カメラやレンズの基本的なことから最新のトピックまで、知っているとちょっとタメになるような情報を、できるかぎりわかりやすくお伝えしたい! という想いで始まった連載「曽根原ラボ」。第4回で取り上げるテーマは「デジタルカメラとスマートフォンは何が違う?」です。
ソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7 IV」とスマートフォンを使って、デジタルカメラとスマートフォンの違いについて考えてみます
今回のテーマでの「デジタルカメラ」は「レンズ交換式のデジタル一眼カメラ」を、「スマートフォン」は「内蔵のアウトカメラ」を指します。両者の違いは、写真を撮る仕事をしていて本当によく聞かれる質問のひとつでもあります。
スマートフォンが普及し始めたころは、上記の質問に対して「画質が段違いに違う」と答えればよかったので悩むこともありませんでしたが、実のところ、ここ数年は事情が大きく変わってきており、両者で画質の優劣を付けるのが難しくなっています。
そこで、今回は、画質比較を通じて、デジタルカメラとスマートフォンの違いを掘り下げてみたいと思います。
デジタルカメラとスマートフォンの違いを知るのに手っ取り早い方法は、やはり実際に撮った写真を比べてみることだと思います。
まずは、今回の画質比較で使用したデジタル一眼カメラ1機種とスマートフォン2機種の特徴を紹介します。
デジタルカメラの代表として、筆者が普段使用しているソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7 IV」を選択しました。本機が搭載する撮像素子の大きさはフルサイズ(約35.9×23.9 mm)で、スマートフォンと比べてサイズが圧倒的に大きいです。
画素数も有効約3300万画素で、今回使用したスマートフォンよりも高画素。当然画質も有利なはずですが、はたしてどうでしょう?
ソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7 IV」。フルサイズセンサー搭載の現行機種です
少し古いスマートフォンとして、ソニーの「Xperia 5」を選択しました。2019年10月の発売と、現行機種より数世代前のやや古いモデルですが、単純に画質を比べるという意味では問題ないと思います。
内蔵のアウトカメラは3種類で、メインとなる焦点距離24mm相当(35mm判換算)の広角カメラは1/1.7型(約7.6×5.7mm、面積:フルサイズの約5%)の撮像素子を採用しています。ちなみに、筆者が2021年まで使っていた私物です。
ソニーのスマートフォン「Xperia 5」。発売は2019年10月でやや古いモデルです
3つのカメラを搭載していますが、今回は中央の24mm相当(35mm判換算)の広角カメラ(1/1.7型センサー)を使いました。私物ですので相応の傷や汚れがあります
もうひとつのスマートフォンは、同じくソニーの「Xperia PRO-I」です。こちらは2021年12月の発売の現行機種。「Xperia 5」と同様に3種類のアウトカメラを搭載していますが、そのうちメインの24mm相当(35mm判換算)の広角カメラは、スマートフォンとしては破格に大きな1.0型(約13.2×8.8mm、面積:フルサイズの約13%)の撮像素子を採用しています。
ただし、写真の記録で使うのは撮像素子の1部分で、実際には1/1.3型程度(約9.7×7.3mm、面積:フルサイズの約8%)です。それでもスマートフォンとしては大きな撮像素子なのには違いありません。これも現在使用中の筆者の私物です。
ソニーのスマートフォン「Xperia PRO-I」。2021年12月発売の現行機種です
3つのアウトカメラを搭載していますが、「Xperia 5」と同じく中央の24mm相当(35mm判換算)の広角カメラ(1.0型センサー、実際の記録サイズは1/1.3型相当)を使いました。使用中の私物ですので盛大に傷や汚れがあります
それでは、3機種で撮影した写真を見ていきましょう。撮像素子の小さい順に掲載していきます。
川辺に群生するオランダガラシ(クレソン)を、「Xperia 5」と「Xperia PRO-I」では24mm相当の広角カメラで撮影。「α7 IV」では標準ズームレンズの焦点距離を24mmにして撮影しました。
