連載「今日も、カメラと一緒に」第9回は、私の“リアル相棒カメラ”であるキヤノンのフルサイズミラーレス「EOS R6 Mark II」と大口径・中望遠レンズ「RF85mm F1.2 L USM DS」の組み合わせをご紹介します。このレンズは、広角好きな私にいつもと違った世界を見せてくれました。
フルサイズミラーレス「EOS R6 Mark II」と大口径・中望遠レンズ「RF85mm F1.2 L USM DS」の組み合わせ
こんにちは、写真家の金森玲奈です。
今回は、前回に引き続き、写真撮影に欠かせないカメラの“目”であるレンズについてお話させていただきます。
前回は、ひと目ぼれして購入した、コシナ「フォクトレンダー(Voigtlander)」ブランドのMFレンズ「NOKTON 50mm F1 Aspherical」(キヤノンRFマウント用)をご紹介しました。今回取り上げるのは、独自の「DS(Defocus Smoothing)コーティング」によって、どこか懐かしさを感じるようなボケ味が得られる大口径・中望遠レンズ、キヤノン「RF85mm F1.2 L USM DS」です。
写真を始めたころから、撮りたい被写体を取り巻く周囲の雰囲気を写真に写し込むのが好きだったため、広角〜標準域の焦点距離で撮るのが私のスタイルとして定着していました。望遠レンズの持つ圧縮効果による大きなボケ味などへの憧れはありましたが、「被写体に近寄って撮りつつ、周囲の雰囲気を広く写し込みたい」という私の求める被写体との距離感とは、どうしてもレンズの特性上難しい場面が多いこともあり、これまであまり手に取る機会がありませんでした。
今回「RF85mm F1.2 L USM DS」を選んだのは、たまたま夫経由でこのレンズに触れる機会があり、中望遠域の焦点距離でF1.2という明るい開放絞り値による大きなボケ味や、通常のレンズとは違った特殊なコーティングによってやわらかくぼけるボケの輪郭、少しレトロな雰囲気をまとわせる描写に興味をそそられたからです。
いつもとは違った視点でいつもの日常を見るのも新鮮でした
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/500秒、ISO100、+1.7EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
さて、いつもと違った“目”で何を見よう? と考えたときに思い浮かんだのは私が大学を卒業してから働いていた上野近辺でした。上野の美術大学に勤めていたのですが、このあたりの、どちらかというと下町と呼べる土地柄は、「RF85mm F1.2 L USM DS」のどこかレトロな描写に合うのではないかという思い付きです。
あいにくの曇り空に少しがっかりしながら上野公園を進むと、かつてあった動物園横の小さな遊園地は姿を消していて、公園もどことなくきれいに整備されていて、思い出とのギャップにさっそくとまどうことに。
変わらない動物園の入口に少しホッとしました
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/1250秒、ISO100、+1.0EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
上野東照宮横の売店は健在
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/250秒、ISO100、+0.3EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
上野公園を越えた先の美術大学に勤務していたころは秋になると公園中に落ちている大量の銀杏の強烈な匂いに辟易(へきえき)しつつ、とにかく踏まないようにと集中して歩いていたのを思い出しました。
匂いテロの犯人
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/320秒、ISO100、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
私の職場は地下にあったので、お陽さまを浴びない生活が長かったせいか最後の年は髪の毛がまったく伸びなくなるという、今となっては笑い話になるようなちょっと変わったエピソードもできた3年間でした。
人間も光合成、大事です
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/400秒、ISO100、-0.7EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
かつての勤務先を通り過ぎ、根津方面へ。言問通りを根津駅のほうへ進むと新しいマンションやお店などが増えていて、こちらもだいぶ様変わりしていましたが、当時からあるおせんべい屋さんを見つけて思わずパチリ。変わらないたたずまいにうれしくなりました。
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/200秒、ISO100、+0.7EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/320秒、ISO100、+0.7EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
職場の人たちとお昼に通ったニラそばの美味しいお店が健在か気になって言問通りから1本入った路地へ。当時と変わらない看板を見つけてほっとひと息。せっかくだから久しぶりに食べたいなと思ったのですが、それなら写真も撮りたいけれど、今日連れている「RF85mm F1.2 L USM DS」の最短撮影距離は85cm。とても席に座って撮れる近さではないと泣く泣く断念しました。次回はもう少し寄れるレンズと一緒に絶対食べに行きたいと思います。
次こそ必ず……
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/640秒、ISO100、+0.7EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
