ニコンは2022年1〜2月に、ミラーレスカメラ「Zシリーズ」用の交換レンズ「NIKKOR Zレンズ」の新モデルを計3本リリースする。今回は、その中でも特に注目度の高い「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」を取り上げる。「NIKKOR Zレンズ」としては初となる超望遠ズームレンズで、「Zシリーズ」のユーザーにとって待望の1本だ。実機をいち早く試すことができたので、実写作例を交えながら特徴を紹介しよう。
2022年2月4日発売の超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」(カメラボディは「Z 7II」)
「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」の主な特徴
・100〜400mmの焦点距離をカバーする、Zマウント用の超望遠ズームレンズ
・「NIKKOR Zレンズ」の中でも特に高性能な「S-Line」に属するレンズ
・テレコンバーター「TC-1.4x」装着時は560mm、「TC-2.0x」装着時は800mmまで拡大可能
・開放絞り値:広角端F4.5、望遠端F5.6
・20群25枚のレンズ構成(EDレンズ6枚、スーパーEDレンズ2枚)
・最短撮影距離(最大撮影倍率):広角端0.75m(0.16倍)、望遠端0.98m(0.38倍)
・すぐれた逆光耐性(アルネオコート/ナノクリスタルコート)
・絞り羽根枚数:9枚(円形絞り)
・フォーカシングによる全長変化のないIF(インターナルフォーカス)方式
・STMを用いた「マルチフォーカス方式」のAF機構
・フォーカスブリージングの抑制や安定した絞り制御など動画撮影に配慮した設計
・補正効果5.5段の手ブレ補正(VR)機構
・ズーミングによる重心移動を抑える「重心移動レス機構」
・クラス最小のズームリング回転角(80度)
・すぐれた防塵・防滴性能、レンズ最前面にフッ素コート
・フィルター径:77mm
・サイズ:約98(最大径)×222(全長)mm
・重量:約1435g(三脚座を含む)、約1355g(三脚座なし)
・価格.com最安価格314,820円(税込、2021年2月4日時点)
超望遠ズームレンズは、中望遠100mm前後から超望遠400mm程度までの幅広い焦点距離をカバーし、遠くの被写体を大きく写したい場合に活躍するレンズである。ただし、超望遠域までカバーしながら画質を維持する必要があるため、レンズ枚数が多く、どうしても大きく重くなりがちなのがネック。ほとんどのレンズが繰り出し式で、ズーミング時に重心がフロント側に移動したり、ズームリングの回転角が大きかったりと使い勝手が気になるものもある。
ニコンの「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」は、そうした超望遠ズームレンズのネガティブな点を改善し、より使いやすくなった最新モデル。高性能な「S-Line」に属するレンズで、光学性能、機能性、操作性のすべてがハイレベルな内容になっている。
サイズは約98mm(最大径)×222mm(レンズマウント基準面からレンズ先端まで)で、重量は約1435g(三脚座を含む)、約1355g(三脚座なし)。焦点距離400mm対応の超望遠ズームレンズとしてはクラス最軽量だ。鏡筒中央に絞り値や焦点距離、被写界深度を確認できるレンズ情報パネルを搭載している
レンズ構成は、EDレンズ6枚、スーパーEDレンズ2枚を含む20群25枚。無限遠から至近までの軸上色収差を大幅に低減しており、絞り開放から画面全域でクリアな画質が得られるという。近接撮影に強いのも特徴で、超望遠ズームレンズながら最短撮影距離は広角端で0.75m、望遠端で0.98mと、ズーム全域で1m未満を実現。最大撮影倍率(望遠端)は0.38倍に達している。
AF駆動モーターにはSTM(ステッピングモーター)を採用し、AFの静音化とフォーカスブリージングの抑制を実現。駆動方式は、開放F2.8通しの望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」なども採用している「マルチフォーカス方式」。複数のAF用駆動ユニットを高精度に制御することで、すぐれたAFパフォーマンスと、特に近接での画質向上を実現している。
望遠端時は全長が5cmほど伸びる。ファンクションボタンはL-Fn1/L-Fn2の2種類。鏡筒左手側にはフォーカスモード切り替えスイッチとフォーカス制限切り替えスイッチも備わっている
L-Fn2ボタンは90度ごとに計4つ配置されている。三脚座リングは位置指標付きで360度回転が可能
操作性では、ズーミング時にレンズの重心移動をほぼ一定に保つ、ニコン初の「重心移動レス機構」を搭載したのが注目点。前方レンズ群の動きにあわせて後方レンズ群を逆方向に動かすことで、レンズ全体の重心移動を最小限に抑制するというものだ。ズーミング時の重心移動が少ないため、ジンバル雲台でも扱いやすくなっている。さらに、本機構には自重によるレンズの伸縮を防ぐ働きがあり、ロック機構やトルク調整を必要とせずに、予期せぬ伸縮を防止してくれるのもポイントだ。
また、本レンズは超望遠ズームレンズながらズームリングの回転角が80度と小さいのも特徴。リングを持ち直さなくても1回の操作で広角端⇔望遠端のズーム操作ができるように工夫されている。
三脚座は「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」と同じもので取り外しが可能
付属のレンズフード「HB-103」を装着したイメージ
以下に掲載する作例は、「Z 7II」、ならびに「Z 9」(ベータ機)に「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」を組み合わせてJPEG形式の最高画質で撮影したもの(JPEG撮って出し)になる。最後の3枚の作例(野鳥作例)は2倍のテレコンバーター「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を使用した。また、すべての作例で、ヴィネットコントロール:標準、自動ゆがみ補正:する、回折補正:する、高感度ノイズ低減:標準、の設定にしている。
