リコーイメージングは2018年12月4日、報道関係者向けのイベント「GR NIGHT」において、2019年春の発売が予定されているコンパクトデジカメ「RICOH GR III」(以下、GR III)の先行展示を実施。国内では初となるGR IIIの試作機の展示ということで、多くの報道関係者が出席し、会場は大盛況となった。ここでは、注目を集めるGR IIIの主な進化点を紹介したうえで、試作機を触ってみてのインプレッションをお届けしよう。
編集部注:2019年2月22日に発売日が発表されました。発売は3月下旬です。リコーイメージングオンラインストア価格は121,500円(税込)。
2019年春の発売に向けて開発が進められているGR IIIの先行展示がリコーイメージングスクエア新宿にて行われた
GR IIIは、“最強のスナップシューター”として高い支持を集める小型・軽量なハイエンドコンデジ「GRシリーズ」の新モデル。2015年7月発売の従来モデル「GR II」から約4年ぶりに登場する新モデルということで、スナップ写真家から高い期待を集めるカメラとなっている。まずは、GR IIIの主な進化点をチェックしていこう。
GR IIIの主な進化点
・有効約2424万画素のCMOSセンサー(サイズ:23.5×15.6mm)
・4群6枚構成の新開発レンズ(最短撮影距離:標準約0.1m/マクロモード約0.06m)
・3軸補正のボディ内手ブレ補正「SR」
・モアレ低減機能「ローパスセレクター」
・超音波振動のダストリムーバル機能「DR II」
・像面位相差AF/コントラストAFのハイブリッドAF
・タッチパネル対応の3.0型液晶(約103.7万ドット)
GR IIIでは、撮像素子、画像処理エンジン、レンズといった画質にかかわるすべてのデバイスが一新された。撮像素子は、APS-Cサイズを継承しつつ、有効画素数が従来の約1620万画素から約2420万画素に向上(撮像素子のサイズは23.7×15.7mmから23.5×15.6mmに変更)。35mm判換算で焦点距離28mm相当の画角/開放F2.8というスペックを引き継ぐレンズも新開発で、5群7枚(非球面レンズ2枚)から4群6枚(非球面レンズ2枚)に構成を変更。従来よりも近接撮影に強くなり、最短撮影距離は、従来の標準時約0.3m/マクロモード時約0.1mから、標準時約0.1m/マクロモード時約0.06mにまで短くなった。
4群6枚(非球面レンズ2枚)構成の新開発レンズを採用。もちろん「GR LENS」の名称が付けられている
さらに、3軸補正対応のボディ内手ブレ補正「SR(Shake Reduction)」を新たに搭載したのも見逃せない(※補正効果のスペックは未確定)。SRユニットを用いたモアレ低減機能「ローパスセレクター」や、超音波振動のダストリムーバル機能「DR II」といった機能も備わっている。このあたりはペンタックスブランドの一眼レフで培ってきた独自技術をコンパクトボディに搭載した形だ。オートフォーカス(AF)は、従来のコントラストAFのみから像面位相差AF/コントラストAFのハイブリッド方式に進化。操作性では、液晶モニターがタッチパネルに対応したのが大きなトピックだ。
このほか、内蔵メモリーの容量が約54MBから約2GBに向上。動画撮影は60pのフルHD(1920×1080)記録に対応するようになった(従来は30p記録)。
今回の展示では、短い時間ではあるがGR IIIの試作機に触れることができた。その印象をレポートしよう。なお、今回展示されていた機材はあくまでも試作機であり、製品版では仕様が変更になる場合もあるので、その点はご了承いただきたい。
GR IIIを持ってみて最初に強い印象を持ったのは、従来よりもコンパクトになったこと。GR IIIのサイズは約109.4(幅)×61.9(高さ)×33.2(奥行)mm(操作部材、突起部を除く)で、重量は約257g(バッテリー、SDメモリーカード含む)。従来モデルGR IIと比べると重量はほぼ同じ(GR IIIのほうが6g重い)で、幅が7.6mm、高さが0.9mm、奥行が1.5mm小さくなっている。特に幅が8mm近く小さくなったことが大きく、片手でホールドした感じは、1/1.7〜1/1.8型の撮像素子を採用していた旧「GR DIGITAL」シリーズに近いフィーリングであった。内蔵フラッシュが非搭載になったとはいえ、APS-Cセンサーとボディ内手ブレ補正を搭載しながら、ここまでコンパクトにまとめたのはすごい。
