曽根原ラボ

ミラーレスカメラ全盛の今、大口径・単焦点レンズを使うべき理由

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今回は、ミラーレスカメラでの大口径・単焦点レンズの使いやすさについて説明します

今回は、ミラーレスカメラでの大口径・単焦点レンズの使いやすさについて説明します

カメラやレンズの基本的なことから最新のトピックまで、知っているとちょっとタメになる情報をお伝えする連載「曽根原ラボ」。第10回で取り上げるのは、各メーカーから意欲的に発売されている大口径・単焦点レンズです。

大口径・単焦点レンズのメリットを紹介しながら、「ミラーレスカメラ全盛の今、大口径・単焦点レンズを使うべき理由」をテーマに話していきます。ご一読いただいて、ミラーレスと大口径・単焦点レンズの相性のよさを感じていただけるとうれしいです。

なお、本記事では便宜上、開放絞り値がF1.0以下やF1.2、F1.4(F1.4も十分に大口径です)で、標準域(焦点距離50mm)かその前後の焦点距離の単焦点レンズのことを大口径・単焦点レンズと呼ぶことにします。

今回使った大口径・単焦点レンズとミラーレス

大口径・単焦点レンズは、ミラーレスが普及してますますそのラインアップを広げています。特にここ数年は新モデルが数多く発売されていて、F1.2の開放絞り値を持つAFレンズが標準域や中望遠域で増えていますし、MFレンズに限ってはF1.0かそれよりも小さい開放絞り値のものがいくつか登場しています。

その中から今回、大口径・単焦点レンズの代表格として使ってみたのが、ソニーの「FE 50mm F1.2 GM」です。

「FE 50mm F1.2 GM」は、小型・軽量と高画質を両立した開放F1.2の大口径・単焦点レンズ。実用性の高い本格的なレンズです

「FE 50mm F1.2 GM」は、小型・軽量と高画質を両立した開放F1.2の大口径・単焦点レンズ。実用性の高い本格的なレンズです

「FE 50mm F1.2 GM」は、2021年4月に発売された最新型の大口径・標準レンズです。このレンズを選んだ理由は、ソニーが誇る「Gマスター」レンズの高画質を維持しながら小型・軽量化を達成し、使いやすい標準レンズであるからです。価格は出来のよさに比してそれなりに高くなりますが(2024年1月25日時点での価格.com最安価格は269,800円)、使いこなせるなら相応の価値があるものと考えます。ぜひ使いこなしましょう。

このレンズに、同社の最新フルサイズミラーレス「α7C II」を組み合わせて使いました。

ソニーのフルサイズミラーレス「α7C II」。小型・軽量ながら最新技術を詰め込んだ高性能なカメラです。小さなカメラでも大口径・単焦点レンズを十分に活用できる進化を確認していきたいと思います

ソニーのフルサイズミラーレス「α7C II」。小型・軽量ながら最新技術を詰め込んだ高性能なカメラです。小さなカメラでも大口径・単焦点レンズを十分に活用できる進化を確認していきたいと思います

「α7C II」は、2023年10月に発売された最新モデルで、「α7シリーズ」の中では小さく軽いカジュアルなスタイルで、価格もまあまあ控えめに設定されていながら、高性能なAF機能「AIプロセッシングユニット」などソニーの最新技術を凝縮したモデルです。小型ボディでも大口径・単焦点レンズを使いこなせる、ということを知るためにはうってつけのモデルだと考えました。

大口径・単焦点レンズのメリット

では、本題の「ミラーレスカメラ全盛の今、大口径・単焦点レンズを使うべき理由」について話していきます。

まずは、大口径・単焦点レンズのメリットをおさらしておきましょう。普及タイプのレンズと比べると高価で使うのが難しそうな大口径・単焦点レンズですが、その大きなメリットのひとつは、「絞りを開けて背景を大きくボカすことができる」ということに尽きると思います。

