梅雨が明ければ、いよいよ夏本番。エアコンの購入、買い替えを検討している人も多いことだろう。ただ、築年数がある程度経過した賃貸マンションやアパートなどでは、エアコン用の配管穴やコンセントがない部屋、すなわち「エアコンが取り付けられない部屋」がある場合も多い。そこでチェックしたいのが、アイリスオーヤマの「ポータブルクーラー IPC-221N」(以下、ポータブルクーラー)。施工業者による取り付け工事が不要で、エアコンの配管穴がない部屋でも使用できる家庭用スポットクーラーだ。
エアコンの取り付け工事は、オフシーズンでも1週間待ちが普通。夏のハイシーズンともなれば2〜3週間待ちも珍しくないが、「ポータブルクーラー」なら、施工業者による取り付け工事は必要ない。本体を床に置き、排気ダクトを窓から外に出して、電源オン。これだけで、心地よい冷房空間を作り出すことができる。
基本的な機構は一般的なエアコンと同じで、取り込んだ空気を熱交換器で冷やして吹き出し、排気口からは逆に温風を出す。本製品の場合、付属の屋外排気用窓パネルを部屋の窓に設置し、窓パネルの穴に排気ダクトを通すことで、排気口から出る温風を屋外に排気できる仕組みだ。
窓パネルはホース穴以外のすき間を隙間テープでふさぐので、雨や虫が侵入する心配はない。しかも、ビス留めや切断などの加工は一切不要。窓パネルは760〜1,425mmまで伸縮し、さまざまなサイズの窓に取り付けられる。
本体サイズは、約350(幅)×343(奥行)×高さ704mm。冷風性能は最大2.2kW(60Hz)と、一般的な6畳用エアコンと同等の冷房性能を備えている。消費電力は最大720W
ホワイトを基調としたシンプルなデザインは、リビングのインテリアに溶け込みやすい。据え置き型の空気清浄機のようなたたずまいだ
重量22kgとそれなりにヘビー級だが、キャスター付きなので本体の移動はさほど苦にならない
使用前に、排気ダクトを窓に取り付ける。付属の窓パネルを組み立て、網戸付きの雨よけカバーを取り付けたら、窓に合わせパネルの長さを調整。窓とのすき間をスポンジ素材の隙間シールで目張りして、窓に取り付ける。この間、作業に要した時間は約30分だ。
付属品は、排気ダクトまわりのパーツや、排気ダクトを窓に取り付けるための窓パネル、ドレン水を排水(後述)するためのホースなど計15点。パーツが多く大変な作業に見えるかもしれないが、予想より簡単に設置できた。なお、窓パネルBは窓が小さければ使用しない場合もある
排気ダクトの組み立ては、ホースの両端にダクトエンドを装着するだけ。排気ダクトの長さは約30〜120cm
本体背面に排気ダクトを装着
装着部右側の部分を押し込むと排気ダクトが固定される
窓パネルはA、B、Cの3パーツに分かれており、窓の高さに合わせて長さをスライド調節できる。まずは、AとCの両端にレール用アタッチメントをねじ止め
続いて、雨よけカバー(虫よけ網付き)の取り付け。これもドライバー1本で簡単に行えた
各パネルの接合部を、付属の四角ボルトと蝶ナットで仮止めする
各パネルの溝を合わせてつなげれば、窓パネルの完成だ
パネル用に開けた窓と窓パネルのすき間から外気や虫などが侵入しないよう、窓パッキンを貼り付ける。窓パッキンは繰り返し使うこともできるが、粘着力は次第に落ちていく
蝶ナットを少しゆるめて、窓パネルを窓枠の上下レールに合わせて差し込み、蝶ナットを締め付けて固定
窓パネルの両脇に隙間シールを貼り付ければ、窓パネルの取り付けが完了だ
排気ダクトのじゃばら状のホースを伸ばして、ダクトエンドを窓パネルに装着する
なお、窓パネルから排気ダクトを取り外した時も、キャップを付けておけば外気の侵入を防げる
1点気になったのは、窓パネルを取り付けると窓の鍵がかからなくなることだ。メーカーは鍵をかける際は都度取り外すことを推奨しており、確かに窓パネルは取り外しやすいのだが、やはり多少の手間はかかる。市販の補助錠を使う手はあるものの、防犯的な観点から言えば、やや心もとないのも事実。ここは、家庭用スポットクーラー共通の懸念点と言えるかもしれない。
