ソニーは2019年1月16日、APS-Cミラーレスカメラの新モデル「α6400」を発表した。APS-Cミラーレスの最上位「α6500」の下位に位置するエントリー向けだが、AF関連でこれまでにはない新機能を搭載するなど見どころの多いモデルだ。あわせて、「α9」など既存のフルサイズミラーレスの大幅なファームウェアアップデートの実施も発表された。詳細をレポートしよう。
「αシリーズ」の中ではエントリー向けに位置づけられるα6400
α6400は、従来のエントリー向けのα6300をベースに機能強化を図ったモデルだ。主なスペックは以下の通り。
撮像素子:有効約2420万画素Exmor CMOSセンサー(APS-C)
画像処理エンジン:「α9」と同世代の「BIONZ X」とフロントサイドLSI
感度:ISO100〜32000(拡張でISO102400)
AF:世界最速0.02秒、「リアルタイム瞳AF」「リアルタイムトラッキング」対応
連写:AF/AE追従約11コマ/秒(アフタビュー)、約8コマ/秒(ライブビュー)
連写持続性:JPEG(エクストラファイン)で最大99コマ、RAWで最大46コマ
EVF:XGA OLED Tru-Finder(0.39型、約236万ドット、倍率1.07倍)
液晶モニター:セルフィー対応の180°チルト式(3.0型ワイド、92.1万ドット)
動画:全画素読み出しでの4K/30p動画記録(100Mbps)、4K HDR対応
撮影可能枚数:約410コマ(EVF撮影時)、対応バッテリーNP-FW50
サイズ:約120.0(幅)x 66.9(高さ)x 59.7(奥行)mm
重量:約403g(バッテリーとメモリーカード含む)
その他:インターバル撮影機能
上位モデル「α6500」とは異なり、ボディ内5軸手ブレ補正は非搭載なものの、上位モデルにはない新機能をいち早く搭載するなど充実した内容になっている。
最高感度の向上やインターバル撮影への対応など画質・機能の強化も見逃せないが、特に注目なのはAFの進化だ。425点の像面位相差AFセンサーと、169点から425点に強化されたコントラストAFを組み合わせたファストハイブリッドAFを採用し、「α9」や「α7R III」と同じ世代の「BIONZ X」と動体予測アルゴリズムを搭載することで0.02秒の世界最速AFを実現。スペック上はα6500の0.05秒を上回るスピードとなっている。
「瞳AF」も「リアルタイム瞳AF」に進化しており、これまでのように機能を割り当てたボタンを押しての動作ではなく、シャッターボタンの半押しと連動してリアルタイムに瞳を追従するようになった。ピントを合わせる位置をオート/左目/右目から選択できるうえ、カスタムキーの設定によって撮影中にボタン操作で右目と左目を切り替えることも可能。2019年夏に予定しているソフトウェアアップデートにより、一部の動物の瞳AFにも対応する予定だ。
さらに、AFの新機能として「リアルタイムトラッキング」を搭載。α9に搭載されたAIによる被写体認識アルゴリズムを最適化することで、被写体との距離・模様・輝度などの空間情報を高速に検出し、従来以上に高精度な追尾を可能にする機能だ。近づいてくる人物を追尾する場合を例にすると、被写体が遠くにいるときに全身をロックオンし、近づいてくると顔認識やリアルタイム瞳AFを使って顔や瞳にピントをシームレスに切り替える、といったように状況に応じて被写体を捉え続けてくれるのがポイントだ。さらに、モニターをタッチして被写体をロックオンして追従する「タッチトラッキング」にも対応。カスタムキーの設定でトラッキングのオン・オフを切り替えることも可能だ。
発表会では短い時間ではあるが実際にリアルタイムトラッキングを試すことができたが、従来のロックオンAFを強化したような機能だと感じた。被写体の追従性能が明らかに向上しているので素早く動く被写体を撮るのに使いやすいというだけでなく、人物を追従する場合は被写体との距離によってシームレスに顔認識・瞳AFが働くので、運動会での子どもの撮影など不規則に動く人物を撮影する場合にも威力を発揮しそうだ。
