インターネットにつながるテレビやセルラー通信機能を搭載するコネクテッドカーで動画配信サービスが快適に楽しめる、新しいスマートOSの選択肢がまたひとつ増えました。
米Xperi傘下のグループ企業である米TiVo Platform Technologies(以下:TiVo ティーボ)がテレビメーカーにとって組み込みの自由度が高く、何よりユーザーが使いやすい動画視聴プラットフォームTiVo OSを発表しました。「CES 2024」でXperiが開催したプライベートショウを訪ねて、同じXperi傘下にあるDTSのブランドに関連するアップデートと一緒に取材しました。
Xperi傘下のブランド、TiVoがスマートOSを搭載するテレビ向けに開発したTiVo OSを発表しました
テレビのスマートOSといえば、日本ではグーグルのGoogle TV(旧Android TV)が最も有名かもしれません。AmazonもテレビやPCモニターのHDMIポートに接続して楽しむメディアストリーミングプレーヤー「Fire TV」シリーズを発売していますが、本機にはAmazon独自のFire TV OSが搭載されています。日本国内では船井電機が「Fire TV」をビルトインしたスマートテレビを発売しています。
スマートOSを搭載するテレビは、スマホやタブレットと同じ感覚で動画配信サービスのアプリを入れて、映画やアニメ、音楽ライブなどさまざまなコンテンツをインターネット経由で楽しめます。
TiVoが開発したテレビ向けのスマートOSのTiVo OSは、2023年後半にトルコのVESTEL(ヴェステル)のテレビに初めて採用されました。続いてシャープと中国のKONKA(コンカ)が欧州で販売するスマートテレビの新製品もTiVo OSの採用に名乗りを上げて、近く商品も発売されます。
左端がTiVo OS搭載のテレビ。他社のテレビ向けスマートOSと比べながら特徴が紹介されました
CESが開催されたアメリカでもこれからTiVoのスマートOS搭載テレビを発表するメーカーがあります。XperiはCESの期間中、同社のブースにパートナーになる可能性のあるさまざまなブランドを招いてTiVo OSの先進性を伝えました。
なお余談ですが、CES 2024に出展したパナソニックはグローバルモデルの次期プレミアム有機ELテレビ「Z95A」「Z93A」シリーズを発表しています。本機にはFire TV OSが内蔵されます。例年、CESの後にパナソニックは日本市場向けのビエラ新製品を発表しています。今回発表されたモデルに相当するラインアップが日本にも展開されるのかはまだ明らかにされていません。特にFire TV OS搭載の有無も含めて続報に要注目です。
パナソニックは、「CES 2024」にて「Fire TV」をビルトインしたグローバルモデルの4K有機ELテレビを発表しました
TiVoは元をたどればHDDビデオレコーダーのメーカー、ソリューションプロバイダーです。やがてアメリカでVODサービスが席巻し始めたころからこれを取り込み、TiVoのレコーダーに録画したビデオコンテンツとVODサービスの横断検索や、ユーザーの好みに合わせたレコメンデーションテクノロジーを独自に開発して事業を拡大しています。
2020年前後には「TiVo Stream 4K」という、「Fire TV Stick」と似たコンセプトのHDMIメディアストリーミングプレーヤーも発売しました。
録画やレコメンデーションの精度を独自に高めるため、TiVoは各サービスプロバイダーから詳細なコンテンツ情報を取得し、さらに10万を超えるエンターテインメント系サイトのコンテンツやブログの情報を収集しながら、分厚いメタデータを構築・提供してきました。
Xperiはテレビ向けTiVo OSの特徴の1つが「見たいコンテンツにすぐさまたどり着ける検索エンジンの完成度」であると説いています。
たとえば音声入力によりコンテンツを検索する場合に「トム・ハンクスの映画」>「アニメに関連するものだけ」という検索ワードを、続けてテレビに話しかけると「続きの質問」として認識。独自の構文解析処理を行いながら、複雑なキーワード入力を受け付けてユーザーが探しているコンテンツを正しく表示します。あるいは映画「ファインディング・ニモ」の、劇中に登場する名ゼリフとされる「just keep swimming」から映画コンテンツを探すこともできます。
音声検索から「トム・ハンクスが出演する映画」を検索
続けて「アニメーションだけ」と音声検索をかけると、トム・ハンクスが声優として出演する作品が並びました
TiVo OSによるユーザーへの「おすすめコンテンツ」の表示など、ユーザーインターフェイスの見やすさと使いやすさがXperiが掲げる2つめの特徴です。
ユーザーがサムネイルから見たいコンテンツを選択するとコンテンツのトップページが開き、その作品を配信する複数動画プラットフォームのアイコンが並びます。ユーザーがアイコンを選択すると、各アプリのプラットフォームには飛ばず、即座にコンテンツの再生が始まります。視聴が終了するとまたコンテンツ単位のトップページに戻る仕様です。Xperiの担当者はこれを「ユーザーにベストなコンテンツファーストの視聴体験を提供するユーザーインターフェイス」であると胸を張ります。
視聴したい映画を検索すると、配信しているプラットフォームが2件表れました。選択するとダイレクトに(配信プラットフォームに移動せず)コンテンツを再生できます
テレビ向けのスマートOSは「Powered by TiVo」のタグネームにより提供されます。テレビメーカーは自社のテレビにTiVo OSを使っていることをあえて前面に打ち出す必要がなく、ユーザーインターフェイスのデザインなどもある程度自由に作り込むことができます。
