タムロンは2023年8月5日、夏休みの特別イベント「鉄道博物館ナイトミュージアム撮影会&鉄道撮影マナー講座」を開催した。本イベントにて開催された「鉄道撮影マナー講座」の様子をレポートしよう。
本イベントは、JR東日本大宮支社の協力を得て、閉館後の鉄道博物館(埼玉県さいたま市)を借り切って開催。約300人の鉄道ファンが参加した。「鉄道撮影マナー講座」の受講時間以外は、36両の実物車両が展示されている車両ステーション内を自由に撮影できるということで、参加者は思い思いに撮影を楽しんでいた
昨今、“撮り鉄”と呼ばれる、鉄道写真を撮影する人たちのマナーの悪さが社会問題化している。
一部の撮影者や状況を切り抜いたものではあるものの、マナー違反の証拠映像がメディアやSNSで取り上げられることが増えており、「撮り鉄=マナーが悪い」と認識している人も少なくないことだろう。最近では、2023年6月に、一部の人の行きすぎた行為によって寝台特急カシオペアが緊急停止した様子を記録した動画がSNSに投稿され、メディアを賑わせたことが記憶に新しい。
タムロンは、2008年から「タムロン鉄道風景コンテスト」を開催するなど、鉄道撮影に関して積極的な活動を展開するメーカーだ。撮影マナーを啓蒙する発信も行っており、同コンテストのページには、“鉄道写真の神様”と称される広田尚敬さんからのメッセージとして、鉄道撮影のマナー7か条を掲載している。
今回の「鉄道撮影マナー講座」は、このメッセージをより深く伝えることをテーマに開催。広田尚敬さんと金盛正樹さんの鉄道写真家2名を講師に招き、約100名ずつの講座を計3回(広田さん2回、金盛さん1回)実施した。
マナー講座の講師として登壇した広田尚敬さん(左)と金盛正樹さん(道)
計3回の講座はいずれも満席。多くの人が講師の言葉に耳を傾けていた
今回のマナー講座は、広田さんと金盛さんが受講者に向けて「鉄道撮影マナーのお手本になってください」という思いを伝えることからスタートした。
普段からマナーの意識を持って鉄道写真を撮影している受講者に対して、「撮影地でよきお手本となり、“核”になって鉄道写真のマナー向上を全国に広めていったほしい」と訴えた。
受講者に対して「鉄道撮影マナーのお手本になってください」と訴えるメッセージ
「マナー向上の核」になって「鉄道写真のマナー向上」を全国に広めていってほしいと訴えた
続いて、そのお手本の根拠として、タムロンが公開している広田さんのメッセージ「鉄道写真のマナー」を紹介。広田さんは「列車運行と撮影者の安全を第一に考えてほしい」と呼びかけ、有名な撮影地では1か所に人が集中するとどうしてもトラブルの原因になってしまうので、「自分の目で、自分の感覚で安全な撮影地を見つけてほしい」と話した。
金盛さんは、「安全な列車運行なくして鉄道写真は成り立たない」とし、「同じ趣味を持つ者同士でけんかをするのは面白くないですよね?」と問いかけ、譲り合いの精神を持って撮影を楽しんでほしいと訴えた。また、私有地には絶対に入らず、公共の場から構図やアングル、焦点距離、絞りなどのテクニックを生かして撮ることを提案した。
「鉄道撮影のマナー」の1〜3。「マナー1 列車運行と撮影者の安全を最優先させよう」「マナー2 撮影者は互いに譲り合おう」「マナー3 車体に向けての撮影はストロボをOFFに設定しよう」
「鉄道撮影のマナー」の4〜7。「マナー4 人物スナップを撮る場合は声をかけよう」「マナー5 撮影場所を考えてみよう」「マナー6 避けるために考えてみよう」「マナー7 撮影地を綺麗にすることを考えよう」
講座の後半で、広田さんは自身の撮影状況を紹介。線路から少し離れたところから撮ったり、柵の外で撮ったりと、マナーを守りながら撮影している様子を記録した動画を映しながら、「マナーを守って撮影していれば行政が厳しい対応をすることはない」と語った。
横断歩道の少し離れたところから撮影している様子
柵の外から撮影している様子
金盛さんは、自身で撮影した写真を交えながら、マナーを守りながら鉄道写真を撮影するコツを紹介。安全な場所から撮る方法として「カーブの外から望遠レンズを使って撮る」「ローカル線にも目を向ける」「空間を生かして少し引いた画を撮ってみる」といった内容を解説し、「人とは違う写真を後世に残そう」という意識を持って撮影場所を探してみてほしいと話した。
カーブの外から望遠レンズを使って撮影した写真(金盛さん撮影)。脚立を使わずに道路から撮っているとのこと
寝台特急カシオペアを撮影した1枚(金盛さん撮影)。ひな壇(集合写真のひな壇のように、同じ場所で撮影者が前列・後列に並んでいる状況のこと。後列は脚立を使って高い位置から撮影する)には多くの人がいたが、そこから少し離れた場所で撮影しているとのこと
広田さんと金盛さんのお話で共通していたのは、撮影マナーを守るのはもちろんのこと、自分の視点を持って撮影に挑んでほしいということ。視点を意識すれば、公共の安全な場所から撮影しても美しい写真が撮れると話したのが印象的だった。
この意識は鉄道写真に限る話ではなく、風景写真やスナップ写真など、あらゆる写真撮影に言えること。撮影マナーを守りながら、構図やアングルなどを工夫することで自分だけの写真を記録することが写真撮影の醍醐味であることを改めて認識した次第だ。
本イベントでは、タムロン製レンズの無料貸し出しを実施。一眼レフ用だけでなくミラーレス用の最新レンズもずらりと並んでいた
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣を持つ。フォトグラファーとしても活動中。