また、排気ダクトの長さは約30〜120cmなので、本体の設置領域は窓から1mほどの場所になる。そのため、どこにでも設置できるとはいえ、実質的には、“窓に近い範囲で”という条件付きになる。太く長い排気ダクトを伸ばすことを考えても、それなりに場所を取ることは頭に入れておこう。
さっそく、「ポータブルクーラー」の冷房性能をチェック。6畳の部屋で使用し、約30分でどの程度部屋の温度が下がるのか確認してみた。
■冷房運転 30分(設定温度:25℃、風量:中)
運転前:室温27.3℃ 湿度77%
運転後:室温23.3℃ 湿度69%
約6畳の部屋で冷房運転を開始すると、すぐに冷風が吹き出され、約30分で室温が約4℃、湿度が約8%低下
運転音はそれなりに大きい。「ブイーン」というコンプレッサー特有の作動音だ。デシベル計の実測値は、一般的な家庭用クーラーの室外機の運転音と同等の52.3デシベル(環境音37.9デシベル)。就寝時の寝室に置くのは難しいかもしれない
風量は弱/中/強の3段階で調節でき、風の勢いは十分だ。弱/中/強それぞれで約2.8/3.2/3.5m先まで爽やかな冷風が届いた
風向きは、手動で上下方向のみ調節できる
専用のリモコンでも温度や風量、運転モード、オン/オフタイマーなどを設定できるが、リモコンに液晶画面がなく、設定した数値を確認できないのが惜しい
配管穴がない部屋に加え、空調が効きづらく調理中は室温が上がりやすいキッチンや、半屋外となるガレージなど、これまでエアコンの設置が難しかった場所にピンポイントで使用できるのが「ポータブルクーラー」の魅力。なお、キッチン、サニタリーでの使用は、排気ダクトが届く窓がある、別の部屋へ逃がせるなど、熱を持った排気を逃がせることが前提となる。
エアコンの空調が効きにくいキッチンやサニタリールーム、半屋外のガレージなどで使用すれば、涼しく快適な冷房空間を簡単に作り出せる。熱中症をはじめ、暑さによる体調不良の予防にもつながるだろう※ガレージの画像はメーカーの製品ページより
運転モードは冷風/除湿/送風の3種類。除湿モードは雨の日や、ジメジメとした梅雨、冬場の衣類の部屋干し乾燥に重宝する。実際に洗濯物を除湿モードで乾かしてみたところ、朝9時に干した洗濯ものが昼12時頃にはある程度乾き、午後3時頃には完全に乾いた状態に仕上がった
一般的なエアコンの場合、運転時に発生するドレン水はドレンホースを通して屋外へ排出するが、「ポータブルクーラー」は熱交換器の熱を使ってドレン水を蒸発させる「ノンドレン方式」を採用しており、基本的には水を捨てる必要がない。ただし、室温が30℃、湿度が70%を超える高温・多湿の環境の場合、本体タンク内にドレン水が溜まり、満杯になると自動で運転が停止する仕組みとなっているので、この場合には本体背面から排水を行う必要がある。
ドレン水は、本体背面に排水ホースを取り付けてバケツなどに排水する。多少手間ではあるが、完全なノンドレンの場合は、温度・湿度が高い状態で満杯になると、水が蒸発できずに使えなくなってしまうので善し悪しだ
高い場所に取り付けるエアコンと比べて、直置き型の「ポータブルクーラー」はフィルターを着脱しやすい。お手入れ方法は一般的なエアコンと同様で、溜まったホコリを掃除機で吸い取るだけ。水洗いも可能だ。なお、シーズン中は2週間に1回を目安にフィルターを掃除しよう
「設置領域は窓から1mほどの場所に限られる」など、「もう少し」と欲が出てしまうポイントは少なからずある。しかしそれらを差し引いて考えても、施工業者による取り付け工事が不要で、エアコンの設置が難しい部屋や、空調が効きづらい場所でも手軽に「快適な冷房空間」が手に入るのはとても魅力的だ。
窓さえあればいい設置の自由度の高さや、思いのほか簡単な窓パネルの取り付けなど、総合的に見ると、実用には十分な仕上がりと言えるのではないだろうか。エアコンの不足を補うアイテムとして、暑い夏を快適に過ごすための選択肢のひとつとして、ぜひチェックしてみてほしい。
編プロでの広告制作、雑誌編集を経てフリーライター/エディターに。家電をはじめ、自動車、ファッション、ビジネス関連など幅広い分野で活動。86年、秋田県出身。「大曲の花火」とグミをこよなく愛する。