GRらしいシンプルなデザインはそのままに、ボディは従来モデルよりもコンパクトになった。幅が8mm近く小さくなったことで、旧GR DIGITALシリーズに近いフィーリングでホールドできる
撮影モードダイヤル、シャッターボタン、電源ボタンなど上面の操作系は従来モデルと同様。従来とは異なり、内蔵フラッシュは非搭載となった
左側面に動画切り替え兼Wi-Fiボタンを、右側面に映像出力が可能なDisplayPort over USB-C仕様のUSB Type-C端子を装備。USB端子経由での充電ならびに給電に対応する(※給電しながらの充電は不可とのこと)
注目の手ブレ補正の効果も高く、2〜3m程度の被写体距離で試してみたが、両手でカメラをホールドすると1秒近いシャッタースピードでも高い確率で手ブレを抑えることができた。片手でラフにシャッターを切っても1/8秒程度のシャッタースピードであれば、手ブレをほぼ気にすることなく撮れる印象。担当者によると「PENTAXブランドの一眼レフほどの大きな補正ユニットではないため、そこまでの効果は得られない」とのことだったが、試作機の段階ながら十分な性能を実現しているようだ。
PENTAXブランドの一眼レフではおなじみのボディ内手ブレ補正SRを新たに搭載。セルフタイマー時に自動的にSRをオフにする機能も備わっている
感度設定では、オート感度の上限/下限のほか、シャッタースピードの低速限界も設定できる
GR IIIの撮像素子はローパスフィルターレス仕様。SRユニットを活用してモアレを低減するローパスセレクターの利用が可能で、「オフ」「弱」「強」の3つから効果を選択できる
フォーカスモードとして、オートエリアAF、セレクトAF、ピンポイントAF、追尾AF、コンティニュアスAF、MF、スナップ、無限遠を用意
従来と同様、シャッターボタンを一気押ししたときに設定したピント位置で撮影する「フルプレススナップ」を搭載。クロップ撮影は35mmと50mmを選択できる(※従来は35mmと47mm)
操作性では、左手親指での左右切り替え/押し込み操作が可能な伝統のADJ.レバーを継承しつつ、露出補正の上下ボタンやAFファンクションレバーを省略。露出補正はADJ.レバーで行う操作に変更になった。好みのわかれるところかもしれないが、スナップ撮影ではレスポンスよく、シンプルにシャッターを切れる操作性が求められる。このくらいシンプルな操作性のほうが考えることが少なくなり、スナップ撮影では使いやすいと言える。
タッチパネルの操作感も上々で、フォーカスポイントの選択や、メニューの操作などをタッチ操作で行えるのは便利。液晶モニターのサイズは3.0型(約103.7万ドット)で、PENTAXブランドの一眼レフでも採用されているエアギャップレス仕様(液晶パネルと保護カバーとの隙間に特殊樹脂を充填し、明るい屋外での視認性低下を抑える)となっている。±2ステップで明るさを簡単に変更できる「アウトドアモニター」にも対応している。
露出補正の上下ボタンやAFファンクションレバーがなくなり、背面の操作性はかなりシンプルになった。リコー伝統の操作性であるADJ.レバーは継承している
従来と同様、ADJ.レバーには5つの設定を割り当てておける
ファンクションボタンなど各ボタンのカスタマイズも可能。十字キーの優先動作として、測距点をダイレクトに移動できる設定が追加された
画質データの持ち帰りが不可な試作機だったので細かいところまでは確認できなかったが、会場に展示されていたGR IIIのプリント作品を見る限り、画質にもかなり期待できそうだと感じた。感度の上限値はまだ未確定となっているが、ISO3200でもノイズが少なく、大判印刷でも十分な解像度が得られる印象。担当者からは「PENTAX一眼レフのアクセラレーターユニットを搭載することで高感度画質も向上している」との説明を受けた。
