VAIOは2016年7月15日、設立2周年を記念し、長野県安曇野市にある安曇野工場で記者説明会を開催した。パソコンのフラッグシップモデル「VAIO Z」を生産している工場の内部も一部公開した。同社はソニーからパソコン事業を引き継いで、2014年7月1日に発足。独立2年目で、受託製造サービスや品ぞろえ強化が奏功し、営業黒字に転換。2016年度はパソコン事業、受託事業に続く、第3のコア事業の立ち上げを目指すという。
長野県安曇野市にあるVAIOの本社工場
安曇野工場は、VAIOの本社であり、開発・製造の拠点だ。主にパソコン事業と受託事業(EMS事業)の2つを行っている。パソコン事業に関しては、VAIO Zを基板実装から内製しているほか、海外で生産している「VAIO S11」や「同 S13」、「同 S15」、「VAIO Z Canvas」、スマートフォン「VAIO Phone Biz」の最終チェックおよびソフトウェアのインストールなどを行っている。この最終チェックをVAIOでは「安曇野フィニッシュ」と呼んでいる。海外で生産されたものをそのまま販売するほうがコストはかからないが、あえて安曇野フィニッシュを行うことで、VAIOらしい高い品質を維持しているのだ。見学時には、その日に不良が出たものがあったが、キーとキーの間の小さな傷と、ディスプレイを固定するパーツの違い(パッと見ではわからない)で不良になったものだった。小さなミスも逃さない、安曇野フィニッシュの効果が垣間見られた。
いっぽうの受託事業では、富士ソフトのコミュニケーションロボット「Palmi(パルミー)」や、Moffのスマートトイ「Moff Band」などを製造。多くのパートナーとさまざまなプロジェクトを進めている。製造だけでなく、日本にサポート拠点を持たない海外メーカーのアフターサービス(修理)なども行っている。
安曇野工場の歴史は長く、1961年に長野県南安曇野郡豊科町に東洋通信工業豊科工場を建設したのがはじまりだ。1974年に長野東洋通信としてソニーの100%子会社となり、当時は主にオーディオ関連製品を製造していた。1983年に家庭用コンピューター「MSX」の製造を開始。ソニーのワークステーション「NEWS」も製造していた。1997年にVAIOのノートPCを、2005年にデスクトップPCの製造を開始。1999年にはエンターテインメントロボット「AIBO」の製造を開始した。AIBOの製造で培ったロボット製造技術は、Palmiなど現在の受託事業に活きている。
工場の入口にある石碑には「VAIOの里」の文字が刻まれている
安曇野工場は、3000メートル級の山が連なる北アルプスを眺められる風光明美な場所にある。取材日は雲が多く山並みは見られなかったが、晴れていれば北アルプスを眺められるという
安曇野工場で製造されたVAIO Zの基盤(写真はVAIO提供)
VAIO ZのLCDの組み立て(写真はVAIO提供)
キーボードの組み立て。キーがセンターに配置されるように、マーカーを活用している(写真はVAIO提供)
パームレストなどはボンドで固定している。両面テープで固定するよりも剛性が高まるのだという。ボンドの塗布料、塗布する位置も計算されている(写真はVAIO提供)
安曇野フィニッシュは、1台ずつ外観検査と内部点検を実施。メモリーやストレージの組み付けなども行う(写真はVAIO提供)
VAIO Phone Bizの安曇野フィニッシュ。人の手と機械で、しっかり動作するかをチェックしている(写真はVAIO提供)
安曇野工場で受託製造している富士ソフトのPalmi。AIBOのロボット製造技術を活かして製造されている
説明会では同社の大田義実社長が2015年度を振り返り、「“自立”と“発展”を目指し、商品力の強化、販売/サポート力の強化に取り組んだ結果、2年目で営業利益黒字化に成功した」と胸を張った。社員1人1人が収益責任を持つように、パソコンは1機種ずつの販売状況を毎日、全社員に共有し、店頭での販売が落ち込めば、何らかの販促活動を行うなど、素早く対策を打ってきた。販路の強化では、通常の営業担当に技術に詳しい技術営業担当者が商談に同行し、VAIOを売り込んだ。その結果が2014年度からのV字回復につながったのだ。
「食べるだけでなく、儲けなければならない。そこで始めた受託事業は予想以上の早さで立ち上がってきている」(大田社長)。コンピューティング技術、高密度設計/実装/放熱設計のノウハウに加え、AIBO時代に培ったロボット製造技術を活かした受託事業は、パソコン事業に次ぐ、第2のコア事業に成長。2016年度についても受託事業には引き続き力を入れていくという。大田社長は、「第3のコア事業の立上げに向け、お客様と新たな製品やビジネスに取り組みたい。ジョイントベンチャーや投資といったさまざまな手法を想定している」と語った。
大田義実社長
安曇野氏の村上広志副市長。VAIOには安曇野市の雇用を支える一面もあるほか、ふるさと納税の返礼品にVAIOが採用されている
続いて、同社の副社長でパソコン事業を統括している赤羽良介氏がVAIOの開発哲学を説明した。赤羽氏は、「2年前に、どうしてこうなってしまったのかをみんなで議論した。そのときにデザインポリシーをしっかり作ろうと決めた。それがレスポンスの追求、入力の質の追求、出力の質の追求、高密度・剛性の追求の4つ」と説明。このデザインポリシーに基づいて作った製品を広告代理店の担当者に実際に使ってもらって、どんな製品か体験してもらって生まれたのが、現在ホームページやカタログなどで使用している「『快』が仕事の生産性を高める。」というコピーだ。
「最高のアウトプットを生み出すことに挑戦する人々に、カッコイイ・キモチイイという価値を提供することがVAIOの使命であり、カッコイイ・キモチイイという部分が“快”につながっている。ただ、個人の好みにぴったりハマる“快”もある。そちらにも期待してほしい」(赤羽氏)と、どちらかというとビジネスパーソン向けの現在の”快”とは異なる“快”を追求した製品を示唆した。
VAIO Zは、ここ安曇野工場で生産されているMADE IN AZUMINOだが、天板、液晶パネル、ヒートパイプ、流体動圧軸受ファン、UDカーボンなどは、国内メーカーと共同開発している。天板のブラスト加工アルミは、東陽理化学研究所と共同開発したものだ。東陽理化学研究所とは2007年から共同開発に取り組んでおり、薄い、軽い、質感の高い形状の追求をいっしょにしてきた。
VAIO Zのマルチフリップモデルは、天板が2枚のアルミから構成されるが、この2つのアルミの色や質感を合わせるために、材料ロットを合わせるだけでなく、材料の素性から合わせるため、すぐ隣の部位が使えるように一体でプレス成型、カットし2枚一組のペアで安曇野工場に持ち込まれ、そのままセットに組み込まれるという徹底ぶりだ。最近では見る角度で色が変わるダブルアルマイトを共同で開発した。
マルチフリップの天板の質感を合わせるため、2枚ペアで納品され、そのままセットに組み込まれる
今回、なかなか見ることのできない工場内部を見学できたが、VAIO Zやほかのパソコン、スマートフォンが多くのスタッフの手作業で作られていることに驚いた。もちろん、最新の機器や同社が自作した機器も多く使われていたが、最終チェックや梱包はスタッフの方が丁寧に、しかもスピーディに作業している様子を見られた。この安曇野工場からどんな新しい製品が生み出されるのか、これからも注目したい。
ガジェットとインターネットが好きでこの世界に入り、はやいもので20年。特技は言い間違いで、歯ブラシをお風呂、運動会を学芸会、スプーンを箸と言ってしまいます。お風呂とサウナが好きです!