実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
新旧モデルの比較テストもあり!

“瞬間で沸く”と言いたくなるほど早い! 新型「ジェットボイル フラッシュ」の進化に驚愕!!


これからの寒い季節、日帰り登山でも調理器具を持っていき、山中で温かい食事や飲み物をとりたくなる。むしろ、そのこと自体が寒い時期の登山の楽しみといえるかもしれない。

山中での調理には、手軽に使えるバーナー(ストーブ)と金属製のクッカーが必要だ。それぞれをセパレートで購入し、組み合わせて使うのが一般的だが、最初からそれらをセットにした「バーナー&クッカー一体型」の調理器具もメジャーになりつつある。

その代表格であり、他の追従を許さない革新的な商品開発を行っているのが、アメリカのジェットボイル社だ。その歴史は、代表モデル「PCS フラッシュ」の登場とともに2001年に始まったが、今回ピックアップするのは、何度か改良されながら現在の同社の顔として君臨する「PCS フラッシュ」の最新モデル「フラッシュ」である。ちなみに前モデルの名称についていた「PCS」とは「Personal Cooking System」の略語であったが、今モデルからはそれが取れて、シンプルな名称となった。

持ち運びにもすぐれるバーナーとクッカーが一体化した調理器具

バーナー&クッカー一体型調理器具の最大のメリットは、短時間かつ少ない燃料でお湯を沸かせることだ。熱効率を高める数々の工夫により、クッカー、バーナーともに進化を遂げている。また、「フラッシュ」を含むジェットボイルの製品の特徴は、クッカー内部にバーナー本体をはじめとするすべての器具やパーツを収納できること。0.1ミリ単位の設計がなされ、内部にはほとんど隙間がなく、無駄なくスペースを活用している。金属製クッカーの中に、同じく金属製のバーナーを入れているのに、持ち歩く際にガタゴトと音を立てることはほとんどないくらいだ。

ブルーのカバー(コジー)をかぶせたクッカー本体(1)、クッカーのフタ(2)、ゴトク(3)、バーナー本体(7)、カートリッジに取り付けて使うスタビライザー(5)、食事にも使えるカップ(6)がセットとなっている。ガスカートリッジ(ガス缶)の「ジェットパワー100G」(4)は別売

ガスカートリッジを含む、すべてがクッカーに収納できる。収納時のサイズは104(直径)×180(高さ)mm。ガスカートリッジを除いた重量は440gで、クッカーの容量は1.0Lである

正しい収納時のイメージ。ゴトク、ガスカートリッジ、バーナー本体、スタビライザーを重ね、クッカー内部へ入れ、クッカーの上をフタ、下をカップでおおう

ガスカートリッジをバーナー本体に結合したままでも収納はできる。しかし、この方法だと収納してからガス漏れを起こす可能性があり、安全面を考えれば絶対にしてはいけない。ここではあえて間違った例としてお見せした

正しく収納した状態を上から見ると、このような姿になる。最上部にあるゴトクは、付属のクッカーを使う場合は必要ないので、自宅に置いたまま持ち歩かなくてもいい

クッカー、バーナー、そしてガスカートリッジをバラバラに持ち運ぶよりも、「フラッシュ」のように一体化してコンパクトに収納できるのは大きなメリットだ。バックパック内にパッキングする際のかさばりを抑えられるばかりか、保管時も一体化しておけば、次の山行時に忘れ物をする恐れも減らせる。ただし、調理で使うクッカー内に、汚れなどが付きやすいバーナーやスタビライザーを収納することに抵抗がある人も多く、収納時に汚れを拭き取る程度では気が済まない潔癖症気味な方にはあまりおすすめできない。

また、重量も特筆すべきところ。山岳用のクッカーに使われる主要な素材は、大きく分けて2種類ある。いくぶん重いが、焦げにくくて安価なアルミと、焦げ付きやすくて高価だが、軽さに大きなメリットがあるチタンだ。ジェットボイルでも両者のクッカーを作り分けてきたが、「フラッシュ」はアルミ製。それでもガスカートリッジ抜きで440gなので、同サイズの他メーカーのクッカーやバーナーを組み合わせた場合よりも、かなり軽量だ。

ちなみに、「フラッシュ」のクッカー内部に収納できるガスカートリッジは「ジェットパワー100G」のみ。内容量が多く、長時間使える「ジェットパワー230G」も用意されているが、ジェットボイルのほかの製品のクッカー内には収まっても、「フラッシュ」には入らない。