仕上がり設定も見直され、従来のエフェクト機能は「イメージコントロール」になり、スタンダード、ビビッド、モノトーン、ソフトモノトーン、ハードモノトーン、ハイコントラスト白黒、ポジフィルム調、ブリーチバイパス、レトロ、HDR調、カスタム2種といったモードを選択できるようになった。クロスプロセスやミニチュアライズなどのエフェクトはなくなっているようだが、各モードの調整項目は細かく、彩度、色相、キー、コントラスト、コントラスト(明部)、コントラスト(暗部)、シャープネス、シェーディング、明瞭度、調色、フィルター効果、粒状感、HDR調効果といった項目が用意されている(※モードによって選択できる項目は異なる)。
イメージコントロールで注目したいのはモノトーン系のモードで、色調のほか、RGBのフィルター効果を細かく調整することが可能。さらに、モノトーン写真の表現で欠かせない粒状感が用意されているのも興味深いところ。試作機で試した限りでは、ハードモノトーンのみ粒状感がオンになっている状態で、その他のモノトーン系のイメージコントロールでは粒状感の項目が表示されるものの選択できない状態になっていた。製品版の仕様がどうなるかは未確定だが、モノトーン系のイメージコントロールでは粒状感の調整が可能になると見ていいだろう。なお、担当者によると、粒状感の処理がハードウェア的なものなのかソフトウェア的なものなのかは現時点では公表できないとのことだった。
モノトーン系のイメージコントロールでは、RGBのフィルター効果を調整することが可能
試作機ではすべてのモノトーン系のイメージコントロールで利用できるわけではなかったが粒状感の設定も用意されている
バッテリーは新規のものを採用。試作機では容量1350mAhの「DB-110」という名称のバッテリーが挿入されていた。従来の「DB-65」の利用は不可とのこと
GR IIIは、「画質や速写性、携帯性にすぐれたスナップシューティングに適した小型・軽量モデル」というGRシリーズの基本コンセプトはそのままに、全方位で大幅な進化を遂げたモデルとして来春に発売になる。試作機ではあったが、今回の先行展示では、その進化の一端を感じることができた。製品版は期待以上の仕上がりになりそうだ。
最近のカメラ市場ではフルサイズミラーレスが話題を集めていることもあって、「GRのフルサイズ化」を望んでいた方もいたかと思うが、GR IIIは、従来モデルと同様にAPS-Cサイズの撮像素子を採用した。幅広いシーンで高画質撮影を行うカメラであれば確かにフルサイズは魅力的だが、GRがスナップ撮影に特化したモデルであることを考慮すると、必ずしもフルサイズである必要はなく、APS-Cセンサーの継続は英断だ。APS-Cであれば十分に高画質が得られるし、何よりボディをコンパクトにできる。事実、GR IIIはボディ内手ブレ補正を新たに搭載しながらも、従来よりコンパクトなボディを実現した。安易に時流に流されず、コンセプトをぶらさずに“新しいGR”の製品化を決定したリコーイメージングの姿勢は本当にすばらしいと思う。
なお、担当者に確認したところGR IIIの市場想定価格は「10万円を少し上回る価格で、15万円まではいかない予定」とのこと。従来モデルGR IIの市場想定価格は10万円程度だったので、ボディ内手ブレ補正などのスペックアップを考慮すると妥当なプライスではないだろうか。
会場にはGR IIIで撮影した写真作品が大判印刷で展示されていた(左)。フィルム時代からの歴代のGRも並んでいた(右)
リコーイメージングスクエア新宿では2018年12月5日(水)〜12月17日(月)、リコーイメージングスクエア大阪では2019年1月30 日(水)〜2月11日(月)の期間、27名の写真家がGRシリーズで撮影した作品をTシャツにプリントして展示するというユニークな写真展を開催。展示したTシャツは各会場にてプリント・販売も行うとのことだ
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。