※サムネイル画像をクリックすると、撮影写真を長辺900ピクセルに縮小した画像が開きます。リサイズを行っていない撮影写真は、サムネイル画像下のテキストリンクをクリックすると開きます。なお、撮影写真は開くのに時間がかかる場合があります。
Z 7 II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、140mm、F8、1/1600秒、ISO64、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(8256×5504、15.2MB)
Z 7 II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、400mm、F5.6、1/250秒、ISO64、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:オート、JPEG
撮影写真(8256×5504、21.6MB)
Z 7 II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、145mm、F11、1/250秒、ISO64、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(5504×8256、23.3MB)
sample4(キャプション)Z 7 II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、400mm、F5.6、1/400秒、ISO160、WB:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(5504×8256、21.4MB)
Z 7 II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、290mm、F5.3、1/400秒、ISO320、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:弱め、JPEG
撮影写真(8256×5504、17.8MB)
Z 7 II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、200mm、F5、1/125秒、ISO200、WB:色温度設定(5500K、M2.50)、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(8256×5504、15.5MB)
Z 7 II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、100mm、F6.3、1/6秒、ISO200、WB:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:標準、JPEG
撮影写真(8256×5504、19.8MB)
Z 7 II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、400mm、F5.6、1/5秒、ISO400、WB:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(8256×5504、20.8MB)
Z 9、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、400mm、F8、1/1000秒、ISO220、WB:オート1、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:オート、JPEG
撮影写真(8256×5504、18.6MB)
Z 9、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、290mm、F5.3、1/2500秒、ISO1400、WB:オート1、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:オート、JPEG
撮影写真(5504×8256、13.9MB)
Z 7 II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S+TC-2.0x、800mm、F11、1/1000秒、ISO560、WB:オート1、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(8256×5504、23.4MB)
Z 7 II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S+TC-2.0x、800mm、F11、1/6400秒、ISO10000、WB:オート1、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:強め、JPEG
撮影写真(8256×5504、19.7MB)
Z 7 II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S+TC-2.0x、800mm、F11、1/800秒、ISO16000、WB:オート1、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:弱め、JPEG
撮影写真(8256×5504、27.4MB)
「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」を使ってみて、画質面で最も印象に残ったのが解像力の高さだ。色収差が徹底的に抑えられており、絞り開放からズーム全域で高い解像性能を発揮するうえ、像面歪曲やコマ収差などもほとんど見られず、画像の中央だけでなく周辺でもシャープさを保ってくれる。主要被写体を周辺部に配置するような構図でも高画質に撮ることができるレンズと言えよう。2倍のテレコンバーター「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を組み合わせた場合でも精細感は非常に高い。