「ジェットパワー230G」は「フラッシュ」のクッカーに収められないとはいえ、底部の直径はクッカーの口径にピタリと合う大きさ。少々工夫すれば、一緒に持ち運ぶこともできる

「ジェットパワー230G」の「230」という数値はガスの内容量で、230gのガスが充填されているということ。カートリッジの大きさ自体は他メーカーとも共通だが、内容量が「250」というメーカーもある。いずれにしても、ガス缶自体はこのサイズがもっとも一般的だが、ジェットボイルに限っていえば、基本となるのはより小型の「110」。その理由は、どの製品も熱効率がおどろくほど高く、少しの燃料でたくさんのお湯を沸かせるからだ。調理形式や気温にもよるが、一般的なガスカートリッジのおよそ半分の量と考えてよく、長期山行でもなければ大きなガスカートリッジを持っていく必要はないのである。

熱効率が格段によくなった最新モデル

では、なぜジェットボイルの熱効率は非常に高いのか? もっともわかりやすいのは、クッカーの形状だ。ジェットボイルのクッカーの底面には円を描くようにフラックスリングというパーツが取り付けられ、その波を打つ形状の金属によって火が当たる面積を増やし、炎の熱をムダなくクッカーに伝える。「フラッシュ」の場合、その「波」は42もあり、それぞれが高さ1.2cm、幅1.3cmほどの広さ。ほかの部分も含めて、ざっと計算するだけでも炎に当たる面積が本来の底面積に130cm以上もプラスされる。そう考えれば、早くお湯が沸くのも道理だ。

そして、熱効率を高くする秘密がもうひとつ、バーナー本体にある。ブランド名である「ジェット」という名前から想像できるように、同社の製品が放つ炎には、たしかにジェットという言葉が似合う。それほど大きくはないが、「ゴゥー」という迫力ある音に加え、真上に力強く炎を噴き出す様子はジェット機を思い出さずにはいられない。

ギザギザに見える金属パーツが、フラックスリング。壊れやすい個所でもあり、その外部は風防をかねた別のリング状パーツでおおわれている

バーナー本体の下部。中央の金色の部分にガスカートリッジを連結して使用する。その上にある空洞の部分に金属パイプがあり、気化した燃料がバーナーヘッドへ運ばれていく。右側の金属のリングは火力調整のツマミ。グローブをしたまま調整できるように大きめだ

今回紹介する最新モデル「フラッシュ」の最大の進化点は、まさにこのバーナー本体の部分。ガスカートリッジとバーナーのバーナーヘッド(火口)をつなぐパイプが太くなり、さらにバーナーヘッドの口径を広くするなどの工夫により、最大出力が従来の約2倍になったという。メーカーの公称値は「周囲温度20℃、無風の条件下で500mlの水を加熱した状態の沸騰到達時間は約100秒」。これは、前モデルから約50秒も短縮されていることになる。つまり2/3の時間で沸騰させることができるというわけだ。

クッカーを外した状態で見た、炎の様子。直径約4.3cm のバーナーヘッドから炎がまっすぐに立ち上がっている

クッカーを外した状態で見た、炎の様子。直径約4.3cm のバーナーヘッドから炎がまっすぐに立ち上がっている

クッカーをバーナーにはめ、着火。クッカーの底面にぶつかった炎をフラックスリングが炎を閉じ込めるかのように受け止め、熱をムダなく使っていることがわかる

「フラッシュ」のバーナーは、一般のクッカーとも組み合わせることもできる。その場合は、付属のゴトクをバーナーの上に乗せて使う。ただし、一般のクッカーにはフラックスリングが付いていないので、ジェットボイル特有の熱効率のよさは期待できない

「フラッシュ」はあまりに熱効率が高いので、あっという間にお湯が沸く。うっかりすると沸騰したことに気が付かないこともあるほどだ。このようなこともあり、お湯の吹きこぼしを防ぐため、容量1.0Lのクッカーながら水の量は半分の500ml以下の量で使用することが推奨されている。もちろん1.0L近い水を入れて火にかけることもできなくはないが、安全上は好ましくない。とはいえ、一度に500ml沸かせれば、数人分のお茶を入れることができ、カップラーメンを作ったり、フリーズドライ食品を戻したりする量としては十分だ。