Xperia 5、ISO64、F1.6、1/320秒
撮影写真(4032×3024、7.1MB)
画面周辺の花や葉まで、ピントの合った写真に仕上がっています。きれいに咲き揃った一面の花を写し撮りたいという希望を、何の苦労もなく叶えてくれています。
「Xperia 5」は露出やホワイトバランスを任意で調整する機能はありませんが、シャッターを押すだけでここまできれいに撮れるのであれば、申し分ありません。
Xperia PRO-I、ISO100、F2、1/200秒
撮影写真(4032×3024、5.5MB)
「Xperia 5」と比べると、センサーサイズが大きい分、写真の上部(奥のほう)がボケています。花や葉の輪郭は「Xperia 5」ほど強調した感じはなく、いくらか自然な印象に見えます。
「Xperia PRO-I」では、「Xperia 5」と違ってある程度カメラ設定を調整できますが、今回はあえてすべてオートで撮影しました。
α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、24mm、ISO100、F4、1/50秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、26.8MB)
3機種の撮像素子のサイズは、「Xperia 5」<「Xperia PRO-I」<<「α7 IV」です。当然、撮像素子のサイズが大きいほうが画質的に有利なはずですが、意外にもパッと見では、最も小さい「Xperia 5」の写真がシャープできれいに見えるのは興味深いですね。
撮像素子が小さいほうが相対的に被写界深度は深くなるため、いわゆるパンフォーカスとなって画面全体のシャープさが増すのはわかりますが、どうもそれだけが理由ではなさそうです。
次は強い光源である太陽を画面内に入れた、逆光状態での階調再現性を見ていきます。
極端に強いハイライトと、それに続く周辺部分の連続性を描くためには、豊富な情報量が必要になるため、撮像素子のサイズが大きいほど有利なはずです。
先の作例と同じく、「Xperia 5」と「Xperia PRO-I」では24mm相当の広角カメラで撮影。「α7 IV」ではズームレンズの焦点距離を24mmに設定して撮影しました。
Xperia 5、ISO64、F1.6、1/8000秒
撮影写真(4032×3024、4.1MB)
太陽の部分は穴が開いたように白飛びしていますが、これはダイナミックレンジがあまり広くないためでしょう。青空の部分にはトーンジャンプが発生しており、階調のつながりがやや不自然です。
Xperia PRO-I、ISO100、F2、1/12,000秒
撮影写真(4032×3024、3.3MB)
「Xperia 5」よりも大きな撮像素子を採用しているだけあって、「Xperia 5」と比べて階調のつながりはかなりよくなっています。とはいえ、穴が開いたような太陽の白飛びの印象はまだ拭えていませんし、青空のトーンジャンプも若干ではありますが発生しています。
α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、24mm、ISO100、F5.6、1/1,250秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、22.1MB)
「Xperia 5」「Xperia PRO-I」に比べて階調性が圧倒的に高く、極端な白飛びを起こすことなく、太陽から青空まで非常に素直で自然なグラデーションが再現されています。こうした厳しい撮影条件でも違和感のない自然な写真が撮れるのは、さすがフルサイズ機と言えるでしょう。
極端な逆光条件では、「Xperia 5」<「Xperia PRO-I」<<「α7 IV」という、撮像素子のサイズによるポテンシャルの違いが端的に表れました。この階調性とダイナミックレンジの違いは、撮影後のレタッチの耐性にも大きく影響を及ぼします。
ただし、スマートフォンのカメラは、1/1.7型や1/1.3型といったフルサイズに比べて非常に小型な撮像素子であることを考慮すれば、驚くほど高度な画作りをしていると思います。
ここまで見てきたように、逆光のような極端な条件では、撮像素子が大きいほど画質、特に階調性やダイナミックレンジが有利なことがわかりました。