瞳AFはさらに高精度なリアルタイム瞳AFに進化。シャッターボタンの半押しで動作するようになった。さらに、ロックオンAFを一新したリアルタイムトラッキングも新機能として追加された
リアルタイムトラッキングは、フォーカスエリアのメニューで「トラッキング」を選択することで利用できる。エリアはワイド、ゾーン、中央、フレキシブルスポット、拡張フレキシブルスポットを選べる
タッチトラッキングはタッチ操作の機能として用意されている
インターバル撮影機能が追加されたのも見逃せないトピック。モニターはセルフィー対応の180°チルト式で、下方向にも74°可動する
α9、α7R III、α7 III、α6400のファームウェアアップデートの予定。瞳AFは動物に対応するようになる
α6400とあわせて、既存のフルサイズミラーレスであるα9やα7R III、α7 IIIに関するファームウェアアップデートも発表された。特にα9は、2019年3月のver.5.0、夏頃のver.6.0と2回に分けて大幅なアップデートを実施する。主なアップデート内容は以下の通り。
α9 ver.5.0(2019年3月)
・リアルタイム瞳AFに対応
・リアルタイムトラッキングの追加
・像面位相差AFがF11からF16に拡張
・動画撮影時のAFの性能向上
・タッチパッド機能の追加
・階調表現の向上、オートWBの安定性向上
・マイダイヤル機能など操作性の向上
α9 ver.6.0(2019年夏)
・動物瞳AFの搭載
・インターバル撮影機能の追加
α7R III/α7 III ver.3.0(2019年4月)
・リアルタイム瞳AFに対応
・動物瞳AFの搭載
・インターバル撮影機能の追加
撮影・作品制作のソフトウェア「Imaging Edge」も強化される。スマートフォン用のアプリとして、「PlayMemories Mobile」の代わりとなる「Imaging Edge Mobile」を用意。4K動画の転送やリモートコントロールなどに対応する。また、スポーツや報道などのプロが撮影画像を即時に納品できる「Transfer & Tagging add-on」も追加になる
パソコン用ソフト「Remote」「Viewer」「Edit」もアップデート。インターバル撮影した画像からタイムラプス動画を作成するなどの機能が追加される
噂されていたAPS-Cミラーレスの新しいフラッグシップではなかったものの、α6400はエントリー向けとしてはとても充実したスペックを持つモデルだ。α9と同じ世代のBIONZ Xを搭載し、AF関連ではリアルタイム瞳AFやリアルタイムトラッキングといった新機能を実現。こういった新機能は上位モデルに搭載してから下位に落としていくのが一般的だが、ソニーは下位のα6400にいち早く搭載してきた。出し惜しみ感の少ないエントリー向けモデルと言えるだろう。モニター反転時にEVFのアイカップ部が干渉するのが少し気になったものの、セルフィー対応で4K動画も撮れるのでVlog向けとしても注目されるミラーレスになるのではないだろうか。
価格はボディ単体が11万前後、レンズキットはキット内容によって12〜15万円前後。発売にあわせて1.5万〜2万円のキャッシュバックキャンペーンが実施されるので、2月22日の発売当初からお買い得に手に入れることができる。
また、α6400とあわせて、α9の大幅なファームウェアアップデートが発表されたのは既存ユーザーにとってはうれしいニュースだ。2020年の東京オリンピックを前にα9の後継機が登場すると予想されるが、その前にここまで大きなアップデートを行うのは驚きだ。少なくともα9の後継機はこのアップデートの内容を超えるスペックのモデルになるのは間違いなく、どこまで性能が向上するのかにも注目が集まる。ソニーは昨年に引き続き2019年も積極的にミラーレス製品を展開していくことは間違いなく、今後の動きから目が離せない。
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣を持つ。フォトグラファーとしても活動中。