クッカーの内側には目盛りがあり、「MAX SAFE FILL/2CUPS」と刻印されている。クッカー自体の容量は1.0Lだが、実質的には約0.5Lということになる

新モデルの実力を調査

前述のように「フラッシュ」もしくは「PCS フラッシュ」は、ジェットボイルを代表するモデルであり、僕自身も代々の製品を買い直して使ってきた。そこで、今回は旧モデルと最新モデルを比較するほか、最新モデルの実力を知るための簡単なテストをいくつかしてみた。

【テスト1】新旧3モデルを比較

まずは、新旧モデルの構造の違いを見るとともに、お湯を沸かす時間を比べてみる。

左端が最新モデルの「フラッシュ」。中央は前モデルで、右端が10数年前に購入した初期モデル。これ以降の写真も、この順序に並んでいる。色は以前の僕の好みで、すべてブルー系だ

フラックスリングなどの形状は大きく変わらない。しかし初期モデルに比べ、ほかの2モデルは金属部分が薄く、軽量になっている

初期モデル(右)と前モデル(中央)のバーナー底面はほぼ同じ。火力調整のツマミが、使いやすく進化した程度の違いだ。しかし、最新モデル(左)はバーナーヘッド裏面の露出が減り、熱を失いにくくなっている

バーナーヘッドは新しいモデルになるにつれ、徐々に大きくなっている。しかも、初期モデル(右)と前モデル(中央)は火口が高く浮いているが、最新モデル(左)は下の金属プレートに近付き、熱の反射を積極的に利用できるようになっている

使用時のサイズ感は、もちろん同一だ。初期モデル(右)と前モデル(中央)に取り付けられているガスカートリッジは旧タイプ。実は、「フラッシュ」のリニューアルと同じタイミングで、ガスカートリッジのデザインも変更されたのだ。転倒を防ぐスタビライザーの色は、旧モデル時にチェンジ

今回のテストでは、0.5Lの水が100℃になる早さを比較する。メーカーの公称値では「約100秒(1分40秒)」だが、もとの水温が何度かは不明である。そこで、改めて山中で確認してみるというわけだ。

持参した水の温度は10.6℃で、気温は16.5℃。ここから約100℃で沸騰するまでの時間を測定する。今回のテストを行った場所は、標高300mに満たない低山の中腹。気圧によって沸点が下がるという山特有の問題は計算に入れていない

その結果は……
最新モデル:1分20秒
前モデル:2分35秒
初期モデル:3分55秒

目測で正確な時間を計測するのには限界があり、多少の誤差はゆるしてほしい。とはいえ、若干あいまいな計測結果だとしても、最新モデルはメーカーの公称値より短時間で沸騰したこととなる。以前のモデルでも沸騰までの時間はおどろくほど短いと思っていたが、これほど改良されているとは! コーヒーを淹れるための0.2Lほどの水量ならば、もはや瞬間に沸くといってもよいくらいである。

【テスト2】最新モデルで調理してみる

お湯を沸かず能力は十分に理解できたので、次は簡単な調理を行ってみた。0.5Lのお湯が沸かせるのならば、袋入りのラーメンくらいは作れるだろう。ただし、もともと「フラッシュ」はあまり調理することを意識して設計されておらず、特に吹きこぼれには注意する必要がありそうだ。

水を入れて火をつけると、すぐにフタに蒸気で水滴がついた。フタには2つの孔があり、左の大きめな孔はフタをしたままでお湯を注ぐためのもので、右に複数ある小さな孔は、パスタなどを茹でた時に湯切りとして使える

お湯が沸騰したら、麺を投入。「フラッシュ」のような縦に長いクッカーには、袋から出した状態のままでは麺が入らないので、2つに折ってから湯に沈める

火力は弱めにしたつもりだったが、麺を入れてお湯が粉っぽくなったことですぐに吹きこぼれ、台にしたベンチが濡れてしまった。ゴメンなさい……

吹きこぼれたせいで少々お湯は減ってしまったが、具材を投入して完成。おいしくいただきました!

吹きこぼれたせいで少々お湯は減ってしまったが、具材を投入して完成。おいしくいただきました!