「FE 50mm F1.2 GM」の絞り値を開放F1.2に設定して撮影したのが以下の写真です。大きくボケた背景のなかに、ピントの合った被写体の存在感が強く、非常に印象的に表現できていることがわかると思います。筆者は写真撮影を始めたころ、大口径・単焦点レンズで撮った写真を見て「まるでプロみたい」と感激したものですが、その感動は30年近く経った今も変わらないものです。

絞り値F1.2で撮影

α7C II、FE 50mm F1.2 GM、50mm、ISO80、F1.2、1/1000秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、6.9MB)

α7C II、FE 50mm F1.2 GM、50mm、ISO80、F1.2、1/1000秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、6.9MB)

そして、大口径ズームレンズでは一般的な開放絞り値のF2.8で撮影したのが以下の写真です。決して悪くはありません。ただ、背景はよくボケてはいるけれども、大口径・単焦点レンズのF1.2ほどでなく、被写体の浮き上がり方も比べてみると今ひとつという印象です。

絞り値F2.8で撮影

α7C II、FE 50mm F1.2 GM、50mm、ISO80、F2.8、1/200秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、7.1MB)

α7C II、FE 50mm F1.2 GM、50mm、ISO80、F2.8、1/200秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、7.1MB)

ほかにも、大口径・単焦点レンズには、絞り値の設定幅が広いことから被写界深度選択の自由度が高い、高性能レンズであることが多いことから相対的に高品質で高画質なことが多い、といった多くのメリットがあります。焦点距離こそ固定ですが、いずれも写真撮影上の表現の幅が広いということにつながりますね。

大口径・単焦点レンズのピント合わせは難しい

大口径・単焦点レンズのメリット(大きな背景ボケ)を最大限に生かすには絞りを開ける必要がありますが、その際、撮影者を悩ませる(悩ませてきた)のがピント合わせです。ミラーレスが登場する前、デジタル一眼レフが全盛のころは、大口径・単焦点レンズを使ってF1.4かそれ以上の明るさの絞り値で高精度にピントを合わせることは、非常に困難なことでした。

ここで少し、一眼レフでのピント合わせについて解説しておきます。まずはAFから。一眼レフは、光学ファインダー撮影専用の位相差AF機構を搭載しており、一般的にF4あるいはF5.6の光束(光の太さ)に対応する位相差センサーを使ってピントのズレ量を算出し、測距するようになっています。

ただし、F4/F5.6対応の位相差センサーを使ってF4/F5.6よりも小さい絞り値、特に大口径・単焦点レンズで選択できるF1.4以下の絞り値で測距する場合、光束が細いため、高精度なピント合わせは望めません。上位機種の場合、より光束が太くなるF2.8光束対応の測距センサーを搭載するモデルもありますが、それでもF1.4やF1.2の絞り値では、どうしても微妙にピントの芯が外れてしまうことがあります。

1998年12月発売のミノルタ「α-9」。デジタル一眼レフでなくフィルム一眼レフですが基本的なAF機構は同じ。最大でF2.8までの光束にしか対応していません

1998年12月発売のミノルタ「α-9」。デジタル一眼レフでなくフィルム一眼レフですが基本的なAF機構は同じ。最大でF2.8までの光束にしか対応していません

では、一眼レフの光学ファインダーでのMFではどうなのかというと、これも大口径・単焦点レンズで厳密なピント合わせを行うのはなかなか難しいです。

光学ファインダーを覗いてピントの山(像が最も鮮明になるピントのピーク)をつかむように調整するのがコツなのですが、ピントの山のわかりやすさは、ファインダーの品質や使用するファインダースクリーンに左右されます。ファインダースクリーンについては、AF対応一眼レフの場合、多くは、標準ズームレンズに合わせて開放F4〜F5.6のレンズでピントの山がわかりやすい特性になっていて、明るい見え方ではあるもののピントの山がわかりにくいところがあります。

開放F2.8よりも明るいレンズでピントの山が見極めやすい特性のスクリーンなどに交換するという手もありますが、それでも大口径・単焦点レンズでの正確なピント合わせは簡単ではありません。