階調性が高くダイナミックレンジが広いということは、高感度性能やレタッチ耐性が高いことも意味するので、本格的な写真撮影を望む場合、やはりデジタルカメラを使ったほうがよいと言えます。
「α7 IV」で撮影した夜景。ISO6400のような高感度でも十分に実用的な写真が撮れるのは、ダイナミックレンジの広いデジタルカメラのすぐれたところです
α7 IV、FE 24-105mm F4 G OSS、24mm、ISO6400、F8、0.4秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、20.5MB)
しかしながら、普段何気なく撮った写真では、撮像素子の小さなスマートフォンのほうがむしろ精細できれいに感じることがあるのも確かです。その理由のひとつとして、スマートフォンが搭載するCPU(この場合、デジタルカメラの画像処理エンジンと同義と考えて問題ありません)がすぐれていることがあげられます。
撮像素子の小さなスマートフォンできれいな写真が撮れるのは、CPU(画像処理エンジン)がすぐれているから
Xperia 5、ISO64、F1.6、1/160秒
撮影写真(4032×3024、3.5MB)
デジタルカメラの高度な画作りに、画像処理エンジンは非常に重要な役割を果たします。外見上見えないため実感しにくいところですが、撮像素子のサイズや性能と同じくらい重要だと考えて差し支えありません。
デジタルカメラの画像処理エンジンとスマートフォンのCPU、どちらが高性能かをここで比較することはできませんが、スマートフォンのCPU性能が非常に高く、それがスマートフォンで撮った画像の「すぐれた高画質」の重要な要因であることは間違いありません。
「Xperia PRO-I」のCPUは「Qualcomm Snapdragon 888 5G Mobile Platform」。ハイスペックなスマートフォンには、デジタルカメラの画像処理エンジンに匹敵、あるいはそれ以上の性能のCPUが搭載されています
Xperia PRO-I、ISO400、F2、1/8000秒
撮影写真(3024×4032、3.4MB)
「デジタルカメラとスマートフォンは何が違う?」の問いに対しては「用途が違う」というのが今のところ正解に近いのではないかと思います。
ひと昔前なら、スマートフォンに比べてデジタルカメラのほうが高画質でしたが、カメラの楽しみ方が多様化した現在では、一概にどちらが高画質であるかは使用目的と撮影者によって判断が異なるのではないでしょうか。
スマートフォンが、デジタルカメラ愛好家にとっても驚くほど高画質化したのは、搭載するCPUが高性能だからです。小さな撮像素子とレンズで、普通に見ればまったく問題ないほどきれいな写真が撮れるのは驚異的と言えるのではないでしょうか。日常の写真なら本当にスマートフォンで問題なく撮れますし、筆者も何も考えずそのようにしています。
対して、デジタルカメラのすぐれているところは、基本的なポテンシャルの高さ。撮像素子が大きいので、撮って出しの画質にすぐれるのはもちろん、高感度特性が高く、撮影後のレタッチに対しても、スマートフォンとは比べ物にならないくらい高い耐性があります。
さらに、細かな目的に合わせてレンズを交換できたり、三脚にカメラを固定しやすかったりといった、本格的な撮影に対する汎用性の高さも大きなメリットです。
本記事でも見てきたように、スマートフォンのカメラ機能は飛躍的に進化しており、日常の撮影はスマートフォンで行ったほうが便利と言えます。そのいっぽうで、本格的な撮影をしたいのならやっぱりデジタルカメラは必須の機材で、使っていると高い買い物をしただけの価値を感じられるはずです。
両者のメリットを生かし、うまく使い分けることで、より充実したフォトライフが楽しめるのではないでしょうか。
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。写真展に「エイレホンメ 白夜に直ぐ」(リコーイメージングスクエア新宿)、「冬に紡ぎき −On the Baltic Small Island−」(ソニーイメージングギャラリー銀座)、「バルトの小島とコーカサスの南」(MONO GRAPHY Camera & Art)など。