クッカーをおおうコジーはネオプレン製で、保温効果が高いだけではなく、クッカーの熱を大幅に遮断し、調理後すぐに直接手で握れるほどの温度にしてくれる。手をかける部分は別にあるとはいえ、このように使えるのはとても便利だ

旧モデルの「フラッシュ」での調理の経験から、ラーメンを作る際の吹きこぼれには十分に注意していたつもりだった。しかし、僕はパワーアップした最新型「フラッシュ」の威力をまだ理解しかねていたようで、麺を入れた途端に吹きこぼれを起こしてしまった。麺を投入する前に、消えそうなほど火力を弱めておくべきだったのだ。

「フラッシュ」を使った調理の際の問題は、火力調整機能があまり高くないということ。つまみをわずかに動かすだけでガスが噴出する量が大きく変わり、火を弱めるだけのつもりが一気に完全消火という事態に陥ってしまうのだ。

付属のフタに湯切り穴があることでもわかるように、「フラッシュ」は調理での使用も想定している。にもかかわらず、使い勝手がいいとは言いがたい。事実、ジェットボイルには調理のしやすさを考え、火力の微調整が容易なバーナーを備える別モデルも存在している。しかし、それらはバーナーの構造が複雑になり、最新型「フラッシュ」のような驚異的な熱効率の高さは得られない。だから、あくまでも「フラッシュ」は熱効率の高さを最大のレベルにまで求めたモデルであり、調理のしやすさは別モデルに譲っていると考えたほうがいい。その特徴をさらに生かすために、今後は調理のことはまったく考慮せず、その代わりに軽量性にすぐれたチタン製のクッカーにするという派生モデルの登場もあるかもしれない。

とはいえ、現状の「フラッシュ」のクッカーは焦げにくさが長所のアルミ製である。その実力を確かめるため、あえて食べ残した少量の麺とスープを火にかけてみた。

水分の量が少ないので、沸騰はあっという間。ギリギリまで様子を見守り、空焚きになる寸前で火を止めた

水分の量が少ないので、沸騰はあっという間。ギリギリまで様子を見守り、空焚きになる寸前で火を止めた

短時間でクッカー内から水分がほとんど飛び、ラーメンはドロドロに。汚れはペーパーでは拭き取れないレベルになってしまい、自宅で洗浄するまではひどい状態だった。だが、焦げ付きはなく、普通に調理している分には問題はないはずだ。さすがに空焚きすれば焦げ付いてしまい、旧モデルではフラックスリングが溶け落ちるという事故も起きているほどなので、実際の使用時には注意してほしい。

【ポイント!】吹きこぼれ防止に役立つ機能を搭載

最後に、重量な機能を紹介しておきたい。それはコジーのサイドに付けられたインジケーターだ。クッカーの温度が上がるごとに炎を模したパネルが赤くなり、クッカー内部の温度が予想できるのである。この部分をよく見ておけば、吹きこぼれは減らせるだろう。

このインジケーターは前モデルにも装備されていたが、大幅に改善されているようだ。前モデルではそれほどはっきりと赤い色にはならず、濃いオレンジといった程度。しかも、使っているうちに劣化して、いまやそれほど色が変わっているようには見えない。最新モデルのインジケーターもいずれ劣化して色あせるかもしれないが、少なくても初期段階では使いやすくなっているのは間違いない。こういう部分の改良もうれしいポイントだ。

初期モデルにはインジケーターがついていなかったので、最新モデル(左)と前モデル(右)を比較。どちらが機能的かは、一目で明確だ

山行を終えて

最新型フラッシュのパワーアップは疑いようもない。沸騰までの時間が極端に短く、あまりに火力が強いため、調理時の火力の調整はしづらいものの、調理のしやすさを重視するならば、ジェットボイルの数ある製品の中から別のモデルを選べばいいだけだ。

「フラッシュ」の最大の利点は、やはり沸騰までの時間の短さである。もはや「瞬間」と言いたくもなるほどの熱効率のよさは、これまでの調理器具の範疇を越えている。短時間でお湯が沸くということは消費燃料の削減にもつながり、山中へ持っていくガスカートリッジを減らせるメリットのほか、ひとつのカートリッジを長時間使えて経済的でもある。手の込んだ調理を山中でしようとでも思わない限り、「フラッシュ」が活躍する場は非常に広い。

悩んでしまうのは、僕のように旧モデルをすでに使っている人だ。これまでの「フラッシュ」もアウトドア界の大定番品であるがゆえ、所有している人はそれほどめずらしくないが、旧モデルをはるかに上回る実力を見せつけられると……。まだまだ使える手元の愛用品に別れを告げてでも手に入れるべきか、悩む人が続出するかもしれない。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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