同じくミノルタ「α-9」でファインダースクリーンを交換状態にしたところ。ファインダースクリーンを交換することでMFでのピントの山をつかみやすくすることもできましたが、それでもF2.8対応まででした

同じくミノルタ「α-9」でファインダースクリーンを交換状態にしたところ。ファインダースクリーンを交換することでMFでのピントの山をつかみやすくすることもできましたが、それでもF2.8対応まででした

筆者の経験から言うと、一眼レフでは、F2.8より明るい絞り値で正確にピントを合わせるのは難しいと思います。F2でしたらまだいくらかのヒット率が望めますが、大口径・単焦点レンズのF1.4となると急に成功率は低くなり、それより明るい絞り値ともなるとほとんど勘の世界、熟練の技が要求されるところでした。

ミラーレスカメラならより正確なピント合わせが可能

AF対応一眼レフでは、F2.8より明るい絞り値で撮る場合に、はなはだ苦労しながらピントを合わせていたのですが、ミラーレスの登場で事態は大きく好転します。

ミラーレスカメラは、現行の多くのモデルが像面位相差AFとコントラストAFを併用しています。像面位相差AFはその名のとおり、撮像素子の像面で位相差AFを行う仕組み。一眼レフの位相差AFと原理は基本的に変わりませんが、光束の制限がないため、小さい絞り値でも精度のよいピント合わせが可能なのがすばらしい点です。

コントラストAFは、撮像素子に投影された像のコントラストのピークにピントを合わせるため、非常に高精度なことが特徴。画像となる撮像素子の像で直接ピントを合わせているのですから、高精度なのも納得です。

そのうえ、ミラーレスは、一眼レフの光学ファインダー撮影とは異なり、画面上に多くの測距点を持ち、かつ広い範囲で(最新モデルではほぼ画面全域で)自在に移動できます。これが使い勝手で大きな違いを生みます。

以下の写真は、「α7C II」と「FE 50mm F1.2 GM」を使って、F1.2の絞り値で撮影したものです。ミラーレスなら、小さい絞り値で被写界深度が浅くても、瞳に測距点を合わせることで簡単かつ正確に瞳にピントを合わせられます。しかも、ミラーレスは一眼レフに比べて測距点の数と範囲が圧倒的に多く広いため、作画の自由度も高いのです。

「α7C II」で瞳に測距点を合わせて撮影しました。F1.2でもAFで簡単かつ正確にピントを合わせることができますα7C II、FE 50mm F1.2 GM、50mm、ISO80、F1.2、1/400秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、6.5MB)

「α7C II」で瞳に測距点を合わせて撮影しました。F1.2でもAFで簡単かつ正確にピントを合わせることができます
α7C II、FE 50mm F1.2 GM、50mm、ISO80、F1.2、1/400秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、6.5MB)

ただ、顔をアップで写した場合は瞳の大きさも大きくなるため、動きのない人物撮影であれば、被写界深度が浅い状態でも実は瞳にピントを合わせるのはそれほど難しいことではありません。本当に難しいのは、以下の写真のようにモデルの全身を写すような場合。画面上の瞳の占める割合が小さくなるため、絞りを開けてしまうと、一眼レフでは微妙に瞳からピントが外れてしまうことがありましたが、測距点を自在に移動できるミラーレスならこうした場合でも精度よくピントを合わせられます。

人物の全身撮影において、小さい絞り値で瞳に正確にピント合わせたい場合でも、ミラーレスカメラなら難なくできます。一眼レフで慎重に慎重を重ねてそれでもピントを外していたのは何だったのかと思えてきますα7C II、FE 50mm F1.2 GM、50mm、ISO80、F1.2、1/500秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(4672×7008、8.5MB)

人物の全身撮影において、小さい絞り値で瞳に正確にピント合わせたい場合でも、ミラーレスカメラなら難なくできます。一眼レフで慎重に慎重を重ねてそれでもピントを外していたのは何だったのかと思えてきます
α7C II、FE 50mm F1.2 GM、50mm、ISO80、F1.2、1/500秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(4672×7008、8.5MB)