加えて、絞り開放からクリアで抜けのよい描写も印象的だ。逆光耐性にもすぐれており、太陽を画面に入れた場合などはさすがにフレア・ゴーストが発生することもあるが、画面内もしくは画面周辺に強い光源があったとしてもコントラストをキープし、クリアな写真に仕上げてくれる。
さすがに、最短撮影距離付近での絞り開放だとややソフトな写りになるのと、望遠側の開放付近での周辺光量落ちがやや目立つところはあるものの、画質については超望遠ズームレンズとして気になる点はほとんど見当たらない。「NIKKOR Zレンズ」らしく、すぐれた光学性能による高画質な撮影を満喫できるレンズだ。
また、手ブレ補正の性能も高く、「Z 7II」との組み合わせで遠景を撮った限りでは100mmでは1/10秒程度、400mmでは1/20秒程度のシャッタースピードを確保できれば高い確率で手ブレのない写真を撮ることができた。
使い勝手では、「重心移動レス機構」によって、超望遠ズームレンズ使用時に感じるストレスが大幅に軽減されている。ロック機構非搭載ながら、肩や首から提げて持ち運んでもレンズは伸びないし、望遠側にして上向きに撮影を続けてもレンズは縮まない。ズームリングの回転角が小さいので、広角側もしくは望遠側に一気に移動できるのも使いやすい点である。
AFについては、初動の食い付きがやや弱い印象はあるものの、超望遠ズームレンズとしては十分なAF速度を実現している。2倍のテレコンバーター「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を装着してもAF速度がそれほど落ちないのも高ポイントだ。また、今回はカメラボディに「Z 7II」と「Z 9」を使用しているが、やはり「Z 9」のほうが全体的にAFのレスポンスにすぐれていて快適だったことも報告しておきたい。比べると、「Z 7II」との組み合わせは食い付き、追従性ともにややもの足りない。現在のニコンのラインアップで本レンズのAFが本領を発揮するのは、やはり「Z 9」になるのであろう。
なお、使用するうえで問題になることではないが、本レンズ装着時は、カスタムメニューのシャッター方式を手動でメカニカルシャッターに設定することはできない。オートもしくは電子先幕シャッターの選択が可能となっている。
「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」と、「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」+2倍のテレコンバーター「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を使って、焦点距離400mm/絞り値F5.6で撮り比べた結果を参考までに掲載しよう。組み合わせたカメラボディは「Z 7II」で、絞り値だけでなく、シャッタースピードやホワイトバランスなどの設定も共通とした。
白枠(1〜3)が以下に掲載する切り出し部。ピントは切り出し1の部分に合わせた。撮影設定は焦点距離400mm、F5.6、ISO64、1/200秒、WB:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、ヴィネットコントロール:標準、自動ゆがみ補正:する、回折補正:する
切り出し画像1
切り出し画像2
切り出し画像3
「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」の撮影写真(26.6MB)
「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」+「TC-2.0x」の撮影写真(22.3MB)
白枠(1〜3)が以下に掲載する切り出し部。ピントは切り出し1の部分に合わせた。撮影設定は焦点距離400mm、F5.6、ISO100、1/400秒、WB:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、ヴィネットコントロール:標準、自動ゆがみ補正:する、回折補正:する
切り出し画像1
切り出し画像2
切り出し画像3
「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」の撮影写真(31.7MB)
「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」+「TC-2.0x」の撮影写真(30.6MB)
比較1、比較2ともに、切り出し画像を見ると「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」のほうがシャープで、ディテールの再現性が高いことがわかる。比べると「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」+「TC-2.0x」は、画像の中央部ではそれなりにシャープだが、さすがに画像の隅になると流れるような描写になっている。
「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」は、「NIKKOR Zレンズ」初の超望遠ズームレンズでその分期待値も高いが、その期待に応える高性能を実現している。画質はズーム全域で絞り開放から高解像でクリア。周辺まで破綻がないのは、レンズ設計の自由度が向上した「Zマウントシステム」だからこそだ。2倍のテレコンバーター「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を使用した際の画質にも目も見張るものがあるので、特に野鳥や動物の撮影用に本レンズを活用するなら「TC-2.0x」もあわせて手に入れたいところである。
さらに、「重心移動レス機構」の採用によって取り回しがよくなったのも見逃せない。近接撮影に強いのも特徴で、これといった穴の見当たらない優秀な超望遠ズームレンズに仕上がっている。野鳥や動物、飛行機、スポーツ、風景といった幅広いシーン・被写体で多くのユーザーに愛用される1本になりそうだ。
本レンズの2022年2月4日時点での価格.com最安価格は314,820円(税込)。決して安価ではないが、画質と使い勝手のよさを考慮すると、この価格の価値は十分にある。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。