ヤマハが展開するe-Bike(スポーツタイプの電動アシスト自転車)「YPJシリーズ」から、グラベルロードタイプ「WABASH(ワバッシュ)RT」とクロスバイクタイプ「CROSSCORE(クロスコア)RC」の2024年モデルが発表された。一見すると、カラーが変わった程度にしか見えないが、ドライブユニットを一新したほか、走行モードをアップデートするなど大きく進化している。メディア向け体験会で試乗したところ、乗り味も別物と言っていいほど異なっていた。また、シリーズ初のスマホ連携機能を搭載した「CROSSCORE Conenected」も新たに追加。その詳細を紹介しよう。
「WABASH RT」と「CROSSCOR RC」の前モデルは、グラベルロードタイプとクロスバイクタイプというように自転車のタイプは異なるものの、フレームやドライブユニット、バッテリーは共通。この点は、2024年モデルも同じで、車体のカラーは一新されているが、基本的な構造は変わっていない。
新モデルの大きな進化点は、ドライブユニットを新型「PWseries S2」に変更したこと。ブラッシュアップ程度の変化ではなく筐体から一新されており、旧型に比べて約20%小型化しながら最大トルクは75Nmと、約7%向上し、登り坂やオフロードなど、より高いアシスト力が求められるシーンでスムーズな加速が得られるようになった。さらに、小型化により幅が抑えられたため、「Qファクター」と呼ばれる左右のペダル間の距離が22.8mm短くなったのもポイントだ。
新型のドライブユニット「PWseries S2」は従来型「PWseries ST」に比べて550g軽く、コンパクトになった
上から見るとサイズの違いがわかりやすい。新型はトルクがアップしたため、冷却用のフィンが設けられ、よりエンジンっぽい見た目になった印象だ
ドライブユニットのカバーにも冷却用のスリットが設けられた
クランク(ペダルが付いているアーム部分)のマウント方式も変更され、より強固にクランクを固定できるように。従来型は、近年のスポーツタイプの自転車ではあまり使われなくなった「スクエアテーパー」という方式だった
このほか、走行状況に合わせて走行モードを「ハイモード」「スタンダードモード」「エコモード」に自動で切り替える「オートマチックアシストモード」を改良。前モデルよりもスムーズにアシストが切り替わるように調整している。搭載しているバッテリーの容量は36V/13.1Ahで、アシスト最大距離は188kmだ。なお、2024年モデルの3車種はすべて2024年10月9日発売予定。
ここからは、新型「WABASH RT」と「CROSSCORE RC」の細部を見ていこう。
グラベルロードタイプの「WABASH RT」は、700Cサイズ(29インチ相当)の大径タイヤを装着し、フロントフォークにはリジッドタイプを採用。快適に長距離を走れる設計なうえ、オフロードも走行可能なタイヤとクッション性を備えたドロッパーシートポストを装備しているので、未舗装路を交えたツーリングが楽しめる。
S/M/Lの3サイズを用意。全幅は3サイズとも580mmで、全長(S/M/L)は1,775/1,790/1,810mm。重量(S/M/L)は21/21.1/21.3kgだ。マットショールグレーとマットストーングレーの2色展開で、メーカー希望小売価格は463,100円(税込)
ドロップハンドルはグラベルロードでは標準的な装備。幅が広めなので、車体を押さえやすい
700×45Cと太めのブロックタイヤで、未舗装路の走行にも対応
変速ギアはリアのみの外装式11段。コンポーネントはシマノ製「GRX」
前後ともシマノ製「GRX」の油圧ディスクブレーキを採用し、制動力とコントロール性を確保
乗車したままシートポストの高さを変えられるドロッパーポストを装備。ハンドル右手側にあるレバーを操作するだけなので、信号待ちやオフロードで腰を引いたポジションを取るときなど、状況に合わせてスムーズに変更できる
クロスバイクタイプの「CROSSCORE RC」は前後に27.5×2インチのタイヤを履き、フラットタイプのハンドルを装備。フロントにはサスペンションタイプのフォークを採用し、段差などを越えた際のショックを吸収する。街乗りや通勤だけでなく、郊外に出かけるようなツーリングまで対応する使い勝手のいいモデルだ。
S/M/Lの3サイズを用意。全幅は3サイズとも590mmで、全長(S/M/L)は1,750/1,765/1,780mm。重量(S/M/L)は23.5/23.5/23.7kgだ。カーキジェイド、スペースグラファイト、マットブロンズの3色展開で、メーカー希望小売価格は341,000円(税込)
フラットタイプのハンドルに、エルゴノミック形状のグリップを装着
太めのタイヤとサスペンションフォークを組み合わせた構成は、街乗りでの快適性と安定性を重視したもの
変速機構はリアのみの9速。コンポーネントはシマノ製「CUES」
高い制動力とコントロール性を実現する油圧ディスクブレーキを前後に搭載
新型「WABASH RT」と「CROSSCORE RC」に試乗してみよう。筆者は2022年に発売された前モデルにも試乗しているので、乗り味の違いを確かめたい。
前モデルと基本的な構造は大きく変わらないものの、新型ドライブユニットを搭載した新モデルは想像以上に進化していた。特に、ドライブユニットが小型化されたことで「Qファクター」が短縮された効果が大きい。普通のロードバイクなどに比べ、e-Bikeはドライブユニットが付いているため、左右のペダル間の距離が広くなりやすく、ややガニ股ぎみにペダリングすることも少なくないが、新型「WABASH RT」と「CROSSCORE RC」はペダル間に自然な幅を取っているので、骨盤から真下に足を下ろすようにペダルを踏み込めるようになった。ペダルをこぐ足の角度なんてアシスト機能があるのだから気にしなくていいのでは? と思うかもしれないが、ペダルの回しやすさで快適さは結構変わる。
ペダル間の距離が短くなった恩恵は「WABASH RT」のほうがより強く感じた。「WABASH RT」は長距離ツーリングに向くモデルなので、遠方まで楽に出かけられるだろう
今回試乗した場所にはオフロードコースもあったが、最大トルクを高めたドライブユニットのおかげもあり快適に走行できた。駆動力が食われるぬかるんだ路面でもスムーズに車体が加速する。しかも、ただパワフルになったのではなく、自然で上質なアシストになった印象。踏み込んだ瞬間にグイッと加速するフィーリングではなく、ペダルを回しているといつの間にかスピードが出ているような感覚だ。e-Bikeでは自然なアシストフィーリングが重視されているが、新型「WABASH RT」と「CROSSCORE RC」はさらに緻密に制御していると感じた。
スムーズで上質なアシストは舗装路でより感じられた
走行モードを自動で切り替える制御がよりスムーズになった「オートマチックアシストモード」も確かめてみた。前モデルでは走行中に走行モードが切り替わったことがわかったが、新モデルではディスプレイの表示を見ていないとまったくわからない。そして、周囲の歩行者にも聞こえるほどだったアシスト音が、とても静かになっていることに驚いた。メーカーに確認したところ、ドライブユニット全体を覆うカバーが静音化に効いているとのこと。
現状の走行モードはディスプレイで確認できる
最後に、ラインアップに加わった「CROSSCORE connected」を紹介しておこう。「CROSSCORE connected」は「YPJ」シリーズ初のコネクテッド機能を搭載したモデル。Bluetoothを介してスマートフォンと接続し、専用アプリ「YAMAHA e-Bike Link」でナビゲーション機能や走行ログ機能が使えるほか、メンテナンスに必要な情報やバッテリー残量などを確認できる。さらに、「長時間運転アラート」や「ライトの無灯火アラート」といった安全運転をサポートする機能も用意。なお、車体の基本機構やスペックは、ディスプレイが異なる以外は新型「CROSSCORE RC」と同じで、アシストフィーリングやペダルのこぎやすさも共通だ。
S/M/Lの3サイズを用意。全幅は3サイズとも590mmで、全長(S/M/L)は1,750/1,765/1,780mm。重量(S/M/L)は23.5/23.5/23.7kgだ。スペースグラファイトの1色展開で、メーカー希望小売価格は366,300円(税込)
ハンドル中央に大きなディスプレイを装備しているのが「CROSSCORE RC」との大きな違い
カラー表示なので視認性が高い