さらにプラットフォーム上で発生した広告収入など、レベニューをTiVoとシェアしながら手にすることができます。それ自体は他社のスマートOSによるプラットフォームも同様ですが、「TiVo OSはテレビメーカーへの分配比率について魅力的な提案ができる」のだとXperiの担当者が話しています。
日本では元からGoogle TVやFire TVのようなスマートOSの名前よりも、テレビメーカーの名前が注目される傾向にあります。ユーザーがテレビの購入を吟味する際にも、最大の関心事は「画質」であると言われています。実際に、家電量販店の店頭などではテレビの画質を比較しながら品定めをする人の姿を多く見かけます。もしも今後TiVo OSが日本に上陸した場合、サービス名を最前面に出さない「奥ゆかしさ」が吉と出るのでしょうか。
この点、「GoogleやAmazonよりも、動画配信の視聴に便利なTiVo OS」の特徴を前面に出すべきではないかと思いました。何より、動画検索が音声入力も含めて直感的にできるところがTiVoの推すべき魅力です。たとえば「堺雅人と阿部寛がモンゴルを舞台に活躍するアクションアドベンチャーを探して」といった具合に、自然な日本語の言い回しで意中のコンテンツを探せたら日本のユーザーにも歓迎されるはずです。
TiVo OSはコネクテッドカーにも広がります。Xperiが所有する自動車関連のエンターテインメントプラットフォーム「DTS AutoStage」に、TiVoによる動画コンテンツサービスを組み合わせた「DTS AutoStage Video Service Powered by TiVo」が本格的なスタートを切りました。
CESのメイン会場に出展したXperiのブース。BMW「iX」シリーズに搭載された車載向けTiVoのデモを体験しました
先に紹介したテレビ向けのTiVo OSと同様に、ビデオコンテンツの高い検索性とシンプルで使いやすいユーザーインターフェイスを、そのままセルラー通信機能を組み込むコネクテッドカー向けに最適化したサービスです。
XperiはBMWグループとの提携により、車載向けTiVo OSの提供をスタートしています。BMWの「iX」や「5」シリーズ、「7」シリーズなどBMWのコネクテッドサービスに対応する近年の車種に組み込むことができます。
XperiがCESのメインホール会場に出展したブースで車載向けTiVo OSを体験しました。自然な言い回しによる音声検索で意中の作品を探して、ハンズフリーですぐさま再生までできるユーザーインターフェイスが秀逸です。コンテンツのページから、配信するサービスプロバイダーを選択して視聴するユーザーインターフェイスの階層構造もテレビ向けのサービスと同様です。
テレビ向けのTiVo OSと同様のシンプルでわかりやすいユーザーインターフェイスを採用しています。
車載向けTiVo OSは、テレビよりも先にBMWのサービスとして近く日本上陸が実現します。昨年末にアメリカと欧州5か国(イギリス/ドイツ/フランス/イタリア/スペイン)で始まり、アジアでは韓国が11月にスタートしました。
日本で視聴できる動画サービスとしてNHKプラス、Hulu、日テレNEWS、WOWOWにTVerが揃う予定です。
デモンストレーションではCNNニュースを再生されていました
さまざまなVODコンテンツを選べます
Xperiが独自に行った市場調査によると、17歳から44歳の回答者の中で約3分の2が車載エンターテインメントに欲しい機能として「テレビ」「VOD」が視聴できることをあげたそうです。車載向けTiVo OSを採用する自動車メーカーがBMWの後にも続きそうです。
今年のCESでは、DTSの音声フォーマットに関連する発表もありました。動画配信サービスDisney+のIMAX Enhanced対応コンテンツの音声にDTS:Xのイマーシブサウンドが採用されます。
デモ会場の撮影が禁止されていたのでバナーだけ。Disney+で配信されるIMAX Enhanced対応コンテンツの音声がDTS:Xで楽しめるようになります
Disney+でのIMAX Enhanced対応コンテンツの配信は2021年秋から、マーベル映画12作品から配信が始まりました。当時からアスペクト比1.90対1のハイクオリティな映像を楽しめましたが、音声はIMAX Enhancedの標準仕様であるDTSオーディオの対応が追いつかず、Dolby Atmosが採用されていました。
今夏以降はIMAX Enhancedの認証を受けたテレビ、プロジェクターのほかにAVアンプやサウンドバーなどオーディオ機器を組み合わせるとDTS:Xによるイマーシブサウンドが楽しめるようになります。最初はマーベル19作品、ピクサー1作品に始まり、今後はDisney+のIMAX Enhanced対応コンテンツがDTS:Xをサポートします。
Xperiのプライベートショウで、IMAX Enhanced対応のシアター機器を組み合わせたシアター環境で「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を視聴しました。テレビの画面いっぱいに広がる映像と、DTS:Xらしいきめ細かくディティールに富んだ立体サウンドがとてもリアルな臨場感を体験させてくれます。
IMAX Enhanced対応の環境で、初めてDTS:X音声をサポートするコンテンツを再生しようとすると、テレビの画面に「DTS:Xをオンにするか?」という通知が表示されます。ここでオンを選べば、以降DTS:X音声の再生が自動的に優先されます。
IMAX Enhancedに対応する環境をお持ちの人には、Disney+の配信コンテンツがようやくベストコンディションで楽しめる夏が来ます。