しかも、今どきのミラーレスカメラの多くは高性能な被写体認識に対応し、人物の瞳を高精度に認識してピントを合わせる瞳AFを利用できるため、わざわざ測距点を選ばなくても、カメラが自動的に瞳にピントを合わせてくれます。瞳AFはコンティニュアスAFに対応していることがほとんどのため、動きながら、移動しながら、瞳にピントを合わせつづけるという、一眼レフの光学ファインダー撮影では考えられない撮影方法が成立してしまいます。

瞳AFを搭載するミラーレスは、カメラが自動的に瞳にピントを合わせ続けてくれます。今回使ったソニー「α7C II」の場合、「AIプロセッシングユニット」の搭載によって、大口径・単焦点レンズで絞りを開けても非常に高精度なAFが可能です

瞳AFを搭載するミラーレスは、カメラが自動的に瞳にピントを合わせ続けてくれます。今回使ったソニー「α7C II」の場合、「AIプロセッシングユニット」の搭載によって、大口径・単焦点レンズで絞りを開けても非常に高精度なAFが可能です

ミラーレスカメラはMFも得意

ところで、ミラーレス用の大口径・単焦点レンズとしては、純正、サードパーティー製を問わず、AF機能を持たないMFレンズもいくつか発売されています。そうしたレンズにもミラーレスの恩恵はあるのか? ということになりますが、これはちゃんとあるので安心です。

というのも、ミラーレスのほとんどのモデルには、ピント拡大機能が搭載されているからです。この機能を利用して、ピントを合わせたい位置を拡大してからMFでピント合わせを行えば、一眼レフの光学ファインダーやライブビューの全画面より、圧倒的に正確なフォーカシングが可能です。

拡大機能によってF1.2やF1.0、あるいはF0.95のような超大口径・単焦点レンズでも実用的なピント合わせが可能となったことは、ミラーレスならではと言えるでしょう。

ソニー「α7C II」のピント拡大機能を使って、拡大したい位置に拡大枠を合わせた状態

ソニー「α7C II」のピント拡大機能を使って、拡大したい位置に拡大枠を合わせた状態

拡大したい位置を大きくすれば、MFでも正確なピント合わせが可能です。ピント拡大機能はFnボタンなどに登録して、すぐに呼び出せるようにするのがおすすめです

拡大したい位置を大きくすれば、MFでも正確なピント合わせが可能です。ピント拡大機能はFnボタンなどに登録して、すぐに呼び出せるようにするのがおすすめです

まとめ ミラーレスなら初心者でも大きな背景ボケを表現として活用できる

本記事のテーマ「ミラーレスカメラ全盛の今、大口径・単焦点レンズを使うべき理由」の回答としては、「ミラーレスは大口径・単焦点レンズの小さい絞り値でもピント合わせが圧倒的にやりやすい」ということになります。

しかも、ミラーレスは、AFや連写性能、EVFの視認性などがモデルチェンジごとに改良されていて、新しいモデルであればあるほどどんどん使いやすくなっています。そして、大口径・単焦点レンズもミラーレス用では大幅に進化していて、画質面でもメリットがあります。

かつては、あまりにもピント合わせが困難であるため、使いこなすのが難しかった大口径・単焦点レンズですが、ミラーレス全盛の今、プロやハイアマチュアのためのレンズ、マニアのためのレンズ、という縛りはもはやないと言ってよいと思います。カメラを使い始めたばかり人を含めて、多くの人が大きく溶けるような背景ボケを表現として活用できるはずです。

ぜひ、名作を誕生させるために積極的に使ってもらいたいと思います。

曽根原 昇
Writer
曽根原 昇
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。
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真柄利行(編集部)
Editor
真柄利行(編集部)
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣とこだわりを持っています。フォトグラファーとしても活動中。パソコンに関する経験も豊富で、パソコン本体だけでなく、Wi-Fiルーターやマウス、キーボードなど周辺機器の記事も手掛けています。
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