言問通りに戻り、不忍通りを超えてさらに先へ。上野の美術大学勤務後、本郷にある大学の史料編纂所というところで働いていたことがあるので、こちらでも仕事帰りに寄り道したお店を訪ねてみようと思ったところ、昔ながらのたたずまいがすてきだった近江屋洋菓子店はすでに閉店、金魚の卸問屋さんが営んでいた喫茶店は近々閉店という張り紙があって、お気に入りだったお店の閉店のお知らせにダブルショックを受けました。
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/125秒、ISO100、+1.3EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/160秒、ISO100、+2.3EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
かれこれ15年近く経っていましたが、いつまでもそこにあると思わせてくれるお店だったので、最後は少しほろ苦い思い出巡りとなりました。
いついかなるときもマイペースなムー
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/800秒、ISO100、+1.0EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
お気に入りだったお店が閉店していたショックでぼんやり過ごしていた数日後、2024年初の雪が降りました。昼過ぎから強くなった雪が外を白く染めていくのを眺めながら、明日は早起きして写真を撮りに行こう♪ とあっさり気持ちが切り替わり、遠足前日の子どものようにワクワクしながら眠りました。
雪の日は音が吸い取られたかのように静か
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/125秒、ISO200、+0.3EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
朝、まだほとんど人がいない近所の公園で雪だるまでも作ろうと思うも、一晩経って水分の抜けた雪はかなり固く、丸めるのが至難の業だったため、仕方なくおにぎりを握る要領で成形し、目と手を付けてどうにかそれらしい小さな雪だるまを完成させました。借り物のレンズですので絶対に転ばないようにと慎重に歩き、家から数百メートルしか離れられませんでしたが、何キロも歩いたかのような疲労感に襲われつつ、久しぶりの雪の感触を楽しみました。
平面的雪だるま
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/640秒、ISO100、+1.7EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/250秒、ISO100、+2.3EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/200秒、ISO100、+1.7EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
普段人を撮ることがほとんどない私ですが、唯一撮るのが姪っ子たちです。まだまだ赤ん坊だと思っていたのにあっという間に身体も大きくなって、踊ったり走ったりするだけでなく、自分の意志をしっかり持って行動する姿には驚かされるばかり。それでもまだまだ子どもらしい瞬間をたくさん見せてくれるあの子たちの成長を、これからも写真に残していきたいと思います。
いかに早く洗濯バサミを並べられるか選手権
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/640秒、ISO100、+2.3EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
もうすぐ取り壊す祖母宅の屋上へと駆け上がる
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/2500秒、ISO100、+0.3EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
2回にわたって、私のリアル相棒と2つの違った“目”で見つめた日々を紹介しました。前回お伝えしたとおり、カメラにとってレンズは“目”であり、いつもと違った“目”を通して見る世界は時に驚きや新しい発見をくれることがあります。
具体的には、普段撮っているものでも普段とは違った切り取り方をするようになるということです。それは近寄れる距離が違うから、画角が違うからというより、そのレンズを通して自分がどう撮りたいのかといった“想い”の先に、そのレンズで見つめたときにいちばん心地よいと感じる被写体との距離感を発見するからではないかと思います。
今回、思い出の場所を巡っていたときの写真を見返すと、過去の自分の足跡をなぞるようにどこか一歩引いた目と距離感でカメラを構えていました。これは広角でなるべく周りを広く入れつつ被写体には近づきたいという普段の自分とはまったく違ったアプローチで、構図上で対象に肉薄しやすい焦点距離(85mm)だからこその視点だったように思います。
反対にいつもカメラを向けている姪っ子の写真は、彼女の一挙手一投足のなかでいつもよりピンポイントな部分だけにフォーカスしていたのが自分でも意外でした。長年写真を続けていると撮影スタイルは少しずつ定まってくるものですが、普段とは違った“目”で見ることで、まだまだ新しい世界に出会えるのだということを教えられたように思う、「RF85mm F1.2 L USM DS」との数週間でした。
EOS R6 Mark II、RF85mm F1.2 L USM DS、F1.2、1/1250秒、ISO100、+2.0EV、ピクチャースタイル:スタンダード、ホワイトバランス:オート、RAW現像
さて、次の相棒と今度はどこへ行こう。