待ち受け時間は半減している項目もある。
続いて、実際の使用感を見てみよう。今回の検証では、SH-03Gを6日間、常用スマートフォンとして活用してみたが、その際に行った充電は3回。およそ2日〜2日半程度でバッテリーの残量が10%を切るという印象である。厳密ではないが、同じような使い方を旧モデルのSH-01Gで行うと、フル充電から3日以上バッテリーが持続していたので、やはりバッテリーの持続性は、以前ほどではないということになる。
こうしたバッテリーの持続性に関する傾向は、本機に限らず、「ARROWS NX F-04G」の実使用時間が、旧モデル「ARROWS NX F-02G」の82.4時間から68.4時間になっているように、Snapdragon 810などオクタコアCPUを搭載するスマートフォンに広く見られる結果になっている。ただ、それらも新旧との比較であり、今夏モデルの中で比較するなら、IGZO液晶や細かなアプリの最適化などの効果もあり、もっともバッテリーが持続するスマートフォンのひとつであるのは間違いない。バッテリーの持続性で選ぶなら、引き続き本機は選択肢の最右翼であろう。
SH-03Gは、先行して発売された「Galaxy S6」シリーズに続いて、NTTドコモのキャリアアグリゲーションサービス「PREMIUM 4G」に対応するモデルである。
PREMIUM 4Gは、今まで下りで最大150Mbpsだった通信速度を、2回線のLTEネットワークを束ねて使用することで220Mbpsまでスピードアップさせるが、プレミアムという名前からわかるように、ユーザーの多いターミナル駅周辺や繁華街など限られたエリアで整備が進められている。
なお、NTTドコモは、主に中国でのローミングを目的としてTD-LTEへの対応を進めているが、本機はそれには対応していない。中国でも使う場合は、Galaxy S6やARROWS NX F-04GなどTD-LTE対応モデルのほうが適している。
このほか、ユニークな通信機能として、Wi-Fiとモバイル回線を同時に接続してスピードアップを図る「デュアルスピードモード」や、不安定なWi-Fiエリア内で、自動でLTEを使って接続する「スムーズチェンジモード」といった機能も備えている。特に、デュアルスピードモードは、対応アプリをユーザーで追加できるので、類似する機能よりも利用できるシーンが増えるはずだ。
PREMIUM 4G対応のJR新橋駅で、朝9時台に計測を3回行ったうち最速だったスコアが下りで27.86Mbpsとなった。プレミアム4G非対応機種では大体15Mbps程度の速度なので、ざっと倍近い速度となる
デュアルスピードモードやスムーズチェンジモードなどWi-Fiの付加機能も豊富。特に、デュアルスピードモードは、対応するアプリを追加できる点が競合する類似機能とは異なる点だ
スムーズチェンジモードは、Wi-Fiの通信速度が低速になった場合、自動的にLTE回線などのモバイルネットワークを利用する
2015年夏のスマートフォンは、各社がカメラなど付加機能を中心に製品の特徴をアピールしている。そうした機能も魅力ではあるが、スマホ選びにおいてもっとも重要な部分は、処理性能やネットワーク性能などスマートフォンとしての使い勝手であることに変わりはない。
その点、SH-03Gは、従来モデルと同様、約5.5型の大画面IGZO液晶を採用し、高い視認性を確保。オクタコアCPUを搭載し、処理性能も高い。加えて、キャリアアグリゲーションのPREMIUM 4Gに対応しているので、回線性能もすぐれている。FIDO対応指紋センサーも、将来性の点でも楽しみな存在と言えよう。
気になる点としては、AQUOS ZETAシリーズの特徴だったバッテリーの持続性能が挙げられる。ただし、従来のようなフル充電で3日以上持続するスタミナは影を潜めているが、同時期発売のライバルと比べて、けっして見劣りしているわけではない。
これらの特徴を踏まえると、AQUOS ZETAシリーズのファンにとってはバッテリー持ちが気になるところだとは思うが、SH-03Gは、従来から今夏モデルの中でも、大画面かつ高性能・高速という最新スマートフォンとしての魅力を直球で追求したモデルと言えよう。最新スペックを搭載した高性能スマートフォンとしての魅力の